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2018年終盤戦に波乱あり!?
2018年の全日本選手権シリーズも残り3戦となった。第5戦は広島県での中国大会。各クラスとも、ランキング争いにはそれぞれ動きがあったが、特に大きな動きがあったのが、トップクラスの国際A級スーパーだった。
野崎史高が九州大会に続いて今シーズン2勝目。シーズンに2勝をあげたのは、野崎自身初めてのことだった。そして野崎は、2018年シリーズランキングのトップに躍り出た。
灰塚ダムトライアルパークは、ダムに沈む予定のエリアをお借りして運用されていて、観戦側から見るとフラットでコンパクト。あわただしい3ラップ目でもお目当ての選手をおいかけて走り回れる会場設定はありがたい。
土曜日は雨、日曜日には上がる、という予報は、土曜日にもほとんど降らずに日曜日は暑いといういいほうにはずれて、セクションは全体的にやさしめの設定となった。IA、IASは8セクション3ラップ、LTR、IB、OPの3クラスは10セクションを2ラップする。全参加者は130名を越えてにぎやか。反面、渋滞がどうなるのかがちょっと気になる。スタートから第1までは遠回りをするものの、その他はすぐ隣まで移動するだけなので、ほぼ全ライダーが10セクションのどこかのセクションにはり付いていることになる。1セクションあたり13人。IA、IASは第4、第5を走らないので、ほかの8セクションはもう少し人口が増加することになる。
今大会の鬼門は早くも第2セクションに設けられていた。少ない助走からヒューム管に登り、一度降りてさらに斜めからヒューム管に登る最後のポイントが最大の鬼門だ。登りやすい右斜めからアプローチするラインは、登ってからヒューム管の斜面を走ることになる。正面からならヒューム管の頂点に乗れるが、助走が短い。さらにもう一本左のラインもあった。
最初にここを走破したのは藤原慎也だった。シティトライアルの開催以来、藤原の走りは磨きがかかった。主催とライダー業は二足のわらじかと思いきや、相乗効果となって現れたようだ。藤原は2点でこの難セクションを抜けていった。
小川毅士、柴田暁が5点となる中、周囲を仰天させたのが氏川政哉だった。氏川は先輩ライダーたちが誰も選ばなかった真ん中から飛びつくラインを選ぶと、思い切りヒューム管に飛びついた。
「飛びすぎて、さお立ちになってまくれると思ったけど、リヤブレーキかけたら前が落ちて、うまくいきました」
15歳の思い切りのよさが、難セクション攻略に成功した。1ラップ目のこのセクション、なんと小川友幸が5点、黒山健一も2点を失った。最後に野崎がクリーンを決めてベテランの貫録を保ったが、この第2セクションでのシーンが、この日のトライアルの象徴ともなった。
野崎は次の第3セクションで5点。ここも5点の多いセクションで、クリーンはなし、小川友幸が1点、黒山が2点で抜けたのが最も好スコアだったのは野崎にとっては不幸中の幸いだった。しかし野崎はここは悪くても1点で抜けなければいけなかったと悔いる。これで野崎と氏川は、黒山にトップを逆転されてしまった。この時点では、この日の勝者が誰となるのかは、まだまだ誰にもわかっていなかった。
勝者が誰になるのかはさっぱりわからなかったが、今回の試合が時間に追われる大会となるのは誰の目にも明らかだった。第1、第2と渋滞があって、なんとか時間を気にせずに試合を走れたのはレディースと国際B級くらいだった。通常は、タイムコントロールは1ラップ目とゴール時に設定されているのだが、この日、1ラップ目のタイム設定を規則通りに適用すれば、ほぼ全員がタイムオーバー失格になってしまったことだろう。今回は、IASについて、手早く1ラップ目のタイムコントロールをとらない通知が伝わってきた。状況からすればやむをえない処置だが、コースがほとんどない、難度が高くて抜けられるセクションが多い、あるいはポイントがセクション後半に多かったような印象はあったが、セクション間が近いのは観戦には楽だったし、地形的な条件もある。中国大会の通例だと、この会場は2年続くことになるから、次にはなんらかの渋滞対策が施されるにちがいない。
第4と第5はレディース、国際B級(とオープントロフィー)のみがトライする。この3クラスは10セクションを2ラップ、国際A級の2クラスは第4、第5をのぞいた8セクションを3ラップする(もちろんIASはその後にSSを2セクション走る)。IAやIASからすれば、先行して通り過ぎていったはずのIBの集団が、第6セクションでまた追いついてきて、また同じ顔ぶれと列に並んでしまう。タイムキーピングはトライアルテクニックのひとつだから、これをどう乗り切るかもライダーの資質なのだが、ライダーにはちょっとお気の毒な混雑状況ではあった。
第6、第7と、上位陣にとっては比較的少ない減点で抜けられるセクションが続くが、それでも第6では氏川が1点、第7では黒山が2点、氏川3点、小川友幸5点となっている。小川の5点は衝撃的だった。コンクリートブロックからヒューム管に飛び移る際に、フロントが浮かなかったのだ。マシンもろともヒューム管に激突した小川は胸を押さえている。見ていても、そして本人も肋骨をやったかと心配されるクラッシュだったが、しかし幸い、人車にほとんどダメージはなかった。クラッシュの瞬間は息ができなかったということだが、しばしして復活。大きなダメージはこの日二つ目の5点を取ってしまったということだ。
第8は、登りからテクニカルにコンクリートブロックを越えなければいけない設定。5点を取ったのは4人。しかし靱帯損傷が発覚して無理せず走ると行っていたものの第2でクラッシュしてリタイヤした平田雅裕を除く13名の平均減点は約3点で、なんとクリーンが一人も出ていない隠れ難セクションとなっていた。1点で抜けたのが野崎と小川友幸、2点が黒山と氏川、そして柴田だった。
終盤、第9、第10はヒューム管などを組み合わせた人工的セクション。この二つも基本的にクリーンセクションだったが、小川毅士が第10で2点、柴田が第9で1点を失っている。
こうして8セクションを走って1ラップ目を終えてみると、トップは野崎。2点差で黒山が2位。野崎は5点と1点が一つずつ。黒山には5点はないが2点が4つもある。黒山本人も「今日は珍しく2点が多かった」と振り返っている。1点や3点はあり得る減点だが、2点はふだんはあまりないケースだからだ。
このヤマハ勢二人のトップ争いに続いたのは、元気いっぱいの氏川だった。野崎と6点差、黒山とは3点差。第2でのクリーンが功を奏したラップ3位だが、これは大金星だ。
しかし小川友幸も氏川に1点差。まだ2ラップあるから、チャンピオンがこのままで終わるわけはないのだが、1ラップだけとはいえ氏川に順位を譲ったのは、少なからず衝撃的出来事となった。
5位は柴田。小川友幸に1点差。そして柴田に2点差をつけられて小川毅士。今シーズン、定位置4位が守れず、5位で定着しかけている毅士だが、その5位からも転落している。
結果的には野崎の好調が光る1ラップ目となった。九州の再来と期待する向きも多かった。ただ、九州での神がかった鋭いライディングに比べると、今回はいたってふつうにライディングしているように見えた。調子が悪いことはないが、さりとて絶好調という様子でもなかったように思う。されど、気負いなく、ふつうに走ってトップだからこそ、この日の野崎は強い。
1ラップ目の持ち時間はなしとなったが、試合全体の持ち時間は変わらない。IBがゴールしたあと、残るIAライダーは急ぎ足で残る2ラップを走り抜けることになった。急ぎながらも、上位陣は一気に減点を減らしてきた。
1ラップ目に鬼門となった第2は、野崎、黒山、小川友幸、小川毅士の4人がクリーン。柴田が1点で通過した。1ラップ目に大手柄だった氏川は5点だった。この後毅士は、1ラップ目にも失敗したヒルクライムからの岩越えセクションで3点を取ったが、1ラップ目の15点から、2ラップ目は4点に抑えてきた。黒山は8点から4点に、小川友幸は12点からわずか2点にと、軒並み劇的に減点が減っている。しかし柴田は1ラップ目の13点から11点にまで点数をまとめられず、氏川は1ラップ目の11点から18点に減点を増やしてしまった。1ラップ目のスコアはそれぞれの調子の善し悪し、2ラップ目のスコアがこの日の実力を現しているような印象があった。上位を狙うには、ここで一桁の少ない減点をマークするのが必須条件だ。
そんな中、トップの野崎は、2ラップ目をオールクリーンした。1ラップ目の好調に続き、このオールクリーンは野崎のトップをより確実なものとした。2ラップ目を終えて、野崎6点、黒山12点とダブルスコア。小川友幸は3位に浮上して14点、これに5点差で毅士が19点。5位の柴田は25点、氏川は29点で6位に甘んじて、急ぎ、残る1ラップに出ていった。
3ラップ目。小川毅士はどうもヒルクライムの第3が鬼門らしい。ここで再び5点。第3だけで13点を失ったことになる(毅士のスコアから13点を引けば優勝もできる)。しかし、毅士ほどではないものの、第3で減点が多いのが野崎だった。1ラップ目5点、そして3ラップ目3点。野崎の3ラップ目は、2ラップ目ほど好調ではなかったが、4点でまとめて終了した。トータル10点。
全日本タイトルをなげうって世界選手権にチャレンジした黒山は、せめて残る闘いを全勝するのが目標だ。2ラップ目の黒山は、8セクションすべてをクリーンして、追い上げに徹した。結果、3ラップを終えた黒山は12点。野崎に2点差。逆転勝利の目は、充分にあった。
計算上は、小川友幸にも勝利のチャンスはあった。3ラップ目の小川は、ヒルクライムの第3で3点となったのみ、3ラップトータルは17点で、野崎と7点差。小川が勝利するには、小川のSSが2連続クリーンで、野崎のSSが5点と3点以上の減点となる必要があった。
4位以下に目を移せば、毅士は25点でかろうじて表彰台のチャンスはあるが、すでに勝利はない。しかし5位とは15点もの差があって、逆転される恐れもない。
その5位とは、氏川だった。氏川の3ラップ目は8点。3ラップ目にして、一桁減点をマークするも、タイムオーバーも3点あって、トータル40点。1ラップ目の3位からは順位を落としたものの、柴田を破っての5位は大きな成果だった。氏川は前戦北海道大会でも5位に入ったが、北海道は黒山が不在だった。5強を破ったのは、今回が初めてということになる。
3ラップ目を終えて、その氏川に9点差。5位に浮上するのもむずかしい状況になってしまったのが、北海道では表彰台に乗った柴田だった。今回は序盤から調子がよいとはいえない柴田だったが、3ラップ目の後半に4連続5点を喫している。スロットルがゆるんで全開になってしまって5点を喫した後、時間に追われて修復もそこそこにトライしたところ、キャブレーションに異常をきたしていて正しい走りができずとのことだったが、これで一気に20点を追加してしまった。ただ、この20点がなくても、今回の柴田は4位毅士には追いつけず。対毅士との闘いで3連勝していた柴田だったが、ここで2敗目を喫し、氏川にも敗したことで4戦連続で築いた貯金をほとんど放出し、毅士に1点差まで迫られている。ランキングトップ争いとランキング4位争い。二組のランキング争いは終盤戦に向けて、いっそう熾烈だ。
第2セクションを1点で抜けて調子のいいところを見せた藤原慎也は8位。1ラップ目に10位だった齊藤晶夫が2点差で藤原を下して7位を獲得している。ゼッケン7の齊藤としては、野本佳章が戦列から離れた今、ゼッケン通りの順位では納得できない。ラップを重ねるごとに減点を10点ずつ減らせているのだから、この結果は残念なりだ。9位は吉良祐哉。シーズン序盤はSSに進出できなかったが、ここ3戦はSSを走っている。しかし吉良の目指すところはSS進出にとどまるものではない。今回は3ラップ目に大量減点を喫し、3ラップ目だけを見れば最下位。大きな敵失によって順位変動が起きる順位争いは、ちょっと残念。
SS進出最後の一席は、ベテラン成田亮が勝ち取った。ひじの不調で今シーズン2戦を欠場した成田だったが、復帰2戦目、吉良と同点でのSS進出を果たした。
岡村将敏が7点差でSS進出を逃し、平田貴裕がさらに岡村に1点差、その平谷2点差で磯谷玲が13位となった。平田雅裕は膝の負傷を承知でスタートしたが、第3セクションで5点を記録したのを最後にリタイヤしている。復帰までは、しばらくかかりそうだ。
SSは、コンクリートブロックと巨大なタイヤの組み合わせの第1と、ヒューム管とコンクリート資材の組み合わせによる第2。どちらも人工的セクションとなっていた。
ぼよんぼよんとはずむタイヤはマシンコントロールがむずかしく、マシンコントロールに加えてタイヤの動きも制御できなければクリーンはままならない。これをクリーンしたのは3人。氏川、小川毅士、そして野崎。野崎に対してなにがなんでもSSをクリーンしなければいけなかった黒山はSS第1で1点を失った。これで野崎と黒山の点差は3点になった。
最後のSS、野崎3点、黒山クリーンなら、クリーン数の差で野崎の勝利。野崎が5点なら、黒山が1点以下で抜けた場合に限り、黒山の勝利となる。
しかし黒山は、最初のヒューム管から降りて方向を変える時に1点を失った。これでもう後がない。ところがその先、セクション後半部分で後輪位置を修正している際に5点の宣告。黒山としては納得いかない判定だったようだが、タイヤが触れたか足が触れたか、いずれにしてもゲートマーカーは移動したというのがオブザーバーの判定だった。これで勝負あり。野崎は最後のトライを待たずして、シーズン2勝目を決めた。野崎がシーズンに2勝をあげるのは、これが初めてだ。
そして最後となった野崎のトライ。九州での勝利が再現されるなら、SSも野崎だけが2連続クリーンを果たしたいところ。すでに勝利が決まっていて、5点がこわくない状況だから思い切りいける。そして残り5m。ここまでをクリーンしたライダーは誰もいない。このまま勝利者の貫録を見せつけてクリーンするかと思ったそのとき、野崎のエンジンが止まってしまった。再始動はできず。最後はあっけない野崎の5点が終了となったが、しかし3点差での勝利はゆるぎない。
野崎の勝利は、もうひとつ別の勝負の始まりでもあった。野崎が優勝、小川友幸が3位になったことで、両者のランキングポイント差は同点となった。ルール上は、直近大会で優勝した野崎がランキングトップ、小川がランキング2位となっているが、残り2戦で上位につけたものが勝ちという後半戦だ。しかし優勝争いには黒山もからんでくるから(できたら小川毅士も柴田も、氏川にもからんできてほしい)、あまりシンプルな戦いとなるとも思えない。
残り2戦、全日本選手権はこれからさらにおもしろくなる。
■国際A級
山崎頌太が今シーズン2勝目を挙げた。開幕戦の初勝利からちょっと遠回りをしたものの、ここからシリーズチャンピオンへの再始動が始まる。ランキングトップ、今回3位の小野貴史は3位、ランキング2位の武井誠也は4位、ランキング3位の永久保恭平は5位。トップはみな安定感があるだけに、山崎が浮上するのは困難も予想されるが、小野から山崎までのポイント差は9点。10点の中に4人がひしめきあう大接戦のシリーズ戦後半になりそうだ。
■レディース
7名がスタートしたレディースクラス。今回はソアレス米澤・ジェシカが初参戦。宮本美奈(シーズン2戦目の参加)、稲垣和恵(今シーズン初参加)を加えてにぎわった。西村亜弥の勝利、小玉絵里加の2位は順当として、3位争い、5位争いはなかなかの接戦で、3位争いと5位争いもそれほど差がない。参加者がなかなか増えず、じれったい思いはあるも、クラス全体のレベルアップは確実に進んでいると思われる。
西村は10セクション2ラップで17クリーンをたたき出したが、第7セクションでの5点が心残りとなった。点差は圧倒的だが、西村の目指す完璧なトライアルの実現は、敷き居が高い。
■国際B級
GC大会で勝利して昇格してきた宮澤陽斗が5戦目にして初勝利。今シーズンは雨続きで、125ccでの戦いは不利を強いられてきたが、天候が好転した今回勝てなければいつ勝つんだという思いで試合に臨んだという。
ここまでランキングトップの冨名腰慶亮は15位と低迷してしまい、代わって3位となった和気聖司が5点差のランキングトップに躍り出た。宮澤は和気に14点差でランキング4位となっている。和気、冨名腰、山森篤志、宮澤、中村道貴の5人が国際A級昇格圏に入っているが、中村とランキング6位の小倉功太郎は3点差、さらに小野田瑞樹も4点差と、このあたりのランキング争いは興味深いものになってきた。