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小川友幸、みごとな勝利で6連覇達成
10月21日、2018年全日本選手権最終戦は、いつものスポーツランドSUGOでの開催された。
多くのクラスで、ランキング争いが最後の最後まで白熱していて、目の離せないシーズンだった。
小川友幸の6連覇V8なるか、あるいは野崎史高の初タイトルか、という最大の焦点だった国際A級スーパーは、序盤の接戦から、中盤には小川の華麗な走りが随所で見られるようになり、この大会を圧勝。SSを待たずに勝利を確定的にした。小川はこれでシーズン4勝目を挙げた。
ランキングポイントは野崎と3点差。野崎が3位なら小川は2位でもタイトルを決定できるが、自力優勝するには優勝が必須という点では、ランキングトップの小川もランキング2位の野崎も戦況には大差がない。つまりどちらも、勝たなければいけないプレッシャーはそうとうに大きい。
これまでの対戦成績的には、小川は最終戦SUGOではあまり勝利がない。対する野崎は、ここ数年、東北方面などで精力的にスクールをおこなうなどして、野崎をチャンピオンに押し上げようというファンは多かった。状況的には、野崎が有利だ。
セクションは、IBやIAでは1点を争う神経戦だったが、IASはなかなかの難セクション揃い。第1、第2、第10の3セクションはなんとかクリーンセクションだったが、それでも全員がクリーンできるわけではない。第1では、小川毅士が3点になってしまった。難セクションが多いから、この3点が決定的ではないにしろ、幸先が悪いにはちがいない。
ともあれ第1、第2は小川毅士以外のトップ6(小川友幸、野崎史高、黒山健一、小川毅士、柴田暁、氏川政哉がここまでのランキング順のトップ6)はクリーンで抜けて、難関の第3へやってきた。コンクリートブロックからコンクリートブロックに駆け登る設定だが、助走がまったくない。初めてここを攻略したのは黒山だった。
ハンドマイクを持って解説をしていた山本昌也さんによると「スタートの瞬間にマシンを下げて加速を稼いだのが勝因」とのことだった。トライアルのルールを勉強し始めた人には悩んでしまいそう。あの状況で5点を取るオブザーバーはほとんどいないが(2017年TDNでは5点だった)トライアルの採点って、むずかしい。初心者からトップライダーまで、同じルールでわかりやすいルールはないもんかと思うが、トップ争いはここでそんなことを悩んでいるヒマはなく、小川はさらに完璧に走ってクリーン。野崎を含め、他のすべてライダーが5点となった。
第4は、SSにもよく登場していた岩盤登り。一段目までは登れるが、そこから二段目に上がれない。トップグループが到着する前、齊藤晶夫はここを止まらずに駆け抜けて1点をマークした。タイミングもラインも針の穴を通すようなテクニックが要求されるポイントは、やはり簡単ではない。黒山も5点、小川も5点。齊藤だけの大金星かと思いきや、野崎が足つきなしで登りきった。野崎自身、ミラクルクリーンというこのクリーンで、野崎と小川は再び同点に。1点差で黒山が続くというトップ争いになった。
しかし、緊迫したトップ争いはここまで。次の第5は、中杉トンネルの向こう側に設定された久々の難セクション。小川毅士はクリーンをしているが、柴田は5点。黒山と氏川が1点で抜けるが、小川友幸と野崎はここで明暗が分かれた。小川はクリーン、野崎は5点だ。
次の第8も、SS実績のある難関だ。クリーンはなし。黒山が2点、柴田と小川友幸が3点で抜けるも、野崎はここでも5点。点差が開いていく。第9で、小川は1点を失うが、1ラップ目は小川と黒山が9点で同点。野崎は6点差の15点で3位、むしろ4位争いの柴田と小川毅士の18点に迫られる点差だ。
今回、IAとIASは第5、第6の2セクションをのぞく8セクション3ラップ。第5と第6はコースをしばらく移動した先の泥んこ沢で、中杉エリアが主体のSUGOでは珍しい自然セクション。IASをメインの対象とするお客さんが遠くまで移動しなくていいようにとの設定だが、人工建造物や建築廃材がメインのセクションばかりで、舞台が自然の豊富なSUGOらしくないのはもったいない。といってもこれも例年通りで、今後もこんな感じで開催されてしまうのかもしれない。セクションも毎年同じで、残念。
観戦移動が少なくて済むのはうれしいけれど、ライダーの移動もほとんどなく、一部では渋滞もあった。渋滞なくゴールができた、というライダーも少なくないから、ライダーの回り方の問題なのだろうが、LTRとIBは3ラップ目は第5セクションまでがないという変則的試合形態で、回り方の上手下手はあっても、こうすればスムーズにセクションを回れるという、いつもの作戦が通用しなかったライダーもいるのではなかったか。持ち時間は、1ラップ目の終わりと最終ゴールでチェックされるが、全4時間半で1ラップ目が3時間。ということは、2ラップ目と3ラップ目の16セクションを90分で回ってこなければいけない計算になる。実際には、IASのトップグループは1ラップ目を10分〜15分残してゴールしている。1ラップに3時間をかけたら、最後は時間が足りなくなっていたことだろう。
さて勝負は2ラップ目、そして3ラップ目。小川を追いつめたい黒山と野崎だったが、黒山は第1で1点を失い、さらに野崎とともに第5で5点となった。小川は第8で初めて足をついたが、それもたったの1点。ここは野崎が2点、黒山が5点だから、小川の好調ぶりが光るようになった。本人やチームとしては、最後の最後にカードを提出してゴールするまで、1ミリの油断も許されないが、流れ的には小川の勝利は確定的になってきていた。2ラップ目が終わって、小川は10点、黒山が20点、野崎は28点だ。
柴田と氏川は41点、毅士は43点。第4を1点で抜けた齊藤は52点と、勝負の見どころは2位争いと3人による4位争いに絞られてきた。
全セクションについて、攻略法が固まった小川にとって、3ラップ目はおさらいであり仕上げのラップだ。黒山と野崎はとにかくすべてのセクションをクリーンして、小川のミスを待つしかない。
3ラップ目、まずまずのスコアで回ったのは野崎だった。第3はふたたび5点になったが、その他は第8の1点のみの計6点。黒山は第4と第8で5点になって10点を加えてしまった。これに対して小川は、2ラップ目同様、第8での1点が唯一の減点。3ラップを11点で走りきってしまった。2位の黒山は30点、3位の野崎は34点。小川はもう、無事にゴールしさえすれば、今回の勝利、そしてシリーズチャンピオンを決定することができる。
4位争いは柴田が53点で一歩リードだが、毅士59点と逆転は可能。氏川64点で、5位の可能性はあるも4位にはなれないことが決まってしまった。7位の齊藤は70点、8位吉良祐哉は85点、9位藤原慎也は91点、10位岡村将敏は96点。計算上は、微妙に逆転の可能性もある。
SSは、第1が去年の第2SSの手直し版。ビッグタイヤがテーマだ。SS第2はヒルクライム。SSとあって持ち時間は1分半に設定されていたが、どちらも1分を余す短期決戦型のSSだった。SS第1は第1走者の岡村将敏(今シーズンはこれで4回目のSS進出だ)が3点で抜けるも、その後は苦戦するライダーが続出した。タイヤに乗った湿った土が感覚を狂わせているのかもしれない。柴田と毅士はともに2点でここを走り抜けたが、氏川は5点。そしてなんと、黒山も5点になった。その後野崎がただひとりここをクリーン。最後の小川は、チャンピオンらしい走りを演出するはずだったが、なんと小川もタイヤで5点。ちょっと苦笑いのSSとなってしまった。
SSが始まる前には逆転の可能性のある争いはいくつかあったが、SS第1を走るとその可能性はぐっと減り、34点の野崎と35点の黒山の2位争い、96点の藤原と99点の岡村の9位争いが残された逆転の可能性だった。
しかしこのセクション、高さは強烈だったが減点を誘うポイントは少なかった。第一走者の岡村こそ1点をつき、齊藤が登りきれずに5点となったものの、他の8人はあっさりとここをクリーンして、2018年の戦いを締めくくった。
今シーズンの小川は、黒山という最大のライバルを事実上失って、6連覇V8は楽勝かと思われていた。しかし逆に、目標がぼやけ、モチベーションを保つにはむずかしいシーズンだった。そこに野崎の踏ん張りがあり、ここ数年では珍しい苦戦となった。しかし最後の最後は、小川らしいしっかりした走りを披露して勝利。この走りの前には、ライバルも勝利とタイトル獲得を祝するしかない。
最終戦2位でランキングも2位となった野崎は表彰台で「チャンピオンとれなくて残念と、みんなそればっかりでぼくがランキングを一つ上げたことを忘れている」と自虐的なコメントで笑いをとった。今シーズンは黒山が北海道大会を欠場することで、野崎が小川のライバルとなるのは必然だったが、今年の野崎は消去法でランキング2位を得たのではない。シーズンに2勝したのは野崎自身初めてだったし、勝利した九州以降は1位と2位ばかりでシリーズを締めくくっている。今日の勝負に限っては小川に離されてしまったが、今年の野崎は勝利を争い2位になり、そしてチャンピオンをしっかり争ってゼッケン2番を得た。野崎の成長は、2018年の大きな収穫だった。
電動世界選手権への参戦で事実上全日本チャンピオンの権利を失っていた黒山健一は、しかし今シーズンを充実したシーズンだったという。電動で2戦、エンジンで3戦世界選手権に参戦し、トライアル・デ・ナシオンにも参加した。その代償としてヒザに大けがを負い、まだ歩くのにも支障のある黒山だが、最後まできっちり走って見せたプロ根性はさすがだった。
中部大会で一度逆転されながら、最終戦でふたたび逆転、ランキング4位を得た柴田は、ナンバー5からナンバー4へと駒を進めるのに費やした長い時間を思うように、ゴールして空を仰いだ。3位もあれば6位もあった今シーズンの柴田だが、ゼッケン4は早く卒業して、その上をねらってほしいところだ。
その柴田にゼッケン4を奪われた小川毅士。全7戦中、柴田に敗すること4回。後半はこれにルーキーの氏川もからんできて、見ている側としては4位争いが楽しくなったが、守る立場、追われる立場の毅士としては苦しいシーズンだった。
6位となってランキング6位となった氏川は大金星だった。ただし目標は5位以内だったということで、今年の6位は目標に届かず。柴田と毅士を破るのが今年の目標の氏川は、来年はどこに目標を置くことになるのだろう。
■国際A級
国際A級は永久保恭平が今シーズン2勝目。このクラスのチャンピオン候補は武井誠也と小野貴史が筆頭だったか、永久保も逆転チャンピオンの可能性があった。しかし武井が4位となったので、タイトルは2点差で武井に。永久保は小野と同点、優勝回数が多い永久保がランキング2位となった。
序盤中盤、試合をまとめたのは本多元治だった。1ラップ目2ラップ目と最少減点でラップをまとめた本多が、このまま勝利をつかむかと思われたが、3ラップ目の第3セクションでの5点がすべてだった。
今回の優勝は、大きなミスがないことが条件となった。2位の本多、3位の小野には5点が一つずつあった。優勝した永久保は、5点ゼロでのみごとな勝利だった。
チャンピオンの行方は、上位陣、すべてのゴールを待たなければいけなかった。小野の獲得ポイントは94点。今回勝利した永久保は94点で同点だが、シーズン2勝をあげた永久保が上位となり、小野のチャンピオン獲得はなくなった。
ランキングトップの武井は減点20点だった。20点は武田呼人(ヴェルティゴ)と同点。しかしクリーン数の差で、武井が4位、武田が5位が結果だった。武田は国際A級2年目で、ランキング5位以内に許されるIAS昇格を狙っていたのだが、わずか1点差でランキング6位に甘んじた。クリーン数の差で逃したIAS昇格のキップだった。
そして武井は、今回4位の13ポイントを足して、合計ポイントを96点とし、初の全日本チャンピオンも得ることになった。もしも武井が5位なら、武田が4位となってIASに昇格していただけでなく、IAチャンピオンは永久保になっていたはずだった。
1点を争う優勝争いは、最終的にはクリーン数で争うチャンピオン争いとなって幕を下ろした。上位5名からは、武井と、今回8位の山崎頌太がIAS昇格を予定している。
■レディース
今回は6名の参加。西村亜弥はあいかわらず圧倒的うまさを発揮するも、今回は2位にダブルスコアと1点。減点は最小限とも思えるが、2ラップ目の第7での3点は難所をすぎてからバタバタと足をついてしまった減点といい、これが西村をちょっと沈ませていた。
8セクションを2ラップと、3ラップ目は4セクション。西村がクリーンしていないセクションは一つもない。それは裏を返せば、クリーンできるセクションで足をついているということで、完璧を目指す西村は、なかなか満足のいく戦いができない。ともあれ、これで西村の3年目の全日本レディースのシーズンが終わった。西村が3年間全勝の全日本レディース、4年目の2019年はそろそろ正念場を迎える。
2位、そしてランキング2位は小玉絵里加。中部で3位となった雪辱を晴らす結果となった。今回の山中玲美は、小玉と争うより小谷芙佐子に競り勝った印象だが、レディースはそれぞれ持ち時間の使い方に悩んであわてたりタイムオーバーをしたり減点を増やしたりしていたようだ。
4位にケガから復帰2戦目の小谷、5位に今年4戦目の佐々木淳子、6位が全戦参加を果たした寺田智恵子だった。全戦参加は西村と寺田の二人だけ。結果は順当な感じもするが、小谷は3位争いにからみ、1ラップ目の寺田は5位だった。全員にあてはまるが、特に寺田については、全戦参加して確実に経験値を積んできている。
■国際B級
国際B級はドラマチックだった。ここまで、ランキングトップの和気聖司は75点、2位の冨名腰慶亮が72点、そして山森篤志が68点で続いていた。
IBのランキング争いは、チャンピオン争いとともに、IA昇格を賭けた争いもある。計算上、和気と冨名腰は昇格は決定している。和気に7点差の山森は、万一最終戦を無得点となり、後続がそろって優勝したり上位入賞したりすると、ランキング6位に転落する可能性もあった(あくまで計算上でのことだけど)。
IBもセクションは簡単目で神経戦。IB昇格21年目という山森は、今年になってようやく戦えている実感を感じているという。去年の山森もポイントランカーだったが、去年はまだその実感を持つことができなかったという。
ここまでの6戦中3戦で3位表彰台。そろそろ、だったのかもしれないが、それ以上に今回の山森はきっちり集中ができていた。1ラップ目は3点。1ラップ目2位の宮澤陽斗、3位の小倉功太郎が7点だから、僅差ともいえるが大差とも言える。
この神経戦を、3ラップともにきっちり走るのは、なかなかむずかしかった。山森は2ラップ目に4点、トータル7点はやはりトップを守っていた。3ラップ目、山森は最終セクションを5点としてゴールするが、2位には2点差で勝利を得た。2位には大治雅也が入って、初表彰台を獲得していた。
山森の勝利で、ランキング争いは上へ下への騒ぎとなった。ランキングトップの和気が、今回は不調だ。今回の結果は7位で、獲得ポイントは9点。ランキング2位の冨名腰は5位で、11点を獲得している。結果、今回一気に20点を獲得した山森が一躍ランキングトップに出てチャンピオン決定。ランキング2位が冨名腰、3位が和気という、劇的なフィナーレとなった。
昇格争いにも波乱があった。今回4位の小野田瑞樹がランキング5位に浮上して、最後の最後に昇格キップを手にしている。
シーズンを終えて、最後の表彰式を終えて、その後もパドックのそこここで1年を振り返って各チームが集っていたが、いつもとちがって明るいなぁ、あったかいなぁと思ったら、今年は例年より1週間2週間開催が早かった。仙台に近い東北大会が雪の降るような時期ではもったいないと常々思っていたけど、この時期なら観戦環境としてもいい感じだった。
今回は全日本トライアルを初めて見るというお客さんがけっこう見にきてくれていて、驚きの歓声が新鮮だった。トライアルはお客さんにとって見ごたえのあるイベントなのだから、いろいろたいへんだろうけど、お客さんが来ないというのは主催者のがんばりが足りないのだと思う。今回の観客は1,100人。例年よりにぎわいはあったけど、東京から3時間ちょっと、仙台に近い環境なら、もっと多くの人にトライアルを楽しんでもらえると思うから、ぜひぜひいろんな面でがんばってほしい。