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2018サンクスデイとボウのケガ
毎年、12月初旬に開催されているホンダ・レーシング・サンクス・デイ。今年も12月9日に栃木県ツインリンクもてぎで開催された。
トライアルライダーはトニー・ボウ、藤波貴久、小川友幸、そしてMCとして小林直樹が登場となった。
サンクスデイは、ホンダのレース活動を応援してくれたファンのみんなを集めて、ホンダ契約のライダーが愛車とともに日ごろの応援を感謝するというイベント。元GPライダーにもF1ドライバーにも出会えるチャンスがあるということで、モータースポーツファンには欠かせないものとなっている。
モトGPチャンピオンのマルク・マルケスは肩の脱臼癖をなおすための手術を受けるということで、残念ながら来日せず。シーズンオフも忙しい彼らにすれば、これはいたしかたなし。
今回の2輪のヒーローは、まぎれもなくダニ・ペドロサだった。125ccでデビューしてから世界選手権はホンダ一筋、2018年限りで引退を決めた短躯のライダー。ついにモトGPではタイトル獲得はならなかったが、ライダーとしての素質の高さは誰もが認めるところだった。
そしてペドロサは、レプソル・ホンダ・チームの一員として、またスペイン人ライダーとして、チームメイトのトライアルライダーとはとても仲良し。藤波もスペインで開催されるモトGPにはほぼ欠かさず観戦に行っているし、プロモーション映像でマルケスとペドロサがトライアルを楽しんだこともある。そうそう、去年のサンクスデイでは、特別に時間をいただいて、自然山通信がマルケスとペドロサにトライアルを語ってもらうインタビューもさせてもらった。通訳:藤波貴久という、とてもぜいたくなインタビューだった(インタビューは、自然山通信のバックナンバーで読めます←コマーシャル。ご購入は紙版はこちらへ。電子版はこちらへ)。
ペドロサはちょっと話をしただけでも、とてもまじめで、虚勢がなくて、かわいい、いいやつという印象だった。マルケスの方は負けん気の強さがそのまま表情にも表れているけど、それゆえ逆に、ペドロサのどこにその闘争心が隠されているのかと、まるで部外者のこっちが心配になるほどだった。
ペドロサとトライアルライダー、今回のコラボレーションは朝一番のカートレースと、お昼前のカブのレースだった。
カートレースは、どのマシンが速いとか遅いとか、まぁいろいろ裏事情もありそうだが、去年さっぱり遅かったモトクロスのティム・ガイザーが今年は速くて、その後ろを藤波らが追う展開となったのだけど、最後にペドロサがレースのうまさを見せつけて2位を奪っていった。3位は世界耐久チャンピオンのフレディ・フォレイだった。
このあと、トライアルの3人はオーバルコース上の人工セクションで華麗なデモンストレーション。根っからのトライアルファン的には、よくあるトライアルショーかもしれないけれど、サンクスデイのお客さんの中には、初めてトライアルのデモを見て、初めて藤波やボウやガッチの存在を知り、そして腰を抜かした人も少なくないはずだ。こういうデモンストレーションは、そこから生まれる将来とかを考えると、とてもとても楽しい。
もちろん、根っからのトライアルファンだとしても、目が肥えてくると、毎年確実に進化しているライダーのテクニックを探ることができる。デモは確実にできることしかやらないけど、目の前を何度も走るから、世界選手権の真剣勝負を見るのとはちがう収穫もある。
その次なるメニューが、スーパーカブのよーいどん。トライアルライダー3人は、揃ってこれに出場した。ところがこのレースで、アクシデント発生。ボウが、誰かと接触して転倒してしまった。直後を走っていたガッチによると(藤波はボウより前を走っていて次の周までアクシデントに気づかず)、なかなかひどい転倒で、ボウが大丈夫かどうかが心配だったということだが、直後の診断では、幸い骨は折れておらず、でも痛みがひどいということだった。
このレースの顔ぶれは、説明の必要もないくらいオートバイが上手な人ばっかりだから、なんでこんなことになっちゃったのか理解するのはむずかしいけれど、事故は起きうるということなんだと思う。こんなときに、あらためてそんな教訓を思い知らなくてもいいと思うけど、残念ながらそういうことだ。
これで、ボウの出演は以後あやしくなって、直後のオープニングセレモニーでのライダー代表ごあいさつは急きょガッチがまかされることになった。このあいさつ、チャンピオンであることが条件の一つで、おそらくこういう急場にもっとも頼りになる能力を持っているのが、ガッチこと小川友幸だったのだと思われる。5分前に言われた、というガッチは、しかし立派にオープニングのライダー代表挨拶を務めて、その全方向的能力を証明したのだった。
ボウはしばらくホテルの部屋で休んで、最後のセレモニーなどには現れたのだけど、トライアル・スペシャルと称する、ハローウッズ入口の岩盤セクションでのデモンストレーションは欠席となってしまった。なんとも残念だけど、おそらくしばらく残念で悔しい思いをしているのは、はるばるスペインからボウの本番車を運んできてスケジュールを調整して、このイベントを盛り上げようと腐心してきた主催者のみなさんだったろう。
そうそう、このイベント、去年までの例だと12月第1週に組まれていた。ところが今年は、12月2日にFIMの表彰式が開催されて、ボウもはじめ、チャンピオンたちはみんなそっちへいかなきゃいけないから、それで1週間遅い開催となった(サンクスデイを避けてトライアル大会のスケジュールを組んだ草大会の主催者さんとかもいたのに、これまた残念だった)。
ともあれ、いろいろな方面に残念となったボウの負傷だが、しかしこれを残念のまま終わらせないのが藤波貴久のキャラクターだ。ボウがいるときのデモンストレーションはそれは過激ですごいものになるが、ボウが不在だと藤波が暴走すればどこまでも盛り上がってしまう。ある意味、ボウがいるより過激なショーになる可能性も大。そしてその期待、その心配は的中して、デモはなかなかなかなかにハードなものになった。ここ、お客さんが見ている芝生側から見ればただの岩の壁で、どうやって登っているのかさっぱりわからないかもしれない。写真を撮っているぼくらが、おたおたと登ったり降りたり、おっかなそうにしているのを見ると、その地形っぷりがわかるというもんだ。
それに加えて、あんなことやこんなことを繰り広げるわけだから、藤波貴久と小川友幸の日本人トップデュオの実力たるや、ハンパではない。お約束というか、日本GPを見に来てくれた人ー? と小林直樹さんが声を上げれば、はーいと手を上げる人に混ざって、恐縮しながら手を上げられない人がいる。こういう人たちがみんな、今度の世界選手権、そして全日本選手権に集まってくれたら、さぞや楽しくなるにちがいない。
みんな、よろしく。次はトライアル大会でお会いしましょう。
なお、ボウの負傷は肋骨で、スペインに帰ってからのチームドクターによると、2本が折れてということだった。次なるミッションは1月のXトライアル開幕戦だが、それまでに拡幅を目指すと、チームのリリースは語っている。