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2018年のベータ祭り
12月16日、Beta off road party 2018が、茨城県SHIRAIトライアルパークで開催された。参加者200名以上という、ビックイベントに成長したこのイベント、それはベータ(・ジャパン)のパワーそのものだ。
「Beta off road party 2018」が正式名称だが、正式名称で呼ぶ人はあんまりいない。もっぱら「Beta祭り」と呼ばれている。Beta祭りって、誰が呼び始めたんだろう? まぁ、ベータ・オフロード・パーティ・2018とつづりを気にしながら伝えるより「祭りだ、祭りだ」といったほうが楽しげでよかろう。主催者であるベータ・モーター・ジャパンも、ベータ祭りという通称をなかなかお気に入りのようで、それでいて「Beta off road party 2018」の正式名称をきちんと残しているあたり、礼儀正しい大人が正しくオフロード遊びをする姿勢をよく表しているような気がする。こじつけみたいだけど、こじつけです。
さてベータ祭り。トライアルとエンデューロ、ベータに乗る国内有力ライダーが終結して、つめかけたトライアルライダー、エンデューロライダーといっしょに遊ぶ。乗ってるオートバイはベータに限らず、なにに乗っててもかまいません、というのが懐の広さだ。ベータ・モーター・ジャパンの社長の門永哲也さんは広いというより長いという形容詞の方が似合うけど、ちなみに広いのは高橋尚武(ひさたけ)さん。ベータ・モーター・ジャパンの番頭さんだけど、最近はベータのゆるキャラで通っている。ベータ祭り同様、愛称がつくのは愛されている証拠だ。
これがそのゆるキャラさんですが、首にかかっているのは会場案内。午前と午後、トライアルとエンデューロ、入門、初級、中級と、各レベルに合わせていろんなスクールが開催されている。加えてトライアルマシン、エンデューロマシンの試乗会。迷子になった人が一目見てわかるように、案内図をぶら下げて歩いてます。見せびらかしているベータキャップは、ジェイムス・ダビル選手のサイン入りですね。
そうそう、今回のベータ祭りにはダビル選手がやってきています。2018年世界選手権ランキング7位、イギリスのトップライダーだ。ダビルが世界選手権以外で来日するのはこれが初めてだから、そのライディングとともに、日本のファンがその人柄にふれるチャンスとして貴重な1日になったのであった。
イベントのメニューである各スクールは、コマごとに事前に予約を受け付けているけれど、人気クラスはネットで予約販売を開始するとあっという間に売り切れてしまう。総勢200人を超えるイベントだけど、それぞれのコマは先生がふたりくらいに生徒さんが10人くらいで、よそのスクールは山の向こうとかでやっていてあんまり見えないので、始まると、わりとふつうのスクール然とした空気になってくる。
スクールをやっているのはSHIRAIでは第5エリアと呼ばれているところで、実はそこまで移動するのも、まるきりのオフロード初心者には手ごわい。なのでトライアル体験コースはそのエリアではなく、本部や駐車場となっているエリアの一角が舞台となっていた。ここは真っ平らでトライアル的にはちょっと物足りない地形かもしれないが、オフロード未経験者に安心してトライアル体験をさせるには都合がいい。
体験コースを仕切っていたのは西村亜弥と磯谷玲のふたり。ていねいに案内してもらってトライアルの手ほどきを受けたみなさんは感激していた。ベータ祭りの先生は、どの先生も親切ていねい。このイベントは、きちんとしたスクールでもあるけれど、ファン感謝デイでもあり、ベータライダーと一般ライダーとの触れ合いの場でもある。憧れの誰それさんにテクニックを教えてもらう貴重な機会であったり、今回は国際A級昇格を決めた宮澤陽斗が先生をやるということで、その初々しさを楽しむマニアックな生徒もいたりした。
異色生徒といえばこんな人もいた。モータースポーツ観戦大好きというタレントのきのせひかるさん。レンタルバイクを借りて、午後に初級クラスのスクールを受けられるくらいまで慣れておきたいという無謀な構想を打ち立て、しかしなんとか乗れるようになっちゃった。なんでもポールダンスとかもやっちゃうスポーツ娘だというから、トライアルやるのが初めてでも、基本の感覚がいいのだろう。
上の写真は、たまたま通りかかったダビル選手に直談判してマンツーマンで指導してもらっているところ。ダビル先生には自動的に通訳の毅士先生もついてきてるから、なんというぜいたく三昧。いい思いしたから、今後もトライアルをよろしくお願いしますね。
初々しい陽斗先生に教えてもらっているのは、増田まみさん。ダカールラリー出場を目指すママさんライダーだけど、小学生の時にものすごい速いモトクロスガールだったのを覚えている。なのでオートバイに乗るのは抜群にうまいのだけど、トライアル的ライディング感覚はさっぱりないみたいだった。それを自分で認めてするすると吸収していくところがすごい。
トライアルの小技を手に入れて、ぜひ夢を手に入れてほしいと思うけど、小技だけじゃなくて、トライアルの楽しさにずっぽりはまってみてもいいと思います。今後ともよろしくお願いします。ちなみにまみさんは、レディースモトクロスやMTBのチャンピオンの、すごい人なんです。
そんな楽しいスクールの時間を終えて、トライアルデモンストレーションのお時間。トライアル初体験の人からずっぽりの人、そしてエンデューロライダーといろんな人を観衆に、ベータ乗りが一人ずつ、自分の精いっぱいのラインでトライする。精いっぱいというか、若いライダーにとっては、こんなにたくさんの人の前で走ることはあんまりないから、それが一番たいへんだったかもしれない。中でもややこしいことに、ダビルはセクションの中に陣取って、トライするライダーの顔色を窺っている様子。これはやりにくいですねぇ。
来年からIAを走る宮澤陽斗、IAで1年を過ごした磯谷郁、惜しくもチャンピオンをとり損ねた永久保恭平、来年はいよいよIASにステップアップする山崎頌太、山崎を迎え撃つIASの先輩の磯谷玲、そしてベータチームのエースでSHIRAI管理人の小川毅士と、デモはみんなそれぞれに素晴らしかった。集まったベータのライダー、ベータファン、そしてベータとはなんの関係もない人たちまで、来年は彼らを応援しようと心に誓ったにちがいない。
エンデューロライダーにとっては、自分のテクニックのヒントにしようと思う人から、口をあんぐり開けてびっくりしている人まで、いろいろいらっしゃったみたいだけど、いきなりあんなのをまねしようと思わず、地道なところからこつこつとトライアル訓練をしていただければ、いつかきっと役に立つことがあると思います。ぜひトライアルの現場で、またお会いしたいと思います。
さて、今回、突然来日して日本のファンの前に初めて現れたジェイムス・ダビルは、一言でいえばとってもいいやつだった。イギリス人ってのは、紳士をきどるというか、紳士が根についている人種ではあるけれど、意外にユーモアにあふれている人々でもある。まだあんまり顔見知りでない頃、インタビューさせてよと寄っていくと「いやだよ」と言ったりしたもんだった。こっちが「えっ」と驚くのを確認して喜んでいるみたいだ。その代わり、お願いしたことは最後まできっちりやってくれる。ラテン系の人たちは途中で飽きちゃったりすることがあるんだけど、アングロサクソンのイギリスの人はまじめなのだ。
2018年の世界ランキングは7位。不調だった藤波貴久に次ぐポジションで、これまでに2度の2位入賞がある。世界選手権のトップランカーとしては地味な戦績ではあるけれど、ぽろっと日本にやってきて(ほぼ無償でやってきてくれたという話。すごい)日本GPでマインダーが使ったマシンでそのまま走り出して、日本勢とは一枚ちがうライディングを見せてくれるあたり、当然とはいえ、やっぱり世界のトップランカーたるところ。イギリスにはドギー・ランプキンというすごい先輩がいて、いまだにイギリスのドンとして君臨しているけれど、それを継ぐべきダビルは2005年ジュニアチャンピオンの経歴を持って世界のトップクラスに乗り込んできている。現代のイギリストライアルライダーのサクセスストーリーの先べんをつけたこのライダーの存在もまた、ベータ祭りに集まったみんなには、深く印象づけられたにちがいない。
そんなこんなで、(持っていなかったり乗っていなかったりするひとを含めて)ベータを愛するみんなの楽しい1日は、美しい夕日とともに幕を下ろしたのであった。関東近郊での開催ということもあるのだろうけど、まったり感と充実感がいい感じで両立しているお祭り。
トライアルやってなくても、エンデューロやってなくても、ベータ乗ってなくても、とりあえず来年は仲間入りしてみることをお勧めします。それがきっと、出発点になるにちがいないから。