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野崎史高、2019年初めての開幕戦勝利
全日本選手権が開幕した。今年の開幕戦は和歌山県の湯浅トライアルパーク、4月14日の開催で、例年より1ヶ月ちょっと遅い。
7連覇のかかる小川友幸を尻目に、開幕戦初勝利を飾ったのは野崎史高だった。
その昔、全日本選手権の開幕といえば2月あたりの真冬の日程となっていて、凍てつく大地をライバルに戦っていた。それがこの10何年かの開幕は3月の真壁と決まっていて、これがなかなか寒い(と思ったら日が強くてあったかい時もあったけど)。4月の開幕は、もっと多くの観戦者に来てもらおうという流れからすると、当然の結果かもしれない。
湯浅トライアルパークでの開催は3年目となるが、会場は年々コンパクトになっていて、観戦はそれほどむずかしくない。とはいえ、第1から第7まではセクションは急峻な沢のセクションで、ちょっとした山岳ハイキングコースの観戦路になっていた。
今回は、渋滞対策でIBとIAのスタートが二手に分かれた。中部大会ではすでに採用されているスタート方式で、第9セクションからスタートするセカンドグループ(前年無得点ライダー)と第1からスタートするグループ(前年にポイントを獲得したIAとIBの固定ゼッケン保持者と01から05のIA昇格組)に分かれている。
IAとIASは第1セクションがなく、IBとLTRは第5セクションがないのだが、第9からスタートしたIBのグループは第1からスタートしたトグループの直後につくことになって時間配分もばっちり。ただしIASが第2に到着した頃には、2ラップ目のIBと第9からスタートしたIAのセカンドグループが一挙集結して、なかなか激しい渋滞となっていた。渋滞対策はなかなかむずかしい。以前、中国大会で採用されたように、午前中と午後に分けてスタートとすれば渋滞対策はほぼパーフェクトだが、大会運営としていまひとつという意見も多かった。参加人数が減れば解決することでもあるが、多くの参加者でにぎわうのは悪いことではないから、悩み深い。
そんなこんなで、第2セクションから始まったIASの戦い。第2は設定がIAと同じでクリーンセクションだった。IAのスコアを見ると、クリーンをしたのはトップライダーばかりだから、それなりにむずかしいセクションだったということになるのだが、さすがはIASの面々だ。
ここで減点をしたのは岡村将敏と砂田真彦、そして氏川政哉だけだった。ラインがまだ固まっていない中で真っ先にトライするのは減点のリスクがあり、また砂田は昨年の靱帯損傷から復帰したばかり、まだ完全復帰にはいたっていない様子。岡村と砂田の減点は1点。しかし氏川は2点を失った。今年はゼッケン6番から飛躍をし、トップ3に食い込むのが目標だから、この出だしは苦しい。
氏川は、試合直前に突発性難聴を発症し、めまいなどに襲われながらの参戦となっていた。この病気は原因がわからず、治療方法も確立されていない。慣れるしかないのだそうだ。同じ病気を経験した人によると、歩いているだけで精いっぱい、岩の上で綱渡りをするようなIASのセクションを走るなんて、信じられない、ということだ。氏川は第3でも2点、第4で1点、第5で3点と失点を重ねてしまった。第5までの減点は、黒山健一と小川友幸がオールクリーン、野崎史高と小川毅士が1点、齊藤晶夫が5点、柴田暁が6点だから、氏川の8点はハンディを抱えていてしかたないとはいえ、ちょっと厳しい。
天気予報では日曜日の会場はまちがいなく雨ということで、予報によっては降り始めが遅くなるとか、降り始めが遅くなるとか、多少のゆらぎはあったものの、降らないという予報はどこにもなかったから、あとはどの時点でどれだけ降られるのか、が、当日のお楽しみというか不安になった。
それでセクション設定は完全な雨設定で、各クラスとも勝負は1点を争う神経戦が予想されていた。小川友幸に言わせれば、雨が降ってもオールクリーン必須の設定、ということになるから、今回は1点の減点が命取りとなる可能性があった。小川は、今年からチームをミタニホンダとしている。これまではHRCクラブミタニからのエントリーだった。
大差ないように思う人も多いだろうが、これは大きなちがいだ。HRCクラブは全国のHRC販売店のチームで、HRCが勝利を得んがためにライダーと契約しているものではない。6連覇をはたし(遅いよと言いたいけれど)ホンダがトライアル勝利を目標とするチームを結成した。それがチームミタニホンダだ。マインダーもマシンもチームの顔ぶれもほとんど変わりはないものの、小川友幸の2019年はこれまでとはちがうものになっている。
体制が変わったといえば、野崎史高も同様だ。これまでのYSP京葉チームではなく、チームFwOとなっている。史高with大月の略。オヤブンの大月信和さんがお店家業から引退してお店を手放したためのチーム名変更となっている。去年の野崎は、黒山の乗っていたマシンを譲り受ける形となっていたが、今年は新車を投入。ヤマハ発動機販売のサポートを受ける体制面に変化はないが、ヤマハ純正オイルのヤマルーブがチームスポンサーとなり、ゼッケン2番からの飛躍を狙う。
その野崎は2セクション目にあたる第3で1点を失い、小川毅士が第5、そして小川友幸も第6セクションで1点を失った。毅士は第7、第8でも1点ずつ失って、トップ争いから後れを取っていく。ただし毅士は、昨年長くつけていたゼッケン4番を柴田に奪われているから、まずはこれを取り戻すところから始めるベしで、その点では善戦しているといえる。
好調だったのは齊藤。ゼッケン6争いを野本佳章と続けてきた斎藤だったが、昨年中盤から野本がいなくなって、代わって氏川がゼッケン6を奪い去っていった。成績はともかく、まず自分のすべき走りをとりもどさなければいけない。1ラップ目、斎藤の減点は13点で、これは毅士と同点の5位に相当した。斎藤が中盤グループから抜け出て上位陣と戦う力量を身につけたら、全日本の勢力図も大きく変わってくるにちがいない。
1ラップ目前半を3点でまとめていた毅士が、大きく崩れたのは第9セクションだった。ブロックやタイヤのインドア風の第8のあと、第9、第10ときついヒルクライムのセクションが並んでいる。昨年、林のセクションで調子を上げてきた野崎が、このヒルクライムで失敗して勝利を逃している。今年は毅士、氏川と有力ライダーが5点となった。逆にここをクリーンした柴田は、前半の不調を挽回して毅士に迫ってきた。ここでは、なんと小川友幸も5点になって、小川友幸の勝利には黄信号が灯ったのだった。
毅士は続いて第10でもテープを切って5点となり、前半の好調を全部吐き出して5位に転落。1ラップ目を終えることになった。柴田に2点リードを奪われ、斎藤と同点の5位。前半と終盤でミスがあった柴田、後半でミスが続出した毅士、体調不良の氏川、そんな中、斎藤がこの3人に食い込んで善戦しているというかっこうだ。
トップ争いは、黒山が1ラップ目をオールクリーンして折り返した。例年、黒山は開幕戦で調子がいい。今回もまた、黒山が勝利に向けて突っ走るかという勢いだ。ただし2位につける野崎は2点、第9で5点を取った小川友幸も6点と、まだワンミスで勝利戦線がひっくり返る可能性はある。
2ラップ目、雨はまだ降らない。ときおり2、3滴雨粒が落ちてくるようなきはするのだが、それでおしまい。それでも、もしもの天候急変を警戒して、どのライダーもペースは早めだ。
2ラップ目に入ると、氏川が少しずつ復調してきた。症状が劇的に改善されることはないから、逆境に慣れてきたのか、若いからこその踏ん張りかもしれない。逆に、調子を崩してきたのが柴田だ。柴田は1ラップ目の最終セクションでクラッチレバーがゆるんで操作ができなくなるアクシデントに遭遇した。これで5点となって、自身のペースもすっかりおかしくなってしまった。もしここをクリーンしていれば、1ラップ目6点で小川友幸と同点だった。けれど失ったものはそれだけではなく、2ラップ目の柴田は苦しい戦いを続けることになってしまった。
残念ながら、斎藤は失速。3つの5点で単独7位の座に落ち着いてしまった。毅士も、ふたつの5点で大きく挽回するにはいたらない。2ラップ目に順位を上げてきたのは、第9での5点一つでまとめた氏川だった。
優勝戦線は、黒山が順調に勝利へ向かってトライを続けていたのだが、しかし鬼門の第9セクション、今度は黒山にミスが出た。5点。しかし小川友幸も2ラップ目をオールクリーンというわけにはいかず、わずかながら黒山にリードをされて小川が3位で2ラップを終えた。4位以下とは大差がついているので、小川友幸の表彰台は確定だ。
そしてトップは野崎だった。痛い思い出のある第9については、人車ともに対策をしてきたという。そしてここを2ラップともにクリーン。この日の野崎は、5点が一つもないばかりか、3点も2点もないというパーフェクトに近い走りっぷり。2ラップのトータルを3点でまとめている。
野崎3点、黒山6点、小川友幸8点が優勝争い。計算上は、3人の誰にでも優勝のチャンスがある。
4位争いは、毅士と氏川が24点、柴田が26点。7位の斎藤は34点で、斎藤には6位になれる可能性はあったが、毅士、氏川、柴田の3人は誰が4位になってもおかしくない。SSはヒルクライムセクションと最終セクションを手直しした大岩を越えていくもののふたつが用意されていた。
10人のみが走ることができるSS。今回は18名参加なので、8名がSS不出走ということになる。これまでで最も狭き門となったSSだ。2ラップ目の成績順でトライしていくので、最初のトライは武井誠也。次に成田亮、藤原慎也と続く。
SS第1では、武井が3点で抜け出た。上位陣なら、より好スコアがマークできそうだ。野崎のリードはわずか3点だが、大きな3点かもしれない。
トップバッターとして3点でSS第1を抜け出た武井は、SS第2も1点で抜け、10位から9位にひとつポジションをアップさせてリザルトをまとめた。成田亮が10位、藤原慎也は8位と2ラップを終えた時点のポジションをそのままキープした。
斎藤は、SS第1を3点、SS第2を1点で抜けたものの、7位は変わらず。6位との点差は6点だったから、2ラップ目に調子を落としたのが残念だった。
そして4位争い。SSの柴田は強い。そのとおり、ここを1点で通過したのは柴田だけだった。これが大きなプレッシャーとなったか、氏川が5点、毅士は3点となった。毅士と柴田が27点(クリーン数では毅士が上位)、氏川が29点と接戦のまま最終SSへ。
最終SSは、入口でマシンを回すあたりが減点しやすいポイントだったが、後半にどかんと鎮座する大岩は、ミスが出にくい(出たらたいへんなことになる)設定となっていた。柴田は、それまでのライダーが入口で1点2点と減点しているのを尻目に華麗にクリーン。大岩を超えてあうとまであとわずか。しかしこの日の柴田はアンラッキー。そこで1点を失って試合を終えた。
この時点で、氏川の柴田逆転はなくなった。毅士が5点なら5位進出の可能性はあるが、氏川のトライは3点。これで6位が決定打。
柴田と1点差となった毅士はクリーン数で勝っているため、1点以下なら4位が決まる。そして見事なクリーンを飾って、去年の中部大会以来の4位に返り咲いた毅士だった。
さて、上位3人の優勝争い。勝利の目がなくなった小川友幸は、なんとセクション前半で3点を失って、優勝争いから大きく遅れて3位を確定した。
そして野崎と黒山の優勝争い。4点差なので、野崎5点、黒山クリーンの場合にのみ、黒山の逆転勝利となる。野崎とすれば、3点で抜ければ勝利が確定ということだ。
まず黒山が、毅士に次ぐクリーンした。見事なクリーンで、最後の大岩の飛びつきには余裕を見せてのクリーンだった。やるべきことはやって、あとは野崎のトライを待つだけだ。よもや野崎が5点になれば、勝利は黒山のものとなる。
最後にトライをする野崎。野崎はこれまでに7勝しているが、開幕戦で勝利をしたことは一度もない。初優勝も2度目の勝利も最終戦。結果的に後攻めが得意の野崎だから、シーズン初っぱなで勝利に向かうという初めての経験。さすがにライディングもカチカチとなって、入口で1点を失った。しかしそこからはさすがに走りを取り戻し、減点はその1点のみ。4点差で野崎の勝利が決まった。
2018年は、自身初めて、シーズンに2勝して、初めてチャンピオン争いに加わり、最終戦まで小川友幸を苦しめた野崎だったが、あくまで挑戦者であって、タイトル争いのリーダーシップをとるところまでにはいたっていなかった。
しかし今年はちがう。野崎史高と全日本トライアルにとって、新しい流れのシーズンが始まっている。こんな早いタイミングで勝ったことがなかったから、今年はずっとこの緊張感で戦い続けるのかと思うと気が重いと、野崎らしい優勝の弁。こんなことを言いながら、野崎の覚悟が大きく重いのはまちがいない。
2位となった黒山は、このところ開幕戦で勝利しながらタイトルを獲れていないから、今年は開幕戦の勝利はなにがなんでもほしいものではなかったという。3位となった小川友幸も、過去に3位に落ちながらタイトルを獲得したことは何度もあったから、今回の結果はさほど深刻には受け止めていない。彼らにとって、そして野崎にとっても、本当の勝負は九州から加速するのだ。
■国際A級
IASもまた、1点が致命的となりかねない神経戦となった。とはいえ、誰でもがオールクリーンで走りきれるものではない。10セクションを一桁スコアに押さえたのは、2ラップ通じても8人しかいない。
優勝は本多元治。1ラップ目2点、2ラップ目8点。2ラップ目の8点のうち5点は、最終セクションでのものだった。すでに勝利を確信した本多は、最後のセクションを自分の理想とする走り方で締めようと思った。1ラップ目はそれでうまくいったが、ここをノーストップで走るのは、リスクも高かった。それで5点になって、トータル10点になった。それでも2位に5点差の勝利だった。
2位は寺澤慎也。1ラップ目が12点だから、その時点で勝利の可能性はないのだが、2ラップ目を3点でまとめて、8位から2位まで浮上した。お見事なり。
3位が徳丸新伍。徳丸は、あと一歩でまだ勝利の経験がない。ただし去年の開幕戦はポイント獲得すらできなかったのだから、今年は好調。次は宮崎で開催される初めての地元開催での戦いだ。
4位は若い武田呼人。今年こそ初勝利とタイトルがほしい国際A級2年目のライダーだが、4位はくやしい結果となった。
この武田以外、トップ6はみなベテランで、みなホンダライダーだった。5位小野貴史、6位村田慎示。村田の減点は20点で本多のちょうど2倍のスコア。本多が1セクションあたり0.5点で村田が平均1点。これが平均2点の40点になるともうポイント圏外になってしまう。最下位は1セクションあたり平均3点をちょっと超える減点だった。
■レディース
勝利はもちろん西村亜弥。今回の減点はたったの3点だった。地形がけわしいため、レディースのセクションを作るのがすごくむずかしく、ものすごくむずかしくなってしまうか、簡単になってしまうか、という会場だった。セクションが簡単だと、ちょっとしたミスで勝利を逃すこともあるから気が抜けない。西村には苦しい戦いとなった。
3点は合格点かと思いきや、そのすべてが、ちょっとむずかしいポイントではなく、なんでもないところでの足つきだったから、本人の評価は今一つだった。
2位は小玉絵里加。セクションが簡単なので、今回は勝利のチャンスもあった。事実、1ラップ目は4点差だった。西村がちょっとした不運で5点でも取れば、充分詰め寄れる点差だった。しかし結果は10点差。西村のミスを待つためには、自分のミスを最小限にしなければいけない。5点はひとつもなかったが、細かい減点が多かったのが残念だった。
3位は小谷芙佐子。負傷から復帰して、ようやく表彰台までには戻したが、まだ負傷前の小谷の走りには戻っていない。今回の小玉はいい走りができていたか、小玉と接戦だったのが以前の小谷だったから、復調して小玉との順位争いが見たい。今回は小玉にダブルスコア以上の点差をつけられてしまった。
4位山中玲美は小谷に8点差。今回は小玉にも小谷にもからめずの結果だった。5位宮本美奈は、2ラップ目には3位のスコアを残している。こちらもこれから楽しみなひとり。寺田智恵子は7位米澤ジェシカと6位を争った。2ラップ目に復調して6位を守ったが、ジェシカは1ラップ目に5位のスコアをマークしているから、こちらの戦いも今後が楽しみだ。
■国際B級
ベテランがずらりと表彰台に並んだ国際A級に対し、こちらは若手がずらりと並んだ。
優勝は去年のトライアルGCで勝利を飾った池田力。国際A級池田蓮の弟だが、身のこなしなど、うまさが光っていた。今回の勝利はだいたい予定通りだといい、チャンピオンが具体的目標として見えているようだ。
2位は廣畑伸哉。チームミタニのルーキー。第6セクションの3点が唯一の大きなミスで、これがそのまま結果となった。
3位は加古川の藤堂慎也。表彰台に、見事若手ライダーが揃うことになった。
おじさんライダーは、4位和田弘行ががんばった。とはいえ、優勝イノチで参戦の和田にとっては、今回はちょっと残念な結果。5位に中村道貴(まさかた、と読む)はちょっとお兄さんだが、6位森海盛も若手。若いライダーが実力を伸ばしてくるのは頼もしい限りだ。