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黒山健一、接戦を制す
全日本選手権第2戦。例年通りの九州大会は、しかしここ3年続いた鹿児島大会から、熊本県に会場を移しての開催となった。
会場が直前に決まったことに加えて、今回から予選・決勝という考え方を取り入れたシステムが導入され、いろんな意味で新鮮な大会となっていた。
試合の流れも、いつもとはちょっとちがう展開。黒山健一、小川友幸、野崎史高、ふだんトップを争う常連が少し不調で、かわりに1ラップ目から好調をキープしたのは渋谷勲だった。しかし昼休みを挟んだ決勝ラップ、勝負はわずかに動き始めた。結局3点差の僅差ながら、勝利を手中にしたのはディフェンディングチャンピオン、黒山健一だった。
パドックは、有明海に面した海水浴場の駐車場に設けられた。お天気が良かったのも幸いして、のどかで、バカンスにきた気分だった。全日本選手権といえば、来てよかったなというパドック・本部にお目にかかることはほとんどない。山奥なのはいいとしても、そこに人が来たくなるだろうなという要素がほとんどないところがほとんどだ。トライアル場とは、トライアルをしたい人が集うところであって、それ以外の人が気分よくなるようにはできていないから、それはしかたがないのだけれど、春の海をながめていると、そこにいるだけで気分がよくなってくる。こういう気分は、ヨーロッパのトライアル大会に来たみたいだ。
もっとも、ヨーロッパのトライアルよりはだいぶスケールは小さいし、せっかくの海水浴場施設も今年は準備不足で使えないということだし、天気予報通り、日曜日が雨だったら、感想はまた別のものになっていたかもしれないのだけど。
セクションは、かなり厳しめに設定されていた。それにも増してむずかしかったのが、開拓してから日が浅く、地盤がトライアル用として踏み固められていないということだった。しかしそれでも、試合は進んでいく。
できたばかりの会場ゆえ、できるだけあとからトライしたほうが有利かと思われるが、しかし今回は予選と決勝形式の試合システムで、持ち時間も多くない。
持ち時間は、最初の1ラップが2時間半。次の1ラップが1時間。セクションは10セクションだから、最初の1ラップは1セクション15分見当だ。
国際B級はこの2ラップで競技が終了。国際A級は2ラップが終わった時点での上位15名が、午後の決勝ラップを走る。スーパークラスは、全員が決勝に進出するから、予選・決勝のシステムといっても、事実上、従来と同じ10セクション3ラップで、2ラップ目と3ラップ目の間にインターバルが入って、仕切り直しがあるというのが、今大会の特徴だ。
第1セクション、スーパークラス12名のうち、11名がクリーン。なんと小川毅士が下りで失敗して5点となった。前回開幕戦の5位がくやしかった毅士だが、その雪辱に向けて、幸先の悪いスタートとなった。
続く第2セクション。今度は渋谷勲が5点となった。インしてざくざくの登りをぽんとあがり、頂点で向きを変えるポイント。渋谷はここで、華麗な技を披露する予定だったようだが、それが災いしてぽてんと転んだ。渋谷も、前回4位がくやしかったクチだから、この転倒は痛い。
序盤の二つのセクションは、比較的クリーンができる設定だったが、クリーンしたのは黒山健一、野崎史高、田中善弘、柴田暁の4名。小川友幸は第2で1点をついてマシンを押し上げた。
しかし、この二つをクリーンしながら、どうにもペースをつかめずに苦労していたのが、黒山健一だった。理由は不明だというが、セクショントライに集中ができない、なんだかあぶなっかしげなトライアルとなっていたという。
それが、続く第3セクションから露呈してしまった。第3は渋谷が2点で出た以外は全員が5点、第5はなんと全員が5点という難セクションだったから痛手は大きくないが、小川友幸や渋谷がクリーンした第4でも黒山は5点。3連続5点となり、さらに上り下りを繰り返す第8と、最終セクションでも5点となって、1ラップ目の順位は5位という意外な低迷ぶり。
その黒山に輪をかけて点数が悪かったのが、野崎だった。野崎の1ラップ目は、クリーンが4つ、3点がひとつ、5点が5つ。黒山も野崎も、10セクションのうち半分が5点なのだから、5位と6位に低迷するのも不思議ではない。
トップは、第2セクションで転倒して幸先が悪かったはずの渋谷だった。前回真壁のように、クリーンの出せるセクションがある程度の数があると、ひとつの5点は試合を左右する大きな要素となる。しかし今回のように5点がいくつもあってふつうという設定では、たとえクリーンセクションで5点を取ったとしても、挽回のチャンスはいくらでもあるということだ。
渋谷は10セクションをただ一人クリーンするなど、見事なライディングを見せながら、1ラップの減点を16点にまとめた。10点台は渋谷ひとりだ。
2位となったのは、田中善弘。小川友幸と同世代で、同じくブラック団育ち。藤波貴久が初めて全日本チャンピオンをとったときには有力なライバルの一人だった。今は仕事とパパとしての生活に基盤を置くが、ベータに乗るようになってから、往年の爆発力がよみがえってきている。その田中の1ラップ目の減点が、21点。
今回は、ちょっと地味な役回りになってしまったのが、1ラップ目3位の小川友幸。シーズン前からの課題をまだ克服できていない様子で、絶好調にはほど遠い。この小川の1ラップ目が、24点。
そして26点で4位につけたのが、ルーキー2年目の柴田暁。「力をつけてきている、テクニックがついている」と評価される今シーズンの台風の目。本人は「成長しているかどうかは、自分ではよくわからない。まず、先輩たちといっしょに走って、先輩たちの上に行くことを目指していく」と語る。その闘争心は、今、誰よりも熱いかもしれない。
5位黒山、6位野崎。7位が、第1セクションからつまづいてしまった小川毅士。ベータにマシンをスイッチして、今年はちがう毅士が見られると期待していたが、その期待はまったく反対の結果になってしまっている。これは困る。
さてしかし、渋谷の減点がず抜けて少ないといっても、実は渋谷にはタイムオーバーがあった。これまで、渋谷といえば早まわりのスタイルが特徴だったが、みんなの走りを見てトライするように変化してきている。となると、みんなより遅い分、タイムオーバーのリスクが高い。
今大会、タイムオーバーがなかったのは黒山と柴田のふたりだけで、あとは全員何点かのタイムオーバー減点をとっているのだが、渋谷だけが二ケタの減点。それだけ点数もよかったのだが、ちょっと惜しい結果でもあった。
2ラップ目、黒山が回復傾向を見せた。しかし渋谷も崩れない。それどころか、1ラップ目に全員が登れずだった第5セクションで、ただひとり1点をマークした。この1点は、この日の渋谷のハイライトだった。
野崎も2ラップ目に減点を減らしてきたが、しかし渋谷や黒山の減点まではまとまらず。小川友幸以降は、逆に減点を増やしてしまって、上位を狙う雰囲気ではなくなっている。結果、優勝争いは渋谷と黒山、二人だけに絞られてきた。
2ラップを終わって、しばしのインターバルをはさんでスーパークラスの3ラップ目、決勝がスタートする。この間、選手の減点を確認することもできたし、国際B級の表彰式もあった。選手にとっては、トラブルを修理する時間としても有効だったかもしれない。中途半端に休むことで疲労が増大するという意見もあったが、さて、どうだったろうか。もちろんお客さんにとっては、この時間を利用して、ゆっくりお昼を食べることもできる。昼食抜きで一気に競技をするのがトライアル的だったかもしれないが、世の中はやっぱりお昼にはご飯を食べるのがふつうだ。
もっとも、この競技システムのために、この日はスタート時刻がいつもより1時間ほど前倒しされていた。IASのトップクラスが8時台にスタートするのだから、その早さは異例。トップライダーが、お客さんがまだらな中スタートしていくというシーンにもなった。“予選”なのだからそれでもよいという考え方もあるだろう。でももうちょっと、いろんな意見を聞いてみたい気もする。
2010全日本トライアル選手権第2戦九州大会(2010年4月11日)1ラップ目の第9セクション。国際A級スーパークラスを定点撮影してみました。ちょっとマニアックな映像ですが、登り方失敗のしかたは、聞こえてくる助走のエンジン音から違ってるのがわかります。
決勝のスタートは、予選順位に準じる。IAが15名、IASが12名、合わせて27名が次々にスタートする。持ち時間は1時間。すでに2回走ったセクションだからライダーとしてはそんなに問題はないが、それでもちょっとあわただしい。ただし一番慌ただしいのは、お客さんだ。1ラップ目のように、すべてのセクションでお目当てのライダーを追いかけるなんて言うのは、まず無理。せっかくの決勝だから、もっとゆっくり見たい気もする。これも、今後の課題としてほしい。
でもトライアルが、いずれにしても模索を始めているのは歓迎すべきことだと思う。守るべきものと変わっていくべきものを見極めるのはむずかしいが、変化への冒険や苦労がないままでは、発展など望むべくもないと思うから。それに、試行していくうちに、気がつくこともある。
今回、IAの9位で決勝に進出した佃大輔が、足を負傷してリタイヤすることになった。しかし運営側は、こういうリタイヤを想定していなかった。リタイヤといっても、予選は走っているのだからそこまでの順位は確定するべきで、佃は決勝最下位の15位ということになった。運営サイドの手落ちと攻めるのは簡単だが、やっていくうちに気がつくことがあってもいいのではないかと思う。
負傷といえば、競技システムとは直接関係がないが、IASの藤巻耕太が2ラップ目にマシンとからんでクラッシュ、頭を強打してリタイヤ、救急車で病院に急行した。脳震盪で記憶が飛んでいたほか、首を傷めていた可能性もあって一時は心配されたが、競技が終了する頃には元気(そう)な藤巻が会場に帰ってきていた。一安心だが、佃ともども、しばらく安静が必要かと思われる。どうぞお大事に。
さて決勝。2点差を追う黒山は「この点差はあってないもの」と仕切り直して勝負に挑んだ。こうなると、ひとつひとつのセクションでの出来が、勝敗に影響してくる。
第3セクション、ふかふかのヒルクライムは、黒山が3点、渋谷が5点。ここで同点。続く第4セクション、黒山が1点で渋谷がクリーン。ふたたび渋谷が1点リード。そしてここまで、2ラップ目に渋谷が1回だけ抜け出しただけという鬼門の第5セクション。出られる実績はあるから、ふたりには可能性はあった。うまくいくかどうかは、神のみぞ知る。
先に、黒山がトライする。すでに小川友幸や野崎など、ことごとく登れずに5点になっている。そして黒山は、ぎりぎり、登った。足が出て3点にはなったが、貴重な3点だった。これで渋谷が5点なら、黒山が1点リードということになる。しかしここを渋谷がクリーンするようだと、渋谷が4点リードと一気に渋谷が優位に立つ。
最後のトライになった渋谷。しかし渋谷は、最大の難関に至る前、宙を切ってマシンを旋回させた直後に倒れ込んでしまった。転倒。すぐに起こして(でも転倒は免れなかった)ヒルクライムに挑んだが、結局登れず。1点差で黒山のリード。
その後、黒山は最終セクションを残してすべてクリーン。最終を2点で抜けた。渋谷は、1ラップ目にここをただひとりクリーンしている。クリーンが出れば、勝敗もまたわからなくなる。しかし、渋谷の最終セクションは、3点だった。さらに渋谷には、3ラップ目の1時間の持ち時間に1分遅刻した。これでさらに1点減点が加わり、トータルでは黒山の3点差の2連勝が決まった。
たった3点差。タイムオーバーが全部で10点分もなければ、最初の第2セクションでの5点がなければ……などなど、たらればを思えば渋谷の勝利は目と鼻の先にあったことになる。しかし今回は、それ以上に、黒山が序盤の不調を克服して、勝利に向けてきちんと組み立てをしてきたという戦いだった。黒山は絶好調のときももちろん強いが、こんなふうに調子が悪いときにも試合をまとめる力を持っている。「調子が今一つだったので、今日は2位狙いだった」と語る黒山。2位でいいやというあきらめでなく、2位を勝ち取る作戦をきちんと実践していったからこそ、最後につかんだ勝利だった。
小川友幸と野崎の3位争いは、今回も最後で小川の勝利となった。2戦連続で小川に負けた野崎は、今回は表彰台も逃すことになってしまった。野崎の3ラップ目は、クリーンが5つと5点が5つというはっきりしたコントラストだった。
1ラップ目の2位からは順位を落としたものの、5位には田中善弘。しかも終わってみれば、野崎に3点差。田中のさらなる上位進出の可能性は、小さくないかもしれない。
田中を逆転できなかったことでくやしがることしきりなのが柴田。田中とは4点差。上位陣が減点を確実に減らしていくのに対し、柴田は1ラップ目の好結果を維持できなかった。加えてみんなが5点になるところを確実に5点になるという、つまらない結果もあった。クリーンできるところを確実にクリーンし、みんなが5点のところのいくつかを抜け出して優位に立つのが、柴田の上位進出の構想だ。
小川毅士は、序盤の不調をそのままひきずって、6位以内に入れずに終わった。8位斉藤晶夫、9位野本佳章、10位宮崎航、11位西元良太。IASは参加台数に関わらずに10位までポイント獲得だから、今回はリタイヤした藤巻と西元が無得点に終わったことになる。ルーキーの中では、宮崎が2戦ともポイント獲得の快挙を果たしている。
IASトップ3、黒山健一、渋谷勲、小川友幸と、IA優勝の田中裕人のコメント
国際A級
開幕戦で、淡々と走って勝利したと語ったのは三谷英明だったが、今回もまた、勝利者は「勝利は意識しないで淡々と走ったら優勝していた」と語った。田中裕人。今シーズン、久々にライダー業に復帰してきた。これまで長く小川毅士のマインダー(ちなみに今年から、マインダーのことはアシスタントと呼ぶ)を務めてきたが、毅士がマシンとチームを変えたことで、その任を離れることになったからだ。
開幕戦では今まで慣れ親しんだホンダに乗って6位だったが、今回はマシンをベータに変えてきた。「楽しくトライアルの練習をするのが目的で、その延長で試合に参加した」ということで、九州までの遠征も、実家に立ち寄るついでというアマチュアリズムたっぷりの裕人である。
試合感覚を取り戻そうとも思わず、ベータへの慣れもまだまだといいながら、しかし2位に14点差と、圧勝といっていい結果だった。慣れないながら自分の思うようにマシンを走らせたら、マシンがその通りに走ってくれたのがいい結果につながったという。三谷といい田中裕人といい、簡単に勝ててしまう感じがにくい。復帰にあたっては、そうそう簡単に勝てるはずがないと防衛線をはっていたのだが、やはり実力は健在だった。
2位三谷は、1ラップ目に5点が多く14位と遅れたが、きっちり盛り返して2位を獲得。3ラップ目の10点は、この日のベストスコアになった。
上位にはからめなかったが、もうひとり10点のベストスコアを叩き出したライダーがいた。藤原慎也。予選は14位と、かろうじて決勝進出を果たしていたのだが、決勝では5点ひとつ。それも無理と決めて申告5点としたもので(第4セクションは、IAとIASが同じ設定だったから、IAには厳し目となっていた)あとは1点が5つのみ。結果、藤原は7位まで駒を進めてフィニッシュした。あと2点上回っていたら6位小谷徹にも手が届いたのだが、そこは小谷もてがたいところだった。
昨年のB級チャンピオン山本直樹は、8位で決勝進出。前回A級の厳しさを味わったばかりだというのに、いきなりこのポジションに進出してきた。決勝ではちょっと順位を落としてしまったが、A級初ポイントの快挙だ。
九州勢が西和陽、松浦翼とふたり決勝に進出して、地元の大会に色を添えた。














左上から、2位三谷英明、3位小野貴史、4位成田亮、5位本多元治、6位小谷徹、7位藤原慎也、8位徳丸新伍、9位砂田真彦、10位滝口輝、11位山本直樹、12位波田親男、13位西和陽、14位松浦翼、15位(決勝をリタイヤ)佃大輔
国際B級
フル参戦2年目の平井賢志が念願の初優勝。開幕戦で2位に入っていた窪谷貴正が1ラップ目にトップに立ったが、2ラップ目に平井がベストラップをたたき出して逆転した。
去年は、ルーキーの山本直樹が全勝して若手大活躍の印象を残したシーズンだったが、今年はベテラン勢の活躍も光っていて、その勢力図の変化がおもしろい。まだまだシーズンを占うのは早いが、2戦を終えてランキングトップは、2戦ともに2位となった窪谷となっている。
若手ナンバーワンについたのは、中部の岩田悟。3位表彰台も、トップと11点差となった点差が納得いかないようだった。
前回優勝の樋上真司は、今回からシェルコでの参戦となった。当初は、開幕戦からシェルコでの参戦予定だったが、スペインからの入荷が遅れたために、開幕戦はRTLでの勝利となったのだが、マシンを乗り換えて、緒戦はまずは5位となった。