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2019第2戦初開催の九州宮崎は
黒山健一が大逆転勝利
最後の最後、小川友幸が足を出した瞬間に、九州大会の熱い勝負は決着した。黒山健一が、2018年開幕戦以来、1年2ヶ月ぶりに勝利。開幕戦勝利の野崎史高は3位。ランキングトップは黒山、2位に野崎、3位に小川。しかし黒山から小川までがわずか5点差。3人の大接戦は続いている。2019年を牛耳るライダーは、まだ現れない。
5月12日、宮崎県えびの市矢岳高原トライアルコースでの全日本選手権。全日本選手権を開催するのは初めてだが、そもそも宮崎県での全日本選手権開催が初めて。キャンプ場に隣接する国有林を借り受け、整備や交渉を続けて、ようやく開催にいたったのが、今回の全日本だった。
九州選手権の会場として、すでにこけら落としがされた会場だが、IASの走る険しいライン、大岩は、今回初めてオートバイが走ることになるものも多い。はたして走破は可能なのか、どんな大会になるのか。見た目、次から次へと大岩が現れて、レディースからIASまで走りごたえのある、難度の高い戦いとなりそうだった。
黒山、野崎が第1をクリーンしたが、小川は1点を失って戦いが始まった。次の第2は、むずかしい形状の三角岩を越えてすぐに左ターンする必要があり、18人中16人が5点。小川がクリーン、野崎が3点で抜けたのがすべて。黒山も岩を滑り落ちて5点となった。
第3はIAと同じライン設定で、IASの18人中15人がクリーンか1点。しかし3点がひとり、5点がふたり出た。IAと同じセクションで、IASが全員スムーズに抜けるわけではないところが、興味深い。
第4は、ちょっと難度が高かった。クリーンしたのは氏川政哉だけで、野崎が2点をつき、黒山、小川、毅士、柴田はそろって1点だった。
とはいえ、ここまで2点と3点のある野崎に対し、小川は1点が二つのみ、黒山には5点があるから、今日の勝負は小川が優位に進めるのではないかと、この時点では思われていた。
クリーンの多かった第5のあと、第6がまた鬼門。氏川が1点、野崎、毅士はクリーンだったが、黒山、小川がそろって5点となった。ここまでのトップは5点の野崎となり、以下、毅士6点、小川(友幸)7点。黒山は氏川と同点の11点で、黒山の勝利はむずかしい感じになってきた。永久保が12点、柴田13点、斉藤17点、岡村18点、藤原20点、砂田20点と続く。
第1から第6までの最初のエリアの後、見晴らしのいいコースを経て第7、第8へ。トップの3人はここはクリーンだったが、柴田が1点、毅士が5点を取っている。ここで藤原が両セクションをクリーンしている。
第9は、この日の10セクションの最後の難関だった。カードぎりぎりにまっすぐ岩にアプローチするラインと、横から回り込んで抜けるラインとがあった。ここをクリーンしたのは黒山、小川、柴田、藤原の4人だけ。野崎、毅士、そして磯谷玲が1点、平田貴裕が2点で抜けた。
1ラップ目、トップは5点のない野崎だった。しかし1点差で小川が続いている。クリーン数はどちらも7個。3位は黒山で野崎を5点差で追い12点の毅士に1点リード。黒山が優勝争いするには、2ラップ目によほどの挽回が必要だし、2ラップ目次第では3位も安泰とは言えない。その4位毅士にも2点差で柴田が迫っている。こちらの争いもなかなか接戦だ。
2ラップ目、1ラップ目と同様に、第2セクションでドラマがあった。1ラップ目に5点になった黒山が、今度はここをクリーンしたと思えば、野崎が5点になった。ラインが少し乱れた結果というが、これで野崎の減点は11点となり、黒山と同点に。トップの小川は7点のまま。毅士は15点、柴田は19点、氏川は23点と、トップ3と4位以下には差がついた。トップは単独で小川。2位争いがふたり、そして4位争いという様相だ。しかしまだ、2ラップ目が終わっていない。
黒山も野崎も、そしてそれを追う全員が、これ以上減点できない状況で戦っている。もちろんトップを走る小川とてそれは同じ。1ラップ目の7点は悪くない減点だったが、リードは4点でしかない。5点一つでひっくり返ってしまう僅差だ。油断はできない。
しかして、2ラップ目の第2セクション以降の戦いは、トップ3と4位争い、その他の差が歴然としたところでもあった。
第3セクションから最終10セクションまでを、10点内でまとめたのは1位から6名までの6名だった。第9で5点となった毅士が7点、柴田が5点、今回、特に2ラップ目が絶好調だった藤原はこの8セクションを4点でまとめた。この好調が1日続けば、毅士や柴田と競りあえるかもしれない。
しかしそれでも、トップ3の安定感と走破力は抜きんでていた。小川と野崎の減点はわずか2点。1点ふたつだけのほぼベストに近いスコアだった。小川の減点が第4と第8、野崎の減点が第3と第7。それぞれ別のセクションでの失点だから、そこは足をつかなければ抜けられないわけではなく、ほんの少しの乱れからの失点だったと思われる。それがなければ、二人とも8セクション全部をクリーンしていたにちがいない。
それを実現したのが、ひとりだけいた。黒山だ。黒山は、1ラップ目の第6セクションで5点となった後、1回の足つきもなく、すべてのセクションをクリーンして2ラップ目を走りきった。優勝はちょっとむずかしいと思わせた1ラップ目の黒山とは一変、久々に神がかったライディングの連発だ。
SSを前にして、トップは変わらず小川で、減点は9点。しかし2位には黒山がわずか2点差の11点(1ラップ目の減点のままだからそうなる)で迫っていた。3位は、これまた黒山に2点差で野崎が13点。
小川から野崎までが4点差だから、この3人の誰にも優勝のチャンスはあった。4位の毅士は22点だから、すでに勝利のチャンスはない。ただ野崎と毅士は9点差だから、毅士が逆転3位となるチャンスは残っていた。ただし9点差は大差で、毅士と柴田も点差はたったの2点だから、こちらの4位争いが厳しいものになっている。この他、2ラップを終えた時点で、SSに進出する10人の中で順位が確定したライダーはひとりもおらず、SS次第で結果が大きく動くこともあり得る。
SSは、誰も走ったことがない巨大な岩々が用意されていた。トップグループはある程度見きっていたようだが、早い順でトライをするライダーは可能性を探りながらトライしていくことになった。
SS第1、最初に抜けたのは永久保恭平で1点。続く氏川も1点、次の藤原は5点となったが、柴田、毅士と1点で抜け、残るトップ3人にクリーンの期待がかかってきた。毅士は足場の悪い岩の下での1点だったから、難所はクリーンしていた。
ところが野崎が難所の岩を登れず。前人未到の岩に泥が乗って、この岩は走れば走るほど滑りやすくなってきていた。結果論として、この岩は4人が登ったら賞味期限切れ。5人目はもう登れない岩だったのだ。ただし野崎は、毅士が1点をとったことで、野崎の3位は確定した。
野崎が5点になったのを見た黒山は、すぐさまラインを変えることを決断した。右側の岩にいったん乗って、そこから飛び移る。誰もトライしたことがない行き方で、リスクもあったのだろうが、これまでのみんなが走った行き方では、もうチャンスがない。そしてその新たなラインで、黒山がこのセクション初めてのクリーンをたたき出した。SS第1、最後のトライとなった小川は1点。黒山が走ったあとに乗った滑る土のせいだったのかもしれないし、黒山の追い上げのプレッシャーゆえのものかもしれない。ともあれ、黒山が小川に1点差まで追い上げてきた。1ラップ目の黒山からは、もはや別人のように勢いづいている。
SS第2、ここの出口にはとにかく巨大な大岩が鎮座している。それでも最初に走った齊藤晶夫が1点で抜け(ぎりぎりだったけど)、この1点で斉藤が逆転9位を得ることになった。久岡孝二、永久保恭平、そしてなんと氏川政哉も5点となって、残るは6人。
5点になるリスクは大岩だが、その手前で岩の頂点を軸に向きを変えて降りてくるポイントも難所だ。藤原が2点。今回の藤原は2ラップ目が好調で、再び6位を獲得した。翌週に自身の開催であるCity Trial Japanを控えて忙しい藤原だが、ライダーとしても着々と調子を上げてきている。
2点差のまま最後のセクションを迎えた5位の柴田は、とにかくここをクリーンして毅士のミスを待つしかない。まず柴田がクリーン。されど毅士をここは踏ん張った。両者クリーンで、柴田の5位、毅士の4位が決まった。2019年になって、この二人の勝負は毅士が2連勝ということになったが、しかし柴田は、毅士に負けたことより、トップとの点差が縮まっていかないのが歯がゆい。トップグループに近づければ、毅士との勝負もおのずと結果が出てくるはずなのだ。
柴田、毅士のクリーンのあと、野崎は大岩で足を出して1点。大きくリヤが滑ったので、あわや5点というシチュエーションをうまくこらえての1点だった。
ここもまた、コンディションが悪化しているのか。だとすると、優勝争いにも影響があるかもしれない。そして黒山のトライ。黒山は、しかしそんな心配をよそにクリーン。やるべきことはやった。あとは、小川の最終トライを待つだけだ。その差1点。クリーン数は黒山の方が多いので、小川が1点なら同点で黒山の勝利が決まる。小川が勝利をするには、ここをクリーンするしかない。後攻の方が有利とされることが多いトライアルだが、この場では、岩に乗った土、先にクリーンした黒山のからの無言のプレッシャーと、後攻の小川のほうにに状況は厳しい。それでも、小川が最後の最後にミスをする心配をしていたのは、関係者含めて、ごく少なかったのではないだろうか。
そのわずかな不安が的中した。3人がクリーンをしている大岩で、小川は野崎と同じようにグリップに苦労し、足を出した。見た目には派手なウイリージャンプの大岩だが、頂点が丸くなっていて(ここの岩はどれもたいがい丸かった)飛びついてからさらに岩の頂点を走っていかなければいけない、そこのグリップが明暗を分けた。
同点。22セクションを走って、両者の減点は11点。1セクション平均0.5点だから、ひとつの減点が結果に大きく影響したのがわかる。そんな中、1ラップ目に二つの減点5を出しながら、最後に小川に追いつき、ぎりぎりのクリーン数差で勝利した黒山は、圧巻の試合っぷりだった。
黒山の勝利は2018年真壁以来。あのあと黒山はモーターマシンでの世界選手権参戦が決まり、入れ替わるように野崎が調子を上げてきて、勝ち負けの話題はすっかり小川と野崎に奪われてしまっていた。職人黒山健一、健在。黒山健一の勝利は飽きるほど見てきたが、こんなしぶとい勝利はなかなか見たことがない。
ランキング争いもなかなか興味深い。トップは黒山で、2点差で野崎、小川は3位のままだが、トップ黒山からはたったの5点差となっている。
■国際A級■
武田呼人が初勝利を飾った。国際A級3年目。昨年から上位入賞ができるようになったが、勝利はいまだ得られなかった。この勝利でランキングもトップ。もちろん武田にとって、初めての国際A級リーダーの座だ。
この日の武田は、スタート前から好調だった。セクションも好みの感じだったし、乗れっぷりもよかった。いつもの全日本より大きな岩が多く、難度は高そうだったが、5点にもなれるがクリーンもできる設定のものが多かったから、うまくいけば意外な神経戦となる。IASのそれと、同じような感じはあった。
このセクションをうまく攻略したのが、1ラップ目の武田だった。今回のセクションは、細かい足も出るし、5点にもなれる、そしてうまく走ればクリーンも出るという、理想的な設定だった。第1セクションからして、クリーンしたのか7人、5点が9人、1点が6人と、実にバランスよいスコアとなっている(ちなみに2点は2人、3点は4人)。武田はもちろん第1をクリーン、5点になる者も多い第2を1点で抜け、結局1ラップ目をたったの3点で走りきった。
1ラップ目2位となったのは徳丸新伍。地元宮崎での初めての全日本選手権。いまだ初勝利がない徳丸にとって、この九州大会は徳丸の初優勝に絶好の舞台だった。しかし徳丸の減点は10点。1ラップ目にして、徳丸は武田に7点差をつけられてしまった。
2ラップ目、武田が崩れた。第2、第3と5点。さらに第7でも5点となって、2ラップ目だけで減点は17点。武田の勝利があやうくなってきた。徳丸の2ラップ目は18点。徳丸も2ラップ目に減点を増やしてきて、追い上げはならなかった。
2ラップ目に減点を減らしてきたのは、小野貴史、そして坂田匠太。ふたりは共に減点を6点でまとめてきた。これでふたりは3位と2位に進出、徳丸の初勝利は阻まれて4位に転落となったが、武田はわずか1点差で逃げ切りに成功して、初勝利を得た。武田は、これでランキングトップに躍り出た。ランキング2位には、宮崎県のエース、徳丸新伍となっている。
徳丸は地元での初優勝を逃したが、弟の徳丸貴幸も6位に入賞。この兄弟、それぞれIAクラスのポイントゲッターだが、二人揃って6位以上の表彰台に並んだのは、これが初めてだという。
■レディース■
連勝を続けてきた西村亜弥に最大の危機。小玉絵里加が2点差、クリーン数差3点まで迫ってきて、今回は辛勝となった。試合序盤や2ラップ目序盤、一時は小玉が西村をリードしていた。そして1ラップ目は同点。さらに2ラップ目の序盤も、小玉が西村をリードする展開だった。西村が勝利を続けるについては、疑う者はほぼ皆無だったが、やはり世の中に絶対ということなどなかったのだ。
実は西村は、今回飛行機移動のときから頭痛に悩まされていて、そのせいかどうか、平衡感覚がおかしくなってしまって苦戦していた。平坦な斜面を上がっていくだけで足をついたりという、西村らしくない失点が見られたのは、そのせいだった。
それでも、小玉の今回の活躍は、西村の不調とは関係なく、称賛に値するものだった。減点10点は、3位にトリプルスコア以上の大差をつけたもので、これまで西村の独走と小玉以下の2位争いというレディースクラスの勢力図が、書き換えられたといってもいい変化だ。
ぶっちぎりの大差で負けた時よりも悔しい、あらためて実力不足を痛感するという小玉だが、今回の一戦は、今後に向けて、確実なジャンピングボードとなるにちがいない。
3位の山中玲美は、4位に15点差をつけたが、2位小玉にも22点差。レディースの面々はそれぞれ確実な成長を続けていて、山中も成長株にはちがいないのだが、さらに上位との競り合いを期待してしまいたいところだ。
4位はヒザの手術からの復調に苦しむ小谷芙佐子。ところがこれに同点で食い下がったのが寺田智恵子だった。今回、小谷はマシンの不調もあって、実力を出し切っているとは言いがたかったが、それでも寺田が小谷と同点までスコアをあげてきたのは、これも称賛ものだった。
今回は、九州の村上由美子が全日本初参戦。初めての全日本ということもあって、5位に12点差の6位に甘んじはしたが、クリーン数では寺田よりふたつ勝っていて、小谷より一つ少ないだけ。まだまだ、全日本の舞台に現れていない逸材が、レディース界には秘められている。
■国際B級■
開幕戦で勝利した池田力が今回も勝利して2連勝。早くも2019年チャンピオン候補の最右翼に躍り出た。
しかし今回の池田は、そうそう独走ではなかった。1ラップ目のトップは、九州の坂井翔で、減点は5点。池田の1ラップ目の減点は7点だった。
2ラップ目、坂井の好調は続いている。2ラップ目の坂井の減点は、1ラップ目の池田と同じく、7点だった。しかし池田は2ラップ目にベストスコアの5点をマークして、逆転勝利を飾ったのだった。
2連勝の池田がぶっちぎりのランキングトップなのは当然だが、ランキング2位は廣畑伸哉。開幕戦の2位から今回は8位となったか、2ラップ目のスコアは池田に次ぐ2位だった。廣畑に1点差で、今回2位の坂井がランキング3位となっている。26歳の中村道貴(今回6位、ランキング4位)をはさんで、ランキング7位までがみな10代の選手。若手の台頭が著しい、今年のIBクラスである。