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2019北海道、小川友幸が大逆転勝利
2019年7月14日、毎年恒例の日程で、北海道大会が開催された。北海道大会の日程は毎年ほぼ同じだけど、去年も今年も電動バイク、トライアルEの世界選手権に参戦した黒山健一は、去年は日程が重なって北海道大会は欠場したが、今年はその日程が2週間前に終了しているので、2年ぶりに参戦となった。
黒山は参戦したが、IASは磯谷玲と山崎頌太の二人が欠場して17名参加、ところがIAはこのIASと同じ17名の参加となった。2017年は24名、2018年は28名の参加があったから、ざっと10人の来るべき人が来なかったことになる。去年は全クラス合わせて90人の参加があったから、その反応があったのかもしれない。今年の参加者は全部で74名。それでも2017年より二人多くなっている。
天候はおおむね曇りだった。昼から雨が降るということだったが、朝のうち、ほんの一瞬パラッときただけだった。逆に午後には晴れ間も出た。いつも、北海道大会といえばかんかん照りか雨降りのどっちかという印象があるも、今年は気温的にはそれほどではなかった。でも北海道も年々湿気が増してきている感じで、蒸し暑さもあって、やっぱり暑い夏の1日となった。
■国際A級スーパー
黒山が第3戦を欠場したので、トップ6のスタート順は氏川政哉、柴田暁、黒山、小川毅士、野崎史高、小川友幸の順となった。
序盤、いつものことでもあるが、ペースはゆっくり目。ぽんぽんとトライするとむずかしいポイントに引っかかって5点となるリスクはあるし、実際、早めのトライをしたライダーはそういう憂き目に遭っている。唯一、成田亮だけが、早いトライをしながらしっかり抜けているが、上位入賞を目指すライダーはトップグループといっしょに回ろうとする傾向で、ペースはどうしても遅くなりがちだ。
それでも下位グループがトップグループよりあとにトライできることはまずない。第2セクションで粘っていた久岡孝二に上位陣(のアシスタント)が「待ってても誰もやらないからさっさとやったらどうだ?」と声をかけると「どうやって走ればいいのかイメージがわかない」という。上位陣はクリーンをするイメージを持ちたくて誰かを先に行かせたいわけで、ライダーによってそれぞれの思惑が見える時間が流れていた。
トップ6のうち、第2で減点したのは氏川だけだった。他の5人は全員クリーンで、この5人は第3セクションまでクリーンを続けた。7位以下は、第2セクションで全員5点だった。
トップ争いが本格的にスタートしたのは第4セクションからだ。第4がクリーンだったのは黒山だけ。柴田が1点、野崎が2点、氏川が3点。小川友幸と毅士は、なんと5点だった。二人の小川は、どちらもマシンとライダーのコンビネーションが一瞬狂った結果の5点で、友幸はその後は復調したが、毅士は1日を通じてちぐはぐなライディングを見せていた。
実はこのとき、黒山のフロントタイヤがテープの外に飛び出したのではないかという件があった。目の肥えたアシスタントの目の前でのことで、みんなに目撃されてしまっていたのだが、オブザーバーは笛を吹かなかった。テープを踏んだだけにも見えたかもしれないし、ホッピングして着地したのがテープ外かテープ内かかが見えなかったのかもしれないし、そもそも見えていなかったのかもしれない。こういうことはどの大会でもときどきあることだが、いつもの全日本なら神経質にジャッジされるゲートマーカーへの接触も、今回はちょっとおおらかで、神経を使ってゲートマーカーを避けているライバルにとってはちょっと力の抜ける瞬間だったかもしれない。
こういうとき、他陣営から抗議があがることはない。採点への抗議はしないというのがルールだし、まして相手のジャッジに口を出しているのなら、気持ちを切り替えて先へ行ったほうが自分の身のためだ。ただこれを知った小川友幸は、今日の流れは黒山にある、と思ったという。運も実力のうち、採点も人のやることだから、ゆらぎはある。黒山のラッキーと、自分の不運。試合の流れは、そんな感じでできていく。
次の第5セクションも難セクションだった。岩山の上に横たわっているヒューム管を越えていくのはいつもの通りだが、今年はヒューム管を正確に渡っていかねばならず、それは針の穴に糸を通すような正確なライディングが要求された。毅士が5点、氏川が1点、友幸、柴田、黒山はクリーンだった。ところが野崎は、ここでタイムオーバーの5点になってしまう。アシスタントの時計とオブザーバーの時計が、数秒ちがう値を示していたようだ。この5点から、ペースが崩れてしまった気がする、と野崎は語っている。
足場のしっかりしない土の斜面の第6、水の出ている第7や、泥の斜面とそそり立つ岩が鬼門の第8、タイヤやブロックなどの関所を越えながら登る第9、高いコンクリートブロックなどが関門の第10など、難セクションは多かったのだが、トップの実力的には、ここはクリーンしていかなければいけないセクション群のようだ。そんな中、野崎が第7で5点、黒山が第9で5点となった。野崎はこれでふたつめの5点だから、かなり苦しい。ここまでクリーンが続いていた黒山は、この5点で友幸に追いつかれたことになる。
しかし友幸と黒山の争いはトップ争いではなかった。第4で1点、第7で1点と、わずか2点の柴田が、1ラップ目のトップだ。今日はいけるのではないかとスコアチェックをしている柴田お父さんに声をかけると、いつものことでこのまま終わるわけはないから、期待しないでいる、とのこと。確かにまだ試合は半分も終わっていないが、柴田は北海道大会では2位になったことがある。
2ラップ目。柴田2点、黒山と友幸が5点、氏川9点、野崎12点、毅士13点。友幸と野崎のチャンピオン争いという点では、野崎がどこまで友幸に迫ってゴールできるのかがポイントだ。もちろん、まだ野崎の勝利のチャンスもあるが、オールクリーンも可能だ。
2ラップ目に強烈に早いペースで回ったのは友幸だった。自分のペースで回った結果、というが、最終セクションにはIASの誰よりも早く到着した。ラインや走り方のコツは1ラップ目にわかっているし、走ったり休んだりするより、走り続けたほうがマシンのコンディションが安定するという理由もあるようだ。
2ラップ目の小川は、1ラップ目にはぎりぎりクリーンできた第5でわずかにラインを乱して5点となった他の9セクションをクリーン、1ラップ目と同じ、減点5点でゴールした。
2ラップ目の最小減点スコアは黒山だった。黒山は第8で1点となっただけ。他は全部クリーンとなっている。2ラップの合計は6点。2ラップを終えてのトップは、黒山ということになった。
1ラップ目トップの柴田は、そのままトップをキープすることはできなかった。小川同様、ヒューム管のセクションで5点になってしまったからだ(ただし柴田の5点はヒューム管にいくまでの2段での失敗だった)。5点の他、1点が二つあって、柴田の2ラップ合計の減点は9点。黒山と3点差だから、まだ勝利のチャンスはある。
黒山6点、柴田9点、友幸10点、野崎と氏川が17点(クリーン数は野崎が多い)、毅士が24点。7位の久岡は37点、8位吉良38点、9位斎藤50点、10位藤原54点。この10名がSSに進んで最後の順位決定戦に挑む。
SS第1は、むずかしく険しいが、トップにとっては行ける行けないというより、いかにしてクリーンするかという命題になっているようだった。
氏川はクリーンならずの3点、野崎が2点で、4位争いは野崎が1点リードとなった。しかしここで減点すると、表彰台に進出するのはむずかしい。
トップ3のトライとなり、まず友幸が美しいクリーンを見せた。トップの黒山とは4点差だから、このクリーンはトップ争いには大きなプレッシャーとなったにちがいない。
そして柴田。柴田が痛恨の1点。野崎が2点だから、1点で走破したのは悪くないのだが、これで友幸とは同点、クリーン数では負けているから、柴田は3位に落ちる可能性も出てきた。
しかし最後のトライの黒山が、なんとテープを切って5点となった。このテープは毅士も切った。友幸もそれを警戒しながらトライしていたという。これでトップ争いは大逆転、友幸10点(クリーン19)、柴田10点(クリーン15)、黒山11点となった。野崎は19点で、勝利も表彰台もなくなっている。
SS第2。最終第10セクションのモディファイ版だが、U字溝を飛び移っていかなければいけないので、難度は高い。斎藤が3点で抜けたが、毅士も5点。なかなか抜けられるライダーが出ない。
しかしそこはトップグループ。氏川がクリーンすると、野崎、友幸、柴田と次々にクリーンしていく。友幸のクリーンは、同時に柴田、黒山のトライを待たず、勝利を決定したということでもあった。そして柴田のクリーンで、柴田の2位入賞が決まった。黒山は、SS第1の5点ひとつで、トップから3位に滑り落ちたということだ。しかし最後のトライとなった黒山は、出口のブロックを登ることができなかった。黒山とトップ友幸の差は、結局6点となった。
友幸と野崎のタイトル争いは、今回の友幸の勝利でポイント差7点となった。2ラップ目終了時点の順位のままなら、友幸3位、野崎4位で、その差は2点開くだけだったのだが、最後の大逆転で野崎のビハインドは7点となった。残り3戦。野崎が初のタイトル獲得に挑むには、かなり苦しい状況となったのは、まちがいない。
その他のランキングでは、黒山が4位から3位にポジションを戻し、柴田が毅士に1点差に迫っている。
■国際A級
武田呼人が第2戦以降の3連勝を飾った。なんせ武田の1ラップ目はオールクリーンだ。1ラップ目2位の小野貴司は3点だったのだが、追いつけなかった。
表彰式で、小野は「武田が調子いいのは知っていたが、若い選手だから崩れるかと思って狙っていたけど崩れなかった」とコメント。多少のリップサービスだったのだが、当の武田は、2ラップ目に崩れてしまったのが大反省、としている。崩れたといっても2ラップ目の武田は7点で小野と同点。2ラップ目にそれ以上のスコアをマークした選手はいないのだが、武田としてはさらに高みを目指したいらしい。
3位ははるばる九州から一家で遠征してきた徳丸新伍、4位に大ベテラン、小谷徹が入っている。5位濱邉伶、6位木下裕喜は自身最上位を得た。
■レディース
今回は最初からのメンバーに山中玲美を加えた5名の参加。高い岩などはよけているが、ターンやがらがらの岩場など、それなりに難セクションが揃っている。
西村亜弥にとっては、これはオールクリーン目標のセクションだった。されど思うようにはいかず、1ラップ目6点、2ラップ目5点。合計11点は2位にトリプルスコア近い大差をつけているものの、もっと上手に走れたはずというひっかかりは残っているようだ。特に1ラップ目2点、2ラップ目1点となった第5セクションは、小谷芙佐子が1ラップ目1点で、2ラップ目にはクリーンしているから、悔しさもひとしおだ。
その小谷は、第5セクションのクリーンをびっくりした、と語っている。靭帯損渉で欠場が続き今シーズンから本格復帰したものの、第3戦関東大会は諸事情でまた欠場、思ったようなカムバックができていない小谷。今回は久々の2位入賞となった。これで完全復調かと思いきや、本人にはまだその実感がなく、ライディングも元通りとは思えない、ということだ。ただ、確実に復調しているのはまちがいない。
開幕以来2位を守ってきた小玉絵里加は3位。九州大会では西村に僅差まで迫っただけに、こういったオールクリーンの可能性のあるセクション設定では勝負がかけられる。それが裏目に出た。1ラップ目も2ラップ目も3位で結果も3位。2位小谷、3位小玉、4位山中玲美(1ラップ目は2位だった)はそれぞれ2点差ずつの接戦だった。
■国際B級
今シーズンは、開幕戦から若人が強い。久岡孝二や氏川兄弟、山崎頌太など、IBでは近年若いライダーの活躍が目立つが、今年は特に粒が揃っている。20歳代では若者の枠に入らない感じになってきている。
そんな中、今シーズン3勝目を挙げたのは池田力。IBも結果的には神経戦だったが、池田は20セクションを通じて1回足をついただけ。2ラップ目はオールクリーンして、他を寄せつけず、だった。関東大会ではワンミスで連勝を逃していた池田が、あらためて連勝を始めることになるのか。
2位は藤堂慎也。表彰台は開幕戦の3位に続いて2度目だが、第2戦、第3戦が11位、14位と安定感に欠けていた。この2位から建て直しがなるか。藤堂はIA昇格のボーダーラインであるランキング5位につけている。
前回池田を破って勝利した廣畑慎也は今回は3位。1ラップ目に3点ひとつ、1点二つのミスがあって5点。2ラップ目はオールクリーンで追い上げたものの1位にも2位にも届かなかった。廣畑はランキングも2位を守っているが、トップ池田に17点差、3位坂井翔(今回9位)に18点差と、上にも下にも大差がある。
4位には喜屋武蔵人、5位に米田悟とベテラン勢が若者に割って入り、6位に九州の森海盛が入った。森はランキングでも4位となっている。