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小川友幸、快勝

全日本大3戦近畿大会は、5月23日、雨の猪名川サーキット(兵庫県)で開催され、小川友幸が48点で勝利した。渋谷勲が52点で2位、黒山健一が渋谷と同点で3位。野崎が55点で4位となった。
小川の勝利は2009年開幕戦の真壁以来、1年2ヶ月ぶり。本人のことばによると、1年半ぶりのうれしい勝利となった。
国際A級は第2戦九州大会を欠場した小森文彦。国際B級は、往年の大型ライダー和田弘之が勝利した。和田は必勝を期して年に1度近畿大会に出場してくるが、2008年は上福浦に破れ、2009年は新型インフルエンザで大会が中止になったので、3年ぶりの勝利となる。

小川友幸
小川友幸の、試合の滑り出しは、けっして好調という印象ではなかった。関東大会でも九州大会でも、このところの小川の滑り出しはこんな感じ。でもそれは、少なくとも小川は意に介していないようだ。流れを変えたり、挽回したり、自分のペースを取り戻したりとは、小川自身は思っていない。最初から自分のペースを貫き、その結果2位になったり3位になったりしていた。序盤のどこそこで5点になったから勝ち損ねた、2位になれなかったとも、小川は考えていない。
小川の失敗がセクションの前半部分で、ライバルがそこを通過しているものだから、見ている者の目には小川がいささか調子を崩しているように見えるのだが、しかしライバルも、結局その先の難所で5点となったりしていることが多い。入り口で5点になっても、出口で5点になっても結果は同じだ。心理的には「入り口での5点だから負けてるよなぁ」とか「出口の岩は2ラップ目に初めてトライすることになっちゃうなぁ」など、弱気になってしまう要素は多い。これを最近の小川は「結果は同じ」と思い切れる。それが強さなのだと思う。
好調だった渋谷勲、5点が多かった黒山健一に比べて、この日の小川にはこれが勝因だと決定づけるものは見当たらなかった。それでも、全セクションのリザルトを細かく見てみると、ほぼ全員が5点となっている第4セクションを、1回だけ3点で抜けていたりと、少しずつのリードを積み上げていって、最終的に2位の渋谷に7点の差をつけて勝利した。
雨の中、混とんとした試合、タイムオーバーもあって集計がはっきり出ない。試合が終わった直後「今日は小川さんでしょ。大差でやられました」と黒山健一がさばさばしているのに対して、久しぶりの勝利の小川は「まだまだ。正式結果が出るまではなにも言いません」と中途半端な喜びを口にしないでいた。
そして結果が出た。小川には3点のタイムオーバーがあったが、それでも充分な点差だった。2009年の真壁は、マシンの仕上がりにも自信があったという小川。今年はちょっと準備不足があって、第1戦第2戦と勝てないでいた。いよいよ小川友幸の2010年シーズンが起動した。

渋谷勲
小川友幸に次いで2位となったのは、九州大会で惜しくも初勝利を逃した渋谷勲。結果は黒山健一と同点、クリーン数もいっしょ。1点の数の多い渋谷が2位を獲得というきわどいものだった。しかしそれ以上に、渋谷は勝てなかったくやしさを噛みしめていた。
序盤の渋谷は、快調だった。第1セクション、クリーンをしたのは渋谷だけだった。実は渋谷がトライしたあと、表面の土が流れてしまい、つるつるの粘土が顔を出したらしい。結局、第1セクションをアウトしたのは、久々の全日本出場となった尾西和博(3点)と渋谷のクリーン、ふたりだけとなった。2ラップ目は、渋谷を含めて全員5点だ。
このクリーンは、トライするタイミングの勝利ともいえる。しかし渋谷の力強さは、1ラップ目に遺憾なく発揮され、1ラップ目終了時点では、2位の小川友幸に5点のリードをとっていた。滑ったり石をはじいたりして、不確定要素が多いこの日のトライアル。これだけ点数をまとめられるのは実力の賜物だ。
しかし2ラップ目、渋谷にアクシデント。昔から調子は良くなかったらしいのだが、左手親指に痛みを覚え始め、試合を進めるに従って、だんだんライディングにも影響が出てきた。加えて、調子がいいからリードをもっと広げてやろうという作戦も、結果的に裏目に出てしまった。クリーンをねらって5点となるなど、2ラップ目の渋谷は1ラップ目より減点を7点増やし、2ラップ目にベストスコアの小川友幸よりも10点も多い減点を叩いてしまった。
3ラップ目、というよりスペシャルステージの2セクションは、もはや渋谷の傷ついた指ではコントロールしきれなかった。11セクションで指を決定的に痛めてしまい、12セクションも5点。実力をきっちり勝利に結びつけるのは、むずかしい。

黒山健一
渋谷と同点で負け。今年初めての敗北は3位ということになった黒山健一。第3セクションをただひとりクリーンして見せたのはカンロクたっぷりだったが、今日の黒山は、そんなにたくさんの横綱相撲をとれずに終わった。スコア上の敗因は、2ラップ目の追い上げ中の10セクション、11セクションでの連続5点。1ラップ目にはクリーンしているから、可能性は大いにあった。これをふたつともクリーンすれば減点は一気に10点減って優勝なのだが、世の中とトライアルは、そう簡単には進まないということだ。
雨も、体力を消耗する大会であるのも、充分織り込み済み。準備が万全でも、こんなふうに負けてしまうこともある。トライアルの奥深き不思議なところだ。
今回小川が優勝、黒山が3位となったことで、両者のランキングポイントは3点差となった。黒山独走にちょっとストップがかかって、タイトル争いがおもしろいことになっていきそうだ。
4位は野崎史高。2戦続けての4位となった。あいかわらず絶好調で、ライディングもどんどんよくなっている。それが結果につながらないという野崎。実力と結果がつながる日が、楽しみである。猪名川は、ライダーにとってもタフだが、マインダー(今年からアシスタントと呼ぶようになった)にも厳しい。今回に限って野崎はA級ライダーで、若さあふれる高橋伸一郎にマインダーを頼んで試合を戦った。
5位は小川毅士。こちらはまだベータとのマッチングが充分ではない。ベータの乗り方がわかっていてそのとおりにできないこともある。あるいは、まだ乗り方に気がついていない部分もある。自分が完璧でないのを承知の上で、苦しい戦いを続けている小川毅士だった。
6位は柴田暁。田中善弘に同点で6位を勝ちえた。柴田の難セクションに立ち向かう気迫は、今のIASの中でもダントツかもしれない。それが結局5点だったとしても、成果は近々実を結ぶにちがいない。
田中善弘は、本来ならこういう難セクションではバツグンの破壊力を発揮しそうだが、今日はちょっとおとなしかった。「今日はぜんぜんだめだった」と発言も控えめ。
8位は斎藤晶夫。1ラップ目の減点が多いことを悔やむ。9位は宮崎航。10位野本佳章までがポイントを獲得。11位に尾西和博。尾西はコース途中でチェーンが外れクランクケースにはまりこんで、たいへんな思いをしたそうだ。お疲れさまでした。12位は西元良太。出場予定だった藤巻耕太は土曜日の練習中に足を痛めて不出場。骨には異常はないようだが、痛みも大きいらしく、ちょっと心配といったところ。
世界選手権茂木をはさんで、全日本選手権は8月の北海道大会まで、つかの間のお休み期間にはいる。
■国際A級

開幕戦10位、九州は欠場した小森文彦がエントリー。安定したスコアで優勝した。
出られる大会に、楽しめる環境でトライアルと取り組みたいとする小森は、今年は九州大会への参戦は絶望的だった。なのに開幕戦で10位と低迷して、これが小森にはショックだった。なんとか今回はリベンジしたい。でも必勝を期して神経質なトライアルをするのはスタイルに合わない。楽しく走って、もう少し満足のいく結果を出したい。
特に調子がいいわけではなかったが、小森は目的通り、楽しくトライアルができていた。2ラップ目も終盤、本部近くの9セクションに到着したときに、1ラップ目の成績をようやく聞いたくらいで、それまでは成績もまったく気にせずだった。
この頃小森は、手も足も限界を超えていた。「こんなつらかったのは初めて」という。手をつり、足をつり、後半は時間をいいっぱいいっぱい使いながら、手足を休めつつ走りきった。
こんな状況だから、6位くらいには入っているかなと予想しながら結果を待ったところが、優勝だった。「5点が少なかったのが、結果的に勝利に結びついたと思う」と、体力と戦いながらのこの日のトライアルは、やっぱり楽しかったようだ。
今シーズンは、安定してポイントを獲得するライダーがごく少ない。ここまで3戦それぞれ別の勝者が出ている国際A級。見方によっては、なかなかおもしろいシーズンなのかもしれない。とはいえ、上位陣の顔ぶれがIAS経験のあるベテランばかりで、若いルーキーの姿が見られないのは、やっぱりさびしい。














左上から、国際A級、2位から15位までの各ライダー。2位 岡村将敏、3位 三谷英明、4位 徳丸新伍、5位 田中裕人、6位 小谷徹、7位 佃大輔、8位 村田慎示、9位 高橋由、10位 永久保恭平、11位 砂田真彦、12位 山本直樹、13位 小野貴史、14位 小野田理智、15位 尾藤正則
■国際B級

トライ待ちの和田。後ろに優勝した小川友幸がいても、和田の貫録は圧倒的
1年に1度だけ、全日本に参戦して優勝するのを至上の喜びとしているライダーがいる。和田弘行。山本昌也が全盛の80年代に、国際B級チャンピオンとなった大型ライダー。年齢は重ねたが、その大型ぶりはいささかも衰えていない。
「去年はインフルエンザ騒ぎで大会がなかったやろ。おととしは上福浦に負けたしな、今年はなにがなんでも勝ってやろうと思ってな」
2ストロークのRTL250Rが愛車。最近のセクションは生ぬるいとおっしゃる。和田がチャンピオンをとった時代の国際B級セクションときたら、なんと国際A級とまったく同じだったりしたのだ。ぎらぎらしたライダーがずらりとそろっていた時代でもあった。
まわりを見れば、山本昌也を師と仰ぐ16歳の宮本竜馬、小谷重夫を父とする小谷一貴、岩田稔中部トライアル委員長の息子の岩田悟など、和田が走っていた時代のライダーの二世たちが走っている。しかし和田は走り続ける。
「来年も出るで。出られる限りは出続ける。出る限りは勝ってやる。勝つために出るんや」
時代はちがうが、その豪快さはなつかしくもいさぎよい。















国際B級、左上から1位から15位までのみなさん。優勝の和田弘行、2位 宮本竜馬、3位 岩見秀一、4位 山口雄治、5位 杉木直志、6位 岩田悟、7位 吉平正男、8位 平井賢志、9位 小谷一貴、10位 窪谷貴正、11位 樋上 真司、12位 中野 勝美、13位 朝倉 匠、14位 橋口 智彦、15位 荒生 和人
■エキジビジョン125

関東大会に続いて、2回目の参戦となった13歳の倉持俊輝。まだB級に混ざってポイントを獲得するところまでは至らないが、関東大会の時よりだいぶ上位に入ってきた。成田匠校長のトライアル・アカデミー出身の若者だが、アカデミーの先輩B級ライダーをしのぐ結果を残している。まだまだ成長が楽しみ。
それにしても、このクラスの参加者がいつも1名限りなのはどうしたことか(一回だけ2名になったことがある)。若いライダーがいないんだもん、という理由はもっともだけど、クラブなりショップなり各地方ブロックなりが、若いライダーを育てたりおだてたりしてこのクラスに送り込むことはできないもんか。いまだこのクラスにライダーを送り出していない関東と中部以外のブロックのみなさん、頼みますよ、ほんとに。