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野崎史高、9月の開幕ダッシュ
ようやくようやく、2020年の全日本選手権が始まった。
開幕戦はツインリンクもてぎの関東大会。本来、世界選手権が開催されて、その2週間後に開催予定だった。ほんとうらなら、6月はトライアル・ゴールデンウィークになるはずだったのだ。まだまだ感染症騒動は長引きそうだが、このもてぎ大会はお客さんの観戦も許されて、ますく着用のもと、ざっと9ヶ月ぶりに戻ってきた全日本トライアルになった。
セクションは難易度がきわめて高し。もともと世界選手権用に設営されていたセクション群が、ほぼそのまま全日本用になっているのだから、むずかしくないほうがおかしい。規則上、NBに参戦していれば参加できるレディースクラスのセクションも、地形そのものが険しいので、なかなかむずかしいものになっている。
最初の鬼門は第2セクション。ポイントは3つで、IASにとって、ひとつずつはそれほど難関でもないが、とにかく精度が要求される。そして時間がない。結果、ここを3点で抜けられたのは小川友幸と小川毅士だけで、他はことごとく5点になった。次なる鬼門は第5セクション。ここをクリーンで抜けた小川友幸(ガッチ)がトップに出る。ガッチ3点、毅士5点、野崎史高と黒山健一が6点、氏川政哉10点と続く。
第6からは超難関揃い。ここまでの5セクションをいかにまとめてくるか、そしてここからの5セクションを、いくつ抜け出るか、勝負は前半と後半のコントラストがはっきりしている。
こんな中、序盤の第2で5点にはなってしまったが、後半の難関セクションを5点なしで抜け続けたのが野崎。クリーンは3つと少なめだが、1ラップ目は5点がひとつだけで、小計16点だった。序盤好調だったガッチは、第7から5点続き。第7でクラッシュして投げてしまったマシンを、完全には修復しきれず、それでリズムも狂ってしまったのではないかと自己分析する。ガッチの1ラップ目はクリーンを5つマークしながら23点。野崎に7点差をつけられてしまった。
ガッチに1点差で続くのが、必ずしも好調とはいえないが、がっちりとマシンを進める黒山だった。黒山が26点、これに2点差の26点で続くのが、毅士と柴田暁。氏川はライディングがちょっと慌てぎみで、5点が多く1ラップ目は31点で6位。久岡孝二に同点で並ばれている。
2ラップ目、リードをとった野崎は、鬼門の第2をクリーンする。正確な小技は、野崎の得意とするところだ。このセクション、黒山が1点で調子を上げてきたかに見えたが、他は3点と5点ばかり。野崎のクリーンは、この日の優勝争いにも大きく貢献した。
第5セクション。黒山が一大事。ステアにとっついたその瞬間、黒い煙が出てエンジンがストール。黒山は、すぐにピットに戻って修復作業に向かった。電気トラブルと思えるが、はたして修復は可能なのか。
優勝戦線は第6まではクリーン合戦かと思われたが、なんと野崎が第6を失敗。さらに第7でも5点になった。まだリードは保っているが、ちょっと雲行きが怪しくなってきた。野崎には、今年から若い菅原明弘がアシストについているが、去年まで、長く長く野崎とコンビを組んできた中山浩が飛んできて、これで終わったわけじゃないからな、とハッパをかけている。この日、野崎にはたくさんの応援団がいた。シーズンオフの間、感染予防に腐心しながら、熱心にオフロードスクールなどを開催してきた。その生徒さんたちが、みんなで野崎を後押ししている。
ガッチは、第7でこそ5点になったが、その後、第9、第10と3点。野崎は第9でも5点となった。2ラップを終えて、両者の点差はわずか3点となった。SS次第では、まだまだ先行きはわからない。
一方3位争いはといえば、結局黒山のマシンは完全復調ならず、まったく吹けない状態で残るセクションを回って申告5点をして、2ラップ目を終えた。これで3位争いからは大きく脱落だ。第6からの5セクションの点数を見てみると、黒山がオール5点で25点だが、氏川が25点、野崎が18点、毅士が17点、柴田が13点、ガッチが11点と、なかなか減点が多い。2ラップ目を終えての3位は、毅士が48点、柴田が49点と接戦だ。計算上は、55点の黒山までが、表彰台に上がれる権利を持っている。
SSは、難度の高い10個のセクションに比べると、いくぶんクリーンの出やすい設定だった。SSを最初にトライするのは、オートレーサーの野本佳章。野本は残念、テープを切って5点になったが、走りそのものはクリーンだった。これは、トップライダーは当然のクリーンが要求されてくる。
SS第1で5点になったのは久岡と、ここでも申告5点とした黒山、3人だけ。残るは次々にクリーンをしていったのだが、最後の最後にトライした野崎が、わずかにバランスを崩して2点。テープ際に寄っていってしまい、がまんすることもできたのだが、ここで5点になっては元も子もないと、足をつきにいった結果の2点だったのだという。失敗は失敗だが、ダメージは最小限に抑えられた。
最後のSS。野崎38点、ガッチ37点の1点差の優勝争い、そして毅士48点、柴田49点とやはり1点差の3位争い。ふたつの争いが注目となった。トライ順は柴田、毅士、ガッチ、野崎だ。
柴田はSSに強い。ここでも、バッチリのライディングを見せてクリーン。毅士に厳しいプレッシャーを浴びせることになった。1回足をついて同点になったら、クリーン数の差で柴田が上位に来る。しかし毅士も踏ん張った。がらがらと崩れる岩場は、思わぬ失敗もありえたのだが、しっかりクリーンして、久々の3位表彰台をゲットした。
そして残るは優勝争い。野崎とガッチのクリーン数も、毅士と柴田同様に、クリーン数はガッチが上回っているので、ガッチがクリーン、野崎が1回足をつけば、減点は同点でクリーン数差でガッチが勝利ということになる。ところが今度はガッチが1回の足つき。これで点差は再び2点に。まだ可能性はあるよね、とガッチに問いかければ、ないでしょ、クリーンセクションでしょ、ここはと答える。クリーンセクションで1点を失ったライディングを悔いているようだ。
そして野崎。気持ちを集中させているようにも、リラックスしているようにも見える。結果は、見事クリーンだった。
開幕戦、まずは野崎が一歩リード。ガッチは最低限の仕事はできた、といいながら厳しい表情だ。表彰台を勝ち取った毅士は喜びの笑顔。今回はミスが多かった柴田はでなおしてきます状態だった(柴田は第5セクションを2回5点となっているが、2ラップ目はなぜかクリーンと記録されている。ほんとはあと5点減点が多いはずだった)。優勝争いに食い込むはずが表彰台争いにも届かなかった氏川に続いて黒山が入った。
黒山のエンジンは、最後の最後に息を吹き返し、なんとかSSをトライできるようになり、SS第2だけ3点で抜けている。これで7位吉良祐哉と2点差の6位を獲得した(黒山がSS第2を5点でも、吉良とは同点、同クリーン数、1点の数の差で黒山が上位となるはずだった)。
8位は赤ベースにイメージチェンジした斎藤晶夫、序盤好調だった久岡孝二は9位に、去年の最終戦でざっと1年ぶりに全日本参戦を果たした野本佳章がひとつポジションアップをして10位。
10位以下は、最近強くなってきている武井誠也、しぶといベテランルーキーの寺澤慎也、関東のやはりしぶといベテラン岡村将敏、そして平田貴裕、雅裕兄弟が14位、15位に入って、開幕戦でのポイントゲッターとなった。
<国際A級>
ベテランのひしめくこのクラスにあって、02番をつけるルーキー、廣畑伸哉が初出場、初優勝を飾った。
第2セクションの入口の難関ステアをうまく越えて、今日は調子いいのかなと思ったものの、それでも優勝するとは思えなかった、という廣畑。同じようなスタート順でいっしょに回ることになった2位本多元治(台頭する若手を抑えて優勝をかっさらっていく若手いじめの第一人者。勝負を大切に戦う姿勢は多くの若手の目標となっている)に、とにかくうまい、落ち着いているし、こういう若手が出てきたのはうれしい、と言わしめた。廣畑と本多は4点差。IAデビューウィンは、氏川湧雅、久岡孝二、武田呼人、氏川政哉の、チームの先輩たちにもできなかった偉業となる。
<レディース>
今年も西村亜弥は強い。セクションがむずかしめだったから、実力差がそのまま出たという感じ。2位小玉絵里加には15点差だった。
3位には、去年からこのクラスに参戦を始めた関東のNBライダー、清水忍が入った。1ラップ目は小玉に2点差の2位となっているから、今後の更なる成長に期待したい。小玉と清水は5点差
<国際B級>
黒山健一のアシスタントにして弟の黒山二郎の次男の黒山陣が全日本選手権デビュー。まだ11歳の小学校5年生だ。
優勝も期待できるという下馬評だったが、さすがに全日本はそこまで甘くなかった。優勝は今年から宗七音響ワイズベータに所属になった中山光太。2点差で高橋寛冴(ヒロキと読む)。黒山陣はトップに11点差の32点で、勝利はならなかったが、見事表彰台を獲得した。
3位までの3人は、いずれも全日本デビュー戦。そしてその平均年齢は14歳という若い表彰台となった。若いライダーの活躍とともに、若手によるチャンピオン争いが楽しみだ。