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2021、小川友幸が開幕ダッシュ
めまぐるしい順位争いだった。歴史的な日になるかもしれないという予感もあった。しかし勝利は、またまた大逆転で、チャンピオン小川友幸のものになった。ホンダでのデビュー戦である氏川政哉は2位、ニューマシンで挑んだ黒山健一が3位となった。
下見を終えた小川友幸は、セクションは簡単と評した。神経戦となるのはもちろんだが、神経戦を通り越して、時間勝負の早い者勝ちになるかもしれないとも言った。時間勝負ということは、オールクリーンが何人も出る可能性がある、ということだが、明けてみれば、状況はすこしちがった。
うまくいけばクリーン。ただし失敗すると、1点や2点でリカバリーするより、いきなり5点になるセクションが多い。オールクリーン勝負になるかもしれないが、5点とクリーンの同点争いとなる可能性もある。実際、日曜日の接戦は後者に近かった。
第2セクション、小川が足をついた。第5セクションでは、黒山と野崎史高のヤマハ勢が、そろって5点となった。ここでは氏川が1点、氏川は次の第6でも1点を失った。氏川には細かいミスがあるが、5点がない。そして氏川は、5点をひとつもとらないまま、1ラップの10セクションを走りきった。
氏川が乗るRTL300Rは、点火プラグが2本ついたファクトリーマシンで、前後サスペンションも小川のものと同様になっている。細かく見れば、小川のマシンは2020年に藤波貴久が乗った新型仕様で、氏川のそれはトニー・ボウが乗った実績のある旧型仕様だが、中身がどうちがうのかはファクトリーマシンだから秘密だ。ホンダに乗ることになった当初はスタンダードで慣熟を開始したから、ファクトリー仕様での乗り込みは何ヶ月にもならない。乗り込みがどこまで進んでいるのか、ホンダ4ストロークと氏川の相性はどうか、若い才能が世代交替に切り込んでくるか、興味は多方面につきない。
5点が一つもなかった1ラップ目の氏川のスコアは6点。1点が3つ、3点がひとつ、クリーン6。これに対して小川友幸は5点一つ、3点一つ、1点二つで10点。黒山健一が5点一つ、1点二つで7点。氏川がホンダデビューでいきなりトップに出たかという展開だが、トップは氏川にあらず。5点一つ、1点一つの小川毅士だった。毅士、氏川、黒山と、全日本の流れが変わったような、1ラップ目の流れとなった。
2020年にラスト2セクションまでチャンピオン候補の最右翼だった野崎史高は、1ラップ目に5点を二つ取って苦しい展開。柴田暁には、1ラップ目に3つの5点があった。トップ毅士から6位柴田までが12点、トップ3はわずか1点差の間にひしめく接戦となった。
この1ラップ目、黒山にトラブルが発生。第8セクショントライ中にリヤブレーキが抜け、リヤブレーキなしで急坂を下ってクリーンをマークした黒山だったが、その後修復はならず、残る第9、第10をリヤブレーキのないまま走って、ピットに戻って修復をすることになった。リヤブレーキのないまま、黒山は足でリヤタイヤを押さえつける「足ブレーキ」の技を見せた。練習すれば突然のトラブルの際に有効かもしれないが、バレーダンスをたしなむ黒山のフィジカルゆえにできる技という気もする。よい子(とよい年の人たち)はまねをしないほうがいい。
昨年の開幕戦に続いて、またもトラブルに見舞われた黒山だが、リヤブレーキトラブルに関しては被害は最小限だったといっていい。1ラップ目の最終セクションで黒山は1点をついているが、リヤブレーキの機能しているライバルたちも1点以上で抜けた者はおらず、氏川と毅士が1点、小川ガッチが3点、野崎と柴田は5点となっている。今回くらいのトラブルなら、黒山の気力の方が勝っている。
そして2ラップ目、黒山と小川、40代の二人が本領を発揮し始めた。黒山は修理のためにトップ集団からははるかに遅れてトライをしていたが、二人はともに10セクションすべてをクリーンしてしまった。つまり減点は、黒山が7点のまま、小川が10点のままだ。
氏川の2ラップ目は1点が二つの2点。トータルは8点になった。トップを守りたかった毅士は、1点二つ出迎えた最終セクションでまさかの5点。これで2位から4位に転落して、SSを待つことになった。トップは黒山の7点、以下、氏川の8点、小川10点、毅士13点、野崎15点、柴田はちょっと離れて25点だ。計算上は、野崎までに優勝のチャンスがあることになる。
ふたつのSSは、いずれも大岩が見どころの設定。SS第1はダイナミックながらも、クリーンが出る設定だった。毅士はここで5点となってトップ争いから4位争いに後退したが、トップ争いはみなクリーンで、こうなると優勝争いは黒山、氏川、小川友幸の3人に絞られてくる。
SS第2。中盤のとんがり岩の処置と、そこからの超絶飛びつき、さらに最後の大岩登りと、派手なポイントが続く。とんがり岩でみな5点となり、そこを抜けた数少ないライダーも、次の超絶な飛びつきか最後の大岩登りで涙をのんでいる。
そんな中、柴田がとんがり岩で5点となった後、続きをトライして出口までマシンを進めた。後続には、これは確かな安心材料になったのではないか。しかし実際には、次の野崎が飛びつきで失敗、これで4位争いが振り出しに戻った毅士も出口の大岩を上れず(これで毅士5位、野崎4位が決定)。残るは小川友幸、氏川、黒山のトップ3のトライとなった。
小川ができることは、クリーンしかない。クリーンしてなお、ライバルに何点かの減点がなければ、小川の勝利はない。計算してみると、小川が勝つためには、小川がクリーンした上で、氏川が2点以上、黒山が3点以上減点する必要がある。そんな計算はどうでも、とにかくクリーンが唯一絶対の戦術だ。
はたして小川は、ここ一発で完璧な走りを見せた。クリーン。2ラップ目移行、ついに小川は減点なしでゴールに飛び込んだ。
こうなると、続く氏川、黒山は、それぞれ1点と2点以内でセクションを出る必要がある。さらに2位争いも熾烈だから、とにかく減点は最小限にする必要がある。
まず氏川がトライ。氏川はとんがり岩で1点を失った。守りに入るとマシンがズルズル滑り落ちてセクションを出てしまう。5点を回避するためための、ぎりぎりの足つきだった。そのままアウトなら、小川に1点リードしたままゴールできる。しかし最後の大岩、氏川の勢いはわずかに足りなかった。ここで1点。合計2点で、トータル10点。小川と同点だが、小川はクリーンが18あり、氏川は15。氏川の初優勝は、ここで夢と消えた。
そして最後が、黒山のトライ。3点で抜けると小川と同点だが、クリーン数も1点も3点もみな同数。競技時間はブレーキ修復に時間をとられた分、黒山の方が長い。つまり同点だと小川が勝利。黒山が勝利するには、2点以内で最終SSを抜ける必要がある。
しかしなんということか、黒山はセクションの半分もいかない、多くを5点にして苦しめたとんがり岩でマシンを滑らせ、テープを切って5点になってしまった。勝負は決まった。最後の最後、たったひとつのセクションで、小川は3位から勝利へと進み、黒山はトップから3位に滑り落ちたのだった。
トライを終えて黒山のトライを見守っていた小川本人は、2年前の九州大会で最後の最後に逆転され敗北した思い出の逆パターンと評価したが、この土壇場の逆転劇は、2020年最終戦湯浅でのそれの再来だ。湯浅では優勝争いから一気にチャンピオン争いまでひっくり返したが、今回は開幕戦。実は小川が開幕戦を勝利するのは意外に珍しくて、この開幕ダッシュは実に5年ぶりのことだった。
今年、唯一人このクラスのルーキーとしてデビューするはずだった廣畑伸哉は、練習中に負傷して今回は欠場となっている。
●国際A級
コロナ禍で参加を見合わせたライダーもいて、姿のないトップライダーもちらほら。となると、未勝利のライダーには大きなチャンスとなるも、それがまたプレッシャーになって自滅、なんてこともあり得る。実力的に大本命はゼッケン1番の村田慎示だが、地元宮崎の徳丸新伍の初優勝も期待は大きい。ただし徳丸は去年のシリーズを欠席していてゼッケンも30番をつける。前年のポイント実績のない選手のスタートは早く、トップグループのライン選択を参考にすることができないハンディを負っている。
徳丸は1ラップ目に15点で5位だった。徳丸を上回ったのは14点の西和陽、14点の村田、そして9点の磯谷郁の3人だった。西はお隣鹿児島、九州軍団の一員。磯谷はIAS磯谷玲の弟だが、優勝経験はまだなく、それどころか表彰台の経験もない。磯谷のリードは4点。5点一つでひっくり返る点差だが、トップのスコアが9点だということを思うと、大差でもある。
2ラップ目、ベストラップをマークしたのは村田だった。スコアは1ラップ目の磯谷と同じく9点。2ラップ目の磯谷は12点と減点を増やしたが、トータルでは2点差で、磯谷郁、18歳にしての初優勝が決まった。磯谷自身は、結果発表が出るまで、自分の勝利はまったく予想できず、2ラップ目に誰かがオールクリーンしてくるんだろうなと考えていたという。
若手勢では、16歳のルーキー福留大登が5位に入る好結果。でも本人は納得していない様子だった。他、11歳の黒山陣が14位に入って、ポイントを獲得した。
●レディース
西村亜弥の強さは今年も変わらない。しかし今回の西村は、本人が認めるほどにこれまでに最も乗れていて、2ラップすべてのセクションをクリーン。全クラスを通じて唯一のオールクリーンを達成した。
西村の自己評価は厳しいから、たとえクリーンしてもイマイチということもあるのだが、今回はセクション内での修正も落ち着いてできたし、時間配分もできた、これまで課題としていたことがしっかりできたと、ほぼ満点の評価だった。
2位はこれも定位置化している小玉絵里加。小玉の減点は20点。3位の山中玲美は30点と、2位3位は去年のランキング順。4位にソアレス米澤ジェシカ、5位村上由美子、6位は村上に1点差で寺田智恵子。エントリーはしていた小谷芙佐子は欠場だった。
4位のジェシカは、靭帯損傷からの復帰戦で、まだ不安が大きいと言いながら、4位を得た。
●国際B級
このクラスも、例年よりも参加者は少なめ。それぞれの自粛活動がこんな結果になっていると思われる。
優勝したのは、山口県出身で福岡県在住の中野禎彦。シリーズ参戦をしたことがなく、九州大会や中国大会で上位入賞を果たしているが、ついに優勝を手に入れた。2位とは1点差だった。
その2位は、はるばる山形から遠征してきた13歳、浦山瑞希。1ラップ目は3点でトップだったが、2ラップ目、2回の減点で3点を失って、1点差で初優勝を逃している。去年はもてぎとSUGOでオープントロフィー125クラスに出場し、15位相当の結果を残している浦山だが、公認大会としての全日本デビューに向けて、大きく飛躍してきた。今年は更なる飛躍があるか、注目の若手になってきた。