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黒山、完璧2連勝
全日本選手権第2戦は北海道わっさむサーキットで8月7日に開催された。
今年の北海道大会は、8月にして第2戦というのもいつもとちがって異常なところだが、久々にいいお天気。そしてとてもとても暑かった。
黒山健一と小川友幸による接近戦は、1ラップ目の5セクションまでだった。以降は徐々に、そして確実に黒山がリードを広げ、最終的にはちょうどダブルスコアとして2連勝を飾った。
3位には若手、柴田暁が初めて入った。野崎史高が4位、小川毅士が5位。本来トップ2を脅かすべき存在の二人の不調が際立ってしまった。
◆国際A級スーパー
暑い。ここ数年、雨が続いていた北海道大会。雨が降れば寒いくらいだし、晴れれば猛烈に暑くなる。今日は、何年ぶりかで猛暑の北海道大会となった。
第1セクションは去年同様。深くえぐられたがけ登りから、IASだけがブロックにかけあがる。最初にトライした宮崎航は1点。宮崎は前回8位。これは続々とクリーンが出るかと思われたが、そうはいかないのがトライアル。そして宮崎には、こういう走破力が備わってもいるのである。
宮崎のチームメイトの先輩、田中善弘も1点。しかし野本佳章が入口でブロックで5点になると、次々に5点を取る選手が現れた。野崎史高は最後の登りで失速して出口へ届かず、小川毅士は最後の最後までクリーンだった。野崎が失敗した登りを前にガス欠症状を起こしたのを、瞬時にコックの開け忘れと判断してコックを開け、最後のブロックも華麗に上った。しかしなんということか、そのあと真っ逆さまに前転。顔から着地して鼻から流血でちょっと心配な自体に。幸い試合は続けられたし骨も折れていないということなのだが(でもやっぱり心配)、試合の滑り出しで痛い思いをして、精神的なショックは小さくなかった。
1点が二人、5点が三人、そしてクリーンをしたのが三人。チャンピオン小川友幸、挑戦者黒山健一は予定通りに美しくクリーンしていったが、その前に最初にここをクリーンしていったのが、柴田暁だった。柴田は先月、世界選手権イタリア大会に出場している。結果は16人出場の16位という残念なものだったが、本人は結果にはこだわっていないようで、大きな収穫が得られたことに大満足の様子だった。ただし、第1セクションのクリーンがその成果なのかどうかは、やはり試合全体をみなければわからない。
第2セクションは、高い岩とアプローチがむずかしい岩との組み合わせ。高さとむずかしさがうまく組み合わさったセクションだった。ここは、セクション中盤の高い岩が鬼門。柴田もここで5点となった。小川毅士も同様だ。野崎はここをうまくクリアしていったが、オブザーバーの判定は5点。最後の岩を抜けるときに、ゲートマーカーに触れたという判定だ。野崎には納得できない。ギャラリーからは「さわってないよー」という声があがるが、待機するライダーやアシスタントは無言。ライバルの5点を期待しているのではなく、直接自分の目で見たものでないことには口出しをせず。オブザーバーの判定は厳正なものだ。少なくとも、自分の身に起こったことでなければ。つまり野崎は、このところのお題である、不本意な5点をとられる走り方をしないという課題は、2セクション目にして達成できずとなってしまった。
野崎に不幸だったのは、その後このセクションにはマーカーの接触を見るためのオブザーバーが配置されたりしたから、もう少しあとでトライすれば、マーカーへの接触があったにしろなかったにしろ、野崎の納得度もちがったにちがいない。いずれにしろ、このふたつの5点で、野崎と小川毅士は、一気にトップ争いから10点のハンディを背負うことになった。
第3セクションは、再び黒山、小川、柴田の3人がクリーンした。野崎は1点、毅士は3点だった。黒山と小川はともかく、柴田の好調はニュースだ。第4セクションは宮崎が1点ついた以外は全員がクリーンして、黒山と小川はここまでオールクリーン、柴田が5点、野崎と田中が11点、宮崎が12点、毅士が13点という並びになっていた。
勝負が動き始めたのは第5セクション。川からあがって水をひきずったまま泥の斜面を登っていく。ここでは野崎と田中が3点、柴田はふたつめの5点を取った。小川は2点。そのあとにトライした黒山は、1点だ。黒山のトライを見ていた他陣営は、黒山の減点は2点だと思っていたが、採点は1点だった。しかしそんなことより、影響が大きかったのが小川の気持ちの問題だった。
小川はここをクリーンする予定でいた。滑るむずかしいコンディションだから、足をついても不思議はないのだが、クリーンできないポイントではなかった。しかし小川のトライは2点となった。やってはいけないミスが出た、と小川は言う。ここでの点差はわずかだったがそれがライバルに精神的余裕を与えたと、小川は見る。そしてそれが、小川のトライに微妙に陰を落としていく。
第6セクションは、水がしみ出る、伝統的にむずかしいポイントだった。しかし野本、小川毅士、田中、野崎と3点で抜け出るライダーは多い。時間は厳しいが、3点で抜けると決めてかかれば、そんなに可能性のないセクションではなかった。小川は前のセクションで気持ちに追ったダメージを振り払ってここをトライ。しかし、完全には気持ちを切り替えきっていなかったようだ。5点! 黒山は最後に2点でここを抜ける。さらに第7セクション、黒山クリーンに対して小川は3点。黒山は小川とのリードをじわじわと広げている。
さらに決定的だったのは、終盤の9セクションと10セクション。9セクションは誰も走破できず、全員が5点でノーゲームセクションかと思いきや、黒山だけがクリーン。その差は決定的となった。さらに最終セクションでも、黒山のみが3点で走破。他は全員が5点となった。1ラップ目だけで、黒山のリードは14点。黒山自身はまだまだ安心していないが、流れが決定的に黒山に向いているのは、誰の目にも明らかだった。
3位争いはというと、やはり経験の差か、野崎が3位に浮上していた。しかし柴田も1点差。このまま力尽きて順位を落としていけばいつもの柴田だし、もう一度勢いを盛り返せば新しい柴田の誕生だ。
2ラップ目。もう一度気合いを入れ直してがんばりたい各選手だが、しかし暑さがそれを阻んでいる。暑さの問題はまったくないと言う黒山も、第3セクションで失敗して5点を取っている。柴田を突き放したい野崎も、第1、第3で5点を取り、7位で折り返して巻き返さなければいけない毅士も、第1、第2で5点と状況はかんばしくない。小川友幸は、5点なしで2ラップ目を走る唯一のライダーだったが、第8セクションで5点。誰も彼もが、同じように苦しんでいた。
そんな中、第9セクションで見事なライディングを見せたのが、柴田だった。第9は、黒山こそクリーンを出しているが、他は全員が5点。複雑な岩の組み合わせから、頂点に駆け上がらなければいけない設定で、難度もピカイチ。ここを、足つき1回のみで、見事に登ってみせた。足つきはあったが、まず完璧なタイミングだった。この1点が、戦況を決定づけた。第9で5点となった野崎は、2ラップ目を23点で終えた。柴田は20点ちょうど。1ラップ目と合わせて、柴田が野崎に2点差で3位だ。
残るは9セクションと10セクションを使ったスペシャルステージふたつだけ。野崎は1ラップ2ラップを通じて、ここを抜け出たことがない。分は、2ラップ目に9セクションを1点で抜けた柴田にあった。
開幕戦の成績が下位だった順からのスタートなので、柴田のトライ順は早かった。2ラップを走っているときには知らされていなかったが、今は3位だというのを知っている。緊張しながらのトライインだ。しかし結果は意外。柴田は2ラップ目に華麗な技を見せた最後のポイントにたどりつくはるか以前、セクション入口で5点になってしまった。柴田は去年も、このセクションでは入口で落ちている。出口まで走れたのは、1点で抜けた今回の2ラップ目、たった1回きりということだ。
こうなると野崎の表彰台の目も出てくるのだが、しかし野崎も、このふたつのセクションは攻略できない。3位争いは、2ラップ目の順位のまま、柴田が3位表彰台、そして野崎がくやしい4位となった。
今日はまったくいいところを発揮できなかった小川毅士は、最後の最後で毅士らしい気迫を見せた。最終10セクションをクリーンしたのだ。このセクションは、2ラップ目に小川友幸がクリーンをしたが、黒山はクリーンが出せていない。小川毅士の、大きな金星だった。しかしこれも、あまりにも遅すぎた。この大金星も、6位から5位にポジションをひとつ上げるのが精いっぱい。4位まで2点、3位まで4点差だったから、もうちょっと早くエンジンがかかればという悔やみはあるが、やはりあとの祭りである。
6位は、最後の最後に5位の座を奪われたものの、連続6位入賞となった野本佳章、7位に、今日はいいところなしという田中善弘、8人中8位は宮崎航。1ラップ目の第1セクションで1点をとったふたりが、ブービー賞と最下位という結果になってしまった。
ランキングテーブルは、2戦終わって黒山が2連勝で小川友幸に6点のリード。小川と3位の野崎の点差もやはり6点。野崎に4点差で、前回7位に沈んだ柴田が迫っている。小川毅士は田中善弘と同点のランキング6位。今年は全日本は、どうやら柴田暁が注目株だ。
◆国際A級
三谷英明のトライアルへの取り組みは、やるべきことを着実にこなしていく、確実なものだ。本人は淡々と走ったというけれど、淡々と走るのがむずかしい若手は多いのだから、やはりベテランはちがう。
「A級で勝つにはミスをしたらダメ。ミスのないように気をつけて、それでもミスはしてしまったけれど、他のライダーのほうがミスが多かったということでしょう」
大ベテランは、猛暑の中、体力面での不安もあった。体力を使わないように、極力疲れないライディングを選べるだけの技術と判断力があってこそなせる技。それでも後半は手足がつってしまってたいへんだったという。
「手も足も攣りまくり。大漁でした」
と、最近すっかりはまってしまっている釣りにたとえて、喜びを淡々と語った。
2位には岡村将敏が、1ラップ目の8位から大躍進。3位の小野貴史も、1ラップ目の5位から浮上してきた。若手は滝口輝が孤軍奮闘。1ラップ目は2位に入って期待されたが、2ラップ目に減点を増やしてしまったのはやはり若さか。今回は5位にとどまった。若手の注目株、山本直樹は12位とちょっと低迷。郷里を出てトライアル修業中の吉良祐也は9位でポイント獲得を果たした。
セルスターター付ガスガスのニューモデル、ランドネを駆ったのが成田匠。久々の全日本参戦だが、排気量アップをしたランドネは本調子にはほど遠い。セッティングが出そろわず高回転が乱れる状態での7位入賞は立派すぎるといえる。土曜日、会場の直前で燃料切れして立ち往生した翌日の面目躍如だった。
◆国際B級
ゼッケン1番。かつてのトップライダー小谷重夫を父に持つ大物新人、小谷一貴。しかし全日本デビューして1年、意外にも小谷には勝利がなかった。
今年はマシンをベータに乗り換え(チームのオヤブンは小谷徹だが、小谷とは血縁関係がないばかりでなく、一貴はこたに、徹はおだにと読む)チャンピオンを目指すも、開幕戦ではベテラン金沢清志に勝ちを奪われていた。
今回、前日にセクションを下見した小谷は、神経戦となりそうな設定に、苦しい戦いを想像していた。技術があって、気持ちのコントロール術に長けていない若手は、難度の高いセクションに思いきりぶつかっていけるほうを好むライダーが多い。もちろん小谷もそうだ。
この日、小谷には二つの5点があった。最難関セクションの第6セクションだ。ここはよくても3点のセクションだから、ふたつの5点はそれほど致命的でなかったのだが、小谷にはそれがくやしい。しかしまた、それ以外の18セクションをたった6点でまとめた結果が、自身にとってうれしい初優勝となった。表彰台で「感無量です」と語ったのは、まったくそのとおりの感情だった。
小谷が攻略できなかった第6セクションを3点で走破していたのが清水稔久。去年の最終戦で初優勝しているが、今回はぎりぎりのところで勝ちを逃している。
参加34名中6名が北海道ライダー。同じく6名の東北圏ライダーの参加があった。