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2012開幕戦。黒山健一が最後に逃げ切り
2012年3月11日。全日本選手権トライアルが開幕した。会場は、昨年も開幕戦が行われるはずだった、茨城県桜川市真壁トライアルランド。
国際A級スーパーが10名、国際A級が38名、国際B級が58名。加えて、エキジビジョン125が1名と、100名を越える参加者と2500名の観客が、寒空の中で熱い戦いを楽しんだ。
優勝は黒山健一(ヤマハTYS250F/黒山レーシングヤマハ)。しかし黒山を中盤まで苦しめたのが小川毅士(ベータEVO-2T 300/WISE BETA RACING)。難所ばかりのセクションにあって、その才能がようやく花開き始めたかに見える。
3位は小川友幸(ホンダRTLミタニ300/HRCクラブミタニ)。腰の手術を受けて長く苦しんだ腰痛から復活の途中という野崎史高(ヤマハTYS250F/YSP京葉レーシング)が小川友幸に僅差で4位となった。

V11に向けて、まず1勝をあげた黒山健一。2位に7点差。
3月11日は東日本大震災の1周年。去年、全日本選手権は開幕戦の準備中に大きな地震に見舞われた。あれは金曜日のことで、すでに会場に向かっている遠方の選手もいたし、主催者は大会の最後の仕上げを行っていた。真壁名物大岩が落ちんばかりに揺れて、スタッフはそのまま帰れなくなった。中止の判断は早かったから、道中にいた選手は引き返したりして、会場には来ないまま、幻の開幕戦となったのが、去年の真壁大会だった。その後、2012年の開幕戦は仕切り直して九州で開催されることになったから、2011年開幕戦関東大会は、記録から消えたままとなっている。
あれからちょうど1年。選手にとっては2年ぶりの真壁での全日本大会となる。2時46分はちょうどスペシャルセクションで盛り上がっている最中で、その後表彰式に先立って真壁に集った全員で黙とうをした。トライアルで盛り上がり、トライアルを楽しむのが、トライアル愛好者としての我々のできる復興の道と信じたい。

小川毅士。勝ち損ねたとはいえ、堂々たる表彰台だった
今回はセクションが斬新かつむずかしかった。これまで何回も全日本大会を開催してきた真壁トライアルランド。セクション設定が単調になっても不思議でないが、大会スタッフは毎回努力を惜しまず、新鮮な印象を与える会場設定をしてくれている。今回はさらにその印象が強烈で、真壁といえばこの地形、といえるのは最後にスペシャルセクションで使用したヒルクライムくらいで、いつも見る岩々もこんなラインの作り方ができるのかと感心できるものばかりがそろっていた。
これがまた、前日の雨の影響もあって、たいへんに走りにくいコンディションとなった。どのクラスもむずかしいが、特にスーパークラスのむずかしさはとびっきりだ。リスクも高そうだ。
今回の戦い、スコアの動き方が、いつもとはちょっとちがった。第1セクションで5点とならなかったのが小川毅士だけ、第2セクションでクリーンできなかっかったのも、トップ4では小川毅士だけ(1点)、第3セクションでは黒山、小川友幸が3点、小川毅士が2点、野崎がクリーンと、セクションによって、それぞれがそれぞれの調子をアピールするという滑り出しとなった。トップグループが第4セクションを終えたところで、トップは小川毅士で減点7、2位が黒山と野崎で減点8、小川友幸が減点10で4位につけるという展開。V10を達成したばかりの黒山が、なかなかリードを広げられないでいる。
第5セクションでは、激しいウイリージャンプからの岩越えを、ただひとり小川毅士だけがクリーン。ここで黒山に対して5点のリードを取るという展開となったが、しかしそう簡単に勝たせてもらえる相手ではない。続く第6セクションでは小川毅士だけが5点となり、野崎が2点、黒山と小川友幸がクリーンとなって、4人の混戦模様は膠着状態。
黒山がようやくトップに出たのは、真壁の山のてっぺんにある第7セクションを1点で通過し、小川毅士が3点を喫したとき。これで黒山14点、小川毅士が15点とこの日初めて試合のリーダーとなった。しかし小川毅士とはわずか1点差。しかも小川友幸もさらに1点差の16点で続いている。さらに野崎も、小川友幸に遅れることたった2点の18点。4人が、たった4点の間で争っているというまれに見る大接戦だ。
この膠着状態は1ラップ目を終えてもそのまま。2ラップ目に入って、小川友幸と野崎が少し減点を増やし始めていくが、黒山と小川毅士は一歩もひかずに接戦を続けている。第4セクション、小川毅士が1点減点して2点差になるも、5セクション、6セクションと黒山が1点ずつ減点し、対して小川毅士は連続クリーン。これで両者は同点となった。
この頃は、それぞれの緊迫感も頂点だった。黒山はせっかくのリードを自らふいにしてしまい、セクションをアウトしてからしばらくハンドルにつっぷして身動きしない。小川友幸は「あかん」と珍しく大きな声をあげながら次のセクションを下見する。小川毅士もこんな緊張感のライバルに追い立てられているのだから、楽ではない。そんな中でこの展開を維持している小川毅士も、ずいぶんと成長したものだ。

要所要所で登りきれないシーンが痛かった。小川友幸
流れが一気に黒山に傾いたのは、2ラップ目第8セクション。ここは1ラップ目に全員が5点となった2段の岩盤が難所。リズミカルにポンポンと越えていきたいところだが、みなタイミングがとれずに途中で止まってしまう。それで無理やり2段目をあげようとするが、滑ってだめ、というのがパターンだった。
ままよと一気に突っ込んだ柴田暁(RTLミタニ300/HRCクラブ三谷)は見事に跳ね返されてしまった。小川友幸、野崎史高、小川毅士と次々に5点。みな、同じように2段目で5点となっていた。
最後にトライしたの黒山は、しかしポンポンと完璧なリズムで2段を攻略。ここをたったの1点で通過してしまった。これで、小川毅士との点差を4点まで広げた黒山は、さらに全員が5点だった最終10セクションを、なんとか脱出してただひとり3点。これでひとり6点のリードと、終盤に来て黒山本来の強さが発揮された形だ。
この後、大ヒルクライムと最後に反り返った絶壁を登るスペシャルセクションをふたつ。ヒルクライムは黒山と野崎のヤマハ勢がクリーン。小川毅士と小川友幸はともに1点ずつ減点した。黒山が5点5点で小川毅士が好結果なら逆転のチャンスもあったスペシャルセクションだが、これで7点差となり、勝負あった。最終セクションを待たずに黒山の勝利は決まったわけだが、お客さんには勝負の行方よりも最後のふたつのセクションの攻略で盛り上がっていた。
小川友幸が登りきれずに5点。野崎が5点。両者の3位争いも、野崎がここを抜けていれば逆転が可能だったのだが、変わらずの結果となった。
そして小川毅士、黒山健一が最後のセクションをクリーンして、2012年の最初の戦いは終わった。
と、最後にまだトライをしていない選手がいる。野本佳章。

「ねらってたわけじゃないっすよ。下見してて、気がついたらみんな並んじゃって、一番最後になっちゃったんです。やるのかどうかは、決めてなかったですけど、最後になっちゃったから、やるっきゃないかなぁ、なんて」
入口の飛び石の着地でバランスを崩して転びそうになったり、滑る岩で足を出したりと、野本のトライは完璧とはほど遠かったが、そんなことはこの後に起きるドラマに比べると、なんということはなかった。
野本はほんのちょっとした岩を離陸台として、なんとセクションの中デバックフリップを見せてくれた。スペシャルセクションに限っては、黒山や小川毅士の華麗なクリーンが、帳消しになってしまうほどのインパクトだった。
サポートのお父さんはがけの上から「やめろやめろ」と叫んでいたが、これはバックフリップのことではなく、終盤キャブレターがつまる症状が出ていたマシンへの心配だった。途中、ガス欠症状のようになったのをトラブルの再発と見て、がけを登るのをやめさせようとしたのだが、野本自身は意に介さず。がけにも果敢にアタックし、ついでにバックフリップも披露してしまったというわけだ。
結果は、がけに登れず大転落。セクションの減点自体はそれ以前にタイムオーバーで5点となっていたが、野本は野本にしかできないかたちでお客さんへのアピールをはたした。
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最後の最後に、野本のパフォーマンスにわいた全日本選手権開幕戦だが、黒山、小川友幸、野崎史高の三強に小川毅士が加わって、緊張感あふれる戦いが展開された。二戦以降これがどうなっていくのか。「絶対に3位になります」と公言する柴田暁も加えて、2012年はこれからがお楽しみだ。
*以下、動画でお楽しみください。じっくり見ていると、それぞれのライダーがいけたかどうかだけでなく、使うテクニックのちがいやタイミングのちがい、あるいはライダーがどんな気持ちでポイントに挑んでいるかなども見えてくるような気がします。
第5セクションの攻防
第8セクションの攻防
IAS各選手、IA、IB優勝者のコメントです(無編集。だだもれ)