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手負い黒山健一ぶっちぎり

第6セクション、誰よりもフロントを上げて飛び降りていたのは右手をかばっていたからだ。
ただしこれは逆効果だったらしく、3ラップ目にはふつうに飛び降りた黒山健一
2012年4月22日、全日本選手権第2戦近畿大会は、奈良県名阪スポーツランドで開催された。天気予報は大荒れの雨模様で、初めての会場がどんなコンディションに変化するのか、悩ましい大会となった。
しかし当日、思ったほど状況は悪化せず、かえってグリップが増していたところもあった。それでも4月だというのに寒さに震えながらの全日本となり、ライダーは自身のコンディションを維持するのに苦心があった。
手首にクラックが入っていて練習が満足にできていないうえ、痛みも続く黒山健一は、大きなハンディがあった。しかしライバルはこれを「黒山選手あらではの仮病」とさえ言う。どんなハンディがあろうと、勝つときには勝つ黒山を評してのことだ。
序盤、黒山のライディングはやはり手首の負傷を引きずっているように見えた。しかし中盤から後半、ぐんぐんと調子が上がってきて、3ラップ目は8セクション中7セクションでクリーン。終わってみれば2位小川友幸にダブルスコア以上のぶっちぎりとなった。
小川友幸は中盤苦しみながら最後は小川毅士をかわして2位。小川毅士は2位を走りながら終盤にミスが出て4位となった。野崎史高は調子が出ないまま試合を終えたが、小川友幸と1点差だったことを知って悔しがることしきり。
国際A級は加賀国光が初優勝。3ラップ目に減点を増やしながら踏ん張った。国際B級は和歌山の大ベテラン、和田弘行が勝利した。
■国際A級スーパー
砂地で滑る、というのが事前の情報だった。あらゆる坂がつるつるで上らないとのことだった。そのうえ雨が降ったらどういうことになるのか。しかし今回ばかりは天気予報が外れると思っている人は誰もいなかった。雨、それも半端ではない雨と風、ということだったから、結果的には予報よりは現実の方が、いくぶんいい天気だったくらいかもしれない。
そしてどうやら、路面コンディションがそれほど悪化しなかったのは、つるつるの土の上に乗った乾いた砂が雨を含んでしっとりと落ち着いたからではないかということだ。
もともと、全クラスともいつもよりは少し難度が低めかな、という印象はあったが、それと天候とがあいまって、B級、A級ではオールクリーンがけっして不可能ではないセクション設定になっていた。もちろん、だからといって誰もがオールクリーンできるわけでもない。そしてラップオールクリーンが出なかったのは、IASだけだった。
楽な戦いではなかったが、圧勝の黒山健一
黒山健一の手首は、やはり問題なしにはほど遠い印象だった。カッパらしいカッパを着ないで試合に臨んだ黒山だったが、手首だけは使い捨てカイロでしっかりあたためられていた。「あんまりけがのことを言うと最初から言い訳をしているみたいだから言いたくはないが、ヒビの方は痛いだけ、関節炎を発症してしまった方が影響がある」と黒山は言う。
飛び降りる時だけでなく、下りを降りてくる時なども苦しげな表情を見せていたから、実は相当痛みがあったのではないかと思われる。
しかしスコアの方は、手の痛みの影響が出たかと言われれば、まずなかったといってよかったのではないか。2セクションから4セクションまで、連続で2点となったシーンは、あるいは本調子だったらクリーンしていたのではないかと思われるところでもあったが、それでも黒山は、4セクションを終わった時点で小川友幸に1点差のトップだった。
第5セクションは、凶悪な上りがあって、結局全員が走破できず。小川友幸によれば走破できる気配もなかったということだ。この第5をのぞくと、黒山の1ラップ目は5点なし、小川友幸は5点ひとつ、小川毅士がふたつ、野崎史高が3つと、それがそのまま順位となった1ラップめだった。黒山と小川友幸の点差は5点。まだまだ逆転のチャンスはあった。
一時は4位まで順位を落とすも、最後には2位まで回復。小川友幸
しかし小川友幸は、2ラップ目に減点を増やしてしまう。雨の影響は少ないものの、1本ラインのわだちが掘れたり他のクラスのわだちで乱されたり、走りにくくなっていたという一面もあるが、それでも第5を含めて4つの5点は痛かった。その中にはクリーンセクションといってもいいものもあったから、そこで生まれた点差は大きなものになった。
黒山は、5点はやはり第5セクションのみ。そしてラップ減点を、12点から10点へと、わずかに減らしてきている。こうなると、黒山の独走を止めるのは至難になってきた。

2位争いから4位に。終盤に乱れがあった小川毅士
今回は、優勝争いといえる優勝争いは存在せず。黒山は第2セクションでライバルに3点リードをとってから、一度も逆転されることなく、じりじりと点差を広げていっての勝利だった。前回の開幕戦は、黒山だけが走破できたセクションが存在したが、今回はそういうケースはない。どのセクションも、黒山以外でも誰かは抜けているし、クリーンもできそうだ。黒山は、誰でも可能性のあることを、他の誰よりも高い確率で実現していった。
黒山の独走に比べて、2位争いは接近戦だった。1ラップ目の2位は小川友幸で17点、続いたのが小川毅士で18点、4位には野崎史高が20点、柴田暁が同点でこれに続いた。
小川毅士は、前回の2位がフロックでないことを、ここで証明しなければいけない。ただしベータモータージャパンの門永さんによると、今回の会場は前回ほどベータのメリットが活かされないということで、小川毅士はじめ、ベータユーザーは(前回に比べて)苦戦をしているようだ。ベータの長所は軽量と瞬発力で、今回のように滑る平面をねっとりと登っていく設定では、その長所が活かしきれない。むしろ4ストロークのグリップ感覚が生きてくるシチュエーションなのかもしれない。
それでも小川毅士は、2ラップ目第6セクションで小川友幸を逆転し、2位に浮上した。2ラップ目が終わると、小川毅士が39点で2位、3位には小川友幸ではなく野崎史高。小川友幸は40点で野崎と同点ながら、クリーン差で4位につけている。柴田は減点を増やして、この3人とは少し離れてしまって48点。

終わってみれば1点差の3位。あと1点に泣いた野崎史高
今回は、最近の全日本には珍しく3ラップ制で大会がおこなわれた。舞台裏の話では、新しい会場で8個以上のセクションの設営が困難だったため、3ラップということになったとのこと。最近お約束となったスペシャルセクションも今回はなし(各セクションは充分にダイナミックでおもしろみはあった)、IAとIAS、IAとIBのセクションは2ヶ所程度は共通とすることという申し合わせも、1ラップ8セクションでは実現できなかった。
しかし3ラップとなると、2ラップとは少しちがう戦い方が必要となるようで、小川毅士は3ラップにやられたような気がする、とも言う。スコアを見れば一目瞭然、3ラップ目に自身の最大限点を叩いてしまっている。3ラップを通してのペース配分、集中力の持続など、3ラップなら3ラップなりにやらなければいけないことはある。
その点、トップ3に入った3人、黒山健一、小川友幸、野崎史高はいずれも3ラップ目にベストスコアをまとめている。2回走ったところだから、走り方はしっかり吸収した、あとはしっかり走るだけ、という3ラップ目なのだろうが、そのしっかり走るだけ、がむずかしい。
野崎史高は、自分が2位争いの渦中にいるということを知らなかった。試合中の感触からは、2位争いなんてとんでもなく、4位か5位かと覚悟していた。ところが終わってみれば小川友幸にたったの1点差で3位。しかもクリーン数では野崎の方がふたつ多い。つまりあと1点どこかで減点を減らせば2位獲得だったわけだ。
リザルトを見ると、その1点は最終セクションにあった。2ラップ目には5点になっているから、クリーンが簡単だったとはいえないが、5点覚悟で勝負を狙ってみれば、たとえ失敗してももう少しあきらめがついていたのかもしれない。野崎と4位小川毅士の間には、最終的に5点の点差が残っていた(でも小川毅士は最終セクションを3点となっている。毅士がここをクリーンなり1点なりで抜け、野崎が5点になっていたら3位争いは結果が変わっていたわけで、やっぱりたら・ればの話はしょせんたれ・ればでしかありません)。

1ラップ目の20点がベストスコアだった柴田暁
柴田暁は、今回も「絶対3位になる」と言ってスタートした。結果は、定位置とも言える5位だったが、1ラップ目に野崎と同点で4位になったのは収穫だった。3ラップ目で疲れが出てしまったので、もっと体力をつけること、ペース配分をしっかり考えること、と今回の課題を語ってくれた。次は絶対に3位になる、いや、2位になる、優勝もできるはず、とビッグマウスは変わらない。
ゴールしてきて、3ラップ目のスコアをお披露目する黒山健一
黙々と試合が進む3ラップ目。結局、超難関の第5セクションは、誰一人抜けられる者はいなかった。ゴールしてきた黒山健一は、待ちかまえていた競技監督の山本昌也(知らない人はいないと思うけど、1982年から5年連続全日本チャンピオン)に開口一番「昌也さん、ごめんなさい。第5いけんかった」。しかしとりだしたスコアカードは、その第5セクション以外はすべてクリーンのパンチがされていた。ライバルの誰もが「ラップオールクリーンは(第5をのぞいては)不可能ではない」と評価したが、一方、黒山が第5以外のすべてをクリーンしてきたことを知ると「それはすごいな、なかなかできないな」とかぶとを脱ぐのだった。

6位を得た田中善弘。今回は新車のファクトリーモデルに乗った

1ラップ目は柴田に3点差の5位だったが3ラップ目に大崩れで7位の野本佳章

社会人となって忙しい齋藤晶夫。8位は立派な成績といっていい

今回はぜんぜんダメ、こんなこともあると思うしかないと宮崎航
まだまだ、なんにもまとめられない、と修業中の滝口輝
シャンペンを抜く3人。左から黒山健一、小川友幸、野崎史高。すでに雨でびしょびしょ
■国際A級

前回優勝の本多元治が絶好調。第5セクションで3点となっただけで、ほかはすべてクリーンして2位に6点差のトップで第1ラップを終えていた。
ところが2ラップ目に、いきなり21点の大量減点。逆に、2ラップ目にオールクリーンをしたライダーがいた。加賀国光。中部のライダーで、黒山健一らのブラック団に所属していた実力派。最近では、中部大会だけに出場して上位に入っていたから、知る人ぞ知る存在になっていたはず。その加賀が、今年は1年オチのガスガスとともに(今までは2ストロークのRTLだった)選手権に復帰してきた。そして今回のオールクリーンだ。
加賀は3ラップ目に14点と減点を増やし、せっかくのオールクリーンも水の泡となったと思い込んで帰り支度をしていたが、結果は小森文彦に1点差の勝利だった。これが、加賀のA級初優勝となった。「ぼくの人生、いいことのない人生なんで、今日もそんなかと思った」という加賀。今年はタイトルの望みもある。
本多は3位。でもランキングトップに君臨する。
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■国際B級

近畿大会といえばこの人。和田弘行。山本昌也の全盛期に国際B級で大活躍していた選手だが、ずっとお父さん業に専念していて、5年ほど前から近畿大会のみに復帰している。今回は全部和田選手にしゃべっていただきます。
「2回続けて勝って、上福浦に負けたやろ、次の年にはまた勝って、それで去年はなくて今年や。新しい会場で期待しとったんやけど、やっぱりトライアルはトップが50点くらいくらわないかんな。おれたちの頃なんて、少年(山本昌也は近畿圏の古い人には「少年」と呼ばれている。今でも、本人を見ると、なんとなくその理由はわかるはず)とおんなじセクション走っとって、ごっつい落ち方してる人とかいたやんか。わしは猪名川が好きやなぁ。今日は途中でオールクリーンが4人いるって聞いて、わし、第7で1点ついてもうてるやろ、これはやばいなぁと思って、でも誰がオールクリーンだったかわからへん。本間くんが近くにいたから、オールクリーン4人おるねんて、て話したら、ふーん言いよる。1ラップ目も2ラップ目もオールクリーンしておいて、あいつ言わへんかったな。3ラップ目、5セクションのへんな岩、ここ滑るねんなぁ、足出てまうなぁ、気をつけなあかんなぁと話しとって、そしたら1点ついてもうた。そやけど本間くん、そこで5点とったらしいわ。それでかろうじてわしの勝ちや。もうちょっと子どもの手が離れたら、近畿以外にも出ようかと思うてるけどな。からだが動いたらの話やで。ほなまたな」
開幕戦で優勝した武井誠也は今回3位。コンスタントにポイントをとっている若手は、武井以外にはなかなか見つけられないというちょっとあやうい今シーズンの国際B級だ。
■エキジビジョン125
毎回、ひとりだけというのがお決まりになったこの特別クラス。今回は中国地方の米本一葉がエントリー。70点は国際B級71位に相当する(同じ中国ブロックの選手にして日本のトライアル委員長の西英樹さんは66点だった)。まだまだ上はいっぱいいるスコアだが、全日本を早くに経験できるいいチャンス。もっとエントリーがあればおもしろいのにと、いつも思ってます。若いライダーのみなさん、エキジビジョン125で腕試し、しよう!
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