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真壁に桜咲く

真壁トライアルランドに桜が咲いた。春だから桜が咲くのは当然だと思うかもしれないけれど、この桜には、新年早々に亡くなった真壁トライアルランドの主、小幡章さんの魂が宿っているようなのだ。存続の危機がささやかれている真壁トライアルランドだが、その現状と、小幡さんの桜についてのお話です。
真壁トライアルランドは、事実上、小幡さんがひとりで取り仕切って管理運営していた。小幡さんの急死により、管理人がいなくなっただけでなく、地主さんとのパイプもなくなってしまった。しかもこの土地、地主さんはお一人ではなく、たくさんの地主さんがいらっしゃるという。しかもやっかいなことに、残された真壁トライアルクラブの面々は、すべての地主さんのお名前すらはっきりとは把握できていない状態だった。
関東地方の重要なトライアル基地、真壁トライアルランド。ただ真壁トライアルクラブのみならず、関東のトライアル全体にとって、ここの存続は日本のトライアル全体の将来を左右するといっても、あんまりおおげさではないはずだ。
早く小幡さんのいなくなったあとを継いで、ランドを恒久的に利用できるような態勢をつくりたいという願いは、関係者にとって、利用者にとって、共通の悲願となった。その一方で、ゼロから始めなければいけない使用許諾交渉は、失敗できない大プレッシャーの作業となる。これまで使えていたものだから、引き続きよろしくで話はすんでしまうだろうと考える人も多いだろうが、それは小幡さんの人柄を知らない。小幡さんだからうまく回していたという現実があって、主がいなくなったらすべては白紙、という可能性も大いにあった。
拙速な交渉をして、信頼関係を崩すようなことがあっては元も子もないので、交渉は慎重に進められていった。今までのように真壁トライアルランドとして使えるように、時間がかかってもじっくりと話を進めていくべきだという考えは、だれしも共通の思いだった。
真壁トライアルランドは、会員制のトライアルパークだ。1日限りの使用もできるけれど、多くのライダーは1年間の会員となって、日々練習に励んでいる。会員資格は3月末日で更新となる。まず3月までは、これまでどおりの使用をお許しいただき、そのうえで今後について一から話し合いをして、双方がしっかり納得をした条件でパークとして再開をしたい。再開はできれば早い方がいいけれど、再開時期を急ぐより、地主さんときっちりお話し合いをするのが第一だから、再開時期については未定となった。
全日本選手権開幕戦の見送り、そして中止は、こういった事情によるものだった。日程は3月だから、昨年度予定として開催可能ではないかと思われるかもしれないが、個人の会員が利用するのと、MFJ関東の主催で全日本選手権を開催するのでは、やはり立場や考え方がちがって当然だから、地主さんと交渉中という事情を鑑みての処置となったわけだ。
ということで、4月1日以降は、真壁トライアルランドはしばらく使えなくなる。2013年度は会員登録をストップしているから、会員さんがいないわけなのだが、1日利用をしようと思って真壁トライアルランドを訪れてしまった人も、当地は鍵がかかっていて入れない、ということになる。
そんな真壁トライアルランドに桜が咲いた。この桜のお話は、もう10年ほど前にさかのぼって始まる。
真壁トライアルランドでは、10年以上前に桜を植えた。もちろん言い出しっぺは小幡さんだ。何本か植えた桜のうち、1本だけ、すぐに枯れてしまったものがあった。誰が見ても枯れてしまったその桜は、それからずっと、当然だけど花をつけることもなくそこにあった。
その枯れ桜こそ、今回花を咲かせた桜の木だ。10年も花をつけず、誰もが枯れてしまったと信じて疑わなかった桜が、突然花をつけた。真壁トライアルクラブの面々は、もう少しで満開になる10年目の桜の開花に、小幡さんの面影をだぶらせているという。
小幡さんの執念が、枯れてしまった桜に花を咲かせた。冒頭に存続の危機と書いたけれど、真壁トライアルランドについて「サクラサク」という報告ができる日も、そんなに遠い日ではなさそうだ。
(写真は、真壁トライアルクラブの榎本さん撮影のものです)