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全日本近畿、黒山今年も絶好調

4月14日、全日本選手権が、ようやく開幕した。第1戦関東大会が中止となったため、第2戦近畿大会が開幕戦。会場は、去年同様、奈良県名阪スポーツランドだ。
IASでは黒山健一が連勝を更新、開幕戦勝利を飾った。2位小川友幸、3位野崎史高とリザルトは去年のランキング順だが、最後のセクションまで田中善弘が3位につけるという展開だった。IAから昇格の加賀国光と永久保恭平は善戦。特に加賀は随所で光る走りを見せた。
IAでは、小谷徹が12年ぶりという勝利。2ラップ目にはオールクリーンもして、文句なしの勝利だった。小谷は昨年は会場設営にかかって大会を欠場。今回は晴れて選手として参加できての勝利だった。2位は成田亮。1ラップ目の5点ひとつが決定的となって、この差で優勝を逃している。
IBは中国の上本直樹が初優勝。これまで表彰台に登ったこともないルーキーだが、美しいスコルパSY250R(ヤマハ製2ストロークエンジンを積んだモデル)での参戦。このエンジンに、久々の勝利を与えることになった。
会場の制限もあって、土の登りがメインとなるセクション設定ではあったが、これもトライアルの大事な一面。岩ばかりの大会とちがうライディングが求められる点もあって、なかなか興味深い開幕戦となった。

黒山健一
「タイトル奪われて2年勝って、また負けて2年勝って……」
巡り合わせからいうと、今年の黒山健一は小川友幸にタイトルを奪われる年なのだそうだ。5年連続チャンピオンをとって、次は山本昌也を破る新記録達成に挑戦となった2007年にタイトルを小川に奪われた。そしてまた2年連続チャンピオンを獲得。3年目に、再び小川にタイトルを奪われた。そしてまた2年連続チャンピオン……。
長く勝ち続けることによる、微妙な気のゆるみだろうか。勝利へのモチベーションを維持するのは、黒山とてむずかしいことなのではないか……。
「そんなことはないです。油断もしていないし、毎年毎年、勝つつもりで戦っています。なのに勝てない時は、どういうわけか勝てないんです。だから今年は、そういうことがないようにしたいと思います」
2011年最終戦以来、連勝記録を続けている無敵の黒山だが、2013年の目標は意外に堅実なものだった。
2013年全日本選手権第2戦。そしてこれが開幕戦。黒山は言う。
「2013年の緒戦ですけど、そういう感じはしないんです。何戦か消化した第何戦という感じ。どうしてでしょうね。なので開幕戦によくある緊張感もありません。ぼく、寒いのが苦手ですから、この季節に開幕してくれたほうが、気分はいいですね」
黒山の2013年シーズンは、こんなふうに静かに始まった。

加賀国光
第1セクション、第2セクションの黒山はクリーン。第2セクションで小川友幸がなんと5点。2セクションにして、オールクリーンは黒山と野崎史高、田中善弘の3人だけとなった。そしてこの3人に続いたのが、IAチャンピオンからIASにステップアップしてきたルーキー、加賀国光だった(黒山にルーキーのわけがない、と言われてしまった。加賀は、1996年から1999年までIAS参戦経験がある)。さらに小川毅士が3点で続くが、同じく第2セクションを3点で抜けたのが、同じくルーキー、永久保恭平だった(こちらは正真正銘、IASを走るのは初めて)。上位グループがいつもとちょっとちがう顔ぶれでの、2013年シーズンの滑り出しとなった。

斎藤晶夫
最初の難関の第3セクション。おまんじゅうのような曲面の壁を登ってアウトするセクションで、しかも曲面の途中に小さな段差もある。さすがに次々にはねかえされて5点になっていく。今回から所属チームを名門ブルーヘルメットとした斎藤晶夫は、マシンを落としてしまったうえにパンチを忘れて10点になっている。ここをただ一人クリーンしたのが黒山。これで黒山のリードが決定的となったように思えた。

小川友幸
小川友幸が言う。
「序盤に5点二つをとってしまってライバルを楽にさせてしまった。これが5点でなかったら、試合展開もちがっていただろうし、これ以外については勝負ができていた」
小川の第2、第3セクションは、2ラップ目以降はクリーン。彼らの学習能力はさすがだが、それだけに1ラップ目いきなりの10点減点が悔やまれる。
第4セクションは、クリーンの少ないセクションとなった。入口で岩から土手にジャンプし、根っこまじりのさくさくを登り、降りて登って最後はまた滑る斜面を登っていく。多くのライダーが最後のポイントでタイムオーバーになっている。1ラップ目にここを抜け出たのは3人。小川友幸が2点、毅士と加賀が3点。黒山も含め、他のライダーはみな5点だ。
「唯一、今日の悔しいところといえば、第4セクションで満足いくトライができなかったこと」

宮崎航
と黒山は試合後に振り返った。1ラップ目5点、2ラップ目は2点で抜けたが、3ラップ目にまた5点。3ラップを通じて、このセクションだけを見ると、黒山の成績は5位になる(宮崎航が、黒山より好成績。宮崎は今回は成績も良かったが、こういう難所を抜け出る能力はあいかわらず高い)。
それでも黒山は、このセクション以降、残る4セクションをすべてクリーンして、1ラップ目のスコアをこの5点のみでまとめた。一方、ここでふたつめの5点を取って、その後調子を崩したまま1ラップ目を終えてしまったのが野崎だった。
「ギヤのミスでセクションを落とすことが多くて、それで今回は今までの選択と逆を選ぶようにしてみたら、それがまた裏目で、1ラップ目はことごとく失敗。2ラップ目以降は学習できたからそんなことはなかったんですが」
野崎の悔しい1ラップ目は、なんと7位の成績だった。
IB専用の6セクションをパスして7セクションは、強烈ながけ登りだった。ここを抜け出たのは4人だけ。黒山と小川友幸がクリーン。そして宮崎が2点、永久保が3点。ほとんどのライダーが5点という図式はいつもと変わらないも、この日は数少ない抜け出るライダーの顔ぶれがばらけているのがおもしろい。

田中善弘
第8セクションはコンクリートの一本橋と湿ったがけ登りがポイントだった。黒山がクリーン、小川友幸が1点、田中善弘が3点。ほかはみな5点。ここを抜け出た3人が、そのまま1ラップ目のトップ3となった。今回は年長組、田中善弘の活躍が光っている。加賀は後半3セクションを全部5点として1ラップ目6位だったが、この3つのうち、ひとつがクリーンなら3位、ふたつがクリーンなら2位だった。なかなかあなどれないニューフェイスだ。
今回は8セクション3ラップにスペシャルセクションが2セクション。1ラップ目はIBの終盤と重なり多少順番待ちもあったが、2ラップ目3ラップ目になるとスムーズに流れていた。それでも田中善弘には1点のタイムオーバーがあったから、どのライダーも時間をめいっぱい使っての戦いとなった。最近珍しい3ラップの戦いは、3ラップ目が忙しいことになった。ライダーたるもの、時間をぎりぎりに使うのも技術だ。
2ラップ目以降、すべてのライダーが平均してスコアをまとめてあげてきた。この会場は2年目で、去年は雨。晴れたコンディションでの戦いは今回が初めてだったから、1ラップ目には会場のコンディションを読み取る必要があり、2ラップ目以降はその復習になる。点数は減って当然なのだが、唯一、加賀だけが点数を増やしてしまった。久々のIASセクションに、疲れが出てきているようだ。
1ラップ目に不本意なスコアをたたいた野崎は、2ラップ目には1ラップ目の減点を19点も減らしてきた。このラップだけなら3位。それでも田中善弘が好調を維持しているので、まだ順位は変わらずだ。
3ラップ目。黒山と2位小川友幸の点差は10点以上になり、追い上げもむずかしい。

小川毅士
小川毅士は3ラップ目にしてようやく毅士らしいスコアを出してきたが、すでに点差は開きすぎていた。表彰台争いまでにも10点近い差があった。
「3ラップ目の結果ならまぁいつものとおりでしたけど、それでもいつもと同じくらいだから……」
と、ほんとうならもっと上を目指せるはずという思いが、毅士のコメントには現れていた。毅士は1ラップ目の7セクションでがけから滑り落ちて、その途中の切り株にほっぺたをひっぱたかれてしまった。以後、ちょっと痛そうな(ちょっとではない)風体で試合を続けなければいけなくなった。

柴田暁
1ラップ目ブービー賞と、やはりスコアが出ない柴田暁は、ラップごとに点数は減らしてきてはいるが、本領にはほど遠い。
3ラップが終わり、SSまでのつかの間のインターバル。この時点で、黒山の勝利は決まっていた。2位友幸に13点差。残り2セクションでは逆転しようがない。2位も順位が決まっている。3位田中善弘とは10点差ある(タイムオーバーを含むと11点)。
SSで順位の変わる可能性があるのは田中善弘と野崎の表彰台争いだ。田中が41点、野崎が45点、4点差。今日の流れからいくと、このまま田中が逃げ切って表彰台獲得という筋書きが濃厚だった。
SS一つ目は二人ともクリーンで、勝負は最終セクションだけとなった。最終セクションは第8セクションを若干手直ししたもの。田中は2点、クリーン、5点。野崎は5点、クリーン、2点と、ここまでの実績はほぼ互角だ。
先にトライしたのは田中。一本橋の途中から登って向きを変えるようになっている。ここはうまく通過した。田中とすればクリーンする必要はなく、3点で抜ければ表彰台なのだから、勝負は比較的楽だった、はずだった。
しかし運がない。一本橋に駆け上がる時に、どうやらアクセルワイヤーがひっかかった。それが後半のがけ登りで致命傷となった。アクセルが開かない。あえなくの5点だった。

野崎史高
さぁこれは野崎のチャンス。といっても、クリーンが絶対に必要になる。
「プレッシャー? それはあった。かなり、ね」
勝負を終えた野崎は笑顔を見せたが、トライ前は厳しい表情を見せていた。狭いブロックの上で向きを変えるポイントは、柴田が落ちかけたりなど、1点を覚悟で抜けるライダーが多かった。ここを野崎はていねいに向きを変えてクリアした。
「ヨーロッパのインドアで、もっと狭くてもっと高くてもっと怖いのはさんざんやらされたから、あれくらいは簡単」
終わってしまえば笑顔で語れることだが、本当にぎりぎりの表彰台だった。
「いつも結果がすべてだと言われているから、今日は結果オーライの表彰台獲得。苦しんだ結果の表彰台獲得だから今日はよしとしますが、表彰台が目標ではないので、これで満足はできません」
きりっとした決意と笑顔が交互に現れる野崎だった。
表彰台が最後の最後で消え去った田中は……。
「今日は調子がよかったけど、まだまだ、ということですね」
仕事が忙しくて、日曜日に乗るだけという田中だが、アクセルの開けっぷりはいまだピカイチの田中である。今回、エースの毅士が不調だったベータ陣営だが、それでも宮崎が6位に入ったから、田中の大活躍と表彰台脱落を含め、悲喜こもごもの結果となった。
加賀は宮崎に2点差の7位。SSではクリーンと1点と、最後に光るものを見せた。
3ラップともにいいところがなかった柴田は、SSのふたつともクリーン。しかも最終セクションではブロックから落ちそうになりながらこらえきってのクリーンだった。もっともっと結果が出せるはずのライダーではある。ちなみに1ラップ目は10位、2ラップ目3ラップ目のラップ順位は9位、SSはオールクリーンだから1位タイと、この浮き沈みも大きい。

野本佳章
その柴田に、SSで逆転を許したのが野本佳章だった。SSでふたつクリーンした柴田に対し野本はふたつ5点。結果表を見る限り、6位も照準に入っていての9位だから、残念な開幕戦となった。
「やるべきことはやってきた。なのにこの結果だから、シーズンオフに遊んでいたと思われちゃうんでしょうね。トライアルはむずかしいです」
と、野本もくやしそうだ。

永久保恭平
初めてIASを走った永久保は齊藤に5点差の最下位。
「IASのセクションは、がんばってきちんと走ればいけるところ、こわいところ、どうやっていけばいいのかがぜんぜんわからないところがあります。いきかたがわからないところ、こわいところはしょうがなくて、今回はいけるところがいけなかったのが課題となりました」
IASは中に入ってみると、よりトップの強さが際だって見えるというのは、田中裕人の弁だった。永久保はその領域で走り始めたところだ。

◆国際A級

周囲もびっくり、本人もびっくり。選手会長、小谷徹が勝利した。それも3ラップともほとんどオールクリーンの勢いで、堂々足る勝利だった。
「長くやっているといいことがあります。みなさんもトライアル、長く続けてください」
とは、選手会長として、先輩として、現役ライダーへのメッセージだった。
前回の勝利は、2001年最終戦SUGO。世界チャンピオンになる前の藤波貴久が黒山健一を破ってタイトルを決めた戦いだった。12年に1度、干支の巡り合わせのような勝利だった。
小谷は昨年は大会の準備に専念して、選手としての参加を断念している。今回も参加は危うかったが、ぎりぎりのところで参加が決まった。
「天地神明に誓って、大会の準備と偽ってこっそり練習なんかしていません。去年はセクションつくりましたから試走はしましたが、大会には出ていないですからね。今年も準備は手伝いましたが、草刈り機持って歩いただけで、バイクはぜんぜん乗ってません!」
せっかく優勝したのに、いきなり言い訳しなければいけないのもお気の毒だが、表彰台では「練習の成果が出たな」と仲間からの声が飛んでいたから、これが関西人らしい称賛なのかもしれない。
「いつもは全日本を走るという緊張感があって失敗することが多いんですが、今回は出だしがうまくいったので、近畿選手権を走っているみたいな気持ちで行けました。近畿選手権では、昌也さんとか波ちゃんとかと、こんなような戦いをしてるんです。そのペースで走れたのがよかったんだと思います」
1ラップ目3点でトップに出て、2ラップ目にオールクリーン。3ラップ目も1点ついただけで勝利を決定的にした。3ラップ目の1点は、最終セクションのフィニッシュ目前だった。
「あれはつこうと思っていました。最後は下りがいやらしくて、へたをすると前転するんで、それで勝利を逃すより、きっちり足をつく予定でした」
ベテランはしたたか。次の勝利はいつになるのか。
「そろそろライダー業は引退してトライアル界のための下働きに専念しようと思いましたが、気が変わりました。まだまだやります」と表彰台で宣言した。
◆国際B級

近畿大会といえば、和田弘行。往年のIBチャンピオン(山本昌也時代の)だが、近年は近畿大会にだけ出てきて、優勝をかっさらっていく。今回は岸下卓也(小林直樹時代の若手)も舞台に上がり、OB勢の一騎打ち、という印象。他にも三野明飛夢(バイクトライアル世界ランカー)の参加もあった。
1ラップ目は、その三野が6点と好スコア。和田、岸下のつわものたちは5セクションで5点を取って、ちょっと苦しい戦いとなった。1ラップ目、三野を上回るスコアでトップに出たのが、鳥取の上本直樹だった。上本は、去年から全日本を回り始め、北海道大会で14位に入ったルーキーだ。
今回、上本が乗ったのは去年同様スコルパだったが、今回のマシンは、オレンジ色の新生スコルパ色に塗られた美しいマシンだった。去年のマシンはいささかくたびれていたが、今回はきちんと整備されて見違える状態になっていた。ヤマハのサポートが受けられたのだ。
「今回はマシンのおかげ。いいマシンに巡り合えたから、今年はこの調子でがんばります!」
ヤマハの2ストロークエンジンが勝利したのは、今はIAでがんばる平田雅裕・貴裕兄弟が連続チャンピオンとなった2007年以来のことになる(ちなみにその前は萩原真理子で2003年のことだった)。