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黒山健一2連勝

開幕二連勝の黒山健一
全日本選手権大2戦九州大会は、ちょっと肌寒い熊本県菊鹿町矢谷渓谷キャンプ場で開催された。序盤の混戦から、1ラップ目中盤から一気にペースに乗った黒山健一が危なげない2連勝。2位は田中太一だが、小川友幸、渋谷勲と1点を争う大接戦だった。国際A級は小森文彦、国際B級は大ベテラン川崎亘が勝利している。当日は朝からしとしと雨。コンディションは時間を追うほど悪くなっていった。
結果速報は
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3月27日、熊本県山鹿市菊鹿町矢谷渓谷キャンプ場での全日本選手権第2戦。天気予報の通り、雨量は多くないものの、朝からしとしと雨が降っていた。去年は、キャンプ場内は桜が満開で、あたたかい九州へきた気分にひたれたのだが、今年は桜の咲く気配もない。直前に発生した地震とは関係ないと思われるも、このところ九州では日曜日のたびに寒い日が繰り返されているという。この日も、前回関東真壁大会ほどではないものの、雨に濡れたせいもあって、なかなかの寒い全日本となった。
雨模様で、セクションは水量の深い沢もあったことから、コンディションの悪化は避けられない。特にIASがスタートする頃には、地面が一様に雨水を含んで、絶好の滑りやすいコンディションができあがっていた。早いスタートのIBやIAライダーも、2ラップ目にそのコンディションの悪化に驚く状況だ。
参加はIASが8名(前回の顔ぶれから野崎史高が渡欧で欠場、田中善弘が休みの都合つかずで欠席している)、IAが39名、IBが35名と総数82名。コースもセクションやややタイトだから、これくらいの人数が、参加者、主催者にとってはちょうどよかったかもしれない。
●国際A級スーパークラス

まだ本調子とはいいがたいが
ひとまず表彰台獲得。小川友幸
第1戦でまさかの6位となった小川友幸が、序盤からいいペースでセクションを消化していく。誰よりも早くトライして、しかもクリーンしてしまうから、遅れをとったライバルにはすばらしいプレッシャーを与えることになった。滑りやすい路面は、クリーンもできるけれども、どこでも減点を加えることもできる。事実、黒山は第1セクションで1点、第2で2点を喫して、序盤は「今日は小川の日か」と思わせる勢いだった。
田中太一や渋谷勲は、少々てこずって試合を進めた。太一は去年の九州大会で初優勝しているし、渋谷は「いつかつのか」と秒読み状態に入ったまま、時計の針が止まってしまっている。あとほんの少しのところまできているだけに、ほんの少しが裏目に出ると、落胆も大きい。しかしそんな中でも、田中太一は確実に変化している。以前は序盤にミスをすれば、そのまま集中力を復活できず、優勝戦線から脱落していった田中だが、ミスがあっても、よくこらえて試合を進めていける。メンタル技術の向上が見受けられる。前回の真壁では、それが功を奏して表彰台を得た。
5セクションを終えたところで、トップは小川が減点ゼロ。文句なし。2位は黒山の3点、3位が太一で8点、渋谷は12点。TYS250に乗り換えてトップ争いに復帰せんとする成田匠が15点で続いている。第6セクション、小川は滑る泥の斜面でわずかにミスをして1点。しかしまだまだ、利は小川にあった。小川の不運は、次の第7セクションのヒルクライムにあった。IASのラインは、まだ誰も走っていない。これまでのセクションは、バージンラインを走ることで、コンディションの悪化から逃れていたが、結果論でいえば、このセクションはそれは通用しなかった。ライバルが到着する前にここをトライした小川は、登りきれずに5点となった。
これで黒山は一気に楽になった。「小川さんの点数は気にしていなかった」という黒山だが、リードを許しているのとリードしているのとでは気持ちの落ち着きがちがうはず。点数はどうあれ、セクションの大事に走るだけだと確認しないながら試合を進めていた黒山だが、これで迷うことなく、セクショントライに集中できる状態となった。こうなると、もはや黒山に死角はなかった。
とはいえ、小川にはまだ勝利のチャンスはあった。さらに状況がつらくなったのが、次の第8セクションだ。大岩登りに失敗して5点。マインダーの叫ぶセクションでの残り時間を聞き取れなかったようで、気持ちに焦りを生じたようだ。今、IASクラスでタイムキーピングが正確にできているのは黒山と太一陣営。彼らは残り時間を告げるカウントを正確に把握しながら、5秒前となってもあわてずにマシンを進めている。現在のIASの戦いでは、タイムキーピングは必須だ。
序盤のリードから一転して、小川は二番手争いの一角となった。さらに最終セクションでもミスがあって5点。1ラップが終わってみたら、小川は減点17で3位となっていた。2位は同じく減点17で渋谷。ただしまったくの同減点である。太一も同じ17点だが、こちらはクリーン数が少ない。

独自の華麗なトライアルを見せるも
今回はちょっと失速気味。成田匠
4点で1ラップを終えた黒山、27点の成田匠。その間に、3人が減点17で並んでいる。黒山以外は、それぞれがこの状況から抜け出したいと願いつつも、固定化しつつある全日本の戦況が、ここに現れている。
2ラップ目、戦況は変わらない。黒山はやや減点を増やしたものの、これはコンディションが悪化しているから、いたしかたないともいえる。減点を増やしても、ライバルに圧倒的リードを保っている点は、変わらない。
2位争いの接戦も変わらない。渋谷がまたも減点17で2位をキープ。同点で小川が3位(渋谷よりクリーンが1個少ない)、1点差で太一が4位。優勝は事実上不可能に近いが、誰が2位を獲得するかが、終盤の興味の焦点となった。
しかし2ラップを終えてIASが帰ってきたのは残り時間40分を切っていた。最後のラップを、30分で回ってこなければいけない。さらに厳しい集中力が要求される。
こんな状況でも、黒山は強かった。2ラップ目より1点減点を減らして、3ラップともに一桁減点。ゴールにもオンタイムで、堂々の横綱相撲だ。
「小川さんが調子よかったけど、気にはしていませんでした。自分の走りをきちんと守って、結果がついてきたという感じです。2連勝はうれしいというか、まぁふつうですけど、ぼくがうれしいのは、第1戦と第2戦を通じて、まだ5点がひとつもないことです。これはちょっとうれしいですね」
勝利は、あくまで実力のあるものが得るという黒山。世界選手権でも、去年は勝ちそこねたのではなく、実力が足りていなかったと分析する。今年は世界選手権で勝つと目標を定めた。そんな黒山が、全日本で勝利を得るのは当然の帰結かもしれない。

ここ2戦、後半の追い上げが見事。
次は序盤から……。田中太一
さて2位争い。まず、小川をアクシデントが襲う。1ラップ目は華麗にクリーンしていった第4セクションで、2ラップ目3ラップ目に失敗、5点を喫したのだが、3ラップ目の失敗は痛かった。岩から落ちた拍子にひじを立ち木とマシンの間にはさんでしまったのだ。激痛をこらえながら、しかし気力で残るセクションをトライした小川だったが、ゴールしたとたん、小川の左手は動かなくなっていた。骨には異常がないようだが、指がしびれるなど、症状はちょっと心配。小川には、デモンストレーションの仕事も控えているのだった。
負傷をしながら、小川は3ラップ目に減点を減らして帰ってきた。しかし、小川より、さらに減点を減らしてきたのが、太一だった。第1セクションで5点をとりながら、きちんと10セクションを走り、減点11。小川に3点差で、2位を獲得した。1点を競う攻防だったが、最後に逆転してこの結果を得た。しかし、第6セクション以外では、どのセクションもクリーンをだしながら、ベストラップが11点という結果には、いたくご不満。実力的にはラップ1点で回ってこれるものを持っているのだから、その実力を発揮すべしという自分自身への憤りだ。この怒りが、次の大会へのエネルギーとなる。

抜群のライディングセンスが結果に結びつかない。
渋谷の、苦しみの時が続く
渋谷は、3ラップ目に5点五つと信じられない乱調ぶり。ゴールして「うわー、やってしまったー」と誰に訴えるでもなく叫んでいた。わずかな気持ちの乱れを結果に影響させない試合のまとめ方が、今後の渋谷の課題となりそうだ。それが解決すれば、それが渋谷の初優勝の時という予感がある。ただし渋谷は、世界選手権での戦いを熱望していて、第1戦からの参戦は不可能となったものの、第2戦からの参加はまだ可能性がある。そうなった場合は、全日本はお休みする可能性もあるという。渋谷の初優勝は、ヨーロッパから帰ってくるまで、お預けとなりそうだ。
5位は前回と同じく成田。上にも下にも約20点の点差がある。6位は、背骨に爆弾をかかえた小川毅士が、負傷を少しずつ克服してこのポジションを得ている。骨はほぼ完治に向かっているが、皮膚にしびれを残しているという。若いから回復も早いのだろうが、将来のある身だから、完全回復が待ち遠しい。「滑って滑ってどうしようもなかった。クリーンが出せない」という井内将太郎が7位。真壁では手応えを感じていた尾西和博が8位。今回も尾西は、もてる実力を存分には発揮できていない模様。真壁では課題はまず体力と分析していたから、尾西の本領発揮までには、少し時間がかかるかもしれない。
●国際A級

復帰2戦目にして優勝。
長野の怪童、小森文彦
才能の宝庫のこのクラス。やはりIASから降格してきたベテラン勢の強さが光るが、彼らに対して気後れをしていないルーキー勢のがんばりが、このクラスのハイライトだ。
セクションはIASよりは簡単だが、きちんと走るのはけっして楽ではないと真壁で語った三谷。1ラップ目はそのことばどおり、きちんと走ってラップ減点をたった1点に抑えた。これで三谷の2連勝は確実と思わせたものだが、きちんと走るむずかしさを語ったのも三谷。戦況はその通りになった。2ラップ目、減点を増やしながら最終セクションをトライした三谷は、テープを切ってしまって5点。その光景を見守っていたライバルの小森文彦も三谷本人も「ありえない5点」という痛恨の減点となった。「タイヤから降りてテープの上にフロントタイヤが乗って、そのときはテープは切れなかったんだけど、テープからタイヤをどけたときに、切れてしまった」と痛恨のシーンを振り返った。

さすがに、2連勝は苦しいか
三谷英明
三谷と小森はチームメイトで、スタート順も近いので、セクションはずっといっしょだった。両者は、お互いの減点を正確に把握している。二人の争いは1点を争う神経戦だったのだが、両人とも、手の内はお見通し。「全部わかっているから、すごいプレッシャーだった」と試合を振り返る小森と「小森くんはミスをしないから、きつかった」と三谷。ミスをしたものが負けていくのが、トライアルだ。
結果、1点差で勝利したのは小森だった。「勝ったのは、三谷さんがありえない5点をとってくれたおかげで、運がよかったんです。でも、前回真壁で2位になって、このレベルで走れるんだなという確認はできました。真壁までは、1年休んでいたから、自分がどの程度走れるものなのか、とっても不安だったんです。試合中も、なんとかトップに離されないようにと、必死で走ってました。それで2位という結果が出たんで、今回は少し安心して試合に臨めました。今回の方が、落ち着いて試合に入れたという感じです」。第1戦三谷、第2戦小森ということで、チーム三谷、RTL250F、IAS経験者の2連勝ということになった。

今回は4位。
しかしXデイは近い? 坂田匠太
小森と三谷のふたりのトップ争いに、果敢に食い込んできたルーキーがいた。宮崎航。これまでの最上位は10位という宮崎だが、2ラップ目のリーダーに躍り出た。たった1点差だったが、トップはトップだ。「トップだったなんて、ぜんぜん知りませんでした。3ラップ目に5点をふたつとってしまって、だめだなぁと帰ってきてボードを見たら、2ラップ目にトップだったのを知ったんです」。1ラップ目の7位から、2ラップ目にトップに浮上し、結果は6位。1点を争う展開だから、ちょっとしたミスで、こういう結果となるわけだ。
3位はこれもIAS経験者の岡村将敏。1ラップ目の10位から、こつこつとポジションを回復してきて3位となった。
4位は若手のホープ、坂田匠太。久々の四国出身の有望株という形容詞は返上して、ニッポン期待の若手有望株になりつつある。九州選手権にも遠征して会場の下見をするなど、試合への取り組みも積極的。真壁の3位表彰台からひとつポジションを落としたが、このポジションを安定して得られるライダーに成長したのは確かだ。
本多元治は大会直前に靭帯を痛めていて、様子を見ながら走るつもりが、序盤の3セクションでひざをつかえずすべて5点となり、リタイヤを決めた。田中裕人は嘔吐感に苦しみながらの戦いで無得点。IAS経験者の彼らにも、それぞれの悩みがある。

国際A級をになう渋い存在になりつつある
岡村将敏
真壁で6位に入って周囲を驚かせた野本佳章は、今回はちょっと不調らしく、減点が多い。それでも、1ラップ目8位、2ラップ目10位だから、A級1年生としては充分以上の満足すべき成績だった。惜しむべきは3ラップ目。減点を増やして無得点域まで脱落してしまった。野本の2ラップ目の減点は、1ラップ目の3倍以上なのだから、この結果もいたしかたない。
野本に代わってルーキーで気を吐いたのが、昇格年度では野本の1年先輩になる柴田暁。このクラスは、スタートが早いので、全員が3ラップ目に減点を増やしているのだが、柴田は減点を増やしながらポジションを確実にアップさせて12位。13位には、去年は小川毅士のマインダーを務めていた田中裕大が入った。今回は2ラップ目の第8セクションで欲がでてクリーンを狙った結果が5点。3ラップ目に大崩れしたが、このライダーも、もっともっと上位に進出してくる可能性はある。
熊本が地元竹屋健二は5位。もともとホンダのテストライダーをしていた竹屋は、春から栃木に転属となった。今では活動のベースを関東に移しているが、竹屋のライディング感覚は、トライアルだけに限らないテストライディング経験から得ているものかもしれない。
●国際B級

最多クリーン賞も得て、堂々の勝利。
川崎亘。51歳。
前回「次も勝ちます」と宣言していた岩手の高橋由だったが、開けてみたらあっさり欠場していた。やはり岩手から熊本までの遠征は遠かったか。
これでタイトル争いは前回2位の小倉昌也にぐっと優位と思うもつかの間、ダイヤモンドの原石がごろごろいるこのクラスでは、この時点でランキング争いの話をしてはいけない。前回とは、かなり異なった上位陣の顔ぶれとなった。
「今日は雨が降ったでしょう。これは年寄りに味方してくれるなと、朝から狙っていました。その通りの結果になりました。雨が降って、グリップの勝負になったら、我々の世代は強いですから、若いものには負けんぞと走りました」
勝利は50台の川崎亘。まだ乾いた部分が多かった1ラップ目は2位だったが、2,3ラップで一気にトップに浮上した。しかも、2位の辻進太郎には10点差をつける圧勝。辻はまだ15歳。3倍も年が離れた者同士が、同じ土俵で真剣勝負ができるのも、トライアルの魅力のひとつだ。

ベテランに囲まれて気を吐いた15歳
辻真太郎
辻は、B級2年目。1年目はあとわずかにポイントが足りずにA級昇格を逃した。2年目の今年は、A級昇格はもちろんだが、さらに多くのことを学んで昇格に弾みをつけたい。今回の2位は自己最高位だから喜びもひとしおだが、一方川崎との10点差は、今後の成長の糧となるにちがいない。
15歳辻をはさんで、3位に入ったのは村上功。川崎よりはだいぶ若手だが、IBの中ではしっかりベテランの域に入る。「四十肩で悩んでます。早く試合を終えて、早くおうちに帰りたい」と弱音をはきながらのトライだったが、1ラップ目からきちんとしたトライを続け、しっかり3位表彰台を獲得した。数年前にはA級昇格を目指し、あと数ポイントで涙をのんだ経験の持ち主だが、まだ、そのテクニックには陰りがない。

終わってみれば結果は上々
村上功。四十肩代表
4位の坂井裕輔は長崎の27歳。ごめんなさい。ダークホースの出現に、それ以上調べが及びませんでした。ぜひ、近畿や中国大会などにも遠征して、さらに活躍してください。
5位は2戦連続で向井直樹。安定した成績でランキングは3位につけるが、序盤からポジションを落としての5位入賞だから、まずはジョバンの調子を維持して上位入賞を得たいところ。鹿児島の後藤研一が善戦し6位に入り、7位に真壁で2位に入った小倉がつけた。ランキングトップは小倉だが、ランキング争いがもっとも接近戦となっているのもこのクラスだ。