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全日本最終戦野崎優勝
全日本選手権最終戦、第8戦東北大会は宮城県のサーキット、スポーツランドSUGOで開催された。
今シーズンは、黒山健一が開幕戦からまったくあぶなげなく連勝を続けているが、最後の最後に、野崎史高が勝利して、連勝は6でストップ。シーズンを通じての全戦優勝はならなかった。
国際A級はタイトルはほぼ決定的と思われていた三谷英明が8位と崩れ、今回2位となった坂田匠太が逆転チャンピオンとなった。
国際B級は辻真太郎が3勝目を挙げて、チャンピオンを獲得。同じく3勝していた高橋由は今回3位となり、辻に追い上げを許したかっこうとなった。
SUGOで開催される全日本選手権は、毎度おなじみの開催場所。場所的な条件もあり、また土曜日に雨が降ったり、天気予報も芳しくなかったことから、セクションは雨設定がされていた。全体に上っていくパターンの多くなる地形なので、晴れと雨では難易度がまったくちがってくる。
ところが当日は、雨予想などどこ吹く風、選手について駆け足で移動すれば(こんなことを書きつつ、自然山取材班はお借りした電動パッソルで移動しました)汗ばむこともあるほどのお天気となった。難度は相対的に一気に下がったことになり、1点を争う神経戦となることは容易に予想された。これはどのクラスにも同じだった。
【国際A級スーパークラス】
連勝を続けている黒山健一は、ここで買って2005年シーズンを全戦優勝とするのか。世界選手権シーズンが終わって帰国した野崎史高を最大のライバルとして、黒山のシーズン仕上げの一戦がはじまった。すでに前戦中部大会で今シーズンのシリーズチャンピオンを決定しているから、残る目標は全戦優勝というわけだ。
野崎は、今シーズン3回目の出場だから、獲得したシリーズポイントはまだ34点。IASクラスではトップスタートで試合をスタートさせた。今回、尾西和博は出場しているが、足の負傷でセクショントライができる状況ではなく、全セクションを申告5点で回っている。最初に第1セクションをトライしたのは、田中善弘。善弘らしい豪快な走らせ方でクリーン。しばしのち、野崎がトライ。もちろんクリーンだ。このあと成田匠がクリーンしたあと、黒山健一がセクションに入った。
ここで大ハプニング。入ってすぐ、岩をポンポンと飛び移っていくポイントでカードに触れたという採点。あっさりと5点になった。黒山も、この採点にはまったく異議がないようだった。あとで聞けば、この時点ですでにこの日の勝利をあきらめたということだったが、ライバルがこれから5点以上の減点をすれば逆転可能だから、まだまだ勝負は始まったばかりだ。
その後、渋谷勲が大きなミス。こちらはセクションから飛び出しそうになりながらなんとかマシンを支えて2点。さらにその後、田中太一がIAと岩越えでミスして、こちらは5点となってしまった。なんと第1セクションにして、ランキングトップとランキング3位が5点、ランキング4位が2点減点。その他全員がクリーンという番狂わせだ。
続いて第2セクションでも、またハプニング。追い上げをしなければいけない黒山が1点、渋谷が1点、小川友幸が1点と、トップ連中がぽろぽろと足をつく。1点を争う神経戦のはずが、2セクションを終えて、減点0が早くも3人となってしまった。野崎史高、成田匠、そして小川毅士。いつもとちがう顔ぶれのトップグループが形成される。
ほぼ全員がクリーンの第3セクションを抜け、第4セクションはちょっとした勝負どころに見えた。それでも誰も5点とはならず、井内将太郎と田中善弘が2点となったのが最大減点。田中太一は、ライバルとはちょっとちがったラインをトライするが、1回足つき。ここでも黒山が1点をついた。成田、小川毅士も足をついて、第4セクションにして、減点0は野崎ただひとりとなった。
中杉の広場に戻って第5セクションでは、小川友幸、小川毅士、井内将太郎が減点1、成田が減点2をマークした。5点が極端に少ない序盤の試合展開だ。これでは黒山がいうように、5点をとってしまったら最後、挽回は不可能なのかもしれない。
しかしこのあたりから、黒山の走りに切れが戻ってきた。「どうしてか、朝のうちは集中ができなかった」と語った黒山。気持ちの乱れがあれば、黒山でも実力を発揮することができないのだ。集中力が戻ってくれば、黒山の無敵の走りが復活する。黒山は、第5セクション以降、減点0行進を続けていく。しかし野崎史高をはじめ、0行進しているライダーはほかにもいる。誰がこの行進から脱落していくかが、次なる勝負だ。
そんな中、渋谷が第9セクションの飛び降りで谷側に傾いたマシンを制御できずに、斜面を転げ落ちてしまう失敗をおかした。成田は細かい減点を重ねている。点数的には、オールクリーンの野崎を、2点の小川友幸が追っているという展開だ。その他のライダーには、みんな5点以上の減点がある。
最終第10セクションは、最後の急な岩盤への登りが鬼門。藤波貴久と黒山健一しか登れないという時代もあったが、今回の設定では、登るだけなら、IASの選手にとって、そんなにむずかしくないようだ。しかしラインは微妙に規制されていて、減点をとらずに抜けようとすると、難易度が高くなってくる。そしてまた、もがいていると時間がなくなる。小川は3秒ほど足らずに、この日はじめての5点をとってしまった。野崎は、真っ先にここにトライして、問題となっている登り口ではなく、その手前の下りでわずかにラインを乱して自ら1回の足つき。この日はじめての減点ながら、最少の失点で乗りきった。これで減点を5点以下に抑えているのは、野崎ひとりになったわけだ。
1ラップ目の減点は、野崎が1点。小川友幸と黒山健一が7点、田中太一が8点、渋谷勲が9点、序盤好調だった小川毅士は10点、成田匠が11点と、5点の間に6人が並ぶという接戦の2位争いとなっている。
2ラップ目、すべてのライダーが、オールクリーンを目指している。そして実際に、それが可能なセクションだった。しかしやはり10セクションのすべてでミスなく集中して走りきるのはむずかしい。このラップ、オールクリーンが達成できたのは田中太一ひとり。野崎は第2セクションでいきなり2点減点し、黒山は最終セクションで1点。渋谷はもう少し悲劇で、5点減点がひとつある。さらに悲惨だったのが小川友幸。エンストして5点となったのを含めて、5点が二つ。この神経戦で、1ラップに5点二つは致命的だ。小川は、これで一気に2位から5位までポジションを落としている。
3ラップ目、野崎はまたも第2セクションで1点をついてしまうが、大きく崩れる様子は見せない。追うべき黒山は、野崎と同じレベルでは減点を押さえているが、野崎と同じセクションで減点があって、その差が縮まらない。最後のセクションに野崎が到着したとき、両者の点差は5点。すでにこの時点で、勝負は野崎の手に渡っていたのだった。
2ラップ目にオールクリーンした田中太一は、3ラップ目には一転、二つの5点で一気に10点を加算した。最後の追い上げ劇の最中にこの10点は、これも致命的だった。結局1点を争う展開ながら、3位以下の選手は複数の5点減点をとりながらの戦いとなってしまった。
太一と対照的に、3ラップ目にようやくオールクリーンを達成したのが渋谷勲。追い上げにはすでに遅いが、3位争いには打ち勝って、田中太一を逆転することができた。小川友幸は1点ばかり3回減点があって、崩れてきた田中太一を逆転することができず、5位。4ストロークへの乗り換えで苦労を続けた小川友幸は、最後の最後まで小川らしいリザルトを残せずに終わってしまったことになる。
終わってみれば、昨年に続いて、野崎史高がSUGOで2連勝。「まわりの点数は、ぜんぜん知らなかった。だから2ラップ目に減点したあたりで、追いつかれちゃったかなぁと思ったけど、このままのペースで我慢していれば、きっと逃げ切れるかなと思って、みんなには会わないように先まわりをして逃げ切りました。今年これまで全日本に2回出て、どっちももうちょっとで勝てず、とってもくやしい思いをしていたので、今日はぜひにと思っていました。勝ててうれしいです」と喜びを語った。
なお、野崎の来シーズンについて、世界選手権挑戦を断念して全日本に専念という話が聞こえてきたが、今の時点ではどちらともいえないということだ。条件が整わなければいきたくてもおいそれといけるものでもなく、いろいろな条件を確認するには、もう少し時間がかかりそうだ。
一方黒山は「今日は長い試合になりました。第1セクションで5点になったあとは、これでもう勝てないとわかっていましたから、2位になれてよかったです。全戦優勝はできなかったですけど、こういうのはひと試合オールクリーンをするのと一緒で、狙ってできるもんじゃないんですよ。勝つこともあれば、負けることもあります」とさばさばしていた。
【国際A級】
三谷英明は、開幕戦で優勝。それ以後、勝利こそないが、表彰台をのがしたことがない。このクラスで、圧倒的な安定感を誇る。その三谷がポイントリーダーなのだから、チャンピオンシップの行方は、ほとんど決まったようなものだ。ほとんど誰もが、そう考えていた。けれど、三谷の周囲は、一抹の不安も感じていたらしい。後半に向けて、上位入賞を確実にし、ポジションを確実に上げてきている坂田匠太に対して、前戦中部大会では、三谷はついに3位となった。表彰台にはひっかかっているが、今回も表彰台を守れるかどうかは、わからないというのだ。
坂田は、優勝がチャンピオンの絶対条件。坂田が勝った場合に、三谷が3位以内に入れれば三谷。4位以下に落ちれば、タイトルは坂田のものとなる。坂田にすれば、勝ち方を徐々に覚えてきたといっても、まだまだ必ず勝てるところまではいっていない。三谷が崩れることも期待できず、チャンピオンはあきらめつつ、やるだけやってシーズンを終えるという雰囲気だった。
しかしドラマは意外な展開となった。三谷は序盤は減点をよく押さえていたが、高いコンクリート段差を越える第7セクションで失敗してからリズムを乱し、1ラップ目は12点。これは1ラップ目の8位に位置していた。チャンピオン、あやうしである。しかし一方坂田のほうは、5点が三つもあって16点。なんと12位で1ラップ目を終えている。ふたりとも崩れているこの状況なら、タイトルは三谷のものだ。
しかし実は、この日は神経戦だったために、数点の間に多くのライダーがひしめいている。1ラップトップの本多元治は6点、10位の日下達也が14点、15位の川村義仁は18点。たった12点の間に15人のライダーがいるのだから、5点のあるなしやちょっとしたミスが、大きく順位を変動させることになる。
2ラップ目以降、もっとも減点が少なかったのは、坂田だった。1ラップ目に16点もとりながら、2〜3ラップの20セクションで減点計6点。タイトル争いのライバル三谷は、2ラップ目こそ6点と波に乗りかけたかに見えたが、3ラップ目に再び11点を失って万事休すだ。チャンピオンシップは2点差で若手坂田のものとなった。
試合が終わって坂田のもとにやってきた三谷は「きみのような将来のあるライダーがチャンピオンになるのがふさわしい。おめでとう」と後輩を祝福していた。
こんなポイント争いを尻目に勝利を奪ったのは、地元の小野貴史。去年もSUGOでは4位となっていて、さすが走り慣れた地元でのことはあったのだが、一気に優勝に至るとは、本人も含めてなかなか予想できないことだった。競技中も、早まわりしていた小野はライバル選手の動向を知ることなく、終わってから1ラップ目の4位という成績を知り、さらに優勝していたことを知らされることになる。「トライアル生活も長かったが、優勝ははじめて。これからは、これがまぐれだっていわれないようにがんばらないと」と、今後の抱負を語りつつも、やっぱりうれしそうだった。
【国際B級】
こちらもチャンピオン争いがし烈。大阪の辻真太郎が逆転でランキングトップに躍り出ての最終戦だが、一方の高橋由は岩手出身。SUGOは地方選手権でも走る地元である。ポイント差はわずか2点だが、彼らのここまでの戦いを見れば、勝利をおさめなければチャンピオンにもなれないのは明らかだ。
1ラップ目は2点で高橋がトップ。辻は6点で4位だった。ところが2ラップ目以降、辻が本領発揮。なんと2ラップ3ラップにオールクリーン。完璧な試合展開で勝利とともに、2005年のチャンピオンとなった。
ただし本人は、1ラップの第6セクションで5点をとってしまった時点で、この日の試合をあきらめていたらしい。黒山が勝利をあきらめたのと同様、この日は挽回のきかない大会だったのだ。試合をあきらめた辻は、練習気分で気軽にセクショントライを続けたという。これが結果的に、勝利を呼び込むことにつながった。
来年はいよいよ国際A級、真壁は大の苦手ということで、真壁の大会までは慣らし気分で参加するつもりという。そういえば、今シーズンも真壁では好成績が挙げられなかったが、それも、真壁の苦手意識の現れだったらしい。真壁以降の辻の上り調子は見事だった。この勢い、国際A級に昇格した来シーズンはどういう展開となるだろうか。
なお、ランキング8位までとなっている国際A級への昇格者は辻と高橋のほか、向井直樹、鈴木暢斗、川崎亘、川村幹仁、森岡慎哉、小倉昌也がその資格を得ている。
リザルト
国際A級スーパークラス | ||
1位 | 野崎史高 | 4 |
2位 | 黒山健一 | 9 |
3位 | 渋谷勲 | 14 |
4位 | 田中太一 | 18 |
5位 | 小川友幸 | 20 |
6位 | 成田匠 | 26 |
7位 | 小川毅士 | 30 |
8位 | 井内将太郎 | 54 |
9位 | 田中善弘 | 68 |
10位 | 尾西和博 | 150 |
国際A級 | ||
1位 | 小野貴史 | 20 |
2位 | 坂田匠太 | 22 |
3位 | 宮崎航 | 23 |
4位 | 本多元治 | 24 |
5位 | 西元良太 | 26 |
6位 | 田中裕人 | 26 |
7位 | 岡村将敏 | 28 |
8位 | 三谷英明 | 29 |
9位 | 小森文彦 | 36 |
10位 | 竹屋健二 | 40 |
11位 | 小谷徹 | 41 |
12位 | 佃大輔 | 43 |
13位 | 柴田暁 | 47 |
14位 | 砂田真彦 | 48 |
15位 | 尾藤正則 | 54 |
国際B | ||
1位 | 辻真太郎 | 6 |
2位 | 森岡慎哉 | 8 |
3位 | 高橋由 | 9 |
4位 | 川村幹仁 | 11 |
5位 | 向井直樹 | 19 |
6位 | 千種有綱 | 22 |
7位 | 平田雅裕 | 27 |
8位 | 鈴木暢斗 | 27 |
9位 | 椎根弘守 | 34 |
10位 | 中原仁史 | 35 |
11位 | 松村知典 | 37 |
12位 | 栗田翼 | 39 |
13位 | 永井康夫 | 39 |
14位 | 木戸孝則 | 41 |
15位 | 中條恵介 | 41 |
観客1100人 |
詳細リザルトは
国際A級スーパークラス
国際A級クラス
国際B級クラス
ランキングは
2005年最終ランキング