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消えかける命は隣人が救う
ひょんな出会いがあって「ライダー救急法」ってのの講習会にいってきました。けっこうすごい講習会だった。一度講習を受けただけでは人に教えるようほどの技術を身につけたとはいえないけど、講習中、キーワードとなるようなことばがいくつかあった。ライダーに限らず、人間として知っておいたほうがいいと思うんで、ぜひみんなにも知ってもらいたいと思います。
トライアル場で、あるいはおうちで、知っている人、知らない人、だれかが生死をさまよう事態になったとき、はたして見ているだけでいいのでしょうか、という問題提起です。

倒れている人がいた場合の処置の実演
救命レスキューの講習会はよくあるけど(MFJでは、競技役員を中心に、この講習を受けるように呼びかけている。MFJ主導で開催される講習会では、受講料の支援などもあるようだ)、この講習会は、そういうのとはちょっとちがうとのことだった。講師は埼玉医科大学病院救急部の根本学助教授と国士舘大学スポーツ医科学科田中秀治教授。さらに消防庁の救急隊のみなさんがインストラクターでやってくるという、とってもぜいたくな講習会だった。こんな体制は、救命ドクターや救命士に対するおこなうのが一般的で、まだまだ、一般市民を相手に講習できるほど、この世界も普及していないようだ。
今、日本では外因死(事故などのケガが原因の死亡)は死亡原因ランキング5位で、30歳以下に絞ると第1位らしい。しかし病院には心臓外科や脳外科などの専門医はいるけど、外傷の専門はない。これがまず現実の一つ目。

首を保護しつつ、人工呼吸と
心臓マッサージを一人でやっているところ
次に、2001年の調査では、外傷が原因で死亡した人のうち4割の人は、適切な救命処置をされていたら、助かっていたという。これは、アメリカでは1970年の数値で、この数字に危機感を覚えたアメリカでは、80年代後半にはその数値を半減させたという。日本は2001年以前はデータすらないというあんばいで、減っている兆しはない。
では事故は減らせるかというと、事故はある意味確率的なもので、人がクルマやバイクを走らせれば、2600万kmに1回は死亡事故が起きるという統計があるらしい(ちなみに3km走るうちに何らかの判断を必要とすることが40件ほどあって、1件は判断をまちがえるらしい。絶対クリーンできるセクションも、40回やると1回くらいは足をついたりするのは、こういうことだったのかもしれない)。
そして、こうして亡くなっていく人を助けるにはどうすべきだったか。外傷事故が起きた場合、傷を負ってから1時間が生死を分ける境目で、さらに最初の10分にどんな処置をするかが、なにより重要とのこと。そして大事なのは、この10分間、ケガをした友人のそばにいるのは、遊び仲間のぼくらであり、外科医や救急隊ではないってことだ。
ここから先は、あまり中途半端な形でお伝えしないほうがいいと思うのだが、道具もない、知識もない状態では、完璧な処置はしようがない。しかし、ひとつでもふたつでも、自分にできることをすることで、命が救われるかもしれない。命を落とさないまでも、その後の後遺症が変わってくるかもしれない。そのことを、みんなにまず知ってほしいと、根本先生はおっしゃる。

これも首を保護しつつ、
安全なところまで移動している図
患者を発見したら、まず確認するのは、意識と意識と呼吸と循環。どれかひとつがなかったら、その人は重症も重症だ。意識があっても安心してはいけない。救急車が到着したときには、意識がなくなっている患者もいる。意識があるうちに、聞けることは聞いておけ。最後に食事をとったのがいつだったのかも、その後の処置に大きなちがいがあるから、聞いておくように。大きなエネルギーを受けたと思われる人に対しては、首の保護を重視しなさい等々。
続いて講習は、ミネソタ大学の頚椎保護セミナーに移った。ひとりしかいなくて、人工呼吸と心臓蘇生を一度にやらなきゃいけなくて、なおかつ首も保護したい場合、従来の心肺蘇生法ではなす術がないらしい。その他、うつぶせの人を“首を保護しながら”仰向けにする方法など、みんなでせっせと学習して、講習を終えたのだった。
この講習を受けて、ではあした道端で生死をさまよう人を見つけたら、すぐに処置ができるかというと、正直、ぜんぜん自信がない。なんでもそうだけど、こういうのは、知識も大切だけど、次には訓練がなにより必要なんじゃないか。隣人を助けるための、それが第一歩だし、なんたって、ぼくも隣人に助けてほしいから。トライアルだって、例外じゃない。
*講師の根本先生は、腕利きの救命医だけど、同時にというかそれ以上にというか、ライダーである。根本先生を中心とするオートバイクラブVOCAZIONESは救命に携わるライダーが集まって活動している。