© トライアル自然山通信 All rights reserved.
全日本第4戦近畿
全日本近畿大会。今回は第4戦の日程だが、関東新潟大会が去年秋の地震の影響で開催を中止としたために、実質的には今年3戦目の全日本となっている。ここ数年は、世界選手権もてぎ大会と日程が近く、ややあわただしい印象もあったが、今年は2週間後と、少しは余裕あり。関西のトライアルには、例年コアなお客さんが多くつめかけるのだが、今回はトライアル観戦歴の浅いとおぼしきお客さんも多く見受けられた。世界選手権開催や藤波貴久世界チャンピオン獲得の効果は、少しずつだけど、トライアルをにぎやかにしてきている。
会場の猪名川サーキットトライアル場は、毎年ライダーの体力を奪うことで有名な会場。今年は雨の予想でセクションが設定されていたので、少しやさしめということだったけど、晴れれば暑さでまた体力を消耗するし、ちょっとした失敗が5点につながるのは猪名川ならではで、むずかしいし体力的にきつい大会は変わらず、そのわりにトップの減点数は多くないという、どのクラスも過酷な神経戦となった。国際B級については、雨が降るからということで当初の3ラップから2ラップに変更された。「走り足りない」というライダーからの反発を恐れながらの処置だったというが、逆に多くのライダーからは感謝されたという。その結果が、国際B級の今回の表彰台の顔ぶれに現れている。
国際A級スーパークラスの戦いは、やっぱりクリーン合戦。減点した者から脱落していくシナリオだが、今回1ラップ目に大脱落したのがランキング2位でこの大会を迎えた田中太一。次々に5点となって1ラップ目はIAS最下位という驚きのリザルトを叩いてしまった。試合直前にエンジンが壊れてしまって、充分な乗り込みと調整がされていないエンジンでの闘いがこの結果になったらしいが、それにしてもその崩れかたは尋常ではない。1ラップ目最下位というリザルトを知ったときには、くやしいとか怒りを感じるよりも、脱力したと、試合後にそれでも明るく話してくれた。「ぼくなんかの話を聞いてくれるんですか?」と殊勝だったけど、田中太一の最下位は大事件だから聞いておかねばならない。最後には少し取りもどして、6位を得たが、ホイールベースのわずかなちがいやエンストしやすいエンジンと戦いながらの追い上げだった。
今回の9位は、自転車トライアルの世界チャンピオン、尾西和博だった。自転車トライアルでは早熟の才を誇ったが、オートバイは遅咲き。元気とテクニックには秘めたものがあるから、そろそろ本領発揮のはずなのだが、今回は終盤にマシントラブルが起こって一気に脱落してしまった。8位は田中善弘。藤波貴久の最大のライバルだったこの男、パワーはトップクラスなのだが、勝ちにいく臨戦態勢ではないようだ。思いきりよくトライして、思いきりよく失敗している。
1ラップ目に5位と気を吐いたのが井内将太郎。しかし2ラップ目以降は減点を増やして、結局3戦連続の7位に落ちついた。今回5位を得たのが小川毅士。シーズン前の背中の負傷はだいぶ癒えて、世界選手権以後は一皮むけたような印象もある。今回からマインダーに復活した田中裕大によると、小川友幸といっしょの練習や、世界選手権前には藤波貴久ともいっしょに練習したのが、毅士になんらかの変化を与えているはずだとのことだった。トップ4に届くにはもう少しだが、伸びている若手を見るのは、楽しい。
IASの中で異質の闘いを演じるのが成田匠。もちろん世界選手権を経験したライダーとして、その実力はトップクラスだが、成田が見せようとしているのは、美しいトライアル。その結果、減点がまとまらないこともあるのだが、今回は会場のコンディションと走り方が比較的マッチしていた。トップが悩むところを真っ先にトライしてクリーンしたのも一度や二度ではない。「強いて理由があるとすれば、減点を最小限に抑えなければいけない彼らに対して、ぼくは失敗してもいいと思うから、思いきって走っていけるということじゃないか」と自己分析する。確実に減点を減らすには要所要所で停止して体制と呼吸を調える必要があるのかもしれないが、グリップの悪い猪名川のようなところでは、前進する勢いを殺さないのが成功の秘訣だったりする。世界選手権もてぎも、よい経験だったようだ。忙しくて、トライアルの練習なんかこれっぽっちもできない日々だったが、セクション設営の仕事がすべて終わって、日曜日にライダーの走りをじっくり見れば、これがなかなか刺激的だったという。成田のお気に入り破帽だそうで、そのチャレンジスピリットが多いに刺激を与えてくれたらしい。「練習はぜんぜんできていないけど、目がうまくなれるんですよ」とのことだ。今シーズン最上位の4位は、かく裏付けがあってのことだ。
今回3位は小川友幸。今シーズン、まだ勝ちがないばかりか2位もない。去年のもてぎで、渡されたばかりのRTL250Fプロトタイプで両日9位に入り、ラップ順位では3位に入った底力はどこへやら、マシンとのコンビネーションをいまだ模索中だ。マシンの仕様も刻々といい状態になっているのだが、その一方で乗り慣れる時間がとれないというのが現在のジレンマ。このあたりの体制が整えば、必ず勝てるポテンシャルは持っているはずだが、体制が整う前に試合の日がやって来るから悩みは続くわけだ。
結果的に、3位の小川とも、優勝とも離れて、単独の2位となったのが渋谷勲だった。渋谷は、このあとフランスGPから、世界選手権参戦のため渡欧する。今回は、その勢いをつけるための大切な1戦だった。序盤は細かい足つきも多く小川に2位の座を奪われての闘いだったが、2ラップ目以降はよく追い上げて小川を逆転して振り切った。優勝にはちょっと届かない減点だったが、試合中はマインダー高橋伸一郎(国際A級ライダー)、父茂とともに、ひたすら戦い続ける姿が印象的だった。終わってみれば、優勝との差は小さくなく、岩盤登りの第4セクションを3ラップとも失敗するなど「なんかイマイチでしたねぇ」という自己評価だが、内容は悪くない。ちなみに全滅だった第4セクションは、練習だったら絶対に失敗する気がしない、というポイントだったそうだ。こういったことが起きるのも、渋谷の課題のひとつである。
そして優勝は、またしても黒山健一。3戦終了して全勝。去年あたりは、勝っていても自己評価の低い大会があったものだが、今年は黒山自身も納得の勝ちかたが続いている。「調子が悪いときにはまわりのライバルの様子が気になるものだけど、今回はまったく気にならず、自分のペースで走りきった。1ラップ目に1分のタイムオーバーをとってしまったが、これとて残り時間を計算しながら、しっかりクリーンを続けることで試合を優位に進める確信があってのことで、この1点は判断ミスというより、むしろ作戦成功の証しともいえる。
世界選手権もてぎ直前に父一郎が背骨骨折の重症を負い、当日は午後から杖をついて観戦におとずれる(黒山家と猪名川サーキットはクルマで20分の距離)にとどまった。ファミリーチームの黒山陣営には苦しい欠員だが「お父さん抜きで勝てたのは初めてなので、これも収穫のひとつ」と黒山は言う。前回お父さん抜きで戦った04年九州大会では、田中太一に勝利を許している。
この日、黒山が唯一おった5点は、第7セクション。このセクション、国際A級とのライン規制がなく、去年まで国際B級だったルーキーから黒山までが同じラインを走るものだった。がらがらと崩れやすい沢登りで、正確なマシン運びとは別次元のライディングセンスが要求されるもの。セクションを構成した元5年連続全日本チャンピオン山本昌也が、ぜひここを使いたいと採用したもので、大岩を飛び上がったりする派手なところはなにもないが、昔ながらのライダーには「これぞトライアル」とわくわくさせるもの。3回の全日本チャンピオン伊藤敦志も自然山杉谷も、このセクションには胸をときめかせていた。
黒山は、緻密に計算したライン取りが、リヤタイヤの下の岩が崩れたことで5点となった。このセクション、意外に難所だったのは、リザルトを一覧するとそれとわかる。
次の全日本の中国鳥取大会までに、黒山はアンドラ、フランス、イタリア大会を転戦する。黒山の視線は、世界選手権でのもうひとランク上のポジションを見すえている。
【国際A級】

初優勝の坂田匠太
坂田匠太が、ついに優勝した。四国の愛媛出身、18歳になったばかり。「今回よかったのは2ラップ目だけ」と謙遜するが、世界選手権20位は国際A級での成績としては立派。こういった経験が、坂田をどんどん大きくしているように思える。「まだまだです。疲れちゃって、2ラップ目、3ラップ目はコースで何度も休みました。腕もぱんぱんです」と課題を語るが、これからが楽しみな若手。
ヨーロッパで世界選手権を見ていると、若い才能を、ユース125やジュニアカップに参戦させなければいけないと思うのだけど、日本にはそういう盛り上がりが内のが、ちょっと残念です。
三谷英明は、第1セクションでテープを切ったのが響いて2位となった。確か九州大会でも、平らなターンでテープを切って優勝をのがしたのだった。前回優勝の小森は、その三谷にわずかに破れて3位。ランキングは、三谷、小森、坂田の3人が6点内におさまっている。大ベテランと、一休みした若手、伸び盛りの若手と、チャンピオン争いもおもしろくなってきそうだ。
近場だけに参加すると、今回と中国大会をターゲットにしてきた白神孝之は、1ラップ目にトップに立ったものの、最終的には4位。早いスタートだったが、あえて点数をまとめようとせず、納得いく走りをしようと思ってじっくり回ったとのこと。この結果、7点のタイムオーバーをくらって3位をのがしている。
野本、川村の昇格組は、ともにノーポイント。第1戦の野本の活躍を、もう一度見たい。
【国際B級】

出れば優勝で2勝目の高橋
80人以上の参加者を迎えて、大にぎわい。このクラスのみ2ラップとなったので、余裕を持って回れたようだ。ただし結果を見ると、タイムオーバーをとった選手が何人もいる。時間に余裕があると安心してしまった結果なのかもしれない。B級のペースがいつもとちがうと、IASのトップもB級に巻き込まれる時間帯がいつもとはちがった。みな、経験に基づいて計算しながら走っているということに、あらためて気がつかされる。
優勝は、第1戦に続いて岩手の高橋由。九州大会は欠場したから、今のところ勝率100%だ。ランキングトップの小倉昌也がなんと29位の圏外なので、高橋はランキングトップの座も手に入れた。ランキング2位は超若手と超ベテランが同店で並んだ。若手代表は辻真太郎。前回九州大会に続いて2位入賞。A級昇格件はなんとなく安泰となってきたが、そろそろ気持ちよく勝ちたいところだ。大ベテランのほうは、前回優勝した川崎亘。51歳の川崎は、今回は4位に入った。
優勝と2位は若手ライダーだが、それ以降はベテランライダーが大挙して表彰台にあがった。5位の和田弘行は山本昌也時代のB級チャンピオン。近畿大会にしか参加しないが「3位以内でないとあかん」と、5位は不満の結果のご様子。
3位に入った荒木隆俊は「ベテラン組の問題は体力。2ラップになったと聞いて、今回はチャンスだとがんばった」としてやったり。最終的には若手ライダーが伸びていくのだが、ベテランが若手の頭をどこまで押さえられるかが、毎年の興味の焦点でもある。