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藤波号に乗る
藤波貴久のワークスマシンに乗せてもらった。ゼッケン1番をつけた、2005年の藤波バージョンのマシンだ。HRCのワークスマシンに乗せてもらったのは、1997年以来のこと。97年のマシンは、水色のRTL-Rだった。2005年のRTLは、ご存知革新の4ストロークマシン。レプソルカラーの世界選手権を戦ったそのままの仕様だ。
あー、でも緊張するなぁ。たった1台のワークスマシンを、他の雑誌屋さんが待っている中で真っ先に試乗するというのも緊張だけど、正直、トライアル界ではなんのテクニック自慢もできないニシマキでも、この日集まった二輪雑誌の顔ぶれの中では、杉谷、藤秀さん、泥氏(一応格式順。藤秀氏と泥氏の序列は微妙だけど、年の功と藤秀はSSDT出場経験で二番目)についで四番目にトライアルがうまいと思われるので、雑誌屋さんの視線は気にならないとしても、気がつけば、HRCの開発陣とか藤波貴久とか小川友幸、三谷英明と、そうそうたる面々がおれごときの走りを観察しているではないか。このシロートがなにを感じてなにを言うのか、みんな期待しているみたいなのだ。うー。
実は藤波には「ぼくのマシンに乗せてやりたい!」とシーズン中からよく言われていた。ニシマキはだいたい失礼な取材者だから、藤波にも「世間では今シーズンの藤波貴久の戦いぶりについて、4ストロークは力がないしレスポンスも悪いし、だから勝てないんじゃないかと思われてる」というようなことを言ってしまっている。ニシマキ個人的には、RTLのデビュー試乗のときから、そのパフォーマンスにぶっ飛んでいるし、藤波が世界選手権でも2ストローク勢に一歩も引かないどころか、より華麗な走りをそこここで披露している姿を見ているから、4ストロークマシンが2ストロークに劣っているとは思わないんだけど、自然山通信ニシマキのそんな意見では、世間は納得しないのだ。そういう無遠慮な問いかけに対して藤波は「ぼくのマシンに乗ってちょうだいよ」とじれったさをアピールするのだった。
とはいえ、じゃ乗せてねと乗るわけにいかないのがワークスマシンである。世界選手権の会場でも、藤波マシンに乗るのは藤波自身か、マインダーのジョセップ、ごくたまにアモス・ビルバオが乗るくらいだ。ランプキンやフレイシャが乗ることだってない。トップライダーの聖域でもあるし、また企業秘密でもある。HRC常務の堀池さんからは「今日は日ごろのお礼を兼ねてこの場を設けさせていただきました」というおことばをいただいた。
アクセルを開けず、するりとキックを降ろして始動するというRTLの儀式は変わらない。同じように、するするトットットとエンジンは始動する。バヒンと空ぶかしすれば、気のせいか、ノーマルのRTLよりも静かなような気がする。少なくとも、音の質はちがう。ノーマルとのちがいは、数値的にはほとんど公開されていないが、排気量は多くしていること、車重は軽くしていること、手元でマッピングを変更するスイッチがついていることなどが大きなちがい。排気量については、エンジン担当の石川さんにカマをかけてみたけど、200cc以上400cc以下ということで勘弁してくださいというお返事だった。
ちまちまと、セクションを走ってみる。試乗会場は真壁で、気がつくと、つい2週間前にAPE50に乗せてもらった同じセクションをワークスマシンで走っている。評価のための試乗としては、あまりにセクションが簡単すぎるなぁと思うのだけど、転べないと思うと、それ以上のところには行く気にならない。でも、走らせたいように走ってくれる素直さは、意外な感じだ。「パワーがないなんて思うやつがいるんだったら乗ってみろ」みたいなことを藤波がいうから、とんでもないじゃじゃ馬を想像してしまうが、ある意味、スタンダードよりもおとなしい感じさえするくらいだ。

かっこ悪いけど、
ニシマキも乗ったという証拠写真
これは気のせいかなぁと思ったけど、エンジンのチューニングアップについて聞けば、排気量アップもインジェクションのマップ変更も、パワーを出す目的ではなく、とにかく過渡特性をより使いやすいものにするための手段なんだという。だからスタンダードより乗りやすいと感じたのは、その開発主旨通りだった(試乗しているくせに、こういうマシンに乗ると、こっちがテストされている気になる。冷や汗の連続である)。
フロントを地面から離したいなと思えば、このマシンは乗り手がとんでもない低レベルなのに、ちゃんと要求に応えてその通りの作業をしてくれる。しかも10cm浮いたら10cm浮いた状態で安心感をライダーに提供してくれる。20cm浮いたら20cmの安心感。いつでも安心。1m50浮いてもきっと安心なんだろうけど、それは都合によりテストができない。おっかないから。
安心感は、いたるところで発揮される。大岩とか大ヒルクライムとかそういうところじゃなくても、たいしたことのない砂利道でも、このマシンは石がないごとくに進んでいく。石をはね飛ばしていくんじゃなくて、ひとつひとつきちんと越えていく。わざわざ石の端っこにひっかかるようにも走ってみたけど、それがどうした、という感じで通過していく。杉谷は、このマシンがあればB級チャンピオンにはなれるなぁというし、ニシマキも、このマシンで草大会でいい成績を出してみたい、なんて思ったものだった。つまり、ライダーにとことんやさしい。
こういう印象は、トライアルマシンにほとんど触れたことがない雑誌屋さんたちも、基本的には共通だったらしい。藤波がふくれている。「みんな、パワーがすごいって言ってくれないっ」。でもね、ワークスマシンの絶対パワーについては、真壁の会場の中では、そんなところまで開けきれないです。だいたい、スタンダードのRTLのパワーだって、持て余すのだ。
ぼくらのうじうじした試乗を見ていた三谷英明が「エンジンパワーを語れるような乗り方をしていない」と指摘。その乗り方を最初に教えといてくださいよと駄々をこねて、特別にもう20分だけ乗せてもらうことになった。アイドリングの止まるようなスピードからがばっと開ければ、ドライ用とウェット用のふたつのセッティングのちがいとか、そのエンジン特性やパワーがわかるはず、走らせるのは、平らなところで充分、とのこと。
そのとおり、2速にして、ととととと止まりそうなスピードから、がばっと無遠慮にアクセルを開けてみる。ウェット用というセッティングでは、ふわーっとフロントが浮いてくるパワフル感がある。ドライ用にしておんなじようにアクセルを開けてみる。浮いてきたなと思ったら、そこからまた急にパワーが吹き出してきて、あやうくそのまんままくれそうになった。なんとかフロントを落として気を静めた。やばかった。でも、不思議と心臓がバクバクしたりしていないのは、これもワークスマシンが安心感を提供してくれているからなのかなと無理やり納得してみた。
走り終わったぼくたちに、石川さんが「感想を聞かせて」とやってくる。この人は藤波が「足のつかないマシンがほしい」といえば、そのとおりに手帳に書き留めるまじめな技術者である(トライアルとペーパークラフトは、すごくうまい)。でもぼくらはワークスマシンに乗せてもらったことで感動してしまっていて「とっても乗りやすくて天国に上ったようでした」みたいなしょうもないインプレッションしか語れない。ごめんなさい。逆に、開発で苦労した点はなんですか?と聞いてみる。返ってきた答えは「苦労は過去形ではなくて現在も続いているし、これからも続きます。そしてどこかひとつが苦労するところではなく、全部です。ひとつが解決すれば次はここ、ここが解決すれば次はここと、この苦労は終わることがないでしょう」ということだった。
ちなみに、藤波のマシンは世界選手権のエントリーリストには「ホンダ」と表記されているが、ランプキンやフレイシャの乗るモンテッサCota4RTとまったく同じもの。マシンにもモンテッサのステッカーが貼られている。今回試乗したのは、まったく藤波仕様だが、世界選手権で使用したマシンは来日しておらず(藤波のマシンの本籍地は、ここ数年はスペインだ)、同仕様のテスト車ということだ。そんなのないしょにしててくれてもわかんないのにと思ったが、ゼッケン1番のついたヘッドライトは、本人が持ち帰ってきたものだった。
びっくりしたのはハンドルが広いこと。ニシマキはミーハーなので、藤波貴久と同じ、785mm幅のハンドルを使っている(790mmだとライディングが狂うかといえば、ニシマキの場合はそんなことはない)。ところが今回の藤波号は、妙にハンドルが長かった。聞きまちがえたかと焦ったけど、今回はたまたまちがうハンドルが着いてしまっていたということだった。ちょっと安心。ちなみに幅だけじゃなくて、形状も本来の藤波仕様じゃないということだったけど、これは気がつきようがなかった。
この日は他にも、ノーマルのRTL、マッピングを少し変更したRTLと、いろいろ乗り比べができて楽しかった。HRCからお借りしている自然山号も持っていってセッティングについてお聞きしながらあれやこれやといじってみたのだけど、その手の話はまた次回に。
とりあえずワークスマシンに乗せてもらった興奮が少しさめて平常心を取りもどしたところで、レポートをお届けしました。

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