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ジュニアに挑む野本佳章
今週末は、いよいよ世界選手権GPウイダー日本グランプリ。
藤波貴久のパーフェクト勝利なるか、黒山健一、小川友幸ら、日本の誇るトップライダーの活躍やいかにと興味はつきないが、ここではひとりの国際A級ライダーをご紹介したい。野本佳章。国際A級2年目の若手だが、坂田匠太、西元良太以来の日本人のジュニアクラス参戦だ。
野本は、2004年国際B級ランキング2位、2005年に国際A級に昇格するや、開幕戦の真壁で6位に入賞した。若手ライダーの中では、注目株のひとりだ。その野本が、日本GPではジュニアクラスに参戦する。
ジュニアクラスは、2000年に設立されたクラスで、20歳以下のライダー(かつ世界選手権16位に入ったことがなく、ジュニアクラスのチャンピオン経験者でないこと)による競技となっている。もちろん若手育成のためのシステムとしてFIMが考案したものだ。初代チャンピオンはアダム・ラガ、二代目はジョセップ・マンサノ(引退)、三代目が野崎史高だ。ただしこの3年間は世界選手権に参戦しながらジュニアカップが行われているという変則的なシステムで、当人たちはジュニアに参戦している意識はほとんどなく、目標はジュニアで優勝することより世界選手権クラスでより上位に入ることだった。そんな背景もあって、2002年に野崎がチャンピオンとなったときにも、日本ではこれを称賛する動きがほとんどなかったのは残念だった(もちろん、ジュニアクラスをよりアピールできなかった自然山通信をはじめとするマスコミの責任も大きい)。しかし当然ながら、チャンピオンはチャンピオンだ。
2003年から、ジュニアクラスと世界選手権のダブルエントリーはできなくなった。ライダーはジュニアでタイトルをとるか、世界選手権でもまれるかを選択することになり、そして現在では、20歳以下の選手は、ほぼ自動的にジュニアクラスを選択するという流れになっている。
ジュニアクラスのトップ争いを経験したライダーは、その多くが世界選手権クラスにステップアップしてから、成績を上げている。たとえば2003年にあえてジュニアを選択したタデウス・ブラズシアクは、世界選手権ではポイント獲得など夢物語のレベルの持ち主だったが、ジュニアクラスではシャウン・モリスとタイトル争い。破れはしたものの、その年の最終戦で世界選手権に参戦し、するりとポイントを獲得した。もちろんモリスも、その後世界でもポイント獲得の常連だ。2005年のジュニアチャンピオン、ジェームス・ダビルなども、いきなり世界戦の一桁入賞者となった。
ジュニアクラスは、世界選手権よりはセクション難度を低く設定されている。レベルの差はあれ、全日本のIASとIAのようなものだ。難度の低い(といっても、けっして簡単ではないのはもてぎのセクションを見るまでもなく明らか)セクションをひとつひとつていねいにクリアしていく戦いかたは、若いライダーのその後のトライアル人生に、大きな影響を与えるにちがいない。
一方日本人に目を向けると、野崎が2002年にチャンピオンになって以来、ジュニアクラスに全戦参加する選手は一人もいない。まぁ、世界選手権を全戦参加するライダーもいないのだから、全戦参加する選手がいないのも当然かと思えるが、日本GPでも、ここ数年はジュニアやユース(ユースの何たるかは、またのちほど説明する)に参戦する日本人は皆無である。
自然山通信と仲良しのイタリアのマリオ・カンデローネは毎年訴えている。
「日本人ライダーは正気なのか。せっかくユースやジュニアといった、経験を積むクラスが設けられているのに、誰もこのクラスに参加しないんだ。まったく歯が立たない世界選手権クラスにみんながみんな参加するというのは、いったいどうしたっていうんだ」
最初は、日本人代表自然山通信は返答に窮したが、最近ではマリオも「日本人だからね」ということで納得している。たとえばマリオは撮影機材にニコンのD70というカメラを使っている。このカメラ、とてもよく写るけど、けっしてプロ用機材ではない。こういう選択は、ふつうの日本人はしない。日本人は問答無用で最高機種のD2Xを買う。日本人は、なんでも(自分には宝の持ち腐れでも、必要がなくても)一番が好きというのが、6年間もてぎに通い続けるうちに、マリオにも気がつかれてしまったのだ。
すいません。トライアルとカメラの話をいっしょにしてはいけない。でも、日本の皆さんは、どうせ出るなら世界選手権と思っているみたいだ。セクションを走れても走れなくても、そんなことはどうでもいいらしい。思いで作りか、あるいは肝試しと称したライダーもいたっけ。
もうひとつ、こぼれ話がある。芹沢太摩樹というロードレースライダーがいる。かつてはモトクロスもやっていた。彼に真剣な表情で聞かれた。
「日本GPには、日本のトップライダーって、出てないんですか?」
そ、そんなことはないんだよと言い訳したけど、日本GPの世界選手権クラスを走る日本人ライダーの姿は、彼にはとても日本のトップが走っているようには見えなかったらしい。まぁ、惜しくも5点、じゃなくて歯が立たずの5点ばかりなのだから、そう思われてもしょうがない。
海外では、20歳以上の選手がジュニアクラスに参戦することもある。せっかくの母国のGPだから出場したい。だけど自分には無理だと思っているライダーが、ゲスト扱いでジュニア(やときにはユースに)参戦してくる。FIMにも、そういう融通はある。
日本では、参加する側も参加する側も、融通がきかない点では負けてはいない。ずいぶん前に、年齢が20歳以下だということで、世界選手権のポイントのある渋谷勲に、ジュニアクラスのエントリーフォームが送られてきた。そんな話を聞いたので、世界選手権のポイントある選手は世界選手権にも出られるはずだから、もう一度確認してちょうだいとお願いしたら、渋谷だけでなく、その年ジュニアで参戦するはずの全員が世界選手権に出場することになった。重要なのは、公平な処置なのらしい。渋谷は世界選手権でポイントをとるライダーだから世界選手権で走るべきなのだが、そのとき世界選手権に出た若手ライダーがジュニアに出ていたらと考えると、日本のトライアル界は貴重なチャンスを捨ててしまったという気がしてならない。
野崎がチャンピオンをとった当時は、ジュニアというのは生まれたばかりのクラスだった。しかし今や、ジュニアチャンピオンは大きな名誉だ(もちろん野崎も海外の興行主からはチャンピオンとして扱われる。日本人ライダーの序列は、世界チャンピオン藤波貴久、ジュニアチャンピオン野崎史高、日本チャンピオン黒山健一の順番だ)。そしてイギリスやフランス、イタリアの若手ライダーは、名誉とともに世界選手権のステップアップの場として、このクラスを最大限に利用しようとする。タイトルへの執念に目をぎらぎらさせた若者がしのぎを削る姿を見るのは、なんとも頼もしいものだ。
最近では、さらにユース125というクラスができた。ヨーロッパでは、18歳以下は125cc未満のオートバイしか乗れない(国が多い)ということを発端に、18歳以下の125ccマシンによる競技が誕生したのだ。しかしこのクラス、開けてみればジュニアと遜色のない難セクション。今、18歳以下の若手は、おそろしくレベルの高いセクションでチャンピオン争いを繰り広げている。日本ののほほんとしたコンペティションで暮らすライダーが、たとえ意を決してヨーロッパ遠征にでかけたとしても、125でしごかれた彼らと渡りあえるようになるのはとてもとてもむずかしい気がする。
日本では、125ccクラスを作ろうなどという動くは、まったくといっていいほど出てこない。戦闘力のあるマシンがガスガスとシェルコとベータにしかなく、スコルパ125Fはターゲットが少しちがう。ホンダ(モンテッサ)には125の設定がない。しかしその前提は、ヨーロッパでもまったく同じだ。
藤波貴久、黒山健一、彼らはみな、成長の一時期、125をとことん乗り込んだ。125を徹底的に乗り込むのは、上達のために不可欠だ。今、ユース125にはスペインだけでなく、フランスやイタリア、イギリスのライダーが大挙して出場している。彼らが今後どんな成長を見せるのか、そのとき、日本人はどうするのか、大きな不安と同時に、興味のつきないところだ。
さて話がてーんでそれてしまったけど、2006年日本GP。野本はジュニアクラスに参戦する。マリオ曰く「日本人はみんなライア・サンツに負けるのがこわいんだろう」ということだったが、ライアとガチンコ勝負してくれる日本人が初めて現れた。結果がどうあれ、野本の活躍が、日本の実力をはかるものさしになるんじゃないかと思われるのだ。乞うご期待。

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