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黒山3連勝の全日本近畿大会
5月25日、全日本選手権第3線近畿大会は、兵庫県川辺郡猪名川町猪名川サーキットにて開催された。
前日の雨模様から、当日は雨のち晴れ。観戦には悪くない天候となったが、濡れた泥が乾きかけてコンディションは始末に負えないものとなった。全日本一ハードな全日本という定評のある猪名川大会だが、今回はさらに輪をかけてハードとなったようだ。
大会を制したのは黒山健一。中盤、やや差を詰められる場面もあったが、序盤からゴールまで、ほぼ圧勝といっていい内容だった。
ゼッケン1をつける小川友幸は肩の負傷もあって本調子にはほど遠く、ついに“指定席”となっていた2位の座を野崎史高に明け渡した。
A級は西元良太が開幕戦に続く2勝目。B級は上福浦明男が第2戦九州大会に続いて2連勝を飾った。
この大会、田中太一が負傷してリタイヤしている。
黒山は、朝から好調だった。しかし不安がないわけではなかった。前日、会場へやってくる途中で追突事故を起こされて、首の痛みを訴えていた。これがバランスの崩れなどにつながらないか、一抹の不安を抱きながらの大会当日となった。
しかし当日になってみると、首の痛みはほとんどなかった。トライアルへの影響もない。第1セクション、第2セクションとクリーンして、まずまずの滑り出しだ。
第1セクションは、毎年恒例の土の斜面。最後の斜面の頂上付近に、大岩が設定されている。このセクション、終わってみれば1ラップ目にクリーンしたのは黒山と田中善弘の二人のみだった。ディフェンディングチャンピオン小川友幸は3点、野崎にいたっては5点となっている。田中善弘は「クリーンしたのは第1だけ」というが、リザルトを見れば、3ラップともこのセクションをクリーンしたのが善弘ひとりだけだったということがわかる。今シーズンの善弘は、藤波貴久の最大のライバルとして活躍した往年の輝きを思い起こさせてくれる。
小川は、第1セクションでの3点に続いて、第2で1点、第3で5点と、減点が続いていく。黒山がむち打ちの心配をしていたのに対して、小川はもっと重傷の悩みをかかえていた。数日前の練習中に肩を痛め、ほんの2日前までは肩をあげることもできないという状態だった。なんとかマシンを走らせているが、小川らしい輝きが見えないのも、当然のコンディションだったかもしれない。
勝負の上では、マシンが動きを止めてしまってからの対処に大きな影響があったという。すぐさま押しだせれば、減点は最小限で済むところが、痛みをおして押しだすから、そこに一瞬の遅れが生じる。その遅れが積み重なって、この日の小川は1分の制限時間を超える、タイムオーバーの5点が多かった。
「こんなにタイムオーバーの5点をとったことは、一度もない」
と小川が言うように、それだけを見ても、この日の小川がふつうの状態ではないのがわかる。
野崎は、前回悩まされた腰痛がすっかり回復していて、この日は快調だった。第1セクションの5点で出鼻をくじかれたり、テープが切れたりというもったいない5点はあったが、勢いは小川を勝っていた。
その野崎が第2セクションにトライしようというとき、直前を走っていた田中太一にアクシデントが発生した。セクション出口には、オーバーハングの岩から降りる設定があった。1分の持ち時間がぎりぎりだったから、焦りもあったのかもしれない。降りた瞬間、前輪が突き刺さって前まわりとなった。勢いの載った太一本人は、顔から岩盤にダイブしてしまった。鼻を切り、あごを強打する負傷を負って救出を待つ太一。太一が担架で運ばれるまで、およそ15分間。病院へ運ばれた太一は、幸い後遺症の残るような負傷ではないということだが、あごを骨折していて手術が必要の他、切れた鼻も縫合が必要で全治3ヶ月の重傷ということだ。人車ともに調子を整えていたところだったから、この結末はなんとも残念。本人のくやしがりようはそうとうのものだったようだ。
黒山は、太一の前にトライしていたから、このシーンは知らず、太一の次にトライする野崎や小川友幸は、運ばれる太一を見送ってセクションインすることになった。こういうときこそ、気持ちの集中が問われる。野崎がクリーン、小川が1点。彼らが第3セクションへ到着すると、そこは難セクションで、黒山健一は今だトライせずに、到着を待っていた。太一のアクシデントによって、トップライダーはみな持ち時間を15分失った結果となった。この15分は、延長されず。途中での持ち時間延長は全ライダーに告知するのがむずかしいことと、影響のあるライダーとないライダーの差が大きい。結果的に、黒山と小川はともに10点のタイムオーバー減点を受けることになったが、これはこのアクシデントの影響だったのかもしれない(ただし野崎は4点の減点にとどめているから、因果関係を特定するのはむずかしい)。
猪名川特有の、ごろごろの沢をどんどん上がっていく第2セクションから第7セクションまでは、黒山の優勢は明らかだった。第8セクションで黒山が3点、小川と野崎が5点となると、ここまでのトータルが黒山7点に対し野崎21点、小川は18点と10点以上もの差がついている。第4セクションをクリーンした黒山は、珍しく歓喜の雄叫びもあげている。
しかし1ラップ後半、小川が踏ん張りを見せる。黒山が4連続3点をとって9セクションから12セクションまでに14点を失ったのに対し、小川は減点を8点に抑えた。結局1ラップのトータル減点は(タイムオーバーを含んで)黒山が30点、小川が35点、野崎が36点。黒山にややアドバンテージがあるものの、泥が乾いてコンディションが悪化するだろう終盤戦に向けて、試合は読めなくなっていった。
3人に続く4位は井内将太郎がつけたが、井内の減点は46点(タイムオーバー含まず)、5位の田中善弘(同じく)は51点と、トップ3との差は大きかった。本来ここに食い込んでくるべき小川毅士は、1ラップ目に5点11個、3点が一つというとんでもないスコアで58点。暫定順位は9位にとどまっていた。
2ラップ目、雨は徐々に止みつつあった。ライダーの疲労は大きい。時間もないが、セクションについてもしばらくトライできず休憩する姿がそこここで見られる。
「腕も足も、みんなつった」
とコースとセクションのきつさを嘆きながら、がぜん気を吐いたのが野崎だった。1ラップ目の32点から18点と減点を減らしてきた。黒山も2ラップ目は16点とベストスコアをマークしたから、残念ながらトップ争いには届かなかったか、小川友幸が2ラップ目に29点をたたいたから、2位の座を奪うには充分の健闘だった。小川は、2ラップ目までに(タイムオーバーを含み)減点64。野崎は54点だから、ちょうど10点差がついたことになる。
野崎と小川のこの点差は、最後には6点差となったが、形勢は変わらず試合終了となった。黒山は野崎に17点差で勝利。開幕戦に続く、圧勝だった。
「肩の負傷も痛かったが、今日の3位は痛い。チャンピオンシップを戦ううえでは、残りの4戦、すべて勝っていかなければいけないわけだから、厳しい状況になった。しかしまだまだあきらめない」
小川がくやしそうに語れば、野崎は
「今年、一度も勝てていなかった小川選手に勝てて、うれしい。終盤、小川選手に10点差をつけていることは知らされていたんですが、それより今日は体力的に本当にきつい大会でした。出もまだトップとは少し差があるんで、つぎはそれをなんとかしていきたい」
と黒山攻略の決意を語る。
黒山は
「3連勝というより、雨で、こういう厳しい条件で勝てたということが喜び。内容的には、小川選手が3回とも登れている最終セクションをぼくは1回しか登れていなかったり、まだ課題もあります。こういうところをなおしていければと思いますし、次の全日本の北海道は昨年一昨年と負けている会場での大会なので、今年こそ優勝したいと思います」
思いはすでに次の大会、という感じだ。
自然山通信リザルトページ
出場選手名簿(近畿トライアル委員会のサイト)
【国際A級】
西元良太が開幕戦に続く2連勝を飾った。
「点数やライバルの状況はまったく把握してませんでしたが、1ラップ目に5点が一つしかなかったんで、このペースだったらいいところにはいくかなと考えてました」
はたして、1ラップ目の結果は、西元が20点でトップ。2位は斎藤晶夫と竹屋健二の25点で、ちょっとしたリードをとっていた。
2ラップ目に入って、西元は5点3つと、5点の数こそ増やしたものの、トータルでは21点と、1ラップ目に1点多いだけのスコアで試合を終えた。2ラップ目、ラップ賞をとったのは竹屋健二で、その減点は19点だった。
竹屋は、ゼッケン3をつけるA級クラスのトップライダーだが、今シーズンは全戦参加をお休みして、近畿大会にはプライベートなレクリエーションとしてやってきた。もともとトライアルのうまさには定評のあるライダーで、いつ勝ってもおかしくない、しかしこれまでの勝ち星は2006年近畿大会の1回だけという準無冠の帝王だ。
西元vs竹屋。はたして両者は3点差で、西元の勝利が決まった。西元が41点、竹屋が44点。3位の斎藤晶夫が56点だから、二人でぶっちぎりという結果だった。
3位斎藤はSSDT遠征で未知のトライアルを吸収してきた。4位佃はもともと実力のある選手だが、1ラップ目11位から2ラップ目に挽回してこのポジション。5位はシェルコ4ストロークが合っているのか、乗り換えてからコンスタントに好結果が出ている永久保。本多は、世界選手権日本大会のセクション設営でお疲れか、ほんの数点の差で、6位までドロップしてしまった。7位は、2006年近畿大会での15位入賞以来、久々のポイント獲得となったベテラン波田。8位はゼッケン通り、ほんとうはもっと上のポジションがほしい成長過程の柴田暁。9位日下、10位村田は全戦参加はしていないものの、出ればポイント圏に入る実力を持つベテラン勢だ。ようやくSY250Fに乗り慣れてきた岡村が、彼らにわずかに届かず10位。関東の若手のホープ砂田が12位、ゼッケン4をつけながら、今年は6位が最高位の宮崎が13位、仙台出身で竹屋や砂田らとは同僚である小野が14位、九州の徳丸が最後の1ポイントを獲得する15位となった。3位斎藤の減点が56点、15位徳丸が67点。わずか10点の間に10人が入る大混戦の勝負だった。
なお今回、A級は12セクションを2ラップ。近畿大会のコースとセクションは過酷なため、2ラップでも充分走りごたえがあるはずという判断での設定となった。
【国際B級】
例年だと、気候がよくなって汗をかくトライアルをする季節になってくると、元気のいい若手が上位を独占しはじめるのだが、今年はちょっと様子がちがう。たくましいベテラン勢が、なかなか若手の台頭を許さないのだ。
ベテラン勢の筆頭は、第2戦で優勝の上福浦明男。今回からマシンをシェルコ4ストロークに変えて、ここまで1勝1敗の宿敵小野田理智との一騎打ちに期する。
上福浦と小野田にとって、近畿はまた特別な“ベテラン”の参加のある大会だ。和田弘行。1983年国際B級チャンピオンで、南海の荒法師と異名をとった和歌山人。去年は近畿大会1戦だけに参加して見事優勝をもぎ取っている。
「いきなりみっともなかったな。5点でもしゃあなかったけど、パンチ出したら、3点やった。ぶざまやった。上福浦を意識しすぎたな」
とは、第1セクションでいきなりどたばたの3点となった和田の自己分析。もちろんその後調子を取り戻すものの、優勝争いに食い込むには、なかなか苦しい滑り出しとなった。
1ラップ目、上福浦の減点は9点。これはもちろんベストラップ。上福浦と小野田はスタート順が近いから、お互いの点数も把握しやすい。
「2ラップ目、ミスが多かったからこりゃ、小野田くんに負けたかなとあきらめていたんですけど、集計を見てみたら3点差で勝ってました。シェルコの4ストロークは、とってもグリップがよくて、するすると進んでいく。猪名川にマッチしたマシンでした」
小野田との勝負を楽しみ、和田との再開を喜んだ上福浦の勝利のコメント。
小野田は、全日本の中ではむずかしくハードとされている今回の大会について
「いつもよりハードだったけど、これくらいのほうが楽しめる。走りごたえがあって、充実感のある大会だった」
と振り返った。
トライアル歴のまだ浅い、それでいてトップグループに切り込んでくる九州の期待の星、松浦翼は今回は12位。指南役の竹屋泰(竹屋健二パパ)が「まだまだ修業が必要です〜」と戦いを振り返った。とはいえ、4位から15位までが10点の中に入るという激戦の中での結果である。
世界選手権日本大会にユースクラスで参加する大田裕一は、2戦連続9位から今回は13位。大田は今シーズンは排気量を125ccに戻しての参戦を続けている。