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全日本中国大会、黒山健一がSY250Fを初優勝に導く

関東新潟大会でデビューして以来、全日本3戦目、スコルパSY250Fが初優勝した。ライダーは黒山健一。小川友幸(ホンダRTL250F)に3連敗したあとの会心の一勝だった。
黒山は肩に不調を抱え不安もあるが、マシンの熟成は進み、デビュー当時の不安な様子はすっかり影を潜めた。
小川は3位で、2006年のタイトル争いは、再び黒山優位に傾いている。2位は田中太一。
国際A級は小森文彦が勝利。国際B級は志津野佑介が初優勝。
全日本選手権第6戦中国大会は、全日本としては初めてのフィールド幸楽トライアル場で開催された。中国地方は、全日本の中でも会場の模索に熱心なところで、今回は2年続いた鳥取のヒロスポーツランドから場所を移しての開催。こうやって、全日本会場が次々に現れるのは、その地方の元気を感じる。
山口県の西のはずれ、下関といえば、関門海峡がすぐそこだから、関東人からみると、そのロケーションは九州大会のようなもので、かなりの大遠征になる。ざっと調べたところ、最遠隔者は宮城県の小野貴史。彼らは大阪まで走ってそこからフェリーでやってきた。
遠いは遠いのだが、しかし会場を一巡すると、この会場の懐の深さに感心する。門のある明確な敷地であり、斜面あり岩あり沢あり、難度の高い地形も平坦な地形もあって、素晴らしいトライアルフィールドだ。

黒山健一
さて今大会、注目は小川友幸の4連覇なるか、黒山健一・野崎史高のスコルパ/ヤマハ勢の巻き返しなるかといったところ。特に小川と黒山はシリーズランキングでも3点差でし烈な争いをしている。今回はそういった意味でも天王山となるべき重要な一戦だった。なお渋谷勲は北海道大会に続いて今大会も欠席、田中太一は藤原由樹とのマインダー関係を解消し、今回は小川伸字と組んで試合を戦うことになった。
セクションは沢あり泥の斜面あり岩ありでバラエティに富んでいて、ライダーにもさまざまなスキルが要求される。大小さまざまな岩が配置されているのも、会場側の全日本選手権に対する意気込みが感じられる。
好スタートを切ったのは黒山、野崎のスコルパ・ヤマハ勢だった。デビューから4戦目(途中、世界選手権日本大会にも参戦した)。デビューした当初の仕様といえば、まだまだ開発中のもので細かいトラブルやセッティングの仕上げ作業が残っている段階だった。ライダーも4ストロークの乗り方に慣れなければいけないし、人車ともに課題が満載といった戦いだったが、ここへきて、ようやくマシンの仕様が固まってきたようだ。黒山のマシンにはカーボンファイバー製、成田号にはアルミ製の燃料タンクがつくなど、外見的にも作り込みのあとが見られる。

小川友幸
対して小川は4連覇への緊張から、大岩の飛びつきに気負いすぎて2点を献上して試合をスタートさせた。太一は5点となってしまった。小川はその後、ペースを取りもどし、黒山が第3で1点、第4で2点、第5で1点と減点を重ねる中、第4での減点1のみで通過して、5セクションの時点では1点だけ黒山をリードした。第4はきっかけなしの2メートルの直角岩に飛びつくもので、ここをクリーンするのは至難。小川の1点は最善の結果といえた。対して黒山は、第5でフロントタイヤで跳ねた木の枝がフロントフォークとタイヤの間に挟まってコントロールを失うなど、不運な減点もあった。流れが小川に傾いたかと思わせたハプニングだった。
ところが流れを決定づけたのは次の第6セクションだった。沢を上がり岩場に降り、5メートルほどの岩盤を登っていく設定だが、この岩盤に助走なしで登るのがスーパークラスのラインとなっていた。井内将太郎が真っ先にトライしてこのポイントをクリーン(減点は3点。2ラップ目にはクリーンした。びっくり)。続いてトライした黒山もクリーン。しかしそのあとの野崎、太一、小川はことごとくこの岩盤を攻略できずに滑落していった。小川のわずかなリードは一瞬でひっくり返され、以後黒山のトップの座は安泰ということになった。
これ以後、3人による2位争いはし烈だった。太一、小川、野崎の誰にも2位につけていたタイミングがあり、また3位があり4位があった。この3人がどんな順位に落ちつくかについては、いくつかの要因があった。

田中太一
最終的に2位となった太一は、勝負どころの第6セクションを2回クリーンした。1ラップ目にここをクリーンした黒山も2ラップ目には滑落し、3ラップ目には迂回ラインを通っている(迂回ラインは、3ラップ目になって発見された)。しかし太一は、2ラップ目に抜群のグリップで岩盤を刻み登るや、3ラップ目にも迂回ラインに心を奪われることなく、まっすぐ岩盤を登ってこれをクリーンした。まったく見事というしかないライディングだった。対して野崎は、3ラップともに第6を5点となって、4位を確定的にしてしまった。
小川が2位から3位に転落したのは、ヒルクライムからさらに岩に飛びつく第9セクションで失敗したときだ。ここは小川以外のトップ3人は全員クリーンした。さらに2ラップ目の第6を太一がクリーンし小川が滑落したところで、小川のポジションは4位に落ちた。なんとかポジションを3位に戻せたのは、野崎が3ラップ目の第2で5点となったからだ。ライバル3人は3ラップともクリーンした第2セクションだが、野崎は1ラップ目と3ラップ目に5点を喫している。4ストロークとの呼吸が、あと一歩マッチングせずといった印象だった。

野崎史高
さらに野崎は、2ラップ目の第4セクションで飛びついた岩の上で足を出さずに我慢した。その結果滑り落ちて指を痛め、以降のライディングに支障をきたすようになってしまった。1ラップから2ラップ中盤、2位をキープしたこともあったのだが、あと少し野崎には足りないものがあったようだ。運なのかマシンとの慣れなのか、あるいは試合の組み立てなのか。
2ラップ目から3ラップ目、黒山がぽつりぽつりとミスをし始めた。しかし2位との差は大きく、終わってみれば太一には8点差まで迫られていたが、太一が黒山を脅かしたという試合展開にはならなかった。黒山の今シーズン3勝目、そしてSY250Fの全日本初優勝の達成ということになった。
「久々に試合をしたという実感がありました。勝てたのはうれしいですけど、なによりこのマシンで勝てたというのが喜び。マシンをここまで作り上げてくれたみなさんに対して、ようやく結果がだせたという喜びです。こういう喜びは、ベータ時代には感じたことがなかった」
と、大きな輪の中でライディングする現在の環境をまじえて勝利を語った黒山。
一方小川は
「勝ち続けることへのプレッシャーは、考えている以上に大きかった。試合前の晩も眠れず、これがプレッシャーなのだと思うとよけいに重圧が大きくなって、悪い流れのまま試合を進めてしまった。連勝したことのない経験の浅さです」
と完敗に終わった試合を振り返った。
「マインダーが急きょ変わった不安で減点を重ねた1ラップ目から、2ラップ目以降は黒山さんにも勝るペースで試合を進められたのが大きな収穫です。1ラップ目が悪かったからまだまだですが、2位のポジションに戻ってこれたし、2ラップ目以降は第6セクションのクリーンを含めて、時間配分的にも完璧でした」
と苦しい中で2位を勝ちえた喜びを語るのは田中太一。第6での2回のクリーンは、滑るところでの練習を繰りかえした成果や、特にクラッチまわりを中心としたマシンの進化がその要因という。
タイトル争いは、これでまた黒山にほんの少しのリードができた。黒山にしてみたらまだ油断はできないが、小川サイドから見ると、小川が残り2戦を優勝しても黒山が連続2位に入ればタイトルは黒山のものとなる。小川がタイトルを獲得するには、小川が2連勝するのは必須で、そのうえで黒山がどちらかの大会で3位以下となる必要がある。黒山は苦しい3連敗中も2位を守ってきたから、勝敗はともかく、2位を守るのはむずかしいことではなさそうに思える。

左から、太一、黒山、小川
「次回の中部大会は、いわばヤマハのお膝元の地域ですから、地元ファンの前でぜひ勝ちたい。最終戦SUGOは、このところぼくはSUGOで勝ててないですから、ぜひ勝ちたい。残り2戦も勝ってシーズンを終わりたい」
と黒山はチャンピオン争いよりも優勝を勝ち取りにいくと意欲を語った。
なおスコルパSY250Fは全日本初優勝だが、実は開発に携わる木村治男が「世界に先がけてこのマシンにメジャータイトルを」と久々にイーハトーブ2日間に本気で出場(ここ数年は女性陣の引率役だった)。しかし2日目に逆転されて勝利を逃した。その直後、シーズン中途からスコルパ入りしたマルク・コロメがベルドン5日間に出場し、このマシンを初優勝に導いている。ベルドンは昨年の野崎史高に続いて、2年連続でスコルパマシンが制したことになる。

成田匠
5位となったのは、フルフェイスヘルメットとともに登場した成田匠。成績的には尾西和博に攻め立てられてあやうかったが、あいかわらず熱心な成田ファンを引き連れての独創的トライを見せ、ファンの心をつかんでいる。
6位はタイムオーバー減点で成田に5位を譲ってしまった尾西和博。遅咲きのバイクトライアル世界チャンピオンが、徐々にトップを目指して力を蓄えつつある。7位は光るライディングを随所で見せながらなかなか成績がついてこない井内将太郎。8位にスーパークラス1年目の坂田、9位が怪物級のサンデーライダー田中善弘がはいっている。
■国際A級
小森文彦、三谷英明、竹屋健二のホンダ勢によるランキング争いと優勝争いが焦点となっている国際A級。今回は、小森がまったく死角なしの素晴らしい戦いぶりで勝利を飾った。3ラップともにクリーンできなかったのは唯一第1セクションだけで、それもちょっとしたバランスのミスだったという。

小森文彦
対して三谷、竹屋は1ラップ目から大きくつまづき、最終結果を上位にまとめるのが精いっぱいで、小森の優勝を阻むまでのパワーは今回は発揮できず。
「三谷さんが調子がいいと、それが気になって集中を乱すことがあるんですが、今回は三谷さんが減点を増やしていたのがわかっていたから、楽な気持ちで走れたのもよかったと思います」
と小森は勝因を語った。竹屋が2位となったのがあんまりうまくないとも語るが、タイトル争いは竹屋に19点差で小森がなかば独走状態。大きな崩れがなければ、小森の優位は揺るぎない。
■国際B級
今シーズン元気がいい中部勢。その中部勢のうち、今回は岐阜のふたりが最終ラップの最終セクションまでもつれこむ緊迫した戦いを演じた。序盤からトップをキープしたのは兼松誠司。しかしこれにぴったりついて、2ラップ目が終わった時点で同点で2位につけていたのが志津野佑介だ。3ラップ目、志津野が第5で5点、いっぽう兼松は3点。ここで勝負あったかに思われたのだが、最後の最後、最終セクションで兼松は痛恨の2点を献上。これでまたまたふたりは同点となって、クリーン数を数えたところ、志津野23、兼松22。よって、志津野の初優勝が決定した。

志津野佑介
「ぼく、トライアルをやってて長いんで、今日の優勝はほんとうにうれしかった。残りの試合も全部でかけていって、またがんばります」
と初優勝の喜びを語った。
タイトル争いをリードする平田雅裕は、今回は4位。ラップを重ねるごとに減点を増やしているが、確実にトップグループにつける実力はあるから、タイトル争いのリードは保ったまま。そろそろチャンピオン獲得のプレッシャーもトライのじゃまをはじめたのかもしれない。