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黒山の優勝で2006年終幕
2006年全日本が終幕した。
最終戦は宮城県スポーツランドSUGOにての開催。もう何年も、最終戦といったらSUGOと決まっていたが、来年はスケジュールの変更があるようだ。記憶にあるのは、SUGOは最終戦で、そしていつもとはちがう結果が待っているということだった。黒山健一が圧勝している全日本シリーズにあって、この2年間は野崎史高が勝利している。その前は、世界選手権に専念しているスポット参戦した藤波貴久が勝利している。黒山健一にしてみれば、SUGOはなかなか勝てないゲンの悪い会場となっていた。
SUGOと黒山健一は、けっして相性が悪いわけではない。1996年、初めて全日本チャンピオンとなったのは、この会場だった。それも、トキの世界チャンピオンマルク・コロメにグラハム・ジャービスといった世界のトップライダーを相手に、オールクリーンを達成という快挙を持ってのタイトル獲得だった。さらに歴史をたどると、父親黒山一郎も、SUGOとの相性はよかったらしい。だから今年こそ、SUGOで勝利したいという思いは、黒山の中で大きかったようだ。
「チャンピオン争いよりも、とにかくSUGOで勝ちたい」
中部大会が終わった時点で、黒山はそう宣言していた。
黒山は、いまだ2006年の全日本タイトルを決めていない。SUGOで勝てば、もちろんチャンピオンは決まるのだが、そういうことではなくて、黒山はSUGOで勝ちたかったのだ。
一方ライバル小川友幸は、3連勝したあと黒山に連敗し、タイトル争いで勝利する望みは限りなく小さくなってしまった。それでも、ここで勝てば黒山と同じく、4勝のタイでシーズンを終えられる。もちろん、逆転タイトルを狙うにも、まず小川が勝利して、その上で黒山が調子を崩すのを待たなければいけないから、勝利は小川にとって、譲れない条件だった。
さらにSUGOの伏兵でもあり主役でもある野崎史高。この2年は勝利を飾ったが、今年は4ストロークマシンに乗り換えて以降、表彰台獲得も苦しくなっている。そんな状況だから、今大会への抱負も、少しトーンが低い。
「3連勝をねらうというより、とにかくこのマシンで、自分の満足できる試合をしたい」
マシンとの慣熟、マシン自体の熟成、そして4ストロークに対する新たなテクニックの習得と、この半年間、野崎は忙しかった。そんな中、これが実力と納得できる試合はまだできていない。成績はなんでもいいから、とにかく納得のいく試合をしたいというのが、野崎のテーマだった。
試合は、小川の乱調で始まった。といっても、ライディング自体がおかしいわけではない。小川は芸術的なライディングセンスを持つ一方、ナイーブなメンタルを持つ。少し歯車が狂うと、ぽろぽろと失敗を繰り出してしまう。
黒山はといえば、ライバルがみな落下した2メートルの直覚の壁をクリーンで登りきって、大きなアドバンテージを築いた。これで試合は黒山ペースかと思いきや、黒山にとっても、そんなに楽な試合とはならなかった。この大会、例年のSUGO大会とちがって、難度がとても高かった。それも行けるか行けないかというサバイバルなセクションもいくつかあった。最初に黒山がアドバンテージを作った第3セクションもそのひとつ。ここは結局、1ラップ目の黒山以外は全員が落ちてしまった。そして第6セクションもまた全員が5点。最終の10セクションも、野崎と黒山が1回ずつ3点で抜けたのみ。勝負の行方を左右するセクションは、実質的にこれ以外の7つのセクションとなる。この7つのセクションでミスを犯せば、それで負けが決まっていく。いつになく大量得点をとりながら、その実トライアルはやっぱり神経戦だった。
黒山のアドバンテージがふっと小さくなったのは、第8セクションのブロックに飛び乗りそこねたときだった。ここは野崎も小川もクリーンしていて、黒山と野崎の点差は6点と縮まった。その後、最終セクションで野崎だけが岩盤を登ってその差4点。黒山のリードも、ひとつまちがえればどう転ぶかわからない戦況だ。
しかし結局、野崎は3ラップ目に第2と第8という「勝負できる」セクションを5点としてしまい、これでほぼ勝負あり。終わってみれば黒山との点差10点だから、いくつかの「たられば」を克服すれば、勝機も充分にあった試合だった。
足の骨折から始まって、マシンの変更といろいろあったシーズンだったが、野崎は最後にようやく、なっとくの兆しを得る試合ができたというところだろうか。
そんな状況は、黒山とて変わらない。特に黒山は、今年にはいって持病となった肩の脱臼にたびたび悩まされた。シーズンオフには、すぐに手術をする予定でもある。もちろんマシンの乗り換えには、野崎同様に悩みもした。そんな中、スコルパ・ヤマハという日本のテクノロジーのチームでのはじめてのシーズンを終え、7度目のタイトル獲得は新たな喜びとなった黒山だった。パドックにはヤマハのステージトラックがやってきて、3ライダーのトークショーも開催。チャンピオンTシャツを着込んだ黒山は
「こんなの着るの、7年間で初めて。こんなんが用意されているのをしっていたら、ぼくは小心者ですから緊張してまともに走れなかった」
と笑っていた。冗談半分ではあるが、黒山の神経も、またナイーブなのだ。
野崎に敗れたこの2年、黒山はいずれも最終戦を待たずにタイトルを決定している。タイトルを決定した状態での最終戦に、ベストのモチベーションをもってのぞむのは、さしもの黒山でもむずかしかったのかもしれない。今回は小川とのタイトル争いが続いていたことが、結果的に最終戦の勝利につながったのかもしれない。
他、イタリアにトライアル留学していた小川毅士が今年初めて全日本に参戦。ところが1年ぶりに乗った自分のマシンはイタリアでの愛車とずいぶん様子がちがうし、時差ボケもあれば全日本の空気にもとまどい、なんと最下位のまま試合を終えてしまった。世界選手権やTDNでは「うまいんだけど結果につながらない」毅士だが、今回はどうひいき目に見てもいいところなし。これがシーズンの幕引きとなるのは本人も不本意だろうが、残念無念。
【国際A級】
三谷英明とタイトル争いを継続中の小森文彦が勝利を飾った。
しかしその勝利は薄氷。1ラップ目は1点差で三谷がリード、2ラップ目は同点クリーン差で三谷がトップ。そして3ラップ目にはじめて小森がリードをとったが、結果はやはり同点クリーン差。三谷と小森、ふたりの戦力が、ほとんど伯仲している証が、今回の結果となった。
「序盤に三谷さんが失敗したのが見えたので気分が少し楽になりましたが、気にしていてはいけないと思って自分の走りに集中しました」という小森。
一方三谷は2年続けてランキング2位。「チャンピオンはともかく、今日は優勝したかったけど、どうもぼくはチャンピオンはとれない境遇みたい」とライバルでありチームメイトである小森のタイトル獲得を言葉少なに祝福していた。
3位入賞は大金星。小森の後輩である長野県出身の斉藤晶夫。ラップごとに確実に減点を押さえてついに表彰台を獲得した。同期でA級に昇格した仲間の中では遅咲きの部類に入るも、表彰台獲得は一番乗りとなった。「今日はありえない結果となったけれど、来年はこれをありえない結果でなくしたい」と早くも来シーズンに期待を寄せる。
【国際B級】
シーズン前から注目株のひとりだった藤原慎也が初優勝。チャンピオンの平田雅裕が3位、平田とタイトルを争った志津野佑介が2位と、三者三様の表彰台。
藤原は、GC大会で全国区に名乗りを上げたB級1年生。兄は04年B級チャンピオンの藤原由樹で、ライディングセンスのよさは折り紙付き。しかしB級1年目とあって、コンスタントな好成績はむずかしかった様子。勝利は、今回が初勝利となった。
「セクションがむずかしめだったんで、ぼくにはあってたと思います。最後に勝てて、応援してくれたみんなやお父さんや家族や彼女にいいところを見せられたんで、よかったです」
なお、今回前日のミーティングで、コース場に給油ポイントが設けられることが発表された。給油はパドックでのみおこなうのが規則で、給油はパドックもしくは指定給油所にておこなうのが規則で今回の処置は安全を見越した処置というが、大会前日になっての通達は違和感のぬぐえない処置だったように思える。