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競技マシンのお値段
ホンダが2000万円のオートバイを売り出すということで、ふつうの新聞とかが驚きを込めてとりあげて、庶民の方たちがびっくりしている。2000万円といったら、こりゃ逆立ちを百回くらい繰り返しても買える額ではない。すごいなぁと思いながら、ふとトライアルマシンは、なんて安いんだろうと思ってしまったのだった。
このマシンは、MotoGPでタイトルを獲得したRC213Vを、ほぼそのまんま公道走行用にしたもので、似ているとかそういうレベルではなくて、MotoGPマシンそのものといっていいものらしい。
レース界にはホモロゲーションというものがあって、なんとかというクラスに参加するマシンは何台以上の市販がされていることが条件、なんて制約があったりする。そうじゃないと、1台こっきりのスペシャルマシンがあっちからもこっちからも出てきて、レース活動の予算はふくれる一方だからだ。この2000万円も、そういうホモロゲーション対策の一環かもしれないけど、最近はロードレースのことにはとんとうといので、真相はさっぱりわからない。わかっているのはそのスペックがものすごいホンモノであることと、お値段が高くてとうてい買えないという、その2点だけだ。
ホンダは、2014年からRCC1000Rという、RC213VレプリカのMotoGPマシンを世に出している。レース活動を安価におさえるための、高度な戦闘力を持った市販レーサーというわけなのだけど、何台かのマシンとエンジンのメンテナンスなどを全部こみにして、1億円とかの投資になるということだ。これまたぶっとぶお値段だけど、MotoGPでの勝利の権利をつかむためには、高くない投資なのだと思う。
さて、レースングマシンの価値観がそういうふうにスライドしたところで、トライアルマシンのお値段を見てみる。いまやトライアルマシンはすっかり高くなっちゃって、100万円の大台に上ったものもちらほらある。大半は80万円くらい。安くない。というか、高い。
しかし一方、ざっと100万円のマシンを買ってきてそのマシンのオーナーになると、どんな権利(というか可能性)を与えられるのか、考えてみる。トライアルの場合、100万円ほどのマシンを買ってくると、世界選手権を勝てるとはいわないけど、マシンのポテンシャル的にはますまず走ることができる。MotoGPだったら、これがだいたい3000万円とか4000万円くらいになるんじゃないだろうか。
ロードレースなら3000万円のものが、トライアルなら100万円。これはもう大バーゲンだ。トライアルマシンが高いだなんて、言ってほしくない。唯一、そして最大の問題は、ぼくたちのお財布に100万円があるかどうかと言うことだ。
最近のトライアルマシンのラインアップを見ると、ベータやガスガスにはレーシングモデルがあって、世界選手権を走るのにポテンシャルを強化したいパーツが最初から組み込まれているものも売られているけど、これだって値段が倍になることはない。さすがに世界選手権のトップクラスのライダーになると、ぶら下がりの市販バイクに乗せられたんじゃおもしろくないみたいで、いろいろ手が加えられていたり、モンテッサにいたっては(外観はよく似ているけど)まるでベツモノのエンジンが積まれている。このファクトリーマシンのモンテッサのお値段を聞いてみると、はっきり答えてくれる人はほとんどいないんだけど、みんなの意見を総合すると、おそらくだいたい数千万円になるんじゃないかということで、しかしそれが世界チャンピオンマシンだから、MotoGPのマルク・マルケス号がいくらしちゃうのかを考えると、やっぱり大バーゲンにちがいない。
つまりトライアルを楽しむぼくたちは、とってもいい環境で楽しめているんじゃないかしらん。
それにしてもお財布の問題以上に大きな問題は、トライアルマシンを買おうと思うと、MotoGPでいえばトップクラスを争える競争力を持つすごいのしかなくて、ふつうのツーリングバイクみたいな存在のものがないということだなぁ。過去の歴史からして、中途半端なトライアルマシンを世に出すと、トライアルジャーナリスト(ぼくたちか!)や関係者から使い物にならないニセモノ呼ばわりされてしまってお気の毒。ちゃんとしたものを作るとなると100万円。オートバイを作る人の苦労もちょっとはわかってあげたうえで、ぼくらはなけなしのお金をはたいてトライアルマシンを買うことにいたしましょう。