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氷の上のトライアル
エネルギー飲料のRedBullが、ドギー・ランプキンを主人公に美しい映像を作って公開している。
フィンランドでロケをされたこの映像、ツンドラトライアルというタイトルで見ることができる。美しい映像と、トニー・ボウの先鋭的テクニックとは別の、トライアルらしいドギーの超越テクニックをご覧いただきたい。
エネルギー飲料メーカーというより、アクションスポーツをしかける達人団体がエネルギー飲料も売っているというほうが、モータースポーツを楽しむぼくらにはしっくりきるような、そんな印象のRedBullだが、その限度なく最高の舞台を設定するプロデュースは秀逸。
冒頭から犬ぞりに引かれて主人公が登場するのだが、犬ぞりレースは、世界でも最もぜいたくな競争のひとつだ。植村直巳さんも、犬ぞりで北極圏を旅するにはたいへんな苦労をしているし、犬ぞりレースに参加しようという人は、みな例外なく多大な資金を投入せざるを得なくなっている。
ロケ地はフィンランド北部。ここでドギー・ランプキンはなにをしようというのか。走り始めたランプキンは、いつもと変わりなく、華麗なライディングを披露する。マシンはガスガスだから、映像が収録されたのは2014年初頭の季節なのだろう。映像が発表された自分には、ランプキンはベルティゴのスポーツマネージャーを任じているが、その時点ではガスガスのライダーだった。エンドテロップには、映像にはひとつも登場しないベルティゴが協力者として列記されている。契約の不整合もなんのその。RedBullだからできるキャスティングだ。
雪と氷に覆われたツンドラ地帯で、はたしてランプキンは華麗にトライアルライディングを披露する。雪の中に作られた美しい(氷の)トライアルセクションとともに、これはCGなのではないかと勘ぐってしまいそうになる。エンドロールでは、撮影中のNGカットがちょっと紹介されていて、それを見るとランプキンもちゃんと失敗しているから、やっぱりこの映像は実写のようだ。
我々凡人にまねができるとはとうてい思わないが、織田裕二がヨコハマタイヤのコマーシャルで「乾いた氷は滑らない」とナレーションしたことがある。それが単なる宣伝文句ではないのは、この時期に寒い地方へやってくればわかる。昼間、気温が2℃や3℃くらいのとき、路面の氷は微妙に溶けていて、そんなときはつるんつるんに滑ってトライアルどころか、歩くのでさえやっとの思いだ。それが夜になり夜中になり、気温がぐっと下がっていくと、あんなに滑ったのはなんだったんだろうというくらい、すこすこと歩ける。さすがに新雪のふわふわ雪は埋まってしまって足下をとられるけど、それは滑るという印象とは別の問題になる。
とはいえ、だったら氷の上でのトライアルはへっちゃらなのかというと、いえいえいえいえ、ちょっとでもタイヤを空転させればそこには摩擦熱が生じるわけで、熱が発生すれば氷は溶ける。溶けた氷は鬼のように滑る。確実にタイヤをグリップさせていくテクニックをもつランプキンだからこそできる芸術的ライディングと思ったほうがよさそうだ。
それでももし、あなたがキーンと耳が痛くなるような極寒の地に住んでいるのなら、ランプキンのこの映像をちょっとまねして、氷の上を走ってみるのは悪くないかもしれない。RedBullには契約してもらえなくても、氷の上でグリップをつかむ感覚は、きっと土の上でのトライアルにも、役に立つにちがいないはずから。
●これまでに見たことがない映像の数々はRedBullオフィシャルサイト(http://goo.gl/J49U)へ
See into our world: http://goo.gl/J49U