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ガスガスの倒産ニュース
ガスガスが倒産したというニュースが世界中に配信されていて、ちょっとした騒ぎになっていたりもしているので、現状認識をまとめてみました。
ガスガスは、しばらく前から財政難に陥っていて、経営者が変わったり、さまざまな模索を続けてきた。いつごろからかといえば、ジェロニ・ファハルドがベータに移籍した頃から、こういう傾向はあった。レース活動を少しシェイプアップして、経営の健全化を求めはじめたのはこの頃からだったのではないでしょうか。
もともとガスガスは、オフロードモータースポーツが大好きな社長がふたりして立ち上げた会社だ。共同経営のような形だったが、オートバイの好きな人たちが集まって、オートバイの好きな人たちに向けてオートバイを作っているという雰囲気がむんむんの会社だった。当時、スペインではシェルコはなかったし、モンテッサもホンダの開発するマシンのデビュー前だったから、スペイン製の主力マシンといえばガスガスのみ。世界の主力はイタリアのファンティックとかベータとかSWMとかだったから、スペイン人にとってはおらが国のトライアルマシンというイチオシでもあったのかもしれません。
ジョルディ・タレスがガスガスに乗るようになってからは、当時の輸入元亜路欧さんに呼ばれてタレスが来日してそのテクニックを披露したりして、アットホームな雰囲気は健在でした。
でも世の中がそういう雰囲気でなくなってきたのは日本ばかりではありません。特にスペインは、今に至るまで大不況の真っ最中ということで、経済的復活にはもがき苦しんでいるという感じのスペインの昨今です。失業率が25%とか60%とか、ちょっと検索するとすごい数字を見ることができますから(話半分としたって)たいへんなんだろうなぁと思います。
そんな中、ほとんど世の中の役には立たないと思われるトライアル(運転技術の向上にはこれ以上のモータースポーツはないと思うし、その技術は災害時には絶大な威力を発揮するけれど、残念ながらそういうことはほとんど知られていないし)。しかもその経営スタイルは時代にそぐわぬ絆の強いクラシックスタイルだから、世界の時流には乗り遅れはじめていたのかもしれない。
最初に書いたファハルドのベータ移籍は、そんな変化への象徴的対処のひとつだった。ファハルドはガスガスと同じ資本のメガモというブランドの自転車でバイクトライアルを経験し、オートバイにデビューしたライダーで、生粋のガスガス育ちといえる。しかしいっぽう、アダム・ラガもタレスの秘蔵っ子として登場した生粋のガスガスっ子だ。このうちの一人を手放す決断は、さぞ苦しかったと推察されるけれど、よくも悪くも、それが世の中の流れだった。
それから先、経営のてこ入れが入ったり、初代のオーナーが失脚したり、様々なことが起きて、でも表面的にはガスガスは安泰だった。でもその頃だってヨーロッパに行くと「ガスガスがあぶないんだって?」とという話は出ていたりしたものだ。では本当にあぶないのかというと、ここまでつぶれていないのだから、あぶなくなかったともいえるし、ずっとあぶないまんまで、その都度なんとか乗り切っていたのかもしれない。
今、ガスガスの経営を仕切っているのはヤリブ・ジラットさん。Linkedinを見ると、イスラエルの人で、投信投資顧問となっている。いわば、経営立て直しの専門家が投入されてきたわけだ。ヤリブさんが社長(Chair Manだから、会長、なのかもしれない)となったのは、2013年3月からとなっている。長いガスガスの歴史からすると、つい最近ガスガスに参入した人ということになる。
多くの企業が自らの経営状態について必要以上のことを語らない姿勢を貫くことが多い中で、このヤコブさんは、比較的情報開示に熱心のようだ。今年1月には、こんなニュースも出てきている。
●ガスガス本社からのお知らせ
このお知らせは、不特定多数に向けて発進されたものだった。そして今回、ガスガスを輸入販売するインポーターに向けて送られたメールが、このPDF書類だ。
https://www.shizenyama.com/wp-content/uploads/2015/06/2015gasgas_letter.pdf
インポーターに向けて送られたものだから、ぼくらが見るものじゃないかという気もしないではないが、すでに各国で公表されているので、こちらでもご紹介することにします。
ちなみにイタリアのPHOTOTRIAL(http://www.phototrial.it)が伝えたのは簡単なこんな記述。「ガスガスは裁判所に倒産を申告したけど、新たな投資者が現れてうまくいくことを祈っている」と紹介しています。
PHOTOTRIALのマリオ・カンデローネは本業は銀行に勤める事務方らしいけど、トライアルへの愛情は相当に強く、ここにも復活への願いが込められている。
もちろんもっと客観的というか突き放した書き方をしているサイトもあるが、今の段階ではどうなるのかは誰にもわからない。
インポーターへのこの文書は、2015年5月18日にガスガス本社が破産手続をしたということを伝えている。今後、ガスガスにはまず管財人が入り、財産の管理を行なう。そののち、ガスガスを買い取って事業を続けるものが現れれば、元通り(あるいは元以上に、もしくは縮小して)のガスガスが復活するし、そうでなければブランドが消滅することになる。
日本のガスガス(トライアル)代理店のマーチさんは、まずは動向を見極め、名義が変わったなどの組織的変化が起こった時に告知をしたいとしている。
パーツの供給はいまのところ従来通りだが、新型車の供給は止まっている。
気になるバイクニュースによると、2015年2月以降ガスガスの年間生産台数は9,000台とごく少ない、と報じているが、先の●ガスガス本社からのお知らせのとおり、ガスガスは経営立て直しをするからマシンやパーツの生産には遅れが出ると宣言している。生産台数が少ないから需要が少ない、ということではないところをチェックしておいてほしかった。
パーツについては、おそらく生産はしていない(もしくはごく少量)ものの在庫があるので、出荷ができているということだろう。今後、管財人が入って状況が変わるかもしれないが、管財人としても在庫はお金に替えたほうが得策と考えるのがふつうだから、パーツ供給はしばらく現状維持で続くのではないかという。
ヤコブさんは、新しい出資者が近々決まるにちがいないとメールに書いているが、彼は職を離れるのではないかと思われるし、これまでうまくいく予定がうまくいかなかったのだから、この人の将来的予測はにわかには信じがたい。
ただし、ガスガスのマシンが非常に優秀なのは世界的に認められているところで(皮肉なことに、財政危機が深刻化してからのほうが、信頼性は増している)このブランドを自分のものにしたいと思う経済人が一人もいないということは考えにくい。
サポートする会社を当面失ったアダム・ラガは、世界中のファンに向けて資金援助を求める活動を始めた。
●アダム・ラガから協力のお願い
サイトはスペイン語のみのようでちょっとわかりにくいが、Donarボタンをクリックして支払いをするだけだ。
・5〜25ユーロ:直筆のポストカード
・25〜100ユーロ:HEBOのヘルメット
・100〜300ユーロ:アダム・ラガ個人レッスン
・300〜1000ユーロ:マウンテンバイク
などの得点があるから、お得かもしれない。
ラガはこのメールが世界中に送信された直後のチェコ大会では両日ともに2位に入って気合いを見せている。
まだ見ぬ時期ガスガス社オーナーの気合いも、ぜひ見せてほしい。
……、というような活動があったのだが、一瞬ののち、募金システムは閉鎖されちゃったようだ。マシンメーカー以外にも多くのスポンサーを持つ2回の世界チャンピオンのアクションとしては、ちょっとかっこ悪かった、ということかもしれない。