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Xトライアル開幕はボウ、不死鳥藤波が4位
2014年Xトライアル開幕戦はイギリス。トニー・ボウの安定的勝利はいつものことで、2位にカベスタニー、3位にファハルドがはいった。注目すべきは、9月に膝の靭帯を断裂した藤波がこれに参加し、見事4位入賞を果たしている。藤波は最終セクションまではファハルドにも勝る3位だった。ラガがセミファイナルで敗退して5位で続いている。
1月4日、2014年最初の土曜日に、Xトライアル(FIMインドアトライアル選手権)は開催された。昨年同様、開幕戦の会場はイギリスのシェフィールド。今年から、Xトライアルのルールが少し変わって、参加者はノミネートライダー5名とゲストライダー5名、あわせて10名。
ノミネートライダーの5名は、トニー・ボウ、アダム・ラガ、アルベルト・カベスタニー、ジェロニ・ファハルド、藤波貴久。.ワイルドカードのゲストは地元イギリスからジェイムス・ダビルとジャック・チャロナーとマイケル・ブラウンの3人、フランスからロリス・グビアン、2013年ジュニアチャンピオンのホルヘ・カサレスとなっている。
今年のXトライアルのルールは、ちょっと複雑だ。わかりにくいかもしれないけれど、できる限り解説していきます。
まずクォリファイは、ノミネートの5名とゲストの5名が、それぞれペアを組む。今回はランキング順にボウ、ラガ、カベスタニー、ファハルド、藤波と並んだノミネートライダーに、グビアン、ブラウン、チャロナー、ダビル、カサレスがあたることになった。
これまでクォリファイは、一人のライダーが全セクションを一気に走った。それが今年のルールでは、クォリファイもひとつのセクションごとにトライを交代してトライすることになった。どの対戦も、ゲストライダーが先を走る。ノミネートライダーはゲストライダーの手の内を見られるから、多少は優位に立つ。トライアルでは、だいたいこういう有利不利はあるものだ。
ここではそれぞれ5組の対戦で勝利した5人がセミファイナル進出の権利をまず得る。減点数は問われない。なので3点で走りきったライダーが2点で走りきったライダーに敗退して、15点減点のライダーに勝った12点減点のライダーがセミファイナルに進出するという不条理が発生することもあり得る。そんな場合を考慮してか、敗者復活のような制度が用意されている。敗退した5人の中で、最も現点数のよかったライダーが1名、セミファイナルに進出する。これでセミファイナルは昨年までと同様、6名での争いとなる。仮に対戦する二人が同点だった場合は、最後のセクションでの走破タイムが速いほうに軍配が上がることになっている。
6名が参加するセミファイナルでは、同じく3組の対戦ペアが作られる。ここではクォリファイの1位と6位、2位と5位、3位と4位が対戦する。ここでの注意点は、クォリファイでの順位というのは、減点数順となっていることだ。先の例のようにたとえば2点のライダーに負けた3点のライダーは、敗者復活でセミファイナルに進出するが、クォリファイ順位は2位となっている可能性もあるわけだ。
それぞれの対戦ペアは、まずダブルレーンをおこなう。ここで勝ったほうが、セミファイナルでの4セクションをあとからトライすることになる。最初に3位4位ペアが走り、次に2位5位、さらに1位6位ペアが走り、ペア同士が同点の場合はダブルレーンでの勝者がファイナルに進出する。ペア同士でなく同点者が出た場合は最終セクションでの走破タイムで勝敗を決めるのはクォリファイと同じだ。
ここでもそれぞれの対戦ペアの勝者である3名がまずファイナルに進出し、さらに残る3名の中から、スコアのいい1名が敗者復活でファイナルに進出する。ファイナル進出は4名。4名でファイナルを戦うのも、昨年同様だ。
そしていよいよファイナル。4名が勝利を目指して戦う。これも最初はダブルレーンだが、ダブルレーンはセミファイナル同様、まずはトライ順を決めるだけのものとなっている。最初にセミファイナル3位と4位が対決する。この場合の順位は、セミファイナルのサイト同様、セミファイナルでの減点によって決められている。つまりセミファイナルの対決ペアで敗退しても、2位以上になる可能性はある。3位と4位のダブルレーンで勝利したライダーは、次は2位のライダーと対決する。ここで勝利したライダーが1位のライダーと対決する。つまりファイナルでは、4人のライダーの誰もが、一番最後にトライできるチャンスを持っている。ただし3位と4位のライダーは3回勝つ必要があり、2位は2回、1位のライダーは1回勝つだけで最終スタートの権利を得ることになる。
4人で戦うファイナルで、もし同点が出た場合は、その場合はダブルレーンでの結果で勝敗を決めることになっている。全員同点なら、その場合は最初に対戦したダブルレーンの結果が大きな意味を持ってくる。成績に反映されないことが多いダブルレーンだが、おろそかにしてはいけない対戦でもあるのだった。
昨年までのXトライアルの対戦ルールは、ときとして気まぐれな運命で勝敗が決まることが少なからずあった。セクションの設定次第では、最初のダブルレーンでの勝負で負けて1点減点した時点で、事実上ファイナル進出の目が断たれるなんてこともあった。今回のルールでは、そういった不公平がよく考えられていて、悪くないルールのようにも見える。
しかしルールが若干複雑で、しかも今回が初めての運用だから、現場はなかなか混乱だった。じっくり内容を煮詰めたであろうFIM幹部はともかく、開幕戦の運営スタッフやライダー、ましてや観客にいたっては、どうやって順位が決まっていくのか、わからないまま試合を観戦した人も少なくなかったのではないか。
もうひとつ、FIMが打ち出してきた新ルールは、アンダーガードでの接地を1点とするものだった。高いステアなどでアンダーガードを打ちつけてアンダーガードを岩にのせて停止し、ゴリゴリと位置を修正して安定した状態でマシンを進めると、最初にアンダーガードをのせた時点で1点、ゴリッと移動した時点で1点と減点が加算していくという。アンダーガードが接地しても、そのまま動き続けている場合はこの減点は無罪のようで、運用面でちょっと不透明な部分を残してはいるが、FIMがかっこいいトライをよしとしたい意向が反映されたものとなった。つまりFIMは、アンダーガードを接地させてのライン修正をかっこ悪いと考えているということだ。
ともあれ、新ルールとなった2014年Xトライアルが始まった。クォリファイで最初に対戦したのは、昨年のXトライアルランキング5位の藤波と、Xトライアルがデビュー戦となるホルヘ・カサレスだった。カサレスはスペイン人。だからインドアは得意だ。ルーキーだが、藤波にとっては手ごわい相手となった。しかし藤波は、負傷して以降の初めての公式戦をよく戦って、カサレスに7点差の15点で勝利した。最後のセクションでは、バランスを崩して足をつく態勢となったものの、右足に不安があるため、そのままマシンをほうり出して5点となったという。すでにここまで12点差があったから、こんな計算もできるわけだ。昨年までとはちがい、カサレスに勝利すれば、あとから走る8人のスコアがどんなによくても、藤波のセミファイナル進出は確定する。
次のペアは、ファハルドとダビルだった。ここではファハルドが勝利するも、ダビルもよく健闘して12点でクォリファイを終えた。藤波より好スコアをマークしたが、しかしダビルはまずは敗者として今後の展開を見守ることになる。カベスタニーと対戦したチャロナーは、今回からオッサに乗っての参戦となったが、5セクションを走ったところで腕を負傷、リタイヤとなってカベスタニーのセミファイナル進出が決まった。
ラガとブラウンはラガが圧勝、ボウとグビアンの勝負はボウの圧勝だった。終わってみれば、ノミネートライダーの5名が順当にセミファイナルに進出。一方ゲストライダーの減点はといえば、カサレス22点、ダビル12点、ブラウン27点、グビアン21点で、敗者復活のひとりの枠はダビルが勝ち取った。これで6名のセミファイナル進出のメンバーが決まったわけだ。
セミファイナルの最初はダブルレーン。一発目の勝負はクォリファイ3位とファハルドと、4位ダビル。ダビルは敗者復活だったが、スコア的には藤波とカベスタニーに勝るものだったので、4位としてセミファイナルに進出してきた。この勝負はファハルドの勝ち。しかしその後、5位カベスタニーと2位ラガの勝負はカベスタニー、6位藤波と1位ボウの勝負は藤波と、それぞれが下克上となった。ただしここでの勝利は、このペアの二人のどちらが先にセクショントライをするかというだけのもので、あとはもしも対戦ペアが同点だった場合にしか活かされないスコアとなっている。
真っ先にトライしたダビルが、第1セクションで1点。結果的に、ダビルはこの1点が尾を引いてセミファイナル敗退となった。ボウを除くほかの4人は第1をクリーンして、次の第2でそろって5点。4人横並びでセミファイナルを終えたからだ。
問答無用でファイナル進出を決めたのはボウとファハルド。ボウのセミファイナルでのスコアは0。文句はない。ボウと、6点減点となったダビルを除く4人は、ともに減点が5点だった。しかしファハルドはダビルとの対戦で勝利しているから、この時点でファイナル進出が決まっている。残るはたいへん相手の二人が同点のラガとカベスタニー、そしてこのふたりと減点数で並んでいる敗者である藤波の3人だ。
ルールに従って、この3人の勝負は最終セクションの走破タイムによることになった。まずカベスタニーとラガのタイムによって、どちらかが勝者、どちらかが敗者となる。そして敗者は、もう一方の敗者である藤波との勝負となる。この場合、後から走るライダーはすでに走ったライダーのタイムを想定しながらトライすることができる。そもそもファハルドが走った時点では、4人が同点となるなどということは、誰にもわかっていなかった。56秒と結果的に最も遅いタイムとなってしまったラガにしても、その後を走るカベスタニーと藤波が5点以上の減点となればファイナル進出となっていたはずだ。藤波が最終組でトライができたのは、藤波にとっては幸運だった。しかしもちろん運だけではない。藤波は最後のセクションをクリーンしなければならなかったし、そして同点のライバルの3人よりも速いタイムで走りきらなければならなかったからだ。そして藤波は、ラガより7秒も速いタイムで最終セクションを走破。ラガのセミファイナル敗退が決まったのだった。
こうして、2014年初めてのXトライアルは、ボウ、カベスタニー、藤波、ファハルドの4人で勝敗を競うことになった。セミファイナル最終セクションでの藤波のタイムは、ラガよりもカベスタニーよりもファハルドよりも速かったから、藤波は2位でファイナル進出を果たしている。
トライ順を決めるダブルレーンでは、まずカベスタニーとファハルドの勝負で、これはカベスタニーが勝利した。これでファハルドがトップスタートに決まっている。次がカベスタニーと藤波の勝負。これもカベスタニーが勝利した。これで藤波がファハルドに次ぐトライ順となった。最後にカベスタニーとボウの勝負。これはボウが勝利して、カベスタニーが3番目、ボウが最後のトライとなった。
ここではボウとカベスタニーが好調だ。藤波とファハルドは、二人にやや遅れて、3位争いを展開することになった。第1はそろって2点、第2はそろって5点。第3セクションでファハルドが5点、対して藤波が1点とタイムオーバー減点1点の計2点で通過。3点差で最終セクション。藤波の3位表彰台は、目前だった。最終セクション、ファハルドがクリーン。藤波も、ここは充分クリーンを狙えたセクションだった。つまり藤波の、負傷後初の世界選手権で、表彰台を獲得するのも目前だった。
ところが最後の最後で、藤波は落ちた。残念だが、勝負とはこういうものだ。思えば、去年の日本グランプリの最終セクションでの、ファハルドと藤波の戦いが、そのまま両者を入れ替えたようなものだ。
これで結果、藤波は開幕戦を4位で終えることになった。しかし表彰台争いをしての4位だから、その意義は大きい。この1戦は藤波にとっては、2014年の始まりを意味するだけではなく、靭帯を失って肉体改造をして心機一転をはかっての、新たな藤波貴久の始まりの戦いだったからだ。