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トニー・ボウ、XトライアルでV11
3月に3戦が開催されて、全4戦のXトライアル2017年シーズンが終了した。結果、トニー・ボウは4連勝でチャンピオン。11回目のXトライアルタイトルを獲得して、通算21個の世界タイトルホルダーとなった。
*FIM配信の動画もリンクしました。
3月11日はオーストリアのウイナー・ノイシュタット、3月25日がフランスのマルセイユ、そして3月31日がフランスのニース。ほぼ毎週の連戦だ。
Xトライアルは毎回8名が参加して、そのうち7名がノミネートライダー、1名が主催者推薦のワイルドカードライダーとなっている。ウイナー・ノイシュタットはフランス人のロリス・グビアン、マルセイユはハイメ・ブスト、ニースがフランス人のアレックス・フェレールがワイルドカードとして参加した。8名はクォリファイを走り、点数のよい者から4名がファイナルに進出する。クォリファイもファイナルも、トライ順を決めるためにダブルレーンのスピードレースを行うシステムになっている。
ウイナー・ノイシュタットでのボウは、クォリファイもファイナルも他を圧倒して勝利した。しかしマルセイユでのボウはクォリファイは3位、ニースでは2位と、トップをとれていない。それでも、ファイナルでは圧勝して、連覇を守ったのだった。
クォリファイの順位は、実は結果に大きな影響を及ぼさない。4位と5位ではファイナルに進めるかどうかの天と地ほどの差も出るが、4位以上に入ればファイナルには進める。そしてトライ順はスピードレースで決めるのだから、スピードレースが速ければ、4位でファイナルに進んでも最後のトライ順を得ることが可能だということだ。
マルセイユのクォリファイで、ボウは第4セクションで5点になっている。クォリファイでのボウの減点はこれだけ。ここはアンダーガードをかけていけば抜けるのはそれほどむずかしくない設定で、しかしクリーンしようと思うと難度が高まる。クォリファイ通過がまず確実のボウは、ここでクリーンを狙って失敗したのだった。
ファイナルでのボウは、まずクォリファイ4位のボウと対戦して勝利、次に2位のカベスタニーと対戦して勝利、さらにクォリファイトップのラガと対戦して勝利して、ファイナルでのラストトライの権利を得た。
ニースでは、クォリファイ2位でファイナルに進出。珍しくタイムトライアルでラガに劣って、トライ順はラガに先立っておこなうことになったが、これがボウにとって、致命的なハンディとならなかったのは結果を見ても明らかだ。
圧巻だったのは、やはり最終戦のニースだった。最終トライのラガを前に、次々にクリーンをたたき出していく。クリーン以外のスコアがないボウに、勝てる相手は誰もいない。結局6セクションのすべてをクリーンして、その実力が圧倒的であることを、ニースのファンのみならず、すべてのXトライアル関係者に見せつけた。
ボウのタイトルはインドアで11、アウトドアで10。2007年にモンテッサ入りをしてから、欠かすことなくタイトルを獲得している。ボウのタイトル獲得劇はいったいいつまで続くのだろう。11個目のアウトドアタイトル、そして22個目の世界タイトルを目指す世界選手権シリーズは、もうまもなく開幕する。
ランキング2位を獲得したのはラガ。クォリファイではボウを破ることもあったが、ついに勝利はできず。2016年開幕戦、TRSで初めてXトライアルに参戦したときに勝利したのが、いまのところラガの最後の勝利になっている。
それでも、2位の座はだれにも譲らないという点で、ラガの実力が高いレベルで維持されているというのがわかる。3位以下は、もう少し混戦なのだ。
開幕戦バルセロナではファハルドが3位、カベスタニーが4位だった。ウイナー・ノイシュタットではカベスタニーが3位、ファハルドが4位。順位は入れ替わっているが、ファイナルを走るのが同じメンバーという点では変わりがなかった。
しかしマルセイユ。ファハルドが調子を乱して、6位に低迷した。これでランキング争いはカベスタニーが一気に有利になったが、ところが最終戦、今度はカベスタニーが大乱調、ブービー賞の7位まで落っこちてしまった。ファイナルに進んだファハルドが3位以上なら、ランキングは再度逆転してファハルドが3位、カベスタニーが4位となる。もしファハルドが4位なら、カベスタニーが1点差でランキング3位を得ることになる。
ニースのファイナルでの戦いは、スペイン人以外の初めてのライダーとしてダビルが登場した。ダビルとファハルドは同点だったが、タイブレイクの結果、ファハルドの3位が決定した。最後の最後まで、注目を集めたランキング3位争いだった。
カベスタニー、ファハルドの乱調は、トライアルならよくあることとは言え、もう一方ではたった5つか6つのセクションで決着をつけるという、Xトライアルならではの試合システムによるものでもある。伝統的に、スペインで開催される場合のセクションは高さの高い、メリハリははっきりするが不確定要素の少ないもので、特に走り慣れたライダーにとってはセクションを見た段階でだいたい結末が見えてしまう傾向がある。いっぽうその他の国のセクションは、形状が複雑な大きな丸太などが用意されて、必ずしも持ち合わせたテクニックだけでは解決できないことがある。
アウトドアは4時間、5時間、30セクションという長丁場だが、対してXトライアルは5セクションちょっとで決着がつく。アウトドアにはアウトドアの、インドアにはインドアのむずかしさがある。カベスタニーは最後にXトライアルのワナにはまって、ランキング4位でシーズンを終了することになった。
ランキング5位は藤波となった。インドアはあまり得意ではないのは自他共に認めるところ。加えて今シーズンは、Xトライアルが開幕しても、インドアの練習をトレーニングに組み込まず、本命のアウトドア一本に目標を絞っていた。だからといって勝負を逃げているということではなく、競技の現場できっちり集中して持てる力を出したい、その上で、どこかでファイナルに進出したいと戦ってきた。
しかし今シーズンの4戦は、ついにその望みはかなわず、6位と5位が2回ずつでシーズンを終えた。最も惜しかったのが、最終戦のニースだった。藤波はクォリファイの第2セクションで5点となっているが、ここは抜けられると想定して挑んだセクション。もしもここをクリーンできなくても、1点か2点で抜けていたらファイナル進出は可能だった。カベスタニーが乱調したという点でもチャンスだったのだが、調子を上げたダビルにファイナルの席を奪われたかっこうとなった。
ニースの藤波がファイナルに進出できず、ダビルがファイナルに進出したことで、藤波とダビルの間のランキング争いにも逆転の目が出てきた。ファイナルを走れない藤波にはもうなす術がなく、ランキングポイント4点のリードを守れるかどうかは、ダビルが4位となるかそれ以上になるかで決まる。
おりしも同じようにファイナルに進出できなかったカベスタニーは、ファハルドが3位になるか4位になるかでランキング3以下4位が決まる。藤波とカベスタニー、いわば土俵の外でのランキング争いは、また熾烈だったわけだ。結果、ファハルドとダビルは大接戦で、最後にファハルドの3位が決まって、カベスタニーは2点差でランキング3位を逃し、藤波は1点差でランキング5位を守ることになった。
ニースで4位となったダビルは、今シーズンファイアを走った唯一の非スペイン人となった。今シーズンはヴェルティゴからかつて愛車としたガスガスに乗り換えたものの、開幕戦と第3戦マルセイユで7位と低迷。最終戦でのファイナル進出は、苦戦で始まった2017年に一矢報いた結果となった。
ランキング7位のブストは、今シーズンはバルセロナとマルセイユの2回、ワイルドカード出場をした。マルセイユでは藤波、ファハルドを破ってファイナルに進出した。全戦出場していれば、藤波の協力なライバルになったばかりでなく、どこかで表彰台にのぼる活躍を見せたかもしれない。ノミネートライダーがランキング上位から決まっていくのと、同じ国のライダーばかりが出場するのでは世界選手権としてよろしくないという理由で、ブストの全戦参加は許されなかったが、出たくても出られない世界選手権のしくみに、なんらかの改善策があればと思ってしまう(2005年、ワイルドカードで出場したボウは開幕戦で勝利。ポイントリーダーを呼ばないわけには行かず、その年は全戦参加することになった、ということもあった)。
ノミネートライダーの最後の一人、ドイツ人のフランツ・カドレックは、オーストリアで7位になった他は、3戦とも最下位に終わった。カドレックはまだまだ成長が期待される若手ライダーだが、インドアは参加するチャンスがあって経験値を高めていけるものだから、カドレックのインドアスキルが今後どうなっていくかは未知数だ(2018年に、再びノミネートされることはおそらくないと思われる)。
ブスト以外のワイルドカードライダーは、ニースに参加したフェレールがカベスタニーを破って6位となったのが目立った活躍で、オーストリアに出場したグビアンは最下位の8位と、やはり苦しい戦いとなった。
4戦でそれぞれ出場枠は8名。のべ数で数えると、イギリス、日本、ドイツが4人回、フランスが2人回、対してスペインが18人回と抜きんでている。表彰台はスペインが11、イギリスがひとつ。メーカー別で見ると、ベータが1、TRSとヴェルティゴが4、シェルコが5、ガスガスが8、モンテッサが10。実力ゆえとはいえ、モンテッサとスペインに圧倒されているXトライアルの構図が見える。
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