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黒山健一は世界チャンピオンになれるか
黒山健一が、世界チャンピオンを目指して、7月の世界選手権トライアルGPの2戦に参戦する。野崎史高(2002年ジュニアチャンピオン)、藤波貴久(2004年世界チャンピオン)に次ぐ、3人目の世界チャンピオン誕生になるか。期待は広がる。
黒山健一が参戦を表明したトライアルEクラスは、世界選手権の6番目のカテゴリーとなる。世界選手権のカテゴリーば、最高峰クラスTRIALGP、女子の最高峰TRIALGP WOMEN。セカンドクラスとなるTRIAL2、TRIAL2 WOMEN、そして若手登竜門のTRIAL125となる。
TRIALGPとTRIAL2は2018年シーズンに9戦(8大会)組まれている。WOMENクラスは4戦(3大会)、125ccは6戦(5大会)。これに加わるTRIALEが2大会2戦となっている。
TRIALEはその名の通り、電動バイクのクラスだ。2017年から世界選手権に組み込まれたが、2017年は1戦のみの開催。2018年は、2戦とはいえ、初めての選手権らしい選手権となる。
2017年、フランスGPの1戦のみの戦いでタイトルを獲得したのは、ガスガスTXEに乗るマルク・コロメだった。コロメはご存知、1996年、モンテッサCota315Rプロトタイプで世界チャンピオンを獲得させたスペイン人。TXEもまた、プロトタイプデビューイヤーでのチャンピオン獲得だった。
2017年、フランスGPが開催された当時、このクラスにエントリーができる市販トライアルマシンは、エレクトリック・モーション社(フランス)のEMがあるだけだった。参加したのは12台で、EMは7台が参加。ガスガスTXEはプロトタイプで、参加はコロメの1台のみ。他に、メカテクノが2台、SoREVが1台、参戦していた。
SoREVなるマシンは、どうやら個人の手作りマシンで、仕上がりも美しいとはいえないし、ちゃんと走るのかが心配な外観だったが、きっちり5位にはいっていた。ライダーがいいのか、マシンがいいのか、その両方か、判断はむずかしい。
黒山健一は11年間世界選手権に参戦、4度の優勝、2度ランキング3位の成績を残している。エンジンバイクではなしえなかった世界制覇、その夢をかなえるチャンスが、再びめぐってきた。黒山の力量とヤマハファクトリーの底力を持ってすれば、それは充分可能だと思われる。しかしあらゆる点が未知の、トライアルの本場ヨーロッパでの電動トライアルバイクの世界。ここでは、日本で得られる情報を吟味して、黒山のタイトル獲得の可能性について検証してみたい。なにごとも、世界の頂点に立つのは、そんなに簡単ではないはずだから。
TRIALGPサイトのライダー紹介は、現時点では2017年の参加者で、2018年のリストはまだ出ていない。いまのところでは、データとなるのはフランスGPの結果表だけだ。15セクション2ラップで、コロメの減点が19点、2位が67点だから、やはり世界チャンピオンの実力は卓越している。
ここで、コロメに大差で2位となったセサール・パニなるライダーについて調べてみると、無名のおじさんと思いきや、1993年にヨーロッパ選手権でランキング2位になった立派なライダーで、コロメとは同い年だった。ちなみにこの年のチャンピオンはドギー・ランプキンだった。
我が黒山健一はというと、実は1995年にヨーロッパ選手権に出場したことがある。日本人だから、本当はヨーロッパ選手権に出場する権利はないのだが、よくも悪くもどんぶりな感じで出場ができたものと思われる。このときのチャンピオンはマルセル・ジュストリボ。黒山はランキング2位だった。この戦績だけ見れば、黒山はバニなるライダーとどっこいということになるのか。
いやいや、パニはヨーロッパ選手権ランキング2位となった後、世界選手権に挑戦することなく、トライアルの一線から退いていたらしいので、その点、黒山といっしょにしてしまってはどちらにも失礼になるだろう。
フランスGPの5位には、マテオ・ボシスなる選手がいる。ボシスといえば、急逝したイタリアの高名なチャンピオン級ライダーだが、このマテオはその息子になる。YouTubeを見ると、マテオがEMに乗るシーンを見られるのだけど、これがなかなか素晴らしい走りをしている。
マテオ・ボシスとエレクトリックモーションマシン
それでもコロメ19点に対して106点もの減点を献上するのだから、トライアルはむずかしいということだろう。
黒山は世界選手権に挑戦するについて、セクション的には問題なく走れるはずだと読んでいる。現状のTY-Eのポテンシャルは、全日本選手権のIASをなんとか走れる、IAの上位陣とはよい戦いができるというのが黒山の読みだ。セクションの走破力は必ずしも排気量とイコールではないが、この黒山コメントを翻訳すると、250ccエンジンと同等かそれ以上の実力は持っているということだろう。
TRIALEは、TRIAL125と同じゲート・カラーが緑のラインを通る。16歳のデビューの頃から、世界選手権GPクラスのセクションしか走ったことがない黒山にとって、TRIAL2やTRIAL125のラインは目をつぶって走れるとは言わないまでも、そうとう次元のちがうレベルというのは、疑いがない。
ちなみにフランスGPでのTRIAL125の優勝スコアは26点、コロメは19点だから、さすがに世界チャンピオンの貫録は充分。というか、125ccの若いライダーに7点差というのは、逆に僅差に過ぎる気さえする。コロメも、実戦から遠ざかっていて(引退して、もう10年ほどになる)トライアル勘がにぶったといえばコロメに失礼か。コロメも、本格的復帰を考えず、テストの延長として参加しただけかもしれない。
しかし7点差はあくまでもトータルの減点差。コロメは1ラップ目に減点19を献上し、2ラップ目はオールクリーンをした。おそらく、オールクリーンこそが本来のコロメの実力ではないだろうか。1ラップ目の減点はトライアル勘の問題か、あるいはTXEとの完熟不足だったと考えると合点がいく。
2018年のTRIALEセクションが2017年と同じわけはないのだが、仮にライバルがオールクリーンをしてくるとなると、また別のむずかしい勝負になってくる。全日本で何回かオールクリーンを達成したことのある黒山だが、世界選手権で、電動バイクで、オールクリーン前提の勝負を強いられるとなると、課題もまた増えてくる。
もちろん、出場ライダーに合わせて、セクション設定が変わる可能性はある(規則として、Eクラスは125クラスと同じというのがあったはずなので、変えるとすると、125クラスも合わせてむずかしくなってしまうかもしれない)。実は、コロメは今年のシリーズには出場しないという話があり、加えてガスガスは、フランス人のロリス・グビアンの出場を発表した。グビアンは2017年限りでトライアルGPから引退したが、電動バイククラスで華を咲かせるにはいいチャンスだし、開催地が地元フランスというのもそそられるものがあるだろう。
正直なところ、2017年のTRIALEクラスは、元世界チャンピオンがひときわ完成度の高いガスガスに乗り、レベル差の大きいライバルに圧勝したという図式で、競技としてのおもしろさには欠けた面は否めない。しかし2018年、ヤマハと黒山の参戦によって、TRIALEクラスは、一気に競技として充実し、話題を集めることになるのはまちがいなさそうだ。
ちなみに、黒山健一がチャンピオンをとれるかどうか、こっそり藤波貴久に聞いてみたところ「そんなに簡単に世界チャンピオンになれるとも思えないが、全日本に専念して小川友幸と戦って全日本チャンピオンを奪取するよりは、世界チャンピオンになるほうが楽な戦いになるのではないか」ということだった。