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2018SSDT、水曜、木曜、どうでしょう?
スコティッシュ6日間トライアルは、いよいよ佳境。海の向こうでは、250名近いトライアルばかどもが、この世のものとも思えない魅力的な荒野と戦っている。
SSDTは6日間の戦いだ。6日間はそれぞれコースはまったくちがっていて、同じなのはスタートとゴール地点くらい。東へ行ったり南へ行ったり、あるいはフェリーに乗って対岸へ渡ったり。セクションやコースも、それぞれまったくちがう味わいが楽しめる。しかし共通しているのは、どこもかしこも、つるつるに滑り、あるときは底なし沼のごとくマシンをつかまえて離さず、ひたすら地獄のようなルートが地平線まで続いているということだ。
そんな6日間の戦い、3日目を終えてリザルトを見ると、この日もジェイムス・ダビルはトップで帰ってきた。減点はたったの1点。きのうまでは2日ともオールクリーンだったから、ここでようやくダビルのスコアに点数がついたのだけど、それでたったの1点だ。
※写真はジェームス・ダビル。前日まで最小限点で走ったライダーは、リーダーとして黄色いゼッケンを装着している。写真はTrialsCentral.comより。
2位にはドギー・ランプキン。3点が一つあって、これにきのうまでの1点を足してトータル4点。ダビルとの点差が小さいのか大きいのか、3日間90セクションを走ってその差3点だから、ないに等しい点差といえるでしょう。
3位、スコティッシュのギャリー・マクドナルドはこの日1点で7点、4位のサム・コナーがこの日3点で8点。ここまでがトータル一桁減点で回っている4人。
唯一、この日オールクリーンしちゃったのが、去年のトライアル2チャンピオン、イアン・ロバーツ。まだ若手だけど、イギリスのトライアルライダーの精神力は、こんなところで鍛えられているんだと思う。ロバーツは3日間を追えて9位。
そして、この日4点でいよいよ調子が出てきたのがアモス・ビルバオ。愛嬌のあるスペイン人のアモスは、もてぎで出会っておなじみのファンも多いんじゃないだろうか。テストライダーでもありマネージャーあでもあり、あるときはマインダーも務める。しかしタレスと同世代の世界選手権トップランカーであり、今でも乗せたらタダモンじゃないのはこういうシーンを見ると一目瞭然だ。アモスはこの日の結果で、総合17位まで浮上してきている。
女子ナンバーワンは疑いなくエマ・ブリストだけど、そのエマはこの日12点、トータル39点で29位。ちょっと順位を上げてきている。すごいなぁ。
そのエマの少し後ろ、この日14点、トータル48点で36位につけているイリ・スボボダというのがいる。野崎史高と自転車時代のライバルらしくて、ありゃスボボダじゃなくてボーダっていうんだぞと教えてもらったことがある。この人はチェコ人だから、いよいよ名前の呼び方はむずかしい。ちなみにSvobodaと書く。最初のSは発音しないか、聞き取れないか、なんだと思うけど、まぁいいや。この人、去年は去年はジェイムス・ダビルのマインダーとして日本にもやってきていたけど、もともと世界選手権を走っていたチェコのトップライダー。今でもTDNではチェコ代表として走ってます。そうそう、この人、SSDTに出るのは初めてなんで、新人賞レースのトップを走っている。でも2位には7点差だから、新人賞レースも楽じゃなさそう。
リザルトはずーっと下がって、121位を見るとジル・ブルガという人がいる。この日の減点が40点でトータル140点。だいたいコンスタントに40〜50点くらっているわけだけど、30セクションでこの減点だから、1セクションあたり1点か2点で抜けているという計算になる。15年くらい前、ニシマキは杉谷に、1日でもいい、全部5点でいいからタイムオーバー60分以内に帰ってきたらほめてやるからでてみろといわれたけど、一般人的にはだいたい目標はそのへんで、減点がいくつかという高いレベルの目標はあんまりおくべきでないのがふつう。だからやっぱりブルガのこの点数はたいしたもんだ。あ、ジル・ブルガって、1980年世界チャンピオンです。いま、みんなが愛用しているミシュランのトライアルタイヤを初めて世界トップのタイヤにしたのが、この男です。フランス人。
※世界チャンピオン、ジル・ブルガさん(左)白いヘルメットのライダーはフレッド・ミショーさん(世界チャンピオン、テリー・ショーさんのお兄さん・右)。ジル・ブルガさん自身のFaceBookよりいただきました。毎日2人で自撮りしてるんだけど、とっても楽しそう!
さらにリザルトをぐーんと下の方までめくってみると、170位、この日63点、トータル201点のフレッド・ミショーという人がいる。これ、誰あろう、6月のもてぎでもお世話になるティエリー・ミショーのお兄さん。現役時代からそっくりで、こっそり入れ替わってもわかんないぞ、なんていわれたものだけど、兄貴は弟のマインダーというか、あの頃はセクションに入って危ないところを助けたりという概念はなかったから、いっしょに走って、弟になにかあったときには自分のパーツを差し出し、セクションにつけば、先に走ってみて、弟に滑るところや気をつけるべきところをみずから走って示すという仕事をしていた。ジョルディ・タレスの兄フランチェスクも、エディ・ルジャーンの兄ジョン・マリーもそこそこにトライアルが上手なので、弟のためにこんな仕事をしていた。兄弟トライアル、今は黒山健一と二郎のコンビが有名だけど、そういえば、すっかりハードエンデューロの神様になったタデウス・ブラズシアクも、世界選手権トライアルに参戦している時代は、兄貴がマインダーを務めていたもんだった。
女子クラスの2位は、この日のブリストの点数のちょうど倍の減点を喫したサンドラ・ゴメスで総合81位。まずまずいい結果だと思うけど、ブリストにぐんぐん離されていくのはおもしろくないだろうなぁ。ブリストがよすぎるんだけど。
日本の大西さんは、この日139点、トータルは397点、タイムオーバーなし。とても順調だと思います。数えてみたら、この日は2点がひとつ、3点が4つでした。
そして4日目、木曜日。経験者によると、この日あたりまで来ると、なんか体がなじんできちゃって、少しらくちんな気がしてくるらしいんだけど、別にルートやセクションが楽になっているわけじゃない。そして、トップライダーにとっては、足がつけない難度が高くない、それでいて滑るからちょっと油断をすると簡単に足が出るという点で手ごわいことには変わらない。
この日のトップは2点のランプキン。ランプキンはきのうまでの4点に2点を足してトータル6点。3点で帰ってきたのは何人かいるけど、そのうちのひとりが、トップのダビルだった。ダビルはきのうまで1点だったから、これで4点。ダビル的にはだいぶ減点を増やしてしまったけど、まだたったの4点。そしてランプキンに2点差のトップを守っている。
3位のギャリー・マクドナルドもダビルと同じく3点だから、こちらも3位を守っている。ただ、トータルで一桁減点をマークしているのは、いまやダビルとランプキンの二人だけになった。
4位のジャック・プライスもこの日3点。5位のアンドリュー・チルトンという人もこの日3点。だからトップグループはほとんど動かない。このチルトンという人、吸いません、その名前は存じ上げないのだけど、どうもイギリス国内ではそこそこに名の通ったトップライダーのよう。今でこそ、SSDTのエントリーリストには名前に見覚えのあるのがいっぱいいるけど、それは世界選手権の125ccクラスとかトライアル2クラスに参戦していた経験があるからで、それ以前、世界選手権といえば世界選手権しかなかった時代には、そこまで手が届かなかった国内のトップライダーは、ぼくらのところまで名前が届いていない。もうしわけないけど、こっちもそこまで目が届かないので、SSDTのリザルトを見て、つい「無名の人がこんなトップにいる」なんて思っちゃうんだけど、思うだけにしておいたほうがいい。まちがっても、イギリス人の前でそんなことをいうと、なんだ、もぐりやろうめ、なんて目で見られちゃうかもしれません。
この日、サム・コナーが10点取ったので、ちょっと順位を下げて6位になっている。アモス・ビルバオもこの日10点で、順位をちょっと下げて19位。でもまぁ、大勢には影響がないでしょう。
エマ・ブリストもちょっと順位を下げちゃっているけど、この日20点、トータル59点できちんと32位を守っている。
さっき、4日目になると楽になるなんて書いたけど、もしかしたらそうじゃなかったのか、大西さんは、この日21点のタイムオーバーをくらっている。タイムオーバーは60分まで許されているから、大西さんは無事完走。この日の減点はタイムオーバーを含めて157点で、トータルは554点になっている。
SSDTでは、60分を越えるタイムオーバーをすると失格になるけど、それ以外にもヒルをすっ飛ばしたら失格という規則もある。昼飯を抜いたらいけないという意味じゃない。ヒルは丘だ。SSDTの1日30個は、いくつかまとまって設置されていて、そのひとかたまりをヒルと呼んでいる。セクション飛ばしは、SSDTでは10点ではなく50点。代償は大きい。申告5点は最近では許されていると思ったけど、それでもコース=セクションになっているところは多いから、申告5点は事実上あんまり意味はない。で、セクションの一つを見落とすのはしょうがないから50点減点で許してもらえるんだけど、ひとつのヒルをまとめて見落とすと、それは見落としでなく、敵前逃亡みたいな罪を問われて失格になる恐れがある。恐れ、というのは、そこにはやっぱり審査委員会みたいなのがあるんで、そこで審査をされて、容赦なしなら失格、なんか情状酌量があれば明日も走らせてやろうということになる。
でも最近のSSDTでは、失格になっても賞典外で走り続けることができることになった。だからリザルトにも「リタイヤしたライダーたち」ってのがあって、すでに30人程がここに名を連ねている。この中には、走ってない人もいるし、賞典外でも走ろうという人もいるみたいだけど、ところどころ(というか、たくさん)50点が並んでいるのは、どうせもうリタイヤ扱いなんだから、必死こいて全部のセクションを走らなくてもいいじゃんね、という甘えが出ちゃうんじゃないのかな。どうせ来たんだから結果が出なくてもたっぷり走ろうという思いはあっても、いざ走ってみるとあまりの荒野に、ルンルン走るモードだけでは根性がわき出てこないという、そんな事情じゃないかと思うんだけど、どうでしょう? ちなみに杉谷は一度エンジントラブルでリタイヤしたことがあるけど、翌日からはばっさり気持ちを切り替えて、その年デビューしたスコルパTY-S125Fのプロトタイプを追いかけて取材モードになってた。やっぱりモチベーションを引き出せないと思ったからだそうだ。
かくも一筋縄ではいかないSSDT、残りはあと2日。