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藤波、復活3位のベルギーGP
7月22日、ベルギーはコンブレイン・オ・ポンツというこじんまりとした古い町で、世界選手権第6戦が開催された。
勝利はやっぱりトニー・ボウ。ボウはこの勝利で自身102勝目。そしてモンテッサでの100勝目を挙げた。藤波貴久が3位表彰台に上る快挙。ようやく長いトンネルを抜けたようだ。
しかし今回のボウは、前日のプラクティスで肩を傷めて、当初は走り続けられるかどうかが微妙な状況だった。今回の勝利の陰には、ケガの先輩たる藤波のアドバイスや叱咤激励があった。
1週前に開催されたフランスGPは、TRGP/GPウーマン/TR2/TR2ウーマン/TREの5クラスの開催だったが、ベルギーGPはTRGP/TR2/TREの3クラスが行われた。3クラスの開催は昨今の世界選手権では少ない部類だが、いつもの3クラスはTRGP/TR2/125の3クラス。今回は125の代わりにTREクラスが設けられていて、参加人数は少なめだ。しかしそれでも、今回のコンパクトな会場には容量いっぱい。パドックと予選の人工セクションがびっしり埋め尽くされたコンパクトな会場がメインエリアとなっていた。
パドックでは、いつものように、モンテッサ、ガスガス、RFME(スペインのフェデレーション)、ベータなどの大きなトラックが並でいるが、その中で負けずに目立っていたのは、真っ青のヤマハの大型トラックとテントだった。TREクラスに参戦する黒山健一のパドックだ。
パドック周辺に最終セクションを含めて計4セクション。そこから徒歩30分のエリアに6セクション。さらに離れたエリアに4セクションが設営されている。この遠くの4セクションは、平地に砕石した大岩を並べただけの人工セクションで、せっかくこんなに美しいベルギーの風景の中というのに、おそらくここは工事中の資材置場を利用したものらしくトライアル的には魅力的ではなかった。
見どころは、徒歩30分のエリアにある計6つのセクションに集中していた。高低差のある斜面と、苔むしたロックの連続。絵になる難セクション続きだった。
金曜日のパドックを散策していると、ドギー・ランプキンが現れた。GP99勝の記録をもつドギーは世界選手権こそ引退しているが、今でもSSDTを勝ち続ける現役選手。世界選手権では予選セクションの試走と解説、予選のweb配信による実況解説を担当しているので毎戦回っている(もてぎでは予選のweb中継はなかったので、ドギーは来日していない)。
ドギーが連れていたのは、長男のアルフィーくん、13歳。父ドギー曰く、アルフィーくんはパートタイムトライアルライダーで、フットボールやら自転車やら、いろんなスポーツをやってる。その一つがトライアルだそうだ。彼女もいるから毎日毎日忙しいらしい。今の愛車はVertigo125。弟のフレイザーくん(10歳)もトライアルをやってるそうだが、こちらは詳細は不明だった。
そして藤波貴久選手に会う。肩の故障を抱えているとは思わせない元気ぶりだ。痛みはあってもマシンコントロール感覚は取り戻しているという。最近ドギー・ランプキンと現役を維持することについてじっくり話すことがあったとのこと。これだけ長いキャリアにかかわらず、藤波自身、今のトライアルがワクワク楽しくてしょうがない様子。ケガを重ねても怖さをまったく感じてない等々、先輩ドギーとの会話で自分自身の可能性をあらためて再認識したという。そんな話しぶりに藤波の自信と、好調ぶりを感じた。
予選は平地に大岩を並べた人工セクション。一見いつものようだが、マーカーを追っていくとクイックなターンが多い。いったんリズムを失うと一気に速度が落ちるテクニカルなものだった。ギア選択、チェンジのタイミングも影響する。藤波の予選1回目は、出口近くのテープを切り5点だった。
予選2回目の藤波はタイムを縮めるよりあえて減点を抑える作戦に出た。それが効して8位、藤早いスタートを免れた。予選トップはボウだったが、ボウは予選直前のウォーミングアップでヒザを負傷。藤波の肩の故障に加えてボウの予想外のケガでモンテッサチームはちょっと慌ただしい土曜日となった。
そして日曜日の決勝。天気は晴れ。1ラップ目の藤波は第3セクションまでをクリーンする好調ぶり。ヒザの故障をかかえたボウは5点はないもの少しずつ減点を増やしていった。そして第4〜8セクション群へ。急斜面に苔むした大岩が並ぶ難セクションで、ボウはこのエリアで2つの1点、残りはクリーン。ヒザの故障にもかかわらずボウがあっさりトップに立ちはじめる。そのままリードして1ラップ目を20点でトップ。2番手に31点のラガ、3番手が32点のブスト。そして4番手に38点の藤波と続く。
ボウの復調には理由があった。序盤、負傷したヒザが気になって、弱気になったボウが申告5点でセクションをパスしようかと悩んでいたとき、ハッパをかけたのが藤波だった。「大事なのは今だ、それで悪化したら、そのときまた考えればいい」と。大事を取って、逆の選択を選ぶ人は多いけれど、実際にその選択を実践してきた藤波のことばは、ボウには強く響いたにちがいない。
2ラップ目、第4セクションで藤波が大クラッシュした。あとで映像で見ると、頂上のステアケースを超えた直後に失敗。ハンドルを握ったまま真っ逆さまに滑り落ちてきた(ゴール後の藤波は、仲間たちに「あのクラッシュ見てくれたか?」と自慢している。クラッシュさえ楽しんでしまうところが藤波の好調の証しだ)。この第4を2ラップ目ともクリーンしているのはブストだけだった。
鬼門の第4は、1ラップ目にボウ1点、藤波は3点で通過している。この第4がベルギーの勝負どころのひとつだと言えた。奇しくも、Eクラスで黒山の敗因となったバック(停止)5点も、この第4セクションでのものだった。
遠く離れた第9〜12セクションをトライする頃、ライダーの持ち時間が足りなくなってきた。ほとんどが5点の第10セクションを藤波はエスケープし先を急ぐ。
街に戻って最後の第13〜15セクション。ラガもボウも5点になった13セクションを、藤波は1点で通過! これが大きかった。
最終セクションは、パドックのある町全体から見上げることができる小高い山(頂上はとても古い墓地)の斜面。かなり急勾配で乾いた土はフカフカに浮いていてグリップしにくい。頂上付近は特にフカフカで、トライするライダーはいずれも激しく土埃を巻き上げて登頂を目指す。藤波はここを1点で通過した。トップ争いはボウとラガが数点差、藤波はブストとほぼ同点で3位表彰台争いを続けていた。藤波がゴールした今、勝負はブストのスコア次第だ。
その、接戦の相手のブストがパンク。修理をしてゴールしたときには、持ち時間を4分超過していた。タイムオーバー減点4点が追加された。これで藤波の3位表彰台が確定となった。この表彰台で、藤波はランキングも一つ上がり6位になった。
「今日の3位は本当にうれしかった。チームとしてもボウと二人で表彰台に上がれたこともうれしい。今日の3位はぼくにとってすごく意味のある前進なんです。残りの戦いは、もう大丈夫だという自信にもなりました」
大ベテランは、周囲が藤波の引退時期をさぐっているのを知っている。しかし藤波自身は、まだまだこれで終わる気ではない。
●予選1回目
18-R6-QUAL1-results●予選2回目
18-R6-QUAL2-results●トライアルGP
18-R6-RESULTS-TGP●トライアル2
18-R6-RESULTS-T2