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ボウ、4年連続タイトル獲得
トニー・ボウが、4回目のインドア世界チャンピオンになった。3月27日、スペインのマヨルカ島でのインドア世界選手権最終戦。ボウは2位カベスタニーにちょうどダブルスコアで勝利。2007年にモンテッサに移籍してから4年連続でのタイトル獲得に成功した。
ランキング2位は今回2位のカベスタニー。ランキング3位は、今回は6位でファイナルを走れなかったラガ。ランキング4位にイギリス人のダビルが入った。
藤波はラガと同じくセミファイナルからファイナルに進出できず、今回5位でランキングは6位に甘んじている。セミファイナルでのダブルレーンでボウに勝利していればファイナル進出が決まり、ファイナルでダビルに勝っていれば今シーズンの初表彰台となったところだが、残念な幕切れとなった。
今シーズン、なにごともなく本来の実力に近い戦いができているのは、トニー・ボウとアルベルト・カベスタニーの二人。これ以外の面々は、今シーズンのルールに翻弄されて、ミスの一発でファイナルに進出できなかったり、ラストチャンスで敗退したり、さまざまな不運があった。
トライアルは、ロードレースやモトクロスみたいに、一発でリタイヤとなってしまうようなアクシデントがほとんどない。うまいライダー、強いライダーが試合を取りこぼすことはほとんどない。セクションのひとつひとつには、たくさんのドラマがあるにせよ、トライアルに詳しくないファンには、逆転劇のない、平凡な戦いの連続に見えてしまうかもしれない。
そんな危惧に、今年のインドアのルールは見事に応えた。藤波が、ファハルドが、ラガが、ちょっとした失敗で敗退して下位に沈んだ。そしてインドアをフルシーズン戦うのが初めてのダビルが、表彰台まで獲得した。強い者は強く、しかし意外性も発揮する。
こういう試合展開が緊張感があってわくわくするのか、応援したいトップライダーが早い段階で脱落してがっかりするのか、さて、みなさんはどうお考えでしょうか?
そんな中でも、やっぱりボウは強かった。第2戦マルセイユで勝利をカベスタニーに譲り、ランキングポイントもタイに戻されたボウだったが、その後2連勝して、13点のポイント差をつけて最終戦に臨んだ。
今年のインドアのルールでは、1位には20ポイントが与えられる。これはアウトドアも同じだが、2位以下のポイントは、インドアとアウトドアは異なる。2位は15点、3位は12点、4位9点、5位6点。勝利が大きく評価されるポイント設定だ。
ここまでのポイントは、ボウが75点、カベスタニーが62点。ランキング3位はずっと離れてラガが40点。ラガにはもうタイトル争いの権利はなかった。カベスタニーが優勝し、ボウが5位以下に沈んだ場合のみ、カベスタニーが逆転チャンピオンとなる計算だ。5位という順位は、ファイナルに進出ができなかった場合。つまりボウにすると、ファイナルに進出した時点で、タイトルは決定ということになる。
タイトル争いのプレッシャーがあるのかないのか、ボウはクォリファイは絶好調だった。ライバルがなにがしかの足をつく中、たったひとりオールクリーン。ただしライバルとて並のライダーではないから、4セクションのうち二つのセクションで減点したのはトップ6ではファハルドだけだった。
クォリファイで、藤波にはアンラッキーがあった。第2セクションでクラッシュして、左手中指を強打してしまったのだ。ハンドルとクラッチレバーで中指を挟んで、痛いのをがまんして残りのセクションをクリーンした。
結果、4セクションを走って藤波とダビルが5点で同点。ここでタイブレイクがおこなわれて、藤波がクリーン、ダビルは5点。藤波がクォリファイ4位でセミファイナルに進出、ダビルは5位で、ラストチャンスに回ることになった。
Qualification | ||||
---|---|---|---|---|
1 | Toni Bou | SPA | Montesa-HRC | 0 |
2 | Albert Cabestany | SPA | Sherco | 1 |
3 | Adam Raga | SPA | Gas Gas | 2 |
4 | Takahisa Fujinami | JPN | Montesa-HRC | 5+0 |
5 | James Dabill | GBR | Gas Gas | 5+5 |
6 | Jeroni Fajardo | SPA | Beta | 10 |
7 | Alexz Wigg | GBR | Beta | 11 |
8 | Loris Gubian | FRA | Gas Gas | 15 |
ラストチャンスは、クォリファイの5位から8位までの選手が参加する。最初におこなわれるダブルレーンは、クォリファイ5位と8位、6位と7位のライダーが対戦する。下位のライダーが上位ライダーと戦うのだから、結果はなんとなく見えている。ダビルが減点0、ファハルドが1点、ウイグとグビアンが3点で、ダビルとファハルドのセミファイナル進出が決まった。
Last Chance | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
Pos. | Name | Double Lane |
Sec1 | Sec2 | Total | |
5 | James Dabill | 0+0 | 0+0 | 0+0 | 0 | |
6 | Jeroni Fajardo | 0+0 | 1+0 | 0+0 | 1 | |
x | Alexz Wigg | 1+1 | 0+0 | 1+0 | 3 | |
x | Loris Gubian | 1+0 | 0+1 | 1+0 | 3 |
そしてセミファイナル。テレビ中継が入るのはラストチャンスからで、セクションナンバーは、ラストチャンスから振られている。なのでセミファイナルは第3、第4、第5セクションと数えられる。クォリファイのトップ4は、第1、第2セクションは走らないまま試合が始まるわけだ。
そのセミファイナルの最初のセクション(第3セクション)では、藤波とラガ、カベスタニーが減点1をとった。ファハルド、ダビル、ボウがクリーン。次の第4セクションでは、ボウとカベスタニー以外の4人が全員5点になった。最後の第5セクションでは、ラガが減点1となった以外は、全員がクリーン。オールクリーンのボウ、1点のみのカベスタニーが一歩抜きんでたが、他4名は接戦となった。ダビルが5点、ファハルドと藤波が6点、ラガが7点。
セミファイナルは、この3セクションに加えて、ダブルレーンで決着がつく。ダブルレーンは、ここまでの順位によって、ボウと藤波、カベスタニーとダビル、ラガとファハルドの組み合わせだ。ダブルレーンでは、勝つと減点0、負けると減点1。これに足つき減点が加えられる。セクション自体は、それほどの難度ではないので、勝敗をコントロールすることはできないが、減点1以内でおさめるのは、このメンバーにとってはむずかしくない。ボウとカベスタニーがファイナルに進出するのは、まず確定的。しかし残る4人は、状況次第だ。
ふつうに考えれば、ボウとカベスタニーは無理をすることはない。相手を勝たせて、自分は減点1をとり、安全にファイナルに進出することを考える。実際、カベスタニーはダビルに勝利を譲って1点減点を受けている。これでダビルは減点5のままセミファイナルを終了することになり、ダビルのファイナル進出も決定した。残るファイナル進出の席はたったひとつになった。
ラガとファハルドの勝負は、ガチンコ勝負だ。これに比べると、ボウと藤波の勝負は、まだあうんの呼吸が通じる。ボウがスピードをゆるめれば、ダブルレーンで藤波が勝利し、藤波のファイナル進出が決まる。藤波が6点なら、ファハルドが勝利して藤波と同点となっても、クォリファイ上位の藤波にファイナル進出の権利があるからだ。
しかし、藤波は勝たなかった。藤波貴久公式WEBサイトに、この顛末を藤波自身が語っている。ボウのタイトルを万全としたいモンテッサが、藤波にチームオーダーを出したのだった。
しかし藤波がダブルレーンで勝ったとしても、ボウのファイナル進出は決まっているし、チームがいったいなにを考えてオーダーを出したのかは、さっぱりわからない。ボウはこんなオーダーが出ていても出ていなくても、藤波にダブルレーンで勝つつもりはなく、ゆっくり走ってゴールした。藤波は、ゆっくり走るボウに勝たないように、最後でタイム調製をしながらゴールしなければいけなかった。
ボウがオールクリーン、カベスタニーが2点、ダビルが5点。ファイナル最後の席を得たのは、ラガに勝利したファハルドだった。
Semi Final | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
Pos. | Name | Sec3 | Sec4 | Sec5 | Double Lane |
Total |
1 | Toni Bou | 0+0 | 0+0 | 0+0 | 0+0 | 0 |
2 | Albert Cabestany | 1+0 | 0+0 | 0+0 | 1+0 | 2 |
3 | James Dabill | 0+0 | 5+0 | 0+0 | 0+0 | 5 |
4 | Jeroni Fajardo | 0+0 | 5+0 | 0+1 | 0+0 | 6 |
5 | Takahisa Fujinami | 1+0 | 5+0 | 0+0 | 1+0 | 7 |
6 | Adam Raga | 1+0 | 5+0 | 1+0 | 1+0 | 8 |
ラガを除くスペイン勢3人とイギリス人ダビルによる2010年最後のインドアトライアルファイナル。ボウは5点をひとつ取りながら、タイトルへ、そして勝利へ安定したトライ。子機ととこ、うまさも強さも、ますます磨きを増してきている。
インドアのタイトルは4個目。モンテッサに移籍して4年目になる今シーズン、ここまでで、すでに7個の世界タイトルを獲得したことになる。しかしボウはインドアの勝利で落ち着くことなく、その視点は4週間後のアウトドア世界選手権開幕戦に定まっている。
2位はこちらも安定していたカベスタニー。カベスタニーは、緒戦のクォリファイでちぐはぐなトライを続けたが、これが2ストローク乗り換えの儀式だったのか、その後はまずまずの結果を残した。今シーズンのカベスタニーは、昨年までのシーズン以上の活躍が期待できそうだ。
3位は順当にファハルド。ファイナルの成績だけを見ればカベスタニーをしのぐ好成績だ。ファハルドは、しかしランキングではダビルに先へ行かれてランキング5位となった。
ファイナルの最後のポジションはダビル。今シーズンは、ダビルが陰の主役だった。インドアではいまひとつ成績が残せないイギリス勢にあって、ダビルはコンスタントに中位をキープする実力を蓄えてきた。スペイン勢が4人もいるから、このポジションを得るには、スペイン勢の一角を切り崩していくパワーが必要だ。一説にはルールの恩恵を最大限に受けたライダーともいえるが、しかし実力が伴っていなければ、ルールがどう変化しても、これに対応することはできない。これから、難セクションへの対応度が増せば、このライダーはもっと伸びてくるにちがいない。ダビルは、ランキング4位となった。
今回5位は、セミファイナル敗退した藤波。結果論では、すでに藤波のランキング6位は決定的だったのだが、しかしもし藤波がファイナルに進出していれば、ファハルドに代わって表彰台に乗った可能性も大。となると、ランキングは6位変わらずだが、ファハルドと1点差まで詰め寄ることになる。今シーズン、すべての不運を背負った結果が、このランキングになってしまったのだった。
今回6位ながら、2度の表彰台がきいてランキング3位をキープしたのがラガ。藤波同様にラストチャンス敗退で7位という屈辱もあったが、まだまだインドアの雄ラガの実力は衰えていない。
Final | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
Pos. | Name | Sec6 | Sec7 | Sec8 | Sec9 | Semi Final |
Total |
1 | Toni Bou | 0+0 | 5+0 | 0+1 | 0+0 | 6 | 6 |
2 | Albert Cabestany | 0+0 | 3+1 | 5+0 | 1+0 | 10 | 12 |
3 | Jeroni Fajardo | 0+0 | 5+0 | 0+1 | 2+1 | 9 | 15 |
4 | James Dabill | 5+0 | 5+0 | 5+0 | 0+0 | 15 | 20 |