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2019開幕戦はボウが圧勝、そして
2019年のアウトドア世界選手権シリーズが開幕した。今年の開幕戦は、5月26日の開催、去年一昨年と最終戦に組まれていたイタリアだった。
開幕戦直前に、意外なニュースが入ってきた。ハイメ・ブストがガスガスからヴェルティゴに移籍をしたという。開幕戦の前ではあるが、すでにXトライアルのシーズンは始まっているから、こんな時期の移籍はなかなか珍しい(とはいえ、まったくなかったわけでもない)。あまりノーマルなカタチの移籍ではないかと思われるが、ともあれ、こんなハプニングから2019年シーズンは始まった。
それが波乱の幕開けだったのか、いよいよ大会の週末になっても、波乱は続いた。雨が降り続いていたのはお天気の気まぐれだからしかたないとしても、これも波乱の要因の一つだった。
最初の波乱は土曜日。予選でGPクラスの全員が5点になってしまったことだ。この会場の岩は、晴れていればざらざらしていてなかなか手ごわいグリップを発揮するのだが、雨が降るとつるっつるのつるっつる。すさまじい滑り方をする。125やT2(今回は男の子の3クラスが組まれていて、女子クラスはなしだった)はラインがやさしいから減点数もいい具合にばらついたが、トップクラスのGPは、速い遅いの問題ではなく、誰もゴールまでたどり着けなかった。
イタリアGPの予選は、去年からナイトセッションで組まれている。お客さんが土曜日の夜に観戦を楽しめるという趣向で、最近はモトGPでも夜のレースがあることだし、それはそれでなかなかのアイデアに思われるが、ただこの場合は、翌日のスケジュールはいつも通りという問題がある。
夜9時頃に予選が終わったら、それからマシンの整備が始まる。それから食事をして、明日のために寝なければいけない。選手側にとっては、なかなかハードスケジュールだ。そもそもがハードスケジュールの上に、全員5点になってしまってどうするのだという騒動があって、しかも雨。スケジュールは押せ押せになっていた。もう今日は予選はやめて、去年のランキング順に(正しくはランキングの逆順に)スタートしようよというライダー側からの提案もあったのだけど、主催者とFIMはこれを拒否、予定通り、Q1の順位を元にQ2をやってスタート順を決めるとの建て前を崩さない。
結局、Q2は予定通りおこなわれ、全部終わったら夜も更けていた。しかしそれ以上に、Q2もまた、全員が5点という結果になった。セクションはずいぶん簡単になっていたのだが、ドタバタの末に、ライダーの集中力も切れてしまっていたのかもしれない。
ともあれ、Q1、Q2ともに全員5点の結果、日曜日の決勝スタートは、Q2のスタート順のまま、ということになった。最初に引いたくじの悪かったビンカスが一番最後のスタート、Q1を一番最後に走ったファハルドがトップでスタートしていくことになる。藤波は4番手、5番手にボウが続いている。
日曜日、雨はGPクラスがスタートする頃には止んだ。だからといってコンディションがすぐに改善されるわけもなく、むしろ雨が上がって状況は最悪。第1セクションから、ブストが5点となるなど、これまた波乱の予感。第1セクションをクリーンしたのは、ジェラベルトただ一人で、ボウは1点、藤波は3点だった。
第2セクションもまた難関だった。ファハルド、ラガが5点、ブストが3点。ラガはひじの手術の影響か、2018年はいまひとつ精彩のない1年を過ごしたが、2019年はXトライアルから好調をアピール。しかし開幕戦の出だしはよくなかった。ここを藤波がクリーン。2019年の藤波は、ここ数年続いた開幕前の負傷がなく、気分よくトライができているようだ。藤波は第3もクリーン。ボウが1点、ジェラベルトが藤波と同点の3点、ビンカス4点、ラガ7点、ファハルド8点、ブスト8点と、序盤にして点数がばらけている。
しかしつるつるに滑るコンディションでは、なにが起きるかわからない。ファハルドが第4から5連続5点。この中盤セクションは今回の鬼門の一つだった。藤波も、第4から第9までで5つの5点を取って、序盤の好調を帳消しにしてしまった。
点数のとりあい合戦になって、戦況を見定めるのもむずかしいが、ボウがぐいぐいっと点数を減らしてきて、実力発揮というところだ。1ラップ目、どのライダーも若干のタイムオーバーをとりながら、ボウが25点でトップ。2位はブストで40点。1ラップ目を終わってみれば、序盤の好不調と全体の好不調に相関関係はなさそうだ。しかしあと1ラップあるから、まだ試合が動く可能性は大いにありだ。
2ラップ目、雨が止んで時間も経って、路面が乾き始めてきた。全体に、1ラップ目よりスコアがいい。もっともスコアを減らしてきたのがファハルドだった。ファハルドは1ラップ目に5連続5点を喫していたが、2ラップ目はこの5セクションを合わせて5点で抜けている。ここだけで20点減点を減らしてきた。
1ラップ目ファハルドと同点だったラガは、2ラップ目に19点をマーク。1ラップ目より26点も少ない。1ラップ20点くらいが目標とする減点だったと藤波は言うから、ラガの19点はその目標値を上回る。しかしファハルドの2ラップ目は11点で、今回のファハルドは神がかったライディングを見せたといっていい。
ところがそれを上回る好調ぶりを見せたのが、ボウだ。ボウが好調、などというのは聞き飽きている人も多いと思うが、ボウの2ラップ目はたった4点。コンディションがよくなったとはいえ、まだまだ滑るポイントは多かった。ジェラベルトなど、10個の5点を叩いて、1ラップ目より減点を増やしているくらいだった。ボウの4点は、卓越したライディングテクニックもさることながら、その集中力が尋常ではないことをあらためてライバルに思い知らさせた。
藤波は、第8、第10あたりまではよくセクションを攻略していて、絶好調のトップ3の攻略はともかく、4位は充分に狙える位置にまで進出していた。1ラップ目の7位からすると大躍進だ。ところが第11以降、藤波の歯車が狂った。持ち時間がなくなってきたという時間的な焦りなどもあった。第11以降の5セクションのスコアを見ると、1ラップ目に19点を失っているのに対し、2ラップ目は20点。この5セクションで20点を失っているのは、他に一人いるだけだから、藤波の終盤戦がいかに崩れたものだったかがわかってしまう。
かくして藤波の開幕戦4位は夢となり、6位。しかし昨年までのそれと比べると、あらゆる点が好調。今回の結果は残念だったが、上位を狙える自身の実力を再確認したことで、今シーズンを戦う自信にはつながった一戦となった。
今回、藤波の4位進出を阻んだ一人がビンカスだった。ビンカスは若手フランス人。フェレールがT2出場となったので、GPクラスではただ一人のフランス人となる。今シーズンはXトライアルで2位表彰台を獲得した。昨年までのアウトドア最上位は9位だったが、その記録を一期に更新。いま、一番オシの成長株だ。
ヴェルティゴ移籍緒戦となったブストは、1ラップ目よりスコアを落として5位。表彰台は必須のブストにすれば、ちょっとくやしい移籍題1戦となった。
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トライアル2は2018年チャンピオンのマテオ・グラタローラが勝利。マシンをシェルコに変えたジャック・ピース(イギリス)が2位、ベータにマシンを変えたトビィ・マーチン(イギリス)3位と続いた。
19it_125125はシェルコに乗るフランス人、キエラン・トーリが勝利。125は新しい才能の宝庫だから、どんな才能がわき出てくるか、今後も注目だ。
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