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5勝目! イタリアのトニー・ボウ

もう、今年のトニー・ボウはどうしようもない。イタリアGPで、今シーズン5勝目。ボウがこれまでに勝ちを逃したのはたった1回だ。こうなると、興味は誰がチャンピオンになるかではなく、ボウがいつチャンピオンを決めるのか、あるいはボウは残りの試合を全勝してしまうのか、という興味につきるような感じ。2位から5位までの争いは熾烈だから、そちらに興味を注ぐのも一興だ。
藤波貴久は、2戦連続で表彰台。前回は表彰台に乗れずの2位獲得だったが、今回は絶望から大奮闘の3位獲得。優勝に匹敵する表彰台、とのことだった。

7月10日、イタリア大会は、ミラノの北西100kmの、モンテクレステーゼという山あいのちいさな町で開催された。この大会、イタリアのオーガナイザーは、非常にいい仕事をした。評価は完璧といっていい。その結果が、観客数に現れた。今回、イタリア大会を観戦したのは、なんと1万人以上。大観衆だった。
大会運営は、地元のトライアルクラブのドーモ70。彼らは大会運営のほとんどすべてを、良質のセクション開拓に注いだ。その光景は、ちょっと火星にでもきたようだ。
今回、いつものメンバーに比べて、4名が今シーズン初めてワールドクラスに参戦した。3人はイタリア人、そして日本人が一人だ。ダニエレ・マウリノ、ファビオ・レンツィ、ミケーレ・オリツィオ、そして柴田暁だ。今年、ワールドクラスの参加者が15人以上になったのは、これが初めてとなる。とはいえ参加者は16人で、15名にたった一人だけ多いだけだ。トップクラスの熾烈な戦いはともかく、選手権ポイントに関しては、出場すればもれなくもらえるというこれまでの状況から、今回はほんの少しコンペティションとしての趣きがよみがえった。
今回もトップスタートを切ったボウは、最近ではそれがちっともハンディに見えないほどに、快調にセクションを走破していく。最初の5セクションは、すべてクリーンで乗り切った。5つすべてをクリーンしたのはボウとラガの二人だけ。5セクションを終えて、ファハルドが1点、カベスタニーが2点、藤波は4点。ちなみに柴田は18点、ウイグが19点。柴田は第5セクションをクリーンしたが、これが、柴田の唯一のクリーンとなった。

トップスタートのボウに続いてスタートしたのはラガだったが、今回、ボウに続いてセクションにトライするのは、藤波貴久だった。しかし藤波は、ボウのクリーンを完璧には再現できず、減点を積み重ねていく。実は藤波は、朝から激しい吐き気と闘っていた。胃腸に異常があるようだが、どうしようもない。下見もそこそこにトライするから、トライ順がラガより早くなっている。
ラガはといえば、このふたりからはやや距離を置いているように見える。それは前回のアンドラでの、チームとチームの間に生まれたちょっとした緊張感が、いまだにひきずられていることを意味した。
第7セクション。4メートル近い巨大な大岩が、ボウとライバルをはっきり区分させる、最初の難関となった。ラガは最後までたどりつけず、カベスタニーは大クラッシュをして、足首を脱臼してしまった。足首を冷やし、応急手当てをするのに、カベスタニーは少なからずの時間を失った。これが最後に結果に反映されることになってしまった。1ラップ目こそ2位だったカベスタニーだが、2ラップを終えるとそのスコアはジェロニ・ファハルドと同点。しかもクリーン数もその他の減点も、すべて同一だった。結局その試合時間、5分15秒の差で、ファハルドとカベスタニーはポジションを決したのだった。
ボウの、決定的なアドバンテージは、13セクション。ここは、ボウとカベスタニー以外のすべてのライダーが5点だった。ボウはクリーン、カベスタニーは1点だった。カベスタニーは足首の痛みに耐えて、見事な走破力を見せた。
1ラップを終えて、ボウは4点。カベスタニーが10点。3位はラガで13点。さらに1点差の14点でファハルド。藤波は21点で5位につけている。
2ラップ目、すべてのライダーが、猛然とセクションを駆け巡り始めた。2ラップ目のペースが早いのはいつものことだが、今回はいつもにまして、重大な理由があった。雨だ。朝のうちの晴天はどこへやら、空は厚い雲に覆われ、雨が降ってくるのは時間の問題となった。最後のセクションは、大きな丸太が横たわっている。雨が降ったら、ここを抜けるのは不可能だ。午後のシャワーを浴びる前に最終セクションを走れたのは、ボウとラガ、そして藤波の3名だけだった。
ボウとラガは、2ラップ目にそれぞれ2点と1点を失点した。どちらも、非常によいスコアだった。1ラップ目に両者の点差は9点あったから、ふたりはそのまま表彰台のワンツーに落ち着いた。ラガは、1ラップ目の3位から、カベスタニーとの点差を逆転しての2位表彰台獲得だ。
藤波は、1ラップ目の5位タイから、3位までポジションを復活させた。2ラップ目の減点は5点。1ラップ目の21点と比べると、その飛躍っぷりがすごい。体調に改善があったわけではないのに、とにかくがんばったのだ。同点時間差で雌雄を決したファハルドとカベスタニーが4位と5位。

はるばる日本からやってきた柴田は、初めての欧州トライアル挑戦に選んだ大会が、たまたま15名以上の参加者のイタリア大会だったという不運に涙を飲むことになった。いつもなら全員がおみやげに持って帰れる選手権ポイントだが、16位では1ポイントも持ち帰れない。
とはいえ、ヨーロッパの世界選手権を体験するのは貴重な経験。これをジャンプボードに、さらに次のステップに進んでほしい。
■世界選手権
■ジュニアクラス
ジュニアクラスとユースクラスは、それぞれアレッシャンドレ・フェラーとセドリック・デンピエルが勝利した。どちらもフランス人で、どちらもシェルコのライダーだ。ポイントリーダーのふたり、ジュニアのアルフレッド・ゴメスは6位、ユースのジャック・シェパードは3位と、それぞれ一休みというところだ。
■ユースクラス
ユースクラスは、ジャック・シェパードが勝利の座に返り咲いた。前回優勝のスウェーデンのセドリック・タンピエが2位。3位はエディ・カールソン。カールソンという名にぴんときたオールドファンもいるかもしれない。しかしこの若きエディは、往年のチャンピオン、ウルフ・カールソンとは関係がない。
次の戦いは2週間後、イギリスはスコットランドのフォートウイリアムとなる。
Report : Mario Candellone