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ラガ、そしてボウ。世界選手権開幕戦

恒例の開幕前の記念写真。前列左から、オリベラス、カベスタニー、藤波、ボウ、ファハルド、ラガ、グビアン、ボレラス。後列左から、ブラウン、ダビル、ウイグ、チャロナー、グラタローラ、カールソン、トルノール。Photo:FIM/Good Shoot
4月28、29日。2012年世界選手権が開幕した。ラ・ブレス(La Bresse)というフランスの町。ドイツとスイスの国境近くの山の中だ。
昨シーズンまでは、原則としてヨーロッパ大陸のイベントについては日曜日のみの1日制で、土曜日はヨーロッパ選手権や女子世界選手権を開催するのが通例となっていたが、今年は土曜日、日曜日の2日制イベントが増えている。
インドアでは全勝したトニー・ボウ(モンテッサ・スペイン)だが、アウトドアではいきなり土がついて2位。しかし日曜日にはしっかり優勝して、ランキングをトップで開幕戦を滑り出している。2位はアダム・ラガ(ガスガス・スペイン。2位と5位)、藤波貴久(モンテッサ)は5位と4位だった。
ジュニアはアレッシャンドレ・フェラー(シェルコ・フランス)が2連勝。病み上がりのポル・タレス(JTG・スペイン)は3位と5位。ユースはスティーブ・コクエリオン(ガスガス・フランス)とスベレ・ルンドボル(ベータ・ノルウェー)が勝ちわけている。

Photo:FIM/Good Shoot
今回は、セクションが比較的やさしめだった。ボウあたりに言わせれば、セクションはむずかしければむずかしいほど好都合だ。せくしょんがどんなにやさしくても、ちょっとしたミスは起こり得る。そんなミスのひとつかふたつで、ボウが勝利を逃すという可能性もあって、無敵のはずのボウも、こういうセクション設定は歓迎しない。
セクションが極端にむずかしくなると、まぐれがまず起こらない。走破力が高い順に成績が決まる。
ファンとして見たいのは、どんな勝負だろうか。強い者が強い結果を残すのは安心して見ていられるし、正しい戦いを見た気がするが、いつでも同じ結果になるつまらなさもある。
FIMはこのところ試行錯誤を続けていて、今回はジョルディ・パスケットのセクション査察により(去年はディエゴ・ボシスが務めていた)、容易されたセクションがよりやさしくなっていた。
もうひとつ、今回FIMが導入したのは、スタート順をくじ引きで決めるというものだった。スタート順のくじ引きは、これまでもおこなわれていたが、その場合は、各カテゴリーをいくつかのグループにわけて、その中でくじを引くというシステムだった。つまりトップ6人、7番から12番、というグループを作るということだ。だからランキング6位だったら、一番くじを引く可能性も6番くじを引く可能性もあるが、15番のくじを引くことはなかった。
ところが今回用意されたくじは、15人のワールド・プロクラス全員が同じくじを引いた。藤波が引いたのは一番。ボウが引いたのが15番だった。一番が、誰よりも先にスタートするくじだった。これまで、藤波も一番スタートで戦ったことがあるが、去年のランキングが3番の開幕戦で一番スタートというのはなんとも分が悪い。
この方式には、特にライダーからは反対意見が続出だが、とりあえず土曜日はそのままスタートということになった。このスタート順だと、スタート順によるライダーの有利不利はともかく、観客からも歓迎ができないものになる。強い者が先に走るにしろあとに走るにしろ、下位ライダーから上位ライダーへ、あるいはその逆という流れはできている。しかしくじ引きだとその流れがまるでわからない。誰がやってくるのかさっぱりわからないまま、観戦を続けなければいけないわけだ。くじ引きはバクチみたいなもんだが、観戦する側も、次に誰を観戦するのかはバクチというわけだ。
もっとも、1980年代初頭くらいまでは、全日本選手権でもこういうふうにスタート順を決めていた。200人からの参加者が、クラス入り乱れてスタートするから、誰がどのへんで回っているのかはさっぱりわからない。当時のお客さんはそれで納得して観戦していたのだから、なにがいいか悪いかは、よくわからない。

Photo:FIM/Good Shoot
土曜日は、アダム・ラガが抜群だった。ラガは一番スタートの藤波に遅れること数名のスタート順だったのだが、猛然と追い上げて藤波にぴったりつき、おそらく藤波の走りをばっちり参考にしてセクションを消化していった。ボウは最終スタートだから、藤波やラガがどんな走りをしたのかは見られずにいた。今までの、お互いの顔を見ながら駆け引きをしたりするのとはまったく異なる世界選手権で、こういう試合スタイルを好む人も、中に入るのかもしれない。
今年から、ゲートマーカーにさわったら即5点という申し合わせも徹底された。これまでは倒れなければいいとか、運用がいろいろだったのだ。
しかしその犠牲になったのが藤波だった。誰でも同じ条件なのだが、ゲートにほんの少しさわって5点というパターンが、今回の藤波は多かった。その結果が、5位という不本意なものとなった。
土曜日の試合が終わって、ライダーと主催者が集まってスタート順のルールについて競技をした。その結果、とりあえず日曜日は、土曜日の順位の逆順でスタートするということになった。つまりラガが最終スタート、藤波はトップ5の最初に走る。これはつまり、2010年以来のスタート順ルールが元に戻ったということだ。
今後については未知数だ。ライダーは前回優勝したライダーが最終スタートとなる方式を望んでいる。観客にとってもおそらくそうではないだろうか。取材する側も同感だ。FIMだけが、なにか別のことをたくらんでいる。そして一方、第2戦からルールを変更すると、開幕戦で不利なくじを引いて下位に低迷した藤波をどう救済するかという問題も出てくる。藤波自身はその成績を救済してもらうよりも(救済なんかされないに決まっているけど)スタート順が是正されるのを希望しているが、どうなるだろう。

Photo:FIM/Good Shoot
日曜日は、最後から二番目のスタートとなったボウが雪辱を果たした。1ラップ目はファハルドが好調だった。インドアのXトライアルではいいところがなかったファハルドだが、実力のある選手だから、風向きが変わればやはりいいところに出てくるものだ。ただし優勝までには至らず。ボウがきっちり試合をまとめて勝利した。
一方、初日に勝利したラガは、日曜日はいくつかのミスが出て勝利を逃したばかりか、5位まで沈んでしまった。かろうじてランキングは2位だが、セクションがやさしい傾向だと、こういう大きな順位変動が現れるということだ。

Photo:FIM/Good Shoot
藤波は、日曜日は4位。1ラップ目にふたつの5点が上位進出を阻んだ。しかし2ラップ目には、5点ひとつ、1点ひとつの6点でまとめてまずまず(それでもベストとはいえない)。もし1ラップ目の5点がひとつ少なければ2位だったわけで、藤波もまた、やさし目のセクションの罠にはまったということになる。
第2戦はオーストラリア。その1週間後が日本大会だから、選手はみなヨーロッパを出てオーストラリア経由で日本にやって来る。今年の日本GPは、時差ボケの影響がないヨーロッパライダーの走りが見られそうだ。