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2012年デ・ナシオンは

Photo:FIM/Good Shoot
日本チームが参戦を断念したトライアル・デ・ナシオンは、スイスのムティアという町で開催された。ここは2004年に藤波貴久が世界チャンピオンとなった会場だ。
トライアル・デ・ナシオンでは、スペインの強さはもうどうしようもない。男子も女子も、スペインの勝利となった。2位は、これも男女ともにイギリスだ。
TDNに先がけて、金曜日には女子世界選手権の最終戦も開催。こちらもライア・サンツが予定通りに勝利してタイトルを獲得した。

トニー・ボウ
男子も女子も、スペインチームはとんでもなく強い選手をエースに据えている。強いのは当然なのだが、それだけではない。過去、スペインがTDNで勝てなかったことは何度もある。TDNで勝利するのは、やはりチーム力だ。
それでもスペイン男子チームの強さは、個人の強さが圧倒的なことが大きい。なんせチームメンバーの4人が、世界ランキングの1位から4位までの選手たちだ。この4人の中に入って戦っているのは藤波くらいのものだから、TDNでも今のスペインが負けるなんてことはまず考えられない。
結果、今回のスペインの減点は45点。2位のイギリスは143点だから、とんでもない点差だ。
TDNでは、ライダー個々の減点は発表されない。過去には個人の成績を足してチームの成績としていたのだが、それではチームとして戦うおもしろさもないので、今はあくまでチームとしての減点を競うことに主眼が置かれていて、個人成績は発表されないことになっている。
セクションは18セクション2ラップ。いつもの世界選手権より3セクションずつ多い。そのかわり、ひとつのセクションではいいほうから3人のスコアだけが集計される。3人走ってみなクリーンなら、最後の一人は走らなくても結果は同じだ。スペインは、そうやって時間と体力を節約して回ったようで、5点が25個もある。イギリスの5点が35個だから、総減点数の差からすると、ずいぶん5点が多い。これは4人目のライダーがトライしないで、申告5点をもらったからだ。先にトライした3人がすべてのセクションをクリーンしてくれれば、申告5点は36個になったはずだが、さすがにそううまくはいかなかった。スペインが減点したセクションの数を数えると11個。その11セクション分については、4人全員がトライする必要があったわけだ。36個から11個を引くと、スペインの5点の数である25になる。
4人全員が5点を取ると、そのセクションでの減点は15点になる。スペインの最大限点は2ラップ目の15セクションでの10点だから、全員が5点となったセクションはひとつもなかった。



左からアダム・ラガ、ジェロニ・ファハルド、アルベルト・カベスタニー
3人がクリーンしたら最後のライダーがセクションをパスする作戦は、減点数がぶっちぎりならそれでいいが、仮に同点だった場合はクリーン数の勝負となるから、やってはいけない場合もある。現実には、チームの減点が同点となることは珍しいのだが、それでもありえないことではない。2004年には、日本の女子チームがクリーン数4個の差で勝利を逃している。
スペインに全員5点はなし。イギリスも、10点以上の減点は第3と15セクションの2ヶ所だけで、15点はなかった。全員が5点となったセクションはなかった、ということだ。TDNでは、ワールドクラスとインターナショナルクラスの2クラスがあって、スペインやイギリスが走るのはワールドクラス、それ以外の国はインターナショナルクラスを走る。レベル的にはIASとIAといったところだろうか。あまりむずかしくしてしまうと参加する国がなくなってしまうから、いつもの世界選手権よりはいくらかやさしめに設定されている。3位のイタリアが、ひとつだけオール5点となったセクションがあった。フランスは4個。今回最下位である5位のノルウェーは10ヶ所でオール5点だった。
日本が出場していたら、このワールドクラスに出場することになっている(本来、ワールドクラスとインターナショナルクラスは入れ替わりがあるが、世界のトップランカーの藤波がいる日本は、前年に不出場でもこのクラスへの参加が認められている。というか、走らされる)。去年は藤波が急病で直前に欠席となったため、日本からの遠征組が3人だけで走ってノルウェーに敗れている。今年参加して、その雪辱を果たしたいところだったが、参加者の調整がつかず、2012年はチームの参加は断念している。日本が参加していたらどうなっていただろう? 誰かが(この場合藤波となるだろうが)18セクションをオールクリーンすれば、ほかの3人が18セクションをすべて5点となっても、チームの減点は360点。今回のノルウェーは減点365点である。

スペイン、イギリス、イタリア。日本のトップライダー不在のいま、トップ2チームは安泰。3位イタリアと4位フランスの表彰台争いが、当面の勝負の興味となる。表彰台に乗った12人のライダーのうち、世界選手権に全戦参加しているのはスペインの4人、イギリスの4人(ジェイムス・ダビル、ジャック・チャロナー、マイケル・ブラウン、アレックス・ウイグ)と、イタリアのマテオ・グラタローラ、9人でしかない。世界選手権が、いかに世界のひとにぎりの選手によって争われているか、ということだ。

優勝のスペインチーム。左からライア・サンツ、ミレイア・コンデ、サンドラ・ゴメス
さて、日曜日の男子TDNに先がけて開催された土曜日の女子TDNでは、こちらもスペインの勝利。スペインが24点でイギリスが29点、その差はわずか5点差だった。スペインにはライア・サンツという看板ライダーがいて、サンドラ・ゴメスも世界の2位を争うライダーに成長した。しかしイギリスは、ゴメスと争うライダーが3人揃っている。粒が揃っているという点ではスペイン以上だ。
リザルトを見ると、イギリスは第5セクションで2ラップとも全員5点の10点となっている。スペインはここを6点と8点で抜けている。ここだけでイギリスは14点の差をつけられてしまっているから、逆に考えれば、それ以外のセクションではイギリスの方に分があった。セクションの設定次第では、イギリスが勝利するという可能性もあったわけで、こちらの勝負は男子ほど圧勝ではないようだ。

2位のイギリス。左からドンナ・フォックス(ベータ)、エマ・ブリスト(オッサ)、レベッカ・クック(ベータ)
イギリスはエマ・ブリストとクック・レベッカが世界選手権でランキング2位争いをした。オッサのエースとなったブリストが2年連続でランキング2位を獲得したが、こちらの戦いもおもしろい。
3位は国を挙げて女子チームを育てているフランス。4位ドイツ、5位アメリカ、6位イタリア、7位ノルウェーとなっている。ノルウェーはかつては優勝を争ったチームなのだが、女の子がトライアルを続ける、新たに始める、というのは、かの国でもむずかしいことなのかもしれない。今年は、全部で9カ国の参加の、女子でナシオンだった。