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ヤンキー旋風吹きあれる

2007年、ユースクラスはスペイン人アルフレッド・ゴメスのタイトル獲得が決まった。しかし2007年のハイライトとして、アメリカ人の大活躍をあげておきたい。

パトリック・スメージ。弱冠16歳。グアテマラ大会でデビューして両日ともに3位に入って関係者を驚かせたが、それだけではなかった。その後ヨーロッパにも進出、なんと今度は、無敵だったゴメスを破って2勝をあげてしまうにいたった。

07スメージ

世界選手権は、トライアルに限らずモトクロスでもロードレースでもそうだけど、ヨーロッパ主導で誕生し、成長してきた。だからヨーロッパ大陸以外に住む選手は、生まれた瞬間からハンディを背負い込んでいる。そういう意味では、アメリカと日本は、ハンディ仲間ともいえる。

アメリカ人は、トライアルに向いてないとよく言われる。なんとなく説得力があるのは「アメリカはスーパークロス文化で、派手なものが好き。トライアルのように地味なスポーツは受けないのだ」というもの。しかしこの説は、トライアルがおそ乗り競走と揶揄されていた時代のものだ。今のトライアルは、スーパークロスもびっくりの派手技系となっている。時代は変化してきている。

さらに、これまでアメリカから優秀なトライアルライダーがでなかったわけではない。1979年世界チャンピオンのバーニー・シュライバーは、今もフランスに住んでいるらしいけれども、れっきとしたアメリカ人だ。シュライバーはたいへん理論ぶかいライダーでもあって、彼の書いたテクニック解説書は、今読んでも興味深いところが多々ある。

アメリカ人は派手なことが好き、というのは、確かにそのとおりなのだが、その実、彼らはとても理知的でもある。1980年代初頭、日本にスーパークロスが始めてやってきた頃のこと。スーパークロスの二連ジャンプや三連ジャンプなど、最初に現場を見た時には「アメリカ人というのはなんと命知らずで大それたことをやるもんか」とびっくりしたけど、彼らが踏み切りから着地までの短い間になにをしているのかを知ると、逆に技術を身につける前に二連ジャンプをとんでみようとする日本人ライダーのほうが、はるかに蛮勇に長けた人々だと気がついたものだ。

スメージの顔

そしてスーパークロステクニックを調べていくと、そこにはトライアルテクニックがいっぱいつまっていた。アメリカ人という人種は、目の前のチャレンジにやみくもに向かっていくだけではなく(もちろんそういうアメリカ人もいるだろうけど)、状況分析をし、戦力を蓄え、いつもでユーモアを忘れずに、そして最後の一瞬に勇気を発揮する連中だという気がする。

さてスメージの話だ。シュライバー以降、アメリカ人が世界選手権にフル参戦したことはない。デ・ナシオン(TDN)には、毎年参加している(2001年9.11でニューヨークがテロ攻撃を受けた際は、参加が辞退された)。TDNはAクラス(世界選手権)とBクラス(ワールドカップ)の2クラスがある。Bクラスの優勝チームとAクラスの最下位チームは毎年入れ替わるが、アメリカはAクラスとBクラスをいったりきたりしている。つまりトライアル的アメリカの国力は、チェコやドイツよりも劣り、ポルトガルやアンドラには勝っているというレベルである。

アメリカ人はトライアルには興味がない、世界選手権に興味がない、わざわざ出ていっても勝てないから、等々、その理由を勝手に想像する人たちは少なくなかったが(その大半は、ぼくたち雑誌屋であるけれど)、真相はわからない。日本のライダーに「なぜヨーロッパにいかないのか?」と聞いてみる。世界選手権に興味がないというライダーはほとんどいなくて、はなから歯が立たないと思っている向きも少ない。けれど出て行かない。

遠い、というのは大きな理由である。ヨーロッパ圏内だったら、ライダーはモーターホームで地つづきで旅ができる。アメリカ(や日本)から遠征すると、飛行機やレンタカーを乗り継ぐ旅になる。お金がかかる。

それでもアメリカ人なら、英語はお手の物だから、日本人ほどヨーロッパ暮らしは苦にならないはずだ。極東からヨーロッパへの旅よりも、大西洋ひとっ飛びのほうが飛行機代も安い。それでもアメリカ人はヨーロッパに出て行かなかった。日本人のほうが、よっぽど世界に向けて積極的だなぁと、ひそかに誇りに思っていたりもしたものだ。

2007年。合衆国大会ははずされて、アメリカ大陸での世界選手権は、グアテマラが開催国に選ばれた。世界選手権の冠はあれど、FIMはアジアでは1戦、アメリカでは1戦と決めている。やっぱりヨーロッパ偏重の世界選手権なのである。

そのグアテマラ大会に出てきたスメージは、両日ともに3位となった。これは、多くのトライアル関係者にとって、仰天に値する結果だった。もちろん、ヨーロッパからやってきたユースカップの常連にとって、グアテマラはアウェーの大会となる。といって、スメージにとってホームだったかというと、これはどうだか。合衆国とグアテマラはちがう国だし、スメージはマインダーなしで走っている。ホームでの万全の体制とは言いがたい。しかもスメージは、繰り返すけれども、たった16歳なのだ。

グアテマラの連続3位も驚異だったが、このときは、ヨーロッパからグアテマラ入りしたライバルも少なかった。だから本当の驚異はそのあとだった。フランス大会と日本大会のあと、スメージはやってきた。

イタリア、ポーランド、チェコの3週連続の3連戦。東ヨーロッパへの参戦はヨーロッパ以外から参加するライダーにはいろいろと敷き居が高いが、1ヶ月の間に3戦を経験できるのは得難いチャンスだ。

そしてイタリアで、なんとスメージは今年負けなしのスペイン人、アルフレッド・ゴメスを破ってユースカップ初優勝。スメージは「人生最高の日」と表現したが、それは同時にアメリカ人みんなにとっても久々に味わう最高の瞬間だった。表彰台で、アメリカ国歌を聞くことができたのだから!

スメージは、イタリア大会のあとポーランドへ移動。ここでは6位に入った。3位、3位、1位、6位。少なくとも初めてのヨーロッパで、自然体で戦えるという証明をしたことになる。しかしそのあとのチェコ大会。スメージはさらに1勝を加えた。シーズン5試合に参加して、1位2回3位2回6位1回。この時点では、シリーズランキングも3位にジャンプしていた。

日本では、ユースクラスの存在価値はまだまだ過小評価されている。藤波貴久が戦う世界選手権のみがクローズアップされて、ジュニアやユースは取るに足らない前座以下の存在として扱われている。しかし、ならば日本人がこのクラスで勝てるのかというと、残念ながら現状では勝利にはほど遠い(そのよりどころが日本GPでのジュニアクラスの結果となる)。過去には野崎史高がジュニアチャンピオンとなったことがあったが、それもいまは昔話だ。

今年、シェルコ4Tでダニエル・オリベラスが大活躍を始めた。オリベラスはユースクラスの第一期生で、2005年ユースクラスチャンピオンでもある。去年ユースクラスチャンピオンとなったアレックス・ウィグは、今シーズンはジュニアクラスのランキング2位のポジションをほぼかためている。かつて、世界選手権への挑戦はいきなりだったが、今はユースから確実にステップアップする道が築かれている。この階段を、確実に登ってきたものが、上級クラスでもコンスタントに実力を発揮できる枠組みができつつある。

スメージは、年齢的にもこのステップにうまくタイミングを合わせてヨーロッパに乗り込んだ。かつてケニー・ロバーツ(セニア・お父さんのほう)は、アメリカでの戦いを捨てて、ヨーロッパのロードレース界に乗り込んだ。それが、現在の世界選手権の発展を加速させたといってもいい。

成田匠から始まった日本のトップライダーによる世界選手権挑戦は、藤波貴久の世界チャンピオン獲得を境に、少しずつ勢いを弱めつつある。対してアメリカ人の世界選手権挑戦は、スメージによって、今ようやく始まったばかりだ。

スメージの大活躍を、ヨーロッパ外の国仲間として応援を送りつつ、近い将来、日本のポジションはアメリカと交替することになるんではないかという漠然とした不安を、スメージの大活躍の陰に感じるのだった。

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