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2007年03月31日
ウイロビーさんの奥さん
9月のデ・ナシオンの会場で「じゃまた来年」と別れてから、半年ぶりにみんなと会う。と、御年75歳ほどになる最長老のエリック・キッチンさんから、訃報を聞かされた。デイビッド・ウイロビーさんの奥さん。1ヶ月ほど前。ガンだったそうだ。
ウイロビーさんは、FIMのトライアル副委員長で、ヨーロッパ連盟のトライアル委員長のイギリス人。ヨーロッパ選手権や世界選手権を転戦して、大会の運営を行っていた。FIMのトライアル委員にはいろんな国の人が集まっているけど、ウイロビーさんはイギリス人らしく、振ったり止まったりしないトライアルを提唱していた。転戦はキャンピングカーでおこなっていて、パドックにはいつも奥さんの姿があった。
2003年のことだったけど、ヨーロッパ選手権の会場で、ウイロビーさんとお話しをしたことがあった。今、FIMは振ったり止まったりについて規制をするのはあきらめたようだけど、当時は機会による採点システムを作ろうとしていたりして、ウイロビーさんはその中心人物でもあった。
ヨーロッパ選手権は、世界選手権に比べてスタッフが少ない。ウイロビーさんはふだんはチャーリー・デマティエがやっているリザルト整理を奥さんといっしょにこなして、大会の後始末をして、ようやくひとくぎりつけて自分の家(パドックに停泊しているキャンピングカー)に帰ってきたところで、ぼくにつかまった。
「OK。待たせて悪かった。でも話をする前に、ちょっとビールを飲ませてくれないか」
イギリス人は、とにかくビールが好きだ。ウイロビーさんがキャンピングカーの扉を開けると、中から奥さんがすすっとビールを差し出してきた。なにはなくとも、キャンピングカーではビールが冷えていること。ウイロビー家の家訓らしい。
話の途中で、ヨーロッパトライアル副委員長のアルネ・ヘディンさん(スウェーデン)が、こんな写真が出てきたと大昔の写真を持ってやってきた。それは87年か88年の写真で、ブラック団の少年たちが大挙して自転車トライアル世界選手権に参戦しに来た時の写真だった。それはパドックでの一コマで、黒山一郎さんが子どもたちにシャワーを浴びせている。といえば聞こえはいいけど、子どもたちを裸にして、高圧洗車機でひとまとめに洗っている写真だった。高圧の噴水を浴びて、素っ裸で飛び回っているのが、7歳8歳の自分の藤波貴久だった。
ウイロビーさんはその写真を見せられると、キャンピングカーの中の奥さんに大声で声をかけて呼びだした。
「おーい、フジのヌードだ。見においで〜」
ウイロビーさんたち夫婦にとって、トライアルのパドックで起きることは自分たちの生活の一部であって、昔の写真は彼ら自身の思い出の一コマでもあった。
その1年後、藤波貴久は念願の世界チャンピオンになった。ウイロビーさんたちイギリス人にとっては、我らがヒーローであるドギー・ランプキンから世界タイトルを奪っていったにくき存在だったろうが、どっこい、こども時代から世界選手権のパドックに出入りをしていた藤波らは、ウイロビーさんにとっては少年時代に自分の家に遊びに来ていたはな垂れ小僧的存在である。我が子というとちょっと大げさだけど、ご近所の愛すべきクソガキたちであったろう。
世界チャンピオンの表彰式で、ごほうびに体重分だけのチョコレートをもらうという余興で、巨大な天秤に載せられて、チョコレートが積み上げられるままにだんだん高いところに上がっていく新チャンピオンを見守りながら、奥さんは「あれが新チャンピオンなのねー」とくすくすと楽しそうだった。イギリスが誇るチャンピオン、ランプキンだったらどこまでも姿勢を正して紳士道を貫くも、日本の新チャンピオンは誰からも愛されるのが特技でもある。そして新チャンピオンを、たぶんとっても愛してくれていたのが、ウイロビーさんと奥さんのエミリーさんだった。
そういえば、ウイロビーさんは2006年の1年間、世界選手権の現場に姿を現さなかった。トライアル委員長イグナシオ・ベルネダとともに引退なさったのかとも思ったけど、実は奥さんの病気がその原因だったのだ。
久々にあったウイロビーさんは、あいかわらず笑顔で、ぼくらを迎えてくれた。
エミリーさん、アルプスの山の中で、ウイロビーさんと仕事後の一杯のお相伴に授かっていただいたビールは、たいへんおいしゅうございました。これからも、空の上からトライアルパドックを眺めて微笑み続けていてください。ありがとうございました。
投稿者 nishimaki : 02:17
2007年03月09日
椎茸の山
椎茸の原木が育つ山を、ぽこぽこと散歩してきた。山の地主さんに案内してもらっての軽トレッキング。実はこの山、この2ヶ月ほどの間に数回、こっそりと入って道を調べて、こんなところで遊べたら楽しいだろうなぁと妄想をあたためていたところだ。
山には「アカミチ」ってもんがある。赤道と書くと別のものになっちゃう気がするので、漢字で書いていいものかどうかはわかんない。アカミチとは、昔ながらの道で、山の中の公道みたいなものらしい。
ツーリングトライアルのコースにしても、ぼくたちがオートバイでトレッキングしようと思うと、このアカミチを楽しむことが圧倒的に多い。権利関係的には、走っていけないところではない、ってことになる。そしてこんなところを走るのが、おもしろいという同志は多い。
ただし、アカミチを踏み外して畑に落っこっちゃったら一大事だし、アカミチの中には整備されてなくて崩れたりなくなっているものも多い。はたまた、アカミチの入り口が民家の軒先を抜けていたりして、走り回るには気をつかうことが多い。土地の主と出会ったらどんな顔をすればいいのかも、ちょっと考えてしまう。
でもそうやって、こそこそと山を走っている限り、いつまでもオートバイがいい印象をもたれないのではないか。ダメならダメでもいいけど、正面からお願いして、話を進めていこうじゃないかと、地主さんのところに参上してみた。ツーリングトライアルの主催者は、通り道一軒一軒の地主さんを回って許可をもらったり説得したりして苦労している。それが個人ならお許しをもらわなくても許されるなんてことはないはずだ。
でもまぁ、言うは易し、突然農家の親父さんのところを訪ねていくのも勇気がいる。そこで今回はつてを頼って、HさんとSさんにいっしょにいってもらった。
玄関先で頭下げて帰ってくるもんだと思っていたら、まぁあがれ、ということになり、お茶をいただきながら掘りごたつに足を降ろし、そのうちTさんはGoogleEarthでとりこんだ地形図をもってきて、山の解説をしてくれた。もう60歳をとうにすぎていると思われるけど、心身ともにお若い感じ。
して、こちらのお願いを聞いたTさんが最初に口を開いたのは「うーむ。まぁ、おもしれーじゃないか」ってもんだった。少し含みがありそうだったけど、そりゃ、自分ちの庭先をかすめてオートバイが遊びにいって、自分が手入れした山を走らせてくれってんだから、不安がないじゃないだろう。
地図を広げて、山の解説をしていただく。今度いっしょに山を一回りさせてくださいとお願いしたら、いやー、天気もいいから、今度といわず、今いこうということになった。
Tさんは椎茸農家である。コナラを切りだしてきて菌を打って、椎茸が育ってくるのを待つ。
「コナラが一番いいけど、ほかの木でもダメってことはない。でも、中にはぜんぜんダメなのもあるね」
「広葉樹を倒すと、このあたりはモミがあっという間に育っちゃう。広葉樹は切り倒してもまた芽が出てくるけど、針葉樹は切ったらもう育たないんだ」
「サクラでも、かわいそうだけど、ときどき倒すことあるよ。日当たりとかでいなくなってほしいことあるから。ワイヤーで下に切り傷を入れると、だいたい半年くらいで倒れちゃう。枯れるのはすぐで、最後は風が吹いて倒れるんだね」
木を切るのは、チェーンソーに頼らなくても、勝手に立ち枯れしていただくのを待っていればいい。ということは、立ち枯れ目的でリストカットされた木は、いつ倒れるかわかんないから、気をつけないといけません。
オートバイで走るのも楽しいけれど、こういうお話を聞きながら、のんびり歩くのもまた楽しい。いろんな楽しみがあるから、人生は楽しいのだ。
「これは猿の糞だよ。なんとなく猿の匂いしない? 猿でも熊でも、現れると、しばらくはやつらの匂いがするんだよ」
それはわかんなかった。最近、ようやく獣の歩いた跡が自然と目に入るようになってきたけど、そのうち獣の匂いをかぎ分けられるようになるのかなぁ。ちなみに先頭の写真は、猿のうんちです。人間のうんちによく似てます。体つきが似ていると、うんちの形も似てるんですね。
そのうち、Tさんがせっせと菌を打った原木のところに到着した。
「いやー、これは悪いことするなぁ。全部猿の仕業だよ」
打った菌は、奥が甘いんだそうだ。それを猿は知っていて、上手にほじくり出して食べてしまっている。ぼくなら、ドリルを使わないと掘り出せなさそうだが、猿は器用だ。1cmほどの直径で埋め込まれた菌を、きれいにほじくり出して食べてしまっている。猿にお行儀をしつけるのは、それなりにむずかしそう。でもオートバイに乗る仲間が、猿より始末が悪いと言われないようにしたいもんだ。
Tさんの山の周囲には、別の地主さんの山もある。でも手入れをしてあるのはTさんの山だけで、雑木林を通り越してジャングルになっている。こういう山は、蔦がからみこんで走りにくいことこのうえないし、山としても機能を失っている。オートバイで遊ぶにしろ椎茸を育てるにしろ、山はこつこつと手入れをしないと山としての機能を果たさないんだね。
途中、おいしい水のでるポイントを紹介してもらった。
「ここいらの人は、もう一杯あの水が飲みたいって言って、ここの水を飲んで、死んでいくんだよ」
山には、山の物語がある。今回は別のルートから降りてきてしまったから飲みそこねたけど、一度、そのおいしい水をいただかなければなりませぬ。
山から下りたら、まぁあがれ、ということになって、リンゴなどかじりながら、椎茸のこととか、街の観光政策のことなどお話した。Hさんがちょっとしたアイデアを口にすると、Tさんは「おもしねーな、やってみようかな」と目を輝かせている。若くたって輝いてない人はいっぱいいるけど、Tさんのように、外からの情報を受け入れるアンテナを持っていれば、いつまでも輝き続けるにちがいない。
「落ち葉はね、半年か1年で腐って土になるよ。いい土になるよ」
「山歩きはね、だから落ち葉掃きからだね」
Tさんと落ち葉掃きをし、椎茸の原木を切りだし、そしてTさんとこの山をいっしょにオートバイで走れる日が来ればいいなと、町役場を通じて、申し合わせや企画を考えはじめたところ。さぁて、夢はかなうだろうか。
投稿者 nishimaki : 14:02 | コメント (1)
