黒山健一の神がかった強さが2戦続いた全日本選手権。このまま13年ぶりとなるチャンピオン返り咲きに突っ走るのか、中国地方でのこの一戦はシーズン後半戦を占う天王山とも言える戦いだった。
セクションは簡単目、とのトップライダーの見立てだった。限りなくオールクリーンに近づけなければ勝ち目はない、ということだ。もちろんもちろん、それはトップライダーがきっちり走って、ということで、下位ライダーにとってはまずは抜け出るのが精いっぱいの難セクションぞろいだ。レベル差が大きいといえば簡単だが、時にトップライダーであっても、ちょっとした油断や小さなミスが、大きな失点につながることがある。難所は難所でむずかしく、さりとてそんなにむずかしくないところでもやっぱりむずかしいのが、トライアルセクションだ。
そして試合は、そんなトライアル格言(詠み人知らず)の通りに進んでいった。
前戦で負傷した小川友幸は手術をして療養中で、残る今シーズンの欠場を決めた。今年もタイトル争いの主役の一人だったが、残念ながらさらなる連覇の記録はついえてしまった。小川本人とマシンは会場に現れて、マシンは展示され、本人はチームの面々へのアドバイスなどを行なっていた。自身でトライアルを始める以前はともかく、トライアルライダーとなってから全日本選手権を走らずに観戦するのは、これが初めて、ということだ。
セクションが簡単目とはいえ、やはり抑揚はあった。前半第4セクションあたりまではクリーンセクション、その後はちょっと難度が増す。もともと自然地形は山肌しかないから、ポイントはそこここに配置した人工物になる。いきおい、上がるか落ちるかの設定が多い。

クリーンセクションといいつつ、前半4セクションを全部クリーンしたのは、柴田暁、黒山健一、野崎史高の3人のみ。久岡孝二と氏川政哉は第3で1点を失い、小川毅士は第3で1点を失った上に、第4で体勢を崩してなんとか無事に降りたところが別クラスのゲートマーカーラインで5点。ここでの5点は痛い。武田呼人は第4はクリーンしたものの、第1、第2で1点、第3で5点と、いまだ切れ味が整わないスタートとなった。
比較的難度が低いセクション群だから、これで試合の流れが読めるということではないが、4連続クリーンをした3人は、キレのいいライディングを見せた。特に黒山の強さは、やはりホンモノだと思わせたものだ。
勝負が動いたのは、第6セクションからだった。いきなり失敗が目立ってきた。人工建造材の高い飛びつきなどが、トップライダーをたたき落とし始めた。第6で落ちたのは氏川、武田、柴田、久岡。第7では氏川、柴田、久岡が落ちた。そして第8では久岡、黒山、小川、久岡が落ちた。黒山とタイトル争いを展開中の氏川は、なんと3連続つ5点で万事休すだ。

黒山が5点を取ったことで、いまや5点なしで試合を進めているのは野崎だけになった。野崎の真骨頂は、とにかくていねいに技を繰り出していくところだ。野崎が前回勝利したのもこの灰塚ダムだったから、相性がいいのかもしれない。しかし、相性ばかりで勝ったり負けたりするものではない。氏川は、デビューイヤーにこの会場でただ一人目の覚めるライディングを見せて注目を集めたが、おととしにはここで手痛いクラッシュを演じ、いまだにその負傷は癒えきっていない。ゲンのいい悪いも紙一重だ。

前半でキレのいい走りを見せた黒山だったが、第8での5点以降、なんだか雲行きがあやしくなった。第9で3点、第10で5点を取ってしまい、野崎の好調についていくのがむずかしい感じになってきた。土曜日には灰塚の暑さを気にしていた。ライダーみんなが暑さでうだってしまった大会で、ひとり生き生きとしていた印象があるも、年齢を重ねた今は人並みに暑さには弱いんだという。ただ実は、古傷の(脱臼癖を手術した過去がある)肩の調子があまりよろしくないという現実もあった。暑い会場での実戦参加が初めてというTY-E3.0は、端で見る限りは問題なしのようだが、黒山、氏川がともに5点になったりするのを見ると、最新鋭のニューマシンはもうちょっと実績を積む必要もあったのかもしれない。

1ラップを終えて点数がまとまってみると、野崎はたったの3点。限りなくオールクリーンで、という予測通りのまとめかたは見事だ。これに続くのが、5点をふたつ取った柴田で13点。このセクション群で10点差はなかなか大きい。以下、黒山が15点、小川と氏川が16点、ラップ後半にようやくいい調子になってきた武田が18点で続く。野崎が大崩れしなければ野崎の勝利はまずまちがいない感じだが、2位以下はまだまだどうなるかわからない。

2ラップ目、5点なしで10セクションを回ったのはただ一人だった。それが黒山で、3点ひとつ1点ふたつでこのラップの減点は5点だった。ただし2ラップ目の黒山には、強いオーラがそれほど感じられないように見えたのは気のせいだったか。逆に野崎は第9セクションで5点となってはいるものの、トータルを6点で抑えてきた。この日は、やはり野﨑のほうが光っていた。
ただし2ラップ目にトップスコアをマークしたのは、黒山と同点ながら、クリーン数で勝る氏川と小川だった。氏川は第7、小川は第8で5点となった以外はすべてをクリーンして帰ってきた。
この時点で、野崎のリードは11点。SSの2セクションを残して、野崎の勝利が決まった。この三好灰塚大会は、2024年には台風で中止となっているが、野崎はこの大会から欠場を余儀なくされていた。北海道で負ったひざの手術療養によるものだ。半年間のブランクを経て、ファクトリーチームではない第3のヤマハライダーとしてのカムバックシーズン。マシンは黒山と氏川が乗る3.0に対して旧型となる2.2(2025年の実戦用には新車が新たに組まれたから、旧型だが古いマシンではない)。自身の実力が、まだまだ頂点にあることを証明しなければいけない。ファンに対しても、ライバルに対しても、チームメイトに対してもチームに対してもメーカーに対しても、訴求相手はいっぱいあった。そのみんなに納得する結果が、優勝だった。復帰して、ようやくもてぎ大会で3位表彰台を獲得したが、あとひとつ、上位が安定しない。そんな中で、今シーズン2回目の表彰台が、てっぺんのポジションになった。
優勝が事実上決まったことで、SSの勝負は2位争い以下となった。黒山20点、小川21点、氏川21点(クリーン数差で小川が上位)、柴田25点、武田27点。ここまでの5人が接戦だ。7位以下は久岡43点、田中46点、武井48点、岡村将敏75点と続く。SSでの戦いは優勝と2位争いと表彰台争い、そして7位争いの3グループとなる。
岡村は久々のSS出場。ごめんなさい。そういう記録はとってない。SS進出が10人限定となってからは、SSを走ったことがないんじゃないかということだったけど、それはウソだった。岡村選手、2016年に(2度目の?)IAS昇格をして以来、2016、2017、2018と、たびたびSS進出を果たしていた。2019以降はSS進出が途絶えたが、しかし2023年九州ではSSに進出して9位となっている。

その岡村がSS第1を3点で抜けて、これはクリーンセクションとなるやと思いきや、武井、田中と3点、久岡はクリーンするも柴田は1点、武田がクリーンした後、小川、黒山がまた1点となった。氏川と野崎はクリーンをした。
これで2位には一気に氏川が浮上。同点で黒山、1点差で小川、小川に4点差で柴田と武田が1点差の争いをしながら続くという接戦になった。

SSは、ダイナミックを目指したもので、技術的にはそんなにむずかしくないということだったが、ところが雨が降り始めたのだ。雨は降ったり止んだり、時に強く降るというむずかしいコンディション。この雨が、減点を呼んだ可能性はごく高い。
序盤の岩をぽんぽんと飛んで、最後の高さのあるポイントに向かうのだが、以外や、序盤の岩飛びが失敗となるライダーが多かった。岡村、武井、田中、久岡、柴田、そして小川が5点になった。SS第2をクリーンしたのは3人。野崎、氏川、そして武田だった。武田は柴田を逆転して5位となったが、同点クリーン数差で4位には届かなかった。その4位の小川は、2位を狙えるポジションにいながら、SS第2での転倒で4位に甘んじた。
タイトル争いをリードする黒山は、そのライバルの氏川に逆転されて、ランキングポイントを4ポイント詰められた。氏川としては、ここで勝利して逆転初タイトル獲得につなげたかったところだが、しかし残り3戦を勝利することで、自力チャンピオンの可能性を残している。
ヤマハTY-Eが1位から3位まで、表彰台を独占するのは、2024年もてぎ大会に続く2回目。前回は氏川、黒山、野崎の順だった。今回は野崎、氏川、黒山。残るは、エースの黒山をトップとするワンツースリーがいつ実現するかが、ヤマハファンや多くのファンの興味となるが、氏川とすればその実現はタイトルの目を奪われることになる。
シーズン終盤に向けて、ヤマハファクトリーレーシング同士のチャンピオン争い、そして若手vs大ベテランの戦いが、加熱している。
■■■■■国際A級■■■■■
山本直樹は、2009年に全戦全勝でIBチャンピオンを獲得してIAに昇格してきた鳥取県の期待の新星だった。翌年IAに昇格して5戦目に初優勝。さらなる進化が楽しみにされたのだが、それ以降、IAでの戦いから一歩退いていた逸材だ。最近になって、スポット参戦でIAに参戦。毎回、並みいる常連ライダーを相手に地元の意地を見せ続けているが、今回は見事な勝利。山本の勝利は、IA昇格1年目の2010年以来という話だ。

山本に遅れること5点、2位はランキングトップの高橋寛冴。チャンピオンシップ的には最上の結果ともいえるが、ライバルの平田貴裕がすぐ3位につけているので、今回広げたポイントリードは4ポイントにとどまった。両者のポイント差は6ポイントで、残りは2戦となる。数字上の可能性としてはランキング3位の小野貴史にもチャンピオンの可能性があるも、現実的には今年のタイトルは高橋と平田の二人に絞られている。
今シーズン3戦目の出場の本多元治は2ラップ目のふたつの5点が響いて4位、砂田真彦5位、小野6位と続いた。今回は若手勢がちょっと成績を落としていて、中里侑7位、小椋陽8位。岡山のベテラン尾藤正則9位をはさみ、永久保圭10位、黒山太陽11位と続いている。
2024年IBチャンピオンの髙橋淳はチャンピオンとなって初めてのIA参戦。ポイント獲得まで16点の17位だった。
■■■■■レディース■■■■■
5名の参加。北海道や九州は参加者が少なめに慣れてしまったが、広島で5名はちょっとさびしい。レディースクラス創成期からメンバーの小玉絵里加、寺田智恵子、今シーズンのチャンピオン最右翼の中川瑠菜、成長が楽しみな兼田歩佳、寺澤心結。全体にヤング層へのシフトが目立つレディースクラスだ。

連勝を続けている中川は、ここでまた連勝記録を伸ばした。2位兼田との点差は5点。結果的にはまずまずだったが、1ラップ目は1点差で兼田にトップを奪われている。自分は万能ではなく、苦手なところがあり、そこを兼田におびやかされると分析する中川だが、しかし今回の勝利で、次のSUGOでタイトル決定となりそうだ。SUGOでは、4位以上に入ることで、中川の初めてのチャンピオンが決定する。そして1ラップ目に今回を脅かせた兼田がどこまで成長するか、今シーズンの残る2戦、そして来シーズン以降が楽しみだ。
そして楽しみといえば今回2度めの表彰台を獲得した寺澤。まだ難所で足が届かないという場面があってライバルに後れを取るところが多いが、2ラップ目は2位兼田に2点差まで迫った。さらなる上位を得る日も遠くない。
■■■■■国際B級■■■■■
IBでは、レディース3位の寺澤心結の兄、寺澤迪志が今シーズン2勝目を挙げた。前回、北海道の戦いではオールクリーン勝負に挑み、1点を失って敗退、2位となったが、今回は一度も足をつかずに10セクション2ラップを走破。見事にオールクリーンで勝利を果たした。

寺澤は、ランキング2位の木村倭(今回は世界選手権T3クラスに出場のため欠場)に31ポイント差。残る2戦で6位以上をキープすれば寺澤がチャンピオンとなる。今シーズン、ワーストが5位の寺澤のこと、6位以上はまず確実かと思われるが、最後の戦いに油断はできない。
2位となったのは開幕戦で勝利した岡直樹。第2戦前に負傷して2戦を不本意な結果としたが、それでも岡はランキング3位をキープしている。
IAクラスへの昇格切符を得るランキング5位以内は、ランキング4位が小倉功太郎で49ポイント、5位大櫃千明45ポイントとなっている。ランキング6位以降はフル参戦組が少ないので、この二人の昇格が濃厚な感じだ。
