雪は降ったって春は春。シーズンは開幕してます。えいえいおー

雨と泥とα7

2015原瀧山にて

 9月5日〜6日は、全日本選手権の中国大会だった。土曜日は曇り空で、なんとかなるかとおもったら、日曜日は明け方から雨降りだった。レースカメラマン仲間に「そんなんで撮れるんですか?」と心配されながら、ぼくがソニーα7を使い始めて1年3ヶ月、そういえば、こんな本格的な雨が降ったのは初めてだった。しかも会場の原瀧山トライアルパークは、雨が降ると地獄の3丁目となる天下一品の悪コンディション会場だ。

 今回は、山登り用品屋で秘密兵器を調達していった。靴にはかせるスパイク底だ。何年か前、ここが地元のK治木さんが、滑る斜面をすたすた歩いているのについていって、思い切りひっくりころんだことがあった。K治木さんは磯釣り用のスパイクつき長靴を履いていたのだった。
 足下を固めることで、敵はすたすた、こっちはすってんころりんだから、雨の原瀧山ではスパイクを用意しようと硬く心に誓っていたのだった。
 用意したのは、靴底にゴムで止めるスパイクで、舗装路を歩くとかちゃかちゃとうるさいけれど、滑るところでは抜群のグリップを発揮した。しめしめ、なのだ。
 さて、雨は降り続いている。雨が降ると、レンズは曇るわファインダーは見えなくなるわ、ピントの確認もたいへん。まともな写真なんかほとんど撮れなくなる。
 今まで使っていた百戦錬磨の機材だってもそうなのだから、軟弱なソニーではさらにまともに写らないどころか、あっという間に壊れてしまうのではないかと不安満載で撮影に挑んだのだった。
 一応、カメラは防塵防滴に配慮している、となっている。水につけても大丈夫、ってわけじゃない。カメラってのは、カタログに書いてある性能とは別に、しっかり鍛えられたカメラは手荒い使用にも耐えるし、鍛え方が足りないカメラはすぐぶっこわれることになっている。
 防塵防滴ではあるけれど、まだまだぼくのα7は鍛えようが足りないから、なるべく濡らさないように気を使って撮ってみた。
 ふだん、このカメラのオートフォーカスはふらふら迷うし、トライアルみたいなスポーツ撮影に適しているとはお世辞にも言えない仕様だ。天気がいい条件がいい時には、うまく動かないもんだなぁとちょっと悲しくなったりもする。それがこんな天気だってのに、意外にしっかり写している。レンズも曇らず、レンズのもつすっきりシャープな性能がけっこう発揮されている。やるじゃないのと、最初は大喜びだった。

2015原瀧山の富田

 ところがやがて、少しおかしなことが起き始めた。最近のデジタルカメラは高感度特性がいいので、昔みたいに遅いシャッタースピードを切ることなく、1/250秒かなんかで撮影して、暗かったら勝手に感度をあげてもらうようにしている。ところがふと気がつけば、シャッターが1/6000秒とかになっている。どうしてこうなっちゃったのかわからない。あわてて戻す。ふだんなら、節度のあるダイヤルを回して設定するんだけど、水が入ってなんかおかしくなっちゃってるのかもしれない。
 そればっかりならいいんだけど、ふと気がつけば、絞りがF22とかになっている。しかも戻そうかと思ったら、うまく動かない。ダイヤルをどんだけ回しても、F19あたりから先へ進まない。これは困った。ぼくはふだん、モードはマニュアルで撮っている。これを絞り優先にしたりシャッター優先にしたり、そういえば自分の設定を呼び出すモードもあったのを思い出して、そのモードを使ったりして、とにかく少しでも写りそうな仕様を探しておたおたしていた。
 そしてそのまま、滑る谷底へ降りていくことになった。スパイクの靴底はたいへん優秀で、みんながつるつるオタオタ歩いているところをスタスタ歩いていける。最高の装備だった。
 森の中は真っ暗で、そんなところをときとして1/6000秒F22で撮ったりするもんだから、なにも写っていない。気がつけばこのやろうとかめらをいじるのだけど、機械式のダイヤルだったら動かなければ無理やり回すこともできるけど、電気式のダイヤルは動く気がなくなったらお手上げだ。
 どうもファンクションボタンが押しっぱなしになっているかのような感じもあって、いろんな設定が勝手に変わっている。帰ってきてから撮ったものを確認したら、同じ写真が3枚ずつある。どうも、少しずつ露出がちがう設定で3枚記録するという設定になってしまったみたいなんだけど、ダイヤルがうまく動かせないのになんで変わったのかがわからない。
 カメラの状態がどうなっているのか、さっぱりわからない状態で写真を撮り続けて、少しまともだったり真っ暗でなんにも見えないのを撮りながら、谷底から脱出することにした。
 まわりのみんなは、木につかまったり転んだり、転んだまませっかく登ってきたのに谷底まで滑り落ちてしまっていたりする。そんな中、スパイクの威力は甚大で、すたすたと登っていく。
 次の撮影現場まであと少しというところで、しかし突然ころんだ。足下には全幅の信頼を置いていたから、この転倒は想定外だった。持っていたカメラもあわせて泥沼に着地した。

2015原瀧山のガッチ

 しかしびっくり仰天だったのは、そこで見たカメラからは、レンズが外れてしまっていたことだった。レンズにもカメラにもストラップがついていて、ふたつが微妙にからまっていたから両方とも手元からは離れなかったけれど、一歩まちがっていたら谷底までレンズがころころ転がっていくところだった。いや、レンズのほうが重たいから、転がっていくのはカメラだったかもしれない。
 このカメラは、ミラーがないから、レンズを外すと高価で神経質な受光素子(の上にはりついているローパスフィルター)がもろに見えてしまう。ここに泥が飛んでいたらこのカメラの使用はあきらめて、万一のバックアップにビニールに入れてかばんの底にしまい込んでいるもう1台を出すしかないなと思いつつ(でも2台をいっぺんにつぶすのはしのびないので、できたら今日はこの1台で乗り切りたい)、おそるおそるセンサーを見てみると、目視では泥汚れはないようだから、あとは見ないふりをしてそのままレンズをつけちゃった。

2015原瀧山の使用後

 実はこのカメラからレンズが外れるのは初めてじゃない。イーハトーブでザックにカメラを入れて走っていて、次のセクションでカメラをとり出してみたら、ザックの中でカメラとレンズがばらばらになっていたことがあった。それから1週間後、この日も撮影前に1度、やっぱり外れていた。
 昔々、鈴鹿サーキットのスポンジバリアにカメラを置いておいてスポンジからコースに飛び降りたら、スポンジがぼよんぼよんとして(当然だ)カメラが落っこちたことがあった。キヤノンF-1(初期型)と80-200のズームの組み合わせだったと思うけど、レンズが半分に折れて、ボディもマウント分が少し浮いてしまうという大惨事になった。修理は可能だったけど、その際もレンズとカメラはがっちりくっついたままだった。マウントって、そういうもんだろうと思うけど、このカメラはそうじゃない。
 α7のマウントが頼りないのは、発売当時からあちこちで言われている。マウントのロックが金属製でなくてエンジニアプラスチックだからだ。ネットの掲示板では鬼の首とったみたいにプラスチックのマウントをくそみそにいう人がいた。まぁそれはそれだ。あとに出てきた新機種はマウントの爪が金属製に変更されていたから、プラスチックマウントはなにかしらの問題があるという結論になったんだろうと思うけど(技術的な問題ではなくて、販売戦略上おいしくないということだったかもしれない)、ぼくの場合はレンズが外れるという最悪といってもいい問題となって現れた。
 まぁなにかの拍子にレンズを外すボタンを押してしまって、たまたまレンズが回ってしまったら、仕様としてレンズは外れてしまうのだけど、それが1週間の間に3回も起こったのは、たまたまじゃないと思う。1年3か月使ったから、プラスチックのマウントもそこそこ削れてきたんだろうけど、いやいや、1年ちょっとで減ってしまうカメラはちょっと悲しい。
 それでもまぁ、その後はより大事にカメラを抱えるようにしたから(だって気がついたらレンズだけ持っててカメラがない、なんてことになったら悲しいから)レンズが外れるなんてことはなかった。それより、滑る斜面で転びまくるようになったというのが次なる大問題だった。
 スパイクも、泥が詰まると当初の効果はなくなるのかなぁと思いつつ、ふと見ると、ぼくの靴にはスパイクがなかった。どこかで脱げてしまったのだ。これは痛い。買ったばかりのスパイク(2000円くらいだった)がなくなったのも悲しいが、スパイクの快適さに味をしめてしまったから、スパイクなしで歩くのもつらい。でもとりあえず、ころんだ理由がスパイクがなくなったからだという原因は判明した。
 レンズの絞りもズームもじゃりじゃりしているし、カメラはあいかわらずくるくるぱーの動きをするし、しくしくと泣きながらその日の撮影はともあれ最後までやりきった。
 シャッターや絞りや撮影モードが勝手に変わるばっかりじゃなくて、純正のレンズしかつけてないのに「このアクセサリーは互換性に問題があります」なんてメッセージまで出てきてしまう。無視してシャッターを切れば写真は撮れているみたいなので知らないふりをしたけれど、この日は1日中見て見ぬふりをしながら写真を撮っていた。
 泥だらけのカメラは、帰ってから丸1日かけて掃除した。メモリーカードの中からは、真っ黒けの失敗写真が大量に出てきた。でもカメラは動き続けていたわけで、それは少し感心した。撮った覚えのないRAWファイルや、同じ写真が3枚ずつ記録されていたりして、メモリーカードの中身もそうとうにカオスだったけど、撮ってる時がノーコントロールだからいたしかたあるまい。

2015原瀧山の使用後2

 結局、泥を落としたカメラには、いくつかの問題が残った。レンズが外れるのは、おそらくこれからも起こるだろう。よく見ると、液晶にほんのわずかのひびが入っている。画面は見えるので使用上の問題はないけれど、きっと転んだ時にどこかにぶつけたんだね。かわいそうに。
 でも最大の問題は、行ったり来たりしてしまう前側のダイヤルだけは、乾いても元通りにならなかった。ダイヤルで絞りを操作する純正レンズは2本しか持ってないから(うち1本は中古で1万円で買ったAPS-C用の安ーいやつ)このダイヤルが機能しなくても即致命的ではないんだけど、なおせるものならもちろんなおしたい。
 こういうこともあるかと思って、というか、ソニーのカメラにはこれっぽっちの信頼も置いていなかったので、ソニーショップで購入して、3年ワイドという水没でもなおしてもらえる保証をつけておいた。
 ソニーのアフターサービスも、巷の掲示板ではくそみそにいわれていることがあるけど、ぼくの場合はいたってふつうで、ていねいだった。今は、梱包材を持って修理品をとりにくる配送業者を待っているところだ。
 さて、どんなことになるのやらね? 念のためにつけくわえておくと、キヤノンやニコンと比べて、めっぽう手間がかかるできそこないのカメラだけど、最近のぼくはこれじゃなければ写真が撮れない。写真を撮りはじめてもう40年以上になるけど、こんなふうに撮るのが楽しいと思えるカメラに出会ったのはレンズがもげたキヤノンF-1以来のような気がするです。

(冒頭のぼくの写真は、岡山の永谷美樹恵さんにいただきました。ありがとね)