前回までのあらすじ
川内村高田島に由緒正しき神社がある。そしてここに、いわくありの彫り物がある。これを置き換えようと、だんじり祭りの山車飾りを掘っている木彫山本さんに3枚の彫り物を彫ってもらうことになりました……。
この件、前回書いてから2年が経過していた。2年間、こちらとしてはなにもせずに月日が流れていたわけなのだが、もちろん、なんにも動きがなかったわけじゃない。彫り物をお願いした山本さんとはときどき連絡をとっていて、1枚できた、2枚できた、と報告をもらっていた。そしてついに、去年、2017年11月に、3枚目が仕上がったとのご連絡。
さて、そうなったら彫り物を受け取る段取りが必要だ。送ってもらったほうがまちがいがないんじゃないかとか、やっぱり手渡しで受け取ってくるべきじゃないかとか、ついでに吉本新喜劇の舞台が見たいとか、いろいろ意見はあったものの、集落(このへんでは部落といいます。部落と書くのになんの違和感もないんですが、どきっとする人もいると思うので、集落と書くことにします。集落と書くほうが違和感あります)の役員と神社関係とで、9名が出かけることになった。そういえば、板を持ってお願いにうかがったときにはぼくは山本さんとの連絡係だったけど、今回は集落の役員として出向くことになった。よそからやってきたぼくなんかが役員をやることになるんだから、地域の人口減も深刻なんでありましょう。
前回は木を積んでハイエースに定員いっぱい乗ってでかけたけど、今回は大事な木を持って帰ってくるので、前回のように木の上に荷物を載せたり、ないしょだけど誰かの足がのったりするわけにはいかない。ハイエースで行くと、たぶん乗れるのは3人くらいになっちゃいそう。てわけで、もうちょっと大きいので行こうということになった。
村の自動車屋さんに貸してちょうだいとお願いして、リーズナブルな借用料でクルマを調達できた。運転手は大型免許を持っている二人。ほんとは3人の予定だったけど、お葬式ができて一人欠けちゃった。メイン運転手は在職中は天皇陛下にも村の様子を案内したJさんとなった。Jさんは、クルマを運転するのが好きだ。
出発は朝の4時。寒い。2月の朝4時だから寒いのも当然だけど、ふと見ると窓がちゃんと閉まっていない。Hゴムが縮んじゃって、閉めようと思っても閉まらない。高速に乗る前にコンビニによってガムテープを買って、窓の隙間にタオルを詰め込んだ。でもすきま風は完璧には防げなくて、寒い寒いと言いながらの道中となったのだけど、東京が近くなる頃には日が昇ってあったかくなって、寒いという声も聞こえなくなった。出発してから2時間くらいは外気温が氷点下だったから、まぁ寒いのも当然だ。
首都高を避けて圏央道から東名へ抜けて、Jさんの運転は快調。お昼過ぎには名古屋に到着しようかというあんばいで、これなら彫り物を受け取ってそのままとんぼ返りで帰れるんじゃないか、なんて乱暴な意見も飛び出した。まぁそれはともかく、当初夕方5時半くらいに大阪府貝塚市にある山本さんの作業場に到着する予定だったのだが、それよりは早く到着しそうなのは明らかだった。
結果、なんと午後3時過ぎには到着してしまうという、Jさんさまさまの大阪行きとなった。山本さんとのお約束では、金のないイナカの神社のお財布事情をかんがみて、彫り賃は特別料金。その代わり3年くらい時間をちょうだい、手が空いたときに作業するから、ということだったんだけど、木をお預けしたのは2年前だから、1年前倒しで受け取れたことになる。ありがとうございました。
彫り物を運び出すのが最初のミッションになったけど、山本さんのところでは、ふだんは軽トラで運べる作品ばっかりだそうだ。山車は思い切りでかいけど、彫り物は部分部分で作って山車大工さんのところに持っていって合体させるから、こんなにでかい作品を出すのも初めてだし、こんなにでかいクルマが作業場の前まで入ってきたこともなかったらしい。
3枚の彫り物をいただき、残金をお支払いして、任務は無事に終了。4月29日にこの彫り物のお披露目と毎年恒例の高田島諏訪神社例大祭がおこなわれるのだが、その際には山本さんにもぜひ来ていただきたいということで、そのお約束もとりつけて山本さんのところを辞することにした。
前回木を届けに来たときのその後のあれやこれやは、山本さんもここを見てくれていてご存知のようで、今回もまた楽しんでいってくださいと見送られました。
前回は、人数が泊まれて安いところをとって、道頓堀あたりまで飲みにいこうという予定だったのだけど、歩くのがめんどうだということで近所へ出かけて思わぬ出会いになった。今回は最初っから道頓堀をめがけてクルマを走らせる。予約した宿はドミトリーで、一人2,000円台の安いところなんだけど、マイクロバスは大坂城の駐車場まで止めにいかないといけないというおまけもあったけど、まぁしょうがない。
話には聞いていたけど、道頓堀は国際化の嵐というか、アジアンシティだった。ドイツ人かアメリカ人かはわかんないけど、白人さんが歩いていれば日本人じゃないっぽいのはなんとなくわかる(という判断基準がそもそも島国根性なのだけど、まぁ許してください)。アジア人っぽいかわいい娘がいると思ってそっと近寄っていくと、韓国語とか中国語とかがとびかっている。ネット界隈を見ると、こういう邦の人たちのことをくそみそに言う人たちが少なくないけれど、少なくともこの地の経済は、そういう彼らによって支えられているんだなぁと実感しつつ、行くべき店を探す。
メンバーが9人もいるから、ふらっと入るには大人数だ。屋台の店とか興味津々だったけど、最初はみんなでいっしょに食べるベ、二次会は屋台に行けばいいじゃないか、という声が出て、9人が座れる席にはいった。福島弁でオーダーを頼むと、通じているのか通じていないのか心もとない。店員さんも日本の人じゃなかった。そんな人に、メニューにないけど日本酒を一升瓶で持ってこい、なんてオーダーしてみちゃったりして、どうもすいません。「それは売ってない」と返答されましたっけ。
串かつとたこ焼きは食べないといけないと、みんな心に誓ってきたみたい。はたして、これがほんとの大阪のたこ焼きなのかどうかはさっぱり自信がないけど、まぁ、これが大阪のたこ焼きかと納得して、なんだか山ほど酒を頼んじゃって、しょうがないから全部飲んできた。9人で出かけて、あとで領収書を確認したら3万円もしなかったんだけど、そういうものなのかな? 計算まちがってたかもしれない。もしまちがってても、まだ数日前のことだけど、時効です。ごめんなさい。
串かつを食べて酒を飲んで、二次会に屋台へ行くかと言えば、そんなことをいったのを覚えている輩は誰もいなくて、せっかく来たから道頓堀らしいところを歩いていこうと、あいかわらず中国語と韓国語が飛び交う町をすり抜けている。人間よりイノシシの方が多いところからきた一行(と冗談を言ってるけど、去年の秋からこっち、イノシシがぜんぜん獲れない、姿もほとんど見ない。どうしちゃったんだろうという話はまたいずれ)、人ごみにまぎれるとあっという間に迷子になってしまいそうだけど、今回は運が良く、誰も迷子にならずに夜のお散歩ができた。
で、やっぱりというか、足下がふらつく人々が現れた。予定通りだ。そのために何人かのスタッフが必要ということでもある。幸い、今回の宿は道頓堀のど真ん中だったんで、引きずって帰るのも比較的らくちんだった。でもやっぱり、村の中で軽トラの荷台に乗せて運んで帰るほうがやっぱりらくちん。人ごみではよけいな手間や事件が起こったりするかもしれないし、引きずりながらも多少は気を使う。
ということで、ご一行の感想としては、こんなところで暮らしたり仕事するのはいやだ、川内の山ん中がなんぼもいいべぇ、というものだった。彼らにすれば、道頓堀にでかけてさまようのは、サファリパークへでも行って、動物の中を自動車に乗ってうろうろするのと大差ないのにちがいない。
というわけで、酔っ払いを宿に届けたのが21時過ぎ。まだまだ夜は長いのだけど、ちょっと目を離したスキに、みんなすっかり寝入ってしまっていた。寝つきのいいこと。人の多さと外国語の多さにすっかりくたびれちゃったのかもしれない。
翌朝は8時前には宿を出ることにしていたけど、みんながごそごそ起きてきたので慌てて時計を確認したら夜中の1時だった。夜の9時に寝れば、この時間に目が覚めてしまうのかもしれない。おかげで、この日は2日分寝られたようなお得感があった。
出発は7時前。行きは4時だったから、帰りは3時間ほど到着が遅い計算になるけれど、そのとおり、夕方の6時過ぎにわが家に着いちゃった。予定では夜の10時とか11時とかに帰ってくることになっていたから、ずいぶん早い。それでも、途中大津のサービスエリアでヒッチハイカーを見つけて乗せてあげたりもした。彼らは東京の高校生で、大阪見物をして、次なるは名古屋見物をしたいそうだ。なんなら福島まで連れてってやるぞと言ってみたんだけど、高校生じゃ酒も飲ませられないし、こっちのペースにははまらない。長島のサービスエリアで下ろしてあげて、こちらのミッションも無事に完了した。名前も聞かなかったけど、ヒッチハイクなんてそういうもんですね。
ということで、次のミッションは、持って帰ってきた彫り物を神社にはめこんで、ちゃんと奉納することです。この儀式は4月29日、例大祭のときに執り行う予定です。ちゃんと除幕式とかもやるから、おひまなら来てくださいね。たぶん、誰が来ても歓迎です。
高田島諏訪神社彫り物物語(序章)(2015年11月)
https://www.shizenyama.com/nishimaki/aboutkawauchi/14586
神社の木彫の材料を作る(2015年11月)
https://www.shizenyama.com/nishimaki/aboutkawauchi/14715
木を届ける(2016年2月)
https://www.shizenyama.com/nishimaki/aboutkawauchi/16011