IRCは、世界的に確固たるポジションをキープしているダンロップ、ミシュランに比すれば、その次を追う日本のタイヤメーカーだ。ミシュランはフランス、ダンロップの発祥はイギリスで現在は日本を代表するタイヤメーカー。こんなライバル各社にあって、IRCは生粋の日本のタイヤメーカーだ(日本最古のタイヤメーカーは、IRCより四半世紀ばかり前に創立された日本ダンロップ。だそうだ)。
IRCの活動は、ちょっと興味深い。ハードエンデューロでのグリップ力がすっかり定評になっているGEKKOTAなど、ユーザーからの声に応えて製品化が進んできたものもある。社内に開発ライダーがいて、幾多の実戦テストを繰り返してきたりもした。
トライアルタイヤに注目すれば、IRCのエポックメイキングとなったのが、1994年にヤマハTYZ250Zスコティッシュの純正タイヤ用に開発されたTR-011 TOURISTだ。競技用のTR-011 TRIAL WINNERをチューブタイプとして公道走行用に仕立て直したもの。ヤマハの250ccバイクの純正タイヤだから、高速道路を走っても大丈夫のお墨付きだ。
しかし以降、IRCトライアルタイヤは、一部の人に愛され続ける一方、20年以上の長きに渡って、一部の知る人ぞ知るブランドとなって、ちょっとした冬眠状態でもあった。そのIRCトライアルタイヤを目覚めさせたのは、ほかならぬ、TR-011 TOURISTの製品化に奔走した中野岳彦さんだった。

IRCのトライアルタイヤは、TYZスコティッシュ用のツーリストが登場した30年前から、材質面など細かい見直しはされていたものの、基本スペックは変わっていなかった。ツーリスト開発のあと、トライアルタイヤから離れた現場で仕事をしていた中野さんは、自分が担当したタイヤはとうにカタログ落ちしていると思っていたのだが、あにはからんや、IRCトライアルタイヤは脈々と売れ続けていた。日本ではTOURISTに根強いファンがいた。そして海外でも、国によっては熱烈なIRCファンがいる。その売れっぷりと、そのタイヤ群が30年も基本設計が同じであることを知った中野さんは、もう一度TR-011の開発を進めることにした。
旧TR-011に乗ってもらうライダーを増やしていく一方、次なるTR-011の向かう先を決めて、それが2025年秋に、ようやく市販化された。中野さんは、このタイヤを日本のトップクラスが履いて大会に出場してくれたらと考えているが、今回はその第一歩で、小川毅士選手にTR-011zとTR-011z PLUSの2種類の新生TR-011に乗ってもらった。

ちなみにIRCトライアルタイヤには、TOURIST、フロントタイヤを含めると4種類の現行モデルがある(現状では、旧型のTR-011も入手可能かもしれないので、となると5種類)。どれもTR-011までは名前が同じだから、判別にはちょっと気を使う。
タイヤの性能は、ブロックパターン、サイドウォールの形状、ゴム質、カーカスの配置など、多岐に渡る要素で決まってくる。今回の新生IRCトライアルタイヤは、まずは現行だったTR-001のブロックパターンを使い、それ以外の部分を新時代に合わせて見直している。特にサイドの形状や合成などは細かい部分まで見直して、タイヤがつぶれた時のブロックのフォルムを再確認した。歪んでつぶれると、設置面が小さくなり、ブロックの一部しか路面に触れなくなる。ブロック全部が常に路面に接触するようなタイヤ形状、剛性を追求したのが、今回のモデルだ。
zはこれまでのTR-011に替わる汎用性の高いモデルで、IAクラスの中位くらいまでは快適に走れるという。z PLUSはそれ以上の技術を持つライダーに特化していて、より強い剛性を持つ。この性能は、ライダーによって吉ばかりの結果にはならないので、多くのライダーにはZがお勧めということだ。実際全日本で上位入賞しているIBクラスのIRC装着者はzを選択している。毅士選手には、zとz PLUSを一気に乗ってもらって、そして感想を聞いた。

今回の試乗マシンは小川毅士選手のいつもの愛車、ベータEVO-2T FACTORY 300。フロントはTR-001を共通して使い、リヤのみzとz PLUSを履いたホイールを用意して、途中で交換した。いつもの試乗とちがって、勝手知ったるオフロードパークSHIRAIで、自分の愛車でのテストとなって、いつもよりさらに攻め込んでいるようにも見える。zの想定使用範疇をちょっと逸脱しているハードなコンディションとも思えるが、テストの一環ということでご了解ください。

毅士選手が好印象だったのは、zだという。グリップをしてくれる感じが、いい感じなのだという。石や地形の形状に、タイヤがよく追従して、グリップを稼ぎ出してくれている。やわらかい印象はあるものの、毅士選手がつぶしたいタイミング、戻したいタイミングとタイヤの特性がよく合っていて、違和感もない。もちろんもっと固いのが好きな人もかるかもしれなくて、そういう人には腰砕け感を感じるかもしれないのだが、そういう人はz PLUSをチョイスすればいい、ということになる。
ただし、IAS毅士選手的には、絶賛ではなかった。毅士選手のウォーミングアップくらいレベルだととてもいい印象で走れるものの、ステアにリヤタイヤを当てたりダニエルをしたり、リヤタイヤに大きなストレスを与えて乗るようなシチュレーションになると、底づきを感じるという。外から観察する限りは、タイヤが限界までつぶれている様子には見えないので、実際に底付き感があるわけではなく、底付き感、という感覚的印象かもしれない。タイヤが全部つぶれる手前で、つぶれる動きが止まって、そう感じさせられるということだろう。この底付き感と好印象のグリップ感覚とを天秤にかけた毅士選手の評価が、悪くない、なのだ。毅士選手が感じる底付き感は、IASならではのハードなアクションをしたときということになる。IASとてずっとハードなアクションの前後にはソフトなライディングをしているわけで、IASのトライの何割分かを含め、zは多くの場合で快適なライディング感覚を提供してくれる、ということになる。

空気圧は、中野さんの指示に合わせて、フロント4.0、リヤ3.0とした。しばらく乗っていたらよれる印象があったので、空気圧をチェックしてみると、3.6まで上がっていた。空気圧を上げればタイヤの剛性は上がるかとおもいきや、逆によれてきた。中野さんによると、トライアルのような低圧での使用を前提とすると、空気圧が高いから固い、低いと柔らかい、という評価にはつながらないこともあるそうで、リヤは3.5までの間で自分のベストエアを求めていくのがいいようだ。灰塚ダムの全日本では、3.0より低い空気圧が、IBライダーの間では高評価だったという。
そして空気圧3.6でも底付きの感覚は変わらなかった。空気圧によって調整できるものではなく、これがこのタイヤの個性ということだと思われる。中野さんがトライアルに戻ってきて、ライダーの動きを観察したところ、IAの中堅以上は自分のタイミングでタイヤをつぶして走ることができている。そういうライダーには、自発的にタイヤをつぶして走らなければいけないアクションとトレードオフで、より反発の強い特性を提供するのが、z PLUSとなっている。
そこでz PLUSについて。こちらに乗り換えてすぐは、毅士選手にも違和感があった。zが素直な性能を発揮していたのに対し、グリップや路面の追従性がちょっとつかみにくい。ただしこれは設計通りの仕様とも言える。ライダーの側から多くの入力をタイヤに与えることで、タイヤがしっかりつぶれるなどして、性能を存分に発揮するように作られている。その分、ライダーはタイヤをつぶしにいくアクションを重ねていく必要がある。毅士選手の場合、どうやらその手のアクションは必要最小限でやっているようで、このタイヤを乗りこなしていくには、もうちょっとアクションが必要になるみたいだった。

そこを想定に入れてアクションを加えていくと、PLUSにはzにあったような底付き感なく走ることができる。ただし反面、タイヤの踏ん張りによって性格が変わった路面の追従性など、部分に好ききらいが出るかもしれないと、毅士選手は言う。そして毅士選手が好きなのは、PLUSではないzの方だった。
毅士選手が感じるPLUSの違和感は、腰の強さと柔らかさのバランスだったが、これについては、テストしたのが1年で一番日が短いある日のことで、気温も路面も低かったというのも原因の一つにあるかもしれない。春すぎくらいから、PLUSが本領を発揮するコンディションになるはずだと、中野さんは言う。気候にかかわらず安定して性能を発揮するに越したことはないが、どんなタイヤでも、天候、季節、気温によって、性格をガラッと変えるケースは珍しくないんだそうだ。これは毅士選手の経験とも合致する。
ところで、フロントタイヤはどうだろう? 中野さんにフロントタイヤの感想を聞かれて、毅士選手は一瞬返答につまった。いい意味で、フロントタイヤは印象に残らなかったようだ。それはつまり、何も問題なし、ということでもある。

空気圧は4.2。横滑りするような印象はないので、これをこのまま毅士選手の実戦に投入しても、問題ないんではないかということだった。強いて好みの範疇で言えば、やわらかいとのことだった。フロントタイヤを壁面などに強く当てたい場合、ちょっと物足りないかもしれない、ということだが、そんなシチュエーションはIAS以外ではなかなか現れなそうだ。そしてこれは、絶対的評価ではなく、毅士選手の感覚よりも、もう少しタイヤが多くつぶれる、ということだ。これが自分の感覚通りという人も多いかもしれない。
zとz PLUSについて、IRCはIBまでがZ、それ以上ならPlusという大雑把な使い分けを想定しているということだったが、毅士選手の評価も大筋でそんなところだった。ライダーにも、積極的にからだを動かすライダーと必要最小限のライダーがいて、後者に属する毅士選手的には、楽に乗れるzの特性は歓迎で、PLUSは一生懸命乗らなければいけない、のだそうだ。

両者の差は、大方のトライアルライダーが乗り比べて理解できる差ではあると思うけど、中にはさっぱりわからない人もいると思う。そういう人は、zが無二の選択になることだろう。たとえ、両方を乗り比べてその差にまったく気がつけなくても、タイヤが自分でアクションしてくれるzには、きっとライディングを助けてもらえるにちがいない。
そして、IRCのトライアルタイヤはこれが完成品ではない。IRCトライアルタイヤを履いてトライアルフィールドで活躍するライダーからのフィードバックを糧に、さらに進化を続けていく。その新生第一歩が、今回のzとz PLUSになる。
⚫︎タイヤミニ知識⚫︎
タイヤには、進行方向がある。この進行方向を守らないとどうなるか。少なくともIRCにかんしては、どっちでもいいそうだ。
問題があるとすると、繊維の編み方の方向によって、耐久性が劣る方向的がある場合だが、そんな品質のタイヤは存在しないのと、仮にそうであってもトライアルの速度域でそんな問題は発生しない。
もう一つ、タイヤによっては、金型から抜きやすいように、ブロックの一面が撫で肩になっているものがある。それを逆に組むと、ブロックの形が反対になり、本来の性能が出ないことになるのだが、TR-001は金型からの抜きにくくなるのを承知でブロックのすべての面が直立しているので、方向性は無視してもかまわない。タイヤが減って、逆履きをするのも、なんら問題ないという。タイヤを長持ちさせたい庶民の味方、なのだそうだ。
