雪は降ったって春は春。シーズンは開幕してます。えいえいおー

カメラという精密機械に宿るなにか

ぼくはこの地域に落下傘で飛び降りてやってきたので、親戚は一人もいない。なのでお盆になっても誰も帰ってくる人はいないのだけど、お盆の日にも宅配便は忙しく配達をしてくれていて、そしてクロネコヤマトと佐川急便があいついで荷物を届けてくれた。中から出てきたのは、こんなものたちだった。

2017アサヒペンタックスSV

ちょっと使えそうなノートパソコンなどといっしょに届いたのはこれ。ノートパソコンいらないかというのでほしいといったら、箱の余ったスペースにこれが押し込められていた。

アサヒペンタックスSVは、ぼくが小学生、中学生の頃の憧れのカメラだった。当時ぼくが使っていたのは、カメラがほしいというぼくに、オヤジが知り合いのプロカメラマンのお古を譲ってもらったもので、ペンタックスKという高級機だった。けれど、とても古い機種だったので、カタログにのっている新型機は子ども心には魅力だったというわけだ。ところが今となっては、そのどちらも、ペンタプリズムとクイックリターンミラーが装備された近代型一眼レフができて、そんなに時間が経ってない頃の製品だった。そしてアサヒペンタックスというカメラは、そのカタチ自体は新しくても古くてもほとんど変わらないという、なかなか芯の通ったメーカーだったと思っている。

その後に登場した、カメラに露出計を埋め込んだベストセラーSPに比べると、肩がちょっと低くて、レンズの両脇にエプロンがある。セルフタイマー装備が売りだったのだけど、そのセルフタイマーは巻き戻しレバーのところにあるという、開発初期の葛藤を見るような仕様になっている。

ファインダーをのぞくと、とても暗いのにびっくりするけど、ピント合わせはとても簡単。最近の一眼レフで写真を撮ろうとすると、ピント合わせにえらく苦労するのだけど(オートフォーカスを使っても、ピントが見えないままシャッターを押すのは乱暴で、その結果ピンボケばっかり撮ったりする)これなららくちん。トシとってピントがわかんなくなったと思っていたけど、やっぱりカメラのせいじゃないか。

このへん、ずいぶん昔にプロサービスでお話をしたことがあるけど、最近のカメラがピントが合わないのではなくて、昔のカメラはどんぶりなところでピントが合ったように見えているだけなんだよ、という説明をされた。距離計としてみれば、明るくて正確な現代のカメラのファインダーの方が頼りになるというわけだ。でも、ピントが合っているのかどうかわかんなくて、シャッターが押せないのでは本末転倒だよなぁと、その気持ちは今でも変わらない。

正直なところ、いまさらフィルムのカメラを使いたいとは思わないし、使うチャンスもない。でもスーパータクマー55mmF1.8レンズにはとても興味がある。少し高級な50mmF1.4は2本持っているけど、2本とも描写の味がちがって特に開放だと幻想的な描写をする。それに比べてどんなふうに写るのかは楽しみなところだ。

このカメラは、どなたかの形見だったのだそうだ(そのどなたかの娘さんは知っているけど、そんなのをここで明かしてもしょうがないのでどなたかで紹介させていただきます)。

続いて岡山県からやってきたのは、箱いっぱいに入ったカメラ2台、レンズが2本。

2017バリオゾナーと

1本目はこのバリオゾナー28-70mm F3.5-4.5。さっそく、マウントアダプターを介してα9につけて撮ってみた。すでにソニー純正のバリオテッサー24-70mm F4.0を持っているので、これの登場シーンは少ないような気もするけど、どっこい、このズームには70mm域にマクロがあって、うんと近くに寄れる。ツァイスという会社は、今にも増してこの当時は設計に冒険がないので、しっかりと写る。形がいいので、ときどきこれ1本だけもってどこかに出かけてみるのはいいかなぁと思う。

カメラにくっついているのは、なつかしきフラッシュ。カメラにつけてピカッとするやつを一般にフラッシュというけど、今売ってるのはストロボライトであって、フラッシュといえば一発限りで電球を交換しなければいけないこいつのことだ。しかしこいつもよくよく使い道がない。まず、フラッシュバルブが手に入らない。入手方法を知っている方は教えてください。フラッシュバルブで検索したら、トイレのパーツがずらずらと出てきた。閃光電球としないといけないらしい。

2017コニカ

そしてカメラはこれ。この時代のカメラには無知なので、最初はライカをまねした日本製のなにかかと思ったんだけど、レンズシャッターだからちょっとちがうみたいだ。一目見て理解できるのは、コニカというカメラの名前だけだった。

巻き上げもできないし、レンズが中途半端に回転する。壊れたものを送ってきたのかと思ったけど、いまどきは便利だ。ネットを検索して、このレンズが沈胴式で、回して引っ張って使える状態にするというのがわかった。いまどきのコンパクトカメラはスイッチを入れるとレンズが伸びて使えるようになるけど、あれを手でやるのがこの時代のレンズの常識だった。って、これもライカのレンズのまねをしたのかもしれないけど。

巻き上げができないのは、1枚シャッターを切るごとに、ボタンを押さないと巻き上げできない仕様になっているのを自分で発見した。どうしてこういう仕様なのかわかんないけど、巻き上げとシャッターとが別機構になっているから、撮ったのか撮っていないのか忘れてしまうと、撮ってないのにフィルムを巻き上げてしまったり、撮った上から別の写真を撮ってしまって、心霊写真みたいになってしまう。撮ったかどうかを覚えておくために、巻き上げのロックがついているのかもしれない。

シャッターは、レンズについているレバーを動かしてチャージして、ノブを降ろして撮影する。チャージすると、レバーがファインダーの中に見えてくるから、ファインダーを見ながら、シャッターがチャージしてるかどうかもチェックできる仕様なんだけど、これも意識して設計したのか、たまたまそうなっているのかはわからない。

せっかく送られてきたので、フィルムを買って撮影してみようかなぁと思うんだけど、考えてみたら写真を撮るって、いまどきはかんたんになったなぁ。カメラの電池さえ充電しておけば、フィルムの在庫や現像や焼き増しを考えなくても撮れるんだもの。

レンズをのぞいてみると、少々のカビが発生している。ネットを検索すると300円で買った、なんて記事もあって、これをオーバーホールするのも勇気がいるけど、これもまた、送ってくれた彼のオヤジの形見なのだ。じゃけんにはできぬ。

2017プラナー45mm

最後は、プラナーG 45mm F2.8。これはほしかった1本だ。これはコンタックスブランドを売る権利を京セラが持っていた最後の頃に作ったコンタックスGシリーズ用のレンズで、ホロゴン16mm、ビオゴン21mm、28mm、プラナー35mm、45mm、ゾナー90mm、それとズームレンズが1本用意されていた。ズームレンズにはぜんぜん興味がなくて、ホロゴンも高すぎるので除外して、残りのレンズは45mmをのぞいて全部持っている。35mmのプラナーは珍しいからほしかったけど、45mmのプラナーはいまさらいいやと思っちゃったんですね。

ところが最近では、このプラナーの人気が高い。そうなるとほしくなってオークションとかを探すのだけど、3万円とか4万円とかする。いいレンズだからぜひ使ってみなさいと奨めてくれる人もいるのだけど、何万円も出してとなると、ちょっと宝の持ち腐れになりそう。それで入手をためらっていたら、今回オヤジの形見だから使えるものなら使えと、はるばる岡山から送られてきた。

実は、ぼくの日記にときどき出てくるライカDIIIは、このオヤジからいただいたものだ(預かっていると思っているけど、息子はモトコンポと取り換えたと思っているかもしれない)。あれから30年、音信不通だったのだけど、最近Facebookで再会して、お父さんが数年前に亡くなられたことを知った。お父さんはぼくがライカを使っているかなと気にしていて、ほんの数回、カメラ雑誌にコンタックスを使っているカメラマンとして紹介されたのを見つけ、ぼくのことをなつかしがってくれていたという話を聞いて、空に向かって不義理をおわびして、お父さんの優しさに涙した。

その息子は、写真学校の後輩だったけど、今ではすっかり地元に戻って、地道な活動をしている。ぼくも現代社会のバスから転げ落ちて山の中で暮らしているが、そんなぼくから見ても、彼は現代社会から転げ落ちすぎている。しかしやさしくて、いいやつなのだ。

そんな彼から送られてきたカメラ機材の数々。大事にします、というのは簡単だけど、どうやって置いておくか、お父さんの気持ちを預かったみたいで、ちょっと荷が重い(梱包の中には、バリオゾナーをつけるべき、コンタックスRXも入っていた。これは京セラ製の電気カメラで、動かすにはまず電池を買ってこなければいけない。どうしようかなぁ)。

それでも、お盆の人にこんなものが届いたというのは、昔日に出会った人が、ふらりとそのへんに現れたみたいで、悪い気持ちではない。けっしてほしいレンズが手に入ったから喜んでいるばかりではないのですぞ。