雪は降ったって春は春。シーズンは開幕してます。えいえいおー

てっぺーの、ノリック

てっぺーノリック写真集

いろんなことが、若く青かった日々のことが、この1冊につまっている。もしかしたら、世の多くのノリックファンにとっては、この写真集は期待するものではないかもしれない。でもノリックと彼のやってきたことをもうちょっとほんとうに知ろうと思ったら、ここにつまった甘酸っぱい思い出をじっくり見つめてほしいと思う。

「お父さんとかはノリックとは呼ばずに、ノリって呼ぶんだ」

同居人である阿部典史のことを、てっぺーはこんなふうに説明してくれた。てっぺーとともにアメリカに渡っていたノリックは、オートバイの世界に携わる仲間のうちでは、当時すでに名の知れた存在だった。確かノリックという愛称は、アメリカの人たちが呼びやすいように、てっぺーがつけたものだったと思った。てっぺーは、そういうセンスに長けている。

てっぺーは、日常的に会えば、野放図ですけべなちびでぶだけど、その引き出しの多さと奔放な行動力にはいつも感心させられる。今日も、とある街のデニーズで話をしたけれど、そのデニーズには朝から晩まで原稿を書くためにいすわっているので、店員さんとはすっかりお友だちになっていて、なじみの定食屋さんや居酒屋さんの女将と話をしているような関係を築いてしまっている。この人のなつっこさというかずうずうしさは、しかし近所のデニーズだけではなくて、世界中どこにでも通用する。特にアメリカは、てっぺーにはお似合いのフィールドだ。

ノリックのお父さんの阿部光雄さんはオートレースのトップレーサーで、ライディングに関しての造詣はつとに高い。そのお父さんが息子典史くんをトップレーサーに育てようと思ったとき、修行の舞台として選んだのが、アメリカのダートトラックだった。自分のレースに忙しい阿部さんは、典史くんの将来をてっぺーに託した。てっぺーはアメリカが好きで、何年かのアメリカ暮らしも経験していた。滞在の段取りやマシンの調達、そしてレース活動まで、ノリのために大喜びで動き回るアメリカでのてっぺーの日々が始まった。

この写真集は、てっぺーとノリの、アメリカでの毎日がおさめられている。そして写真集は、ノリが日本に帰ってきてロードレーサーとして本格的にデビューし、世界に羽ばたくところでページを終わる。ノリックが、多くのファンの心をつかむようになるのは、この写真集の次の時代になる。記録に刻まれた偉業には、それを生む背景がある。この写真集をめくれば、新たな才能が育まれていく様子に、元気を授けられる。

この写真集でてっぺーが語りかけてくるものは、追悼ではない。20年前、やがて世界に羽ばたく才能の、生き生きした胎動だ。

版型:A4横オールカラー 全92ページ 中尾省吾(てっぺー)による解説付
価格:3,675円

*写真集の購入はSOB MAGAZINE SHOPへどうぞ。