雪は降ったって春は春。シーズンは開幕してます。えいえいおー

イシア

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 イシアはペップの娘。ペップはソロモト誌の編集者で、かっちりした写真を撮る。ぼくには逆立ちしてもこういう写真は撮れないので、ちょっと嫉妬もしている。最近はえらくなって現場には子分のチリという若いのが来ているけど、チリに「早くえらくなれよ」というと「まだまだペップにだめだしをされてるんだ」みたいなことを言う。どこも上下関係は、なかなかたいへんそうだ。ぼくら日本のトライアルの取材現場には、上下関係がほとんどない。住み心地はいいともいえるし、向上心を失うともいえる。善し悪しだけど、人口が少なければ上下関係も成立しないのだった。


 いやまぁそれはそれとして、イシアの話だ。イシアは1歳ちょっとになる。歩き始めて、やんちゃな盛りだ。ペップはジョルディ・タレスと同い年。40歳過ぎて1歳の娘というのは、お父さんになるのがちょっと遅かったけど、お父さんと娘の関係は年齢とは関係ない。ぼくなんかへそ曲がりだったから(今もだけど)自分が父親であるというのをなかなか受け入れられなかった気がする。お父さんになるのも年齢修行が必要じゃないかと思うから(ぼくができが悪いだけだとも思う)年齢がいってからお父さんになるのも悪くないかも。そういえば杉谷も、もうすぐ50歳だけど、実は最近お父さんになった。
 それでイシアの話だった。自分の家に突然日本人がやってくるというのは、彼女は認識してるのかなぁ。どうも、このくらいの年齢だと、人種のちがいを認識するのはむずかしいかもしれない。最初は人見知りしてたけど、30分もたったら仲良く遊べるようになった。お別れのときには投げキスしてくれるようにもなったし、一晩おいたら、ほっぺたにちゅーしてくれるようにもなった。まぁ、彼女のぼくに対する愛というより、父親と母親がそうしなさいとしむけるから、命令のままに動いているんだけど、悪くはないもんです、やっぱり。
 あんまりなつっこいから、写真を撮ってあげる。すると、カメラに手を伸ばしてくる。これはあんたを撮影するためのもんで、あんたが遊ぶもんではないだろうと言ってみるが、少なくとも彼女には、日本語は通じない。
「彼女は、写真を撮ったら写ったものを見せないと気がすまないんだよ」

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 ペップお父さんが解説する。なるほど、モニターを見せて「こんなのを撮らせていただきました。ありがとうございました」と報告する義務があるわけね。デジタル時代の申し子です、やっぱり。
 となると、やっぱり想像の範囲の事件も起きたらしい。友人や親戚の中には、まだデジタルカメラじゃなくて、古式ゆかしいフィルムカメラを使っている人だっている。ある日そういう人がイシアの写真を撮ってくれた。イシアは当然のように出来上がりを見せろという。しかしフィルムなんだから、見せられない。カメラを見せても、画面がない。イシアには、フィルムカメラの道理はわかんないから、意地悪をされているとしか思わない。泣きわめいて、たいへんなことになったそうだ。世の中、デジタル化してきて、その流れについていけない人は少なくないけど、これからはその流れ以外を知らない人のほうが増えてくるという世の中の流れを、イシアから教えてもらった。
 イシアには、おみやげに浴衣のセットと、剣玉とだるま落しと笛をプレゼントした。お母さんには扇子と手ぬぐい。お父さんにはなにもなし。もうしわけない。イシアは笛は吹けた。剣玉はまだ遊べない。実家に持っていったら、甥っ子たちが遊んで、ところが熱中しすぎて剣玉の玉を床に叩き付けてしまった。安いもんだから剣玉のほうが壊れればいいのに、床のタイルが割れてしまったのだそうだ。訴えられて国際紛争になるかと思ったら、笑い話で終わった。よかった。

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ぼくのめがねが気になるイシア(左)

 仲良くなってくると、彼女はぼくのめがねにご執心だ。赤ん坊ってのは、国籍を問わず、めがねが気になるみたいですね。十何年前、実の娘たちにもやられた覚えがあります。イシアのお父さんもお母さんもめがねをかけないから、いたずらをするとしたら、ポンニチを相手にするしかないわけだ。しょうがないから、遊ばれてあげた。
 イシアは言葉を覚えている最中。お水ちょうだいは「アウア、アウア」とたどたどしい。お母さんが「アクアでしょ」と訂正している。イシアといっしょに生活していれば、ぼくもスペイン語を覚えられるかなぁ。