雪は降ったって春は春。シーズンは開幕してます。えいえいおー

風評被害

2011年の春

2011年、軒先の、春

 今、日本中が元気がない。みんなが被災地のことを考えてくれているのはたいへんうれしいけれど、日本中の元気がなくなってくれるのは、誰の本意でもないと思うんだけど、元気があれば「元気を出そう」なんてコマーシャルを流す必要はありませんね。あんなんで元気が出たら苦労はない。むだだからやめたほうがいいと思う。
 と、そういう話をしたいんじゃない。ぼくの周囲では、どっちかというと、あんまり被害のない人たちが元気がない。これ、風評被害でやられているからだ。風評被害、困ったもんです。でも今日は、風評被害に悩む人たちに怒られちゃうようなことを書いてみる。


 お気の毒なのは、会津地方だ。ぼくも福島県の住民になる前は、福島という土地に、ほぼなんのイメージもなかった。東京から東北へ向かうときに、そういえば途中通過するエリアがあるなと、そんな印象です。こんなこと書いたら、また怒られるなぁ。でもほんとなんだもの。
 しかし会津に対しては、ちょっとちがった。白虎隊とか会津藩の存在感も強いし会津若松は観光地だし、ツーリングトライアルがあって訪れたこともある。福島には印象はないけど、会津は知ってる、という人は少なくないんじゃないかな?
 なんとなく聞いていたけど、福島のエリアの区分け、浜通り、中通り、会津という3つは、単純に位置の問題じゃなくて、地域性がずいぶんちがう。今回新たにわかったのは、福島の浜通りの原発がとんでもないことになっても、会津はいたって安全だってことだった。
 原発がまき散らした放射能は、風の吹くまま福島市やら郡山市やら、はては茨城とか千葉とか東京とか、いろんなところに飛散していったけど、会津のほうへはほとんど飛んでいかなかった。だからこの地方は、地震の被害は少しはあったにしても、津波はあり得ないし原発も関係ないで、今まで通りの活動がじゃんじゃんできるはずだった。
 だけど会津は福島県だから、原発がこわい人たちは観光には行かなくなるし、福島で生産された農作物も買われなくなる。風評被害で、お気の毒。
 最近、福島のものを食べよう、消費しようという動きがけっこう活発で、ありがたいなぁと思うのだけど、ほんとに大丈夫と? ただのお祭り騒ぎで福島の野菜を食べようと騒いでるだけだったら、ちょっと考えたほうがいいんじゃないのかと心配になる、というのが今回のお話なのでありました。

スーパーの店頭にて2011年5月

本日の特売は白河産。ブロッコリーとパプリカとアスパラガスはどんぶりの福島産でした。

 スーパーの野菜売り場へ行くと、福島県の野菜がずらりと並んでいる。福島に住む我々が福島の野菜を食べなくてどうするんだという気概も感じられる。しかし福島は広いのだ。ほとんど新潟県みたいな会津地方もあり、茨城県みたいないわき方面もあり、津波と原発でぐそぐそになってしまった浜通りもあり、東北道とか新幹線に沿って、意外に風の通り道のある中通りとか、うちの村みたいに、浜通りのくせに山の中というところもある。
 これ、全部いっしょくたにして福島県産とくくられるのが今の産地表示だ。中にはどこそこ町の誰それさんの、なんて表示をしているものもあるけど、そういうのは数少ない。これだけ広いと、福島が安全かあぶないか、なんて判定が消費者にできるわけもない。気分で買うことになる。福島って安全そうだなぁ、あぶなそうだなぁって、これが風評被害ってやつですね。なんだ、身から出たサビではないか。
 そんなあぶないところによく住んでいられるねといわれながら川内村に住んでいるけど、ぼくはできたら、いまのまんま、福島県産の農作物は食べたくない。出荷制限解除のニュースとかも流れてきて、それはそれで福島県人としてはうれしいことだけど、そのつど、ほんとに大丈夫なのかと疑ってしまう。
 うちの村は、今は緊急避難区域になっていて、農作をするひとはいないからここから農作物が出荷されることはないんだけど、たとえばうちの村の場合、こんなに低くていいのか、隣村にもうしわけない、というくらい数値が低いところもあれば、やっぱり原発30kmだから、このくらいの数値が出ても不思議じゃないなぁというところもある。この前、川内村の原木椎茸の出荷制限が解除された。ぼくは原木椎茸屋さんがどこでやっているのかを知っているから、その安全度もわかる。でももっと線量の高いところの椎茸だって、出荷できてしまうんだよね。
 福島県全部で、日本全国でこういう産地表示がされているのだとしたら、産地表示なんてあっても意味がないんじゃないかいな。会津のものなら安心して食べられるけど、どこそこあたりのものはちょっとこわい、でもスーパーは会津のものとどこそこのものとをごっちゃにして、福島県産として売っている(これはスーパーのせいじゃなくて、農水省だかの政策なんだろうけど)。おいしいカレーが食べられるかもしれないけどウンコかもしれないというんだったら、おいしくなくてもいいから、ふつうのカレーのほうがいい。これを風評被害というのは、ことばを正しく知らない方々の陰謀だと、ぼくは思います。
 ぼく個人は、今年出てきたタラノメを、おっかなびっくり食べてみた。放射能の味はわかんないから、とりあえず天然のタラノメの味を、おいしくいただきました。去年、ちょっと畑を借りて野菜を作って楽しかったので、今年もやってみるつもり。県では、土壌調査などをやっているというけど、うちの畑、というピンポイントではやってくれない(そんなことをしていたらきりがないですね)。だから、まぁだいじょうぶだろう、というなんとなく判断で農作をして出荷する。そのとき出荷制限がかかっていなかったら、安全ということになる。
 村の南端の獏原人村のマサイさんは、平飼いのニワトリの卵の出荷を再開した。東京で買ってくれたお客さんが、その卵を検査機関に出してくれたそうだ。検査もそんなに安くないんだけどね。そしたら、残留セシウムとかは問題なかった(ゼロではなかったらしいけど、基準値を大幅に下回っていた)。ほんとは農作物ひとつひとつ、こうやって測ってくれればいいんだけど、測っている間に農作物は悪くなるから、それも現実的ではない。
 福島県産は安全です、じゃなくて、これは福島県どこそこの誰それが作りました。畑の空気線量はこれこれです、土壌はかくかくです。作物のサンプルからはなんベクレルが出ました。それでいいなら、食べてください、おいしいですよと、ぼくは、こういうふうに売っていただきたいんだけど、それじゃ売れなくなっちゃうと思っている人は多いし、買ってくれない人も多いんでしょうね。
 なんでも悪いのはお国と東電なんだけど、なんでも十把一からげに話をまとめるクセが、風評被害と呼ばれている悲劇を生んでるんじゃないだろうか。福島県じゃなくて川内村でけっこう。会津は会津。福島のぼくらは、九州は九州、四国は四国とひとくくりでかんがえるけど、もしも川内発電所(かわうちじゃなくてセンダイと読むんですね。仙台じゃない)が爆発したら、九州の反対側の別府あたりも風評被害で観光客は激減するだろうし、伊方発電所が爆発したら、徳島の阿波踊りにもきっとお客さんはこなくなる。福島だ、四国だといっているすきに、日本だというだけで外国からのお客さんは来なくなっちゃったものね。
 日本を道州制にしようという動きもあったらしいけど、単位を大きくすると、風評被害もでっかい。風評被害を完全に払拭するのは無理だと思うから、そのためにもすべての単位が小さいほうがいい。今風評による被害を受けてるんじゃなくて、国策習慣病をくらってるんだと思う。
 少々極論を言ってしまえば、グローバル化よくそくらえ、なのだ。日本がひとつになったら、たいへんなことになる。