雪は降ったって春は春。シーズンは開幕してます。えいえいおー

WBC体験

1301ひらた中央病院

WBCって、ワールドベースボールクラシックではありません。ホールボディカウンター(以下、WBCと表記します)です。聞いたことあるかしら? 内部被曝を計測する機械ってことで、福島県のひとにとってはなんの因果かすっかりおなじみのものになった。

ぼく自身は(病院きらいだし)ぜんぜん興味がなくて、そんなの測ってもらわなくてもけっこうだと思ってたんだけど、なんの因果か測りにいくことになった。行ってみたら、病院の人の話とかがなかなかおもしろかったんで、ご紹介します。

ひらた中央病院はその名の通り福島県平田村にある。川内村とはあぶくま高原仲間で、地震の被害は同じくそんなにひどくないエリア。放射能汚染も、それほどひどくない。川内村とは似たような境遇といっていいかもしれない。

WBCは5,000万円とか6,000万円とかするそうで、病院が購入したのか、なんかの補助があったのかはわかんないけど、この測定をやっているのは病院そのものではなくて「公益財団法人震災復興支援放射能対策研究所」って組織だった。放射能測定は医療行為じゃないから、病院ではできないのかもしれないなぁと思ったりいたしました。

1301WBCを待つ子ども

検査を待つ子どもたちの団体さん。写真は病院の許可をもらって撮りました。インフルエンザの季節だから、みんなマスク姿だったんで顔が見えなくてよかった。

どういう取り決めなのかはわかんないけど、協定があって、川内村と浪江町の住民は、WBC計測は無料だそうだ。その他の富岡とか大熊とかの人は、子どもは無料、大人は6,000円なりの検査料が必要になる。といっても、このへんの地域の人たちは、あとで東電に請求できる。最終的な自己負担はないはず。それ以外の人たちは、12,000円なりが必要だそうだ。

「WBC検査の定価が12,000円ということですか?」

と、こういう質問をしたのは全部が終わってからの話だけど、聞いてみた。そしたらちゃんと答えてくれた。

「WBC検査に定価はないんです。もともと一般のひとを対象にした検査じゃないですから。機械の価格が、だいたいCTスキャンと同じくらいなんで、CTスキャンの検査費用と同じにしてある、ということです」

WBC検査はそもそもは原発作業員などの健康管理のためにある。こんなふうに、ふつうの人たちが検査を受けるなんてのは、病院にとっても当の住民にとっても想定外だけど、それは原発が絶対安全という上での想定外なわけだから、可能性はとしてはあったんだよね。それをみんな知らないふりしていただけだ。

受け付けを済ませて、住所や避難状況、食生活などの問診表に返事をしたら、着替えをしろと言われる。

1301パンツ
1301パンツとブラジャー

男はパンツ一丁で検査服を着る。女もパンツ一丁になるんだけど、検査服は薄手で透けちゃうからだろう、エプロンをする。赤ちゃんのよだれかけみたいなやつらしくて、これで乳首が透けることはない。

1301スクリーニング

手のひらから全身、外部被曝の有無を調べてます。

着替えをしたら、最初にスクリーニングをする。原発事故の後、原発近隣地域から逃げていくと、あちこちでスクリーニングを受けさせられたもんだ。表向きは、避難した本人の安全のためだけど、あの頃は、避難を受け入れる側の安全を確保したいための検査という雰囲気がむんむんだったし、実際にそうだったんじゃないかな。

スクリーニングする機械は、要するに線量計なんだけど、精度が高い。わずかな放射線も拾うから、これで皮膚の表面だの衣服に放射性物質がついているかどうかを検出しようというわけだ。これ、外部被曝の検査です。

室内にだってわずかな放射線はあるから、それと比べて線量が多くなければ外部被曝はないと判断できるということらしい。

ところが、検索してもらうと出てくると思うけど、ひらた中央病院の検査では、過去に思わぬ高い内部被曝の数字を出した人たちがいて、原因を追及したところ、当初は、検査時に服を着たままやっていたからだった。服を着たままでもスクリーニングしてるんだからいいじゃないかと思うのだけど、精度の高いスクリーニングでシロでも、内部被曝の検査はそれよりさらに細かいところまで拾う機械でやっているから、衣服の汚れを内部被曝として検出しちゃう。

一番大胆なケースでは、8,000ベクレルのジャンパーを着てWBC検査を受けた人がいたらしい。この人、大熊の人で、当初は当然内部被曝だと思ったからタイヘンだったのだけど、さんざんいろいろ調べて、犯人はジャケットだということがわかった。

8,000ベクレルって、ふつうにゴミとして捨てられない基準がこの数字です。つまりその人は、完全なる放射性廃棄物をまとっていたわけだ。

「そのジャケットは、その後どうしたんでしょう?」

「処分をお国に任せるしかないわけですから、我々としては、次の一時帰宅の時に、警戒区域のお家に置いてきたらどうですかと提案させていただきました」

なるほどー。国の最終処分場が決まる前に、民間レベルでは、着々と処分場への道が進んでいるのかもしれない。

しかし、いかに汚染されたジャケットであっても、洗濯して放射性物質が除去できる、ってことはないんだろうか。

「分子レベルとかでしっかりくっついちゃうと、洗ってもなにしてもだめってことがあるみたいなんです。そのジャケットも、クリーニングはしたということですから」

除染ができない汚染はある、ということだ。

この8,000ベクレルは極端だけど、もう少し数字は小さいけれど、無視できなかったのが、ブラジャーだったという。服を脱いで検査をするようになったあとも、女のひとはパンツとブラジャーは着用のまま、検査服を着ていた。そしたら、やっぱり出てしまった人がいた。この場合は8,000ベクレルのジャケットより微々たるものだから、原因究明もたいへんだったらしい。

「その人、おととしの3月に胸をはだけて歩いてたんですかね」

と、つい聞いてしまって失敗しました。洗濯して、外に干してあったんですね、ブラジャー。

ブラジャーにくっついて離れない放射性物質があるなら、パンツにだってくっついて離れないやつがいるんじゃないかと思うんだけど、病院はパンツを脱げとは言えないらしい。どうしてかなぁ。

1301WBC計測中

只今計測中の図

というわけで、計測中の図。今回のぼくの場合、検出限界以下なんだけど、汚染がありそうなデータが出てきた人がいて、おんなじものを食べてる人といっしょにもう一度測りましょう、ということになって、そのおんなじものを食べてるのがぼくだった。

WBCの機械は、これは扉を開けて測っているけど、いよいよ真剣なときは扉を閉めることもあるらしい。計測は2分間(もちろんもっと時間を延ばせばより精度は上がる)だけど、閉所恐怖症の人にはなかなかつらい時間になるんじゃないかな? だから扉を開けて測ってるんだと思う。

1301WBC結果

結果はパソコンのソフトがさささとはじきだしてくれるので、すぐにわかる。ぼくも含めて内部被曝はなしという報告だった。よかったよかった。

でも、ヨウ素はすでに消え去っているし、セシウムも排出される分があるから、これで異常なしと言われても、完全に安心していいのかというと、そんなこともない気がする。

逆に、異常ありの結果が出ても、じゃどうすればいいのかというと、ほとんど打つ手はない。食べるものをチェックして、たとえばこのへんでとれたイノシシを毎日1kgずつ食っているとか、ご飯の代わりにキノコを食べているとかという食生活だったら、それはやめた方がいいんじゃないの、ということになるんだと思うけど、そんな豪快な人はまずいらっしゃらないから、気をつけるといっても限度があると思う。

なのに、ひらた中央病院には、毎日たくさんの子どもたちがWBC検査を受けに来ている。安心安全のため、というかけごえはもっともだと思うけど、本当に安心安全が得られるのかなぁと気になってしまう。

WBCは作業員の被曝をチェックするためのものだから、子どもが検査を受けるなんて考えられていない。スクリーニングの前には身長体重測定もあるのだけれど、それによって機械のセットアップをするらしい。それでも、測定器の想定に対して圧倒的に小さい子どもを正確に測定するのは、なかなかややこしいことらしい。

1301WBCスペクトル

ドクターが解説してくれた時にグラフに書き込んだのが残ってる。でもこのグラフは、きちんとした知識がないとさっぱりわからない。

これはぼくの内部被曝のスペクトル。これを見ただけではさっぱりわからない。網線は放射線が出ているところをソフトが判断しているらしいけど、右側のはカリウム40(自然放射線)、左側のはよくある測定誤差なんだそうだ。

レントゲン写真を見せられて、ここに腫瘍がありますよ、なんてのよりもっとわかりにくい。結局安心は、ソフトウェアがはじき出した結果を信用することで得るしかない。その確証のためのこういう機関も、必ずしも最初から完璧に測定ができていたわけでもないし、もしかすると今でも計りまちがいとかあるかもしれない。それならお国や関係機関の「だいじょうぶ」を信用してしまっても大差ないような気もするんだけど、子どももじいさんばあさんも、ここに日々はせ参じているのを見ると、誰もお国のことが信用できないんだなぁと思う。

オカミなんて信用できない、と息巻くのは、昔から血の気の多い若者の特権だったと思うんだけど、今やサイレントマジョリティがおオカミを信用しなくなっている。オカミの実態はともかく、それってたいへんな事態なんじゃないかと、はなから信用のないニシマキは思うのだった。