暑さ・台風・大雨なんかには負けないぞ。でもとりあえず大岩には登ってみたい。

電動マシン(EV)の幕開けか

2403explorerのゴメス

大阪万博公園のe-xplorerを見に行ってきた

2403explorer


2月15日・16日に、大阪の万博記念公園お祭り広場でe-xplorer第1戦が開催されたので、様子を見に行ってきた。

e-xplorerはワールドカップのシリーズで、電動マシン(EV)による競技になる。そして男女1名ずつがチームを組んでチームで勝敗を競う。ジェンダー問題、環境問題、いろんな先進性を含んだ新しい競技シリーズだ。2023年に最初のシーズンが行われていて、初年度はチームMIE(日本のチーム)がチャンピオンとなっている。

2403explorerの親分と緑さん
e-xplorerのバレンティン・ギヨネット、カリーナ・ムンテ。日本大会の運営をつかさどった森脇緑さん。


チームMIEは森脇緑さんが率いるチームだったけど、女性ライダーに抜擢されたのがサンドラ・ゴメスだった。ゴメスはトライアルの女子世界選手権を走る(走っていた)トライアルライダーだ。お父さんがトライアルをやっていて、兄のアルフレッドもジュニアクラス(T2)世界チャンピオンにして、いまはエンデューロ界のトップライダーとなっている。

2023年のシリーズにはEMの参戦もあって、クリストフ・ブルオンも参戦していた。ブルオンはフランス人で、野崎史高と同期でスコルパから世界選手権デビューを果たした。いまやEMの開発スタットして重鎮として、またデモンストレーションライダーとして活躍している。

2023年のこのシリーズは、人工的に作られたコースがなかなか障害物競走で、トライアルのスキルはおおいに威力を発揮していた。チームMIEはゴメスとホルヘ・ザラゴザ(スペイン)のペアだったが、ザラゴザはHRCのワークスライダーを務めたこともあるモトクロスライダー。二人はお互いのテクニックを相手に伝授しながらシーズンを戦ったという。電動、男女ペア、トライアル的コース、トライアル出身ライダーの活躍、しかも2024年は開幕戦が大阪での開催とあって、どんな取材になるかわかんないけど、行ってみようと思ったのだった。

2403explorerのコース


行こうと決めたものの、大会についての詳細はほとんど聞こえてこなかった。会場はシティトライアルジャパンが開催されたのと同じところだから、なじみはある。決勝は16日で土曜日。当初、日曜日に見に行くつもりだったから、これはやばかった。日曜日でないのは不思議といえば不思議だが、スーパークロスもXトライアルも開催は土曜日が圧倒的ということで、これもそれにならったのだという。もっともスーパークロスやXトライアルは土曜日の夜の娯楽として開催されるので、真っ昼間に開催の場合は事情が異なると思われる。現に、バルセロナのXトライアルは日曜日の昼間に開催されている。開催日はともかく、どんなチームが出るのか、誰が走るのか、さっぱりわからないままに大会の日程は近づいてきた。

2024explorerの出場者全員
8チーム16人の選手たち。イタリア3人、スペイン3人、オーストラリア3人、イギリスとアメリカが2人ずつ、スイス、カナダ、アイルランドが一人ずつ。

こういう不思議は、e-xplorerについては去年から感じられていたことだった。トライアルの世界はクラシックな感覚の人が多いので、紙ベースでないと不安になっちゃうことが多いけど、いまの世の中はインターネットがベースだ。情報はWEBサイトに集約されている。ところが最近は、どうもそれも古いみたいで、情報はインスタグラム(Instagram)とかティックトック(TikTok)で訴求力の高いコンパクトなものとして伝えられるようになったのかもしれない。e-xplorerの情報発信を見ていると、そんな気がしないでもない。そうそう、こういう感覚は、シティトライアルジャパンにも感じる。情報がない、よくわかんない、というほうが旧人類なのかもしれない
(もちろんぼくは、情報はひとところに迅速に集約されているのがいいと思う。分かりやすいのがイチバ

2403explorerの開会式にて
吉村知事がライディングウェアを着込んで開会式に登場した。それを囲むのがトライアル組の3人という不思議なショットが撮れてしまった。吉村知事としては、この世界大会は大阪万博への強力な後押しになると考えたのだろう、HRCもそれに応えて、ゼッケンには2025を記してマシンを登場させた。

最初に目に付いた情報は、MFJ会長鈴木哲夫さん、大阪大会の主催者である森脇緑さんが、e-xplorerのバレンティン・ギヨネットとともに大阪府の吉村知事を表敬訪問するという情報と、解説が小川友幸・黒山健一・上田万法の3人のトライアル勢に決定した、ということだった。トライアル組が解説するのは、コースもライダーもトライアルよりだから、との理由だ。そして取材受付が終わった頃、HRCがワークス参戦すると発表した。HRCが参戦するとあって、世間の注目は急に高まって、イベントのなんたるかがきちんと伝わらないままに、なかなかステイタスの高いイベントとして当日を迎えたのだった。なんせ世界選手権(ワールドカップ)だしね。

コースは、しかしトライアルセクションがなくて、主に木でできたモトクロスコースだった。土のコーナーなどはEVの強力なパワーにも負けることなく、コース作りのノウハウはさすがだなと思わせたけど、木材コースは割れたりしていた。木材ノウハウが少ないのか、EVだからなのかはよくわからない。ただすでに、EVはエンジン車より強力なパワーを発揮するというのは衆目の一致する意見となっている。

EVが走るトライアル大会は何度も見てきたけど、まるごとEVの大会を見るのは初めて。よく、排気音がないとレースの迫力がない、なんていう人がいるけど、教育勅語が日本を守る、の論調と大差ないと思う。モーター音というか、なんらかの作動音はけっこう大きい。昔のレーシングマシンにサイレンサーはなかった。近年はサイレンサー必須になった。比べたわけじゃないけど、それで迫力がなくなったとも思えないし、実は静かになったともこれっぽっちも思えない。あいかわらずうるさい。人間の感覚なんてすぐに慣れてしまうから、きっとEVはEVの騒音をうんぬん言う人が現れるよ、きっと。ジャンプの着地音もダイレクトに聞こえる。ライダーの叫びも聞こえる。レース中に話をするのも問題ない。

強いて言えば、遠くのコーナーでのアクセルワークとかを聞き取れないとかかな。でも近くを別のマシンが走っていたら遠くの音はかき消されちゃうから、これはどうという問題ではない。個人的に一番問題だったのは、そろそろ走行が始まるなという時間になったのにぜんぜん静かで、コースへ行ってみるとがんがん走っている。ウォーミングアップとかスタートする音とかで情況を判断するアンテナはセットしなおさないといけないなと思ったくらいだった。

2403explorerのゴメスと菅原
チャンピオンゼッケンをつけるゴメスと菅原悠花。日本ペアは、トラブルを抱えながらきっちり走りきった。


トライアルセクションがないと、トライアルライダーのアドバンテージは少なくなってしまう。ほんとはもっとトライアル的コースにしたかったのだけど、会場の制約があり、なんて話も聞いた。ただシリーズを牛耳るバレンティンに話を聞いたところ、現在のスタイルはほぼ完成形で、目指すのはアメリカのスーパークロス、しかし小さなイベントを目指しているということだから、多少の差はあれ、これがこのイベントの標準的スタイルになっていくのかもしれない。

そしてEMの参戦もなかった。EMはもともとトライアルのメーカーだから、コースがハイスピード化していくと、マシンのコンセプトも新たにしていかなければいけない。そんなこんなで方向性がちがってきたのかな、という気もする。自然山通信としては、トライアル的知り合いが来なくなってしまったのは残念だった。

パドックに並んだEVは、正直、見てるだけではなんだかよくわからなかった。大出力のモトクロス用が基盤となるものと、マウンテンバイクから発展したものと、カテゴリーはふたつあるようだが、リザルトに配慮されることはない。今回のスタイルを見る限り、強靭なモトクロス用マシンがこのイベントのメインマシンになっていくような気がする。モーターやバッテリーはカバーに隠れていてよく見えない。ライダーやメカニックはスマホを使ってセッティングしたりしている。ネジを回して細かいジェットを交換するエンジンの時代は遠くなりにけりという感じ。なお、今回このイベントに参加したライダーのほとんどは、自分のマシンとじっくり練習した時間は持っていないようで、ぶっつけ本番みたいな感じでレースに臨んでいた。それでこれだけ走ってしまうのだから、ライダーの能力の高さとマシンのポテンシャルの高さがうかがえる。

サスペンションやブレーキといった外から見える部分のわかりやすさはエンジン車と変わらないが、右足がフリーとなっている車両もあり、となると左手はリヤブレーキかということになる。モトクロスはトライアルよりクラッチへの依存度が少ないかもしれないから、いわゆるクラッチを装備している車両などないのかもしれない。このあたり、ヤマハもガスガスもEMも、いずれも機械式のクラッチを装備する現状のトライアルEVとは事情がちがうところだ。HRCの車両には左手にレバーが装備されていたけど、これがなにを操作しているのかはさっぱりわからない。オートバイなんて、ライダーが違和感なく乗れればどんな機構がついていようがついていなかろうがなんでもいいのだろうけど、そういうのにこだわる旧来の機械好きは、これからどんなところに興味を注いでいければいいのか、ちょっと心配になったりもした。

2403e-xplorerのホルヘ・ザラゴザ
ゴメスとともに2023年チャンピオンとなったホルヘ・ザラゴザは、今回は3回ともトップをとった。スピードは絶対的だった。右足に、リヤブレーキペダルはついてない。

レースは、2023年とちがって全員のよーいどんを男女ともに3回ずつ。全部で6つのレースの結果を総合して勝敗を決める。結果はHRCチームの勝利だったけど、STARKを走らせるROBBIE MADDISON RACINGに1ポイント差という接戦の末の勝利だった。マシンのポテンシャルは重要だけど、ライダーのスピードが男女で揃っていること、そして8分+1周のショートスプリントだから、スタートの重要度が増している。

2024explorerのスタートシーン
狭いコースで8人がスタートするから、スタートでトップをとるのはむずかしい。これは第1レースで、HRCのトーシャ・シャレイナが転んでいるのが見える。

今回はサンドラ・ゴメス、バレンティン・ギヨネット、森脇緑さんの3人に話を聞いて自然山通信のページにしたけど、ゴメスが言うには、こういうスプリントレースは高い集中力を維持しなければいけないから、1分半の集中が必要なトライアルは役に立っているが、コース設定的にはもっと高いスキルが必要となるほうが楽しい(自分に有利)という。ちなみに、トライアル、ハードエンデューロ、エルズベルグ、ダカールラリーといろんなカテゴリーを経験したゴメスによると、これまででもっともハードだったのはルーマニアクスだったという。競技時間中ずっと押せ押せでたいへんだったと。6日間にも及ぶSSDTはハードな面もあるけどご飯食べたりもするし、バランスがいいハードさだと評した。精神的に厳しいのは、ダカールラリーということだった。

2024explorerのサンドラ・ゴメス
女性部門で総合優勝したのがサンドラ・ゴメス。でもゴメスは第2、第3レースのスタートで出遅れて1勝したのみ。ポイント制で、わずか1ポイント差で勝利している。

ゴメスのチームは、インドのチームだった。ヨーロッパ以外の大陸に目を向けているのも、このイベントの特徴の一つだ。世界はひとつ、みんな楽しく、というスローガンはすばらしいけど、たぶん東南アジアのマーケットの成長はおいしいという視点があるのだと思う。チームINDE(インデと呼ばれていた)の応援団は、観客席の一角を占めて、熱心に応援していた。最終戦はインド大会が組まれている。インド大会、見に行きたいなぁ。大昔に香港のXトライアルに行ったことはあるけど、最近はまた情勢がちがいそうだから、アジアの大会も見に行ってみたい。

2403XPlorerのチームINDE


ということで、三者のお話などは自然山通信本誌をどうぞご覧くださいまし。